第1 この記事が扱う問題と結論
1 破産者宛のゆうパックは破産管財人に回送されない
破産手続が開始されると,破産者宛ての郵便物は破産管財人の事務所へ配達されるようになる。これは破産法81条1項の回送嘱託(実務では郵便回送嘱託又は郵便転送嘱託と呼ばれる。)によるものであり,主要な裁判所では全件について実施されている。もっとも,同項が対象としているのは「郵便物」と「信書便物」だけであって,ゆうパックはそのいずれにも当たらない。ゆうパックは郵便法上の郵便物ではなく貨物運送の対象となる荷物であるから,破産手続が開始された後も,破産者宛てのゆうパックは破産者本人の住所へそのまま配達される。破産管財人が郵便局の段階でこれを押さえる手段は,破産法には用意されていない。
この結論は,破産法81条1項の文言,郵便法14条が定める郵便物の種類,郵政民営化に伴う小包郵便物の廃止,及び日本郵便株式会社の約款の構造という四つの点から導かれる。本記事は,生成AIを用いてこれらの一次資料を取得し,条文,約款及び裁判例の文言と照合した上で,回送嘱託の対象範囲を整理し,あわせて実務上どのような対応が残されているかを検討するものである。
2 記事の射程
本記事が扱うのは,破産手続開始決定後に破産者宛てに送られてくる物の配達先という問題であり,破産財団の範囲そのものや,破産者が荷物として受け取った物の帰属を確定する手続ではない。回送嘱託の期間や嘱託先の指定は裁判所ごとに運用が異なり,本記事が紹介するのはいずれも各文献の刊行時点の運用であるから,個別の事件では,係属裁判所の現在の運用と破産管財人の意向を確認する必要がある。また,日本郵便が提供するサービスの区分は約款の改正によって変わり得るので,実際に判断するときは,その時点の約款と各サービスの案内を確認していただきたい。
第2 回送嘱託の対象を画する条文
1 破産法81条1項の二重の限定
破産法81条1項は,「裁判所は,破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは,信書の送達の事業を行う者に対し,破産者にあてた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条及び第百十八条第五項において「郵便物等」という。)を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定めている。ここには二つの限定がかかっており,第一に嘱託の名宛人が「信書の送達の事業を行う者」に限られ,第二に嘱託の対象物が「郵便物」又は「信書便物」に限られる。日本郵便は信書の送達の事業を行う者であるから第一の限定は満たすが,ゆうパックは第二の限定を満たさない。
破産管財人に開披の権限を与える破産法82条1項も,対象を「破産者にあてた郵便物等」としており,81条1項と同じ範囲である。したがって,仮に何らかの経緯でゆうパックが破産管財人の手元に届いたとしても,82条1項を根拠としてこれを開けることはできない。
2 「郵便物」は四種類しかない
郵便法14条は,「郵便物は,第一種郵便物,第二種郵便物,第三種郵便物及び第四種郵便物とする。」と定める。第一種郵便物は,内国郵便約款16条により,筆書した書状,郵便書簡,及びこれら以外で第二種から第四種までに該当しないものとされている。現行の郵便法には小包郵便物という類型が存在せず,重量についても,同法15条1項2号イが第一種郵便物の上限を4キログラムと定めている。他方,ゆうパック運賃表は取り扱う荷物の最大限を長さ,幅及び厚さの合計1.7メートルと定めており,郵便物とは別の基準で大きさを画している。
3 小包郵便物が廃止された時点と根拠
かつての郵便法には小包郵便物という類型があり,ゆうパックはその一種であった。これが廃止されたのは郵政民営化のときであり,根拠は,郵便法の附則として残っている郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第102号)の附則60条1項である。同項は「この法律の施行前に差し出された第十四条の規定による改正前の郵便法(以下この条において「旧郵便法」という。)第三十条に規定する小包郵便物(以下「小包郵便物」という。)については,なお従前の例による。」と定めており,同附則1条により,施行日は郵政民営化法の施行の日,すなわち平成19年10月1日である。
同附則60条7項から9項までは,届出済みの料金,認可済みの郵便約款及び業務方法書について,いずれも「小包郵便物に係るもの」又は「小包郵便物に係る部分」を除外して新法上の届出・認可とみなす旨を定めている。小包が郵便の枠組みから完全に外され,別の運送サービスへ移し替えられたことは,この経過措置の書きぶりからも確認できる。ゆうパックの約款が2007年10月1日実施とされているのも,この日から郵便とは別の約款で提供されるサービスになったからである。
4 「信書便物」は制度としてほとんど機能していない
破産法81条1項がもう一つの対象とする「信書便物」は,民間事業者による信書の送達に関する法律2条3項の「信書便の役務により送達される信書(その包装及びその包装に封入される信書以外の物を含む。)」である。もっとも,総務省が公表している信書便事業者一覧(令和8年6月29日現在)によれば,全国全面参入型である一般信書便事業者は現在も存在せず,特定信書便事業者が656者あるにとどまる。特定信書便役務は,長さ,幅及び厚さの合計が73センチメートルを超えるか若しくは重量が4キログラムを超える信書便物を送達するもの,差し出された時から3時間以内に送達するもの,又は料金が800円を超えるものに限られており(同法2条7項),一般の通信手段としては用いられていない。東京地方裁判所,大阪地方裁判所及び名古屋地方裁判所のいずれについても,郵便物についてのみ嘱託を行い信書便物については嘱託をしていないと文献が説明しているのは,この実情に対応したものである。
第3 ゆうパックが「郵便物」に当たらない理由
1 約款が別建てで貨物運送の構造をとっている
日本郵便が公表している各種約款のページには,内国郵便約款と,ゆうパック約款・運賃表,ゆうパケット約款・運賃表,標準貨物自動車運送約款などが並列して掲げられている。ゆうパック約款1条1項は,「この約款は,ゆうパック運賃,重量ゆうパック運賃,ゴルフゆうパック運賃,スキーゆうパック運賃,空港ゆうパック運賃,観光ゆうパック運賃,点字ゆうパック運賃及び聴覚障害者用ゆうパック運賃が適用される荷物の運送に適用されます。」と定めており,適用対象を明示的に「荷物の運送」としている。
条文の構成も郵便とは異なる。ゆうパック約款は,第2章が運送の引受け,第3章が荷物の引渡し,第4章が指図,第5章が事故という構成であり,登場人物は荷送人と荷受人,対価は運賃,添付書類は送り状である。とりわけ同約款17条1項は,荷送人が運送の中止,返送,転送その他の処分について指図をすることができるとし,同条2項でその権利は荷受人に荷物を引き渡した時に消滅すると定めている。処分権が荷送人に帰属し荷受人には与えられていないという点で,郵便物の取扱いとは発想が異なる。日本郵便のウェブサイトの案内も,「郵便物等」(手紙・はがき・レターパックなど)と「荷物等」(ゆうパック・ゆうパケットなど)を別のまとまりとして表示している。
2 ゆうパックには信書を入れられない
郵便法4条3項は,「運送営業者,その代表者又はその代理人その他の従業者は,その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし,貨物に添付する無封の添え状又は送り状は,この限りでない。」と定める。ゆうパックはこの「運送」に当たるから,適法に同封できる文書は,無封の添え状と送り状にとどまる。総務省の信書のガイドラインも,配送伝票を信書に該当しない文書として掲げている。
破産管財人が郵便物の開披によって発見しようとしているのは,固定資産税の課税通知,金融機関からの残高通知,証券会社や生命保険会社からの連絡といった信書であるから,制度の目的からみても,信書を入れられないゆうパックを対象に含める必要は乏しい。もっとも,ゆうパックで送られてくるのは物品そのものであり,その物品が破産財団に属する財産である場合もあるから,回送の対象外であることが破産管財人にとって支障とならないわけではない。この点は第9で改めて検討する。
第4 同じ文言の条文について政府が示している解釈
破産法81条1項と同一の文言を用いる規定として,民法860条の2第1項がある。これは,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)により新設され,平成28年10月13日に施行された規定であり,家庭裁判所が,成年後見人の請求により,期間を定めて,成年被後見人に宛てた郵便物又は信書便物を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができるとするものである。対象物の書きぶりは破産法81条1項と同じであり,異なるのは,成年後見人の請求によること,及び期間が6か月を超えられないこと(同条2項)である。
法務省は,この規定について公表しているQ&Aの中で,「郵便物等とは,郵便法上の『郵便物』又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する『信書便物』をいいます(民法第860条の2第1項)。なお,物品の送付に利用される『ゆうパック』等は,『郵便物』に該当しないため,転送の対象には含まれません。」と明記している。同じQ&Aは,この転送が,日本郵便に受取人の住所変更を届け出ることによって行われる郵便物の転送(郵便法35条)とは異なるものであることも注記し,制度の趣旨として,株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細といった財産に関する郵便物を成年後見人が把握できるようにする点を挙げている。破産法81条1項に直接向けられた解釈ではないが,条文の文言が同一である以上,破産法の解釈としても同じ結論になると考えられる。
なお,令和8年の成年後見制度改正では法定後見が補助へ一元化されることになっており,制度の全体像が変わる。改正の内容は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で整理している。
第5 日本郵便のサービスごとの区分
回送嘱託の対象になるかどうかは,ブランド名ではなく,そのサービスが郵便物として提供されているかどうかで決まる。日本郵便のサービス案内によれば,レターパックは「A4サイズ・4kgまで全国一律料金で,信書も送れるサービス」とされ,取扱いについては内国郵便約款によるものとされている。内国郵便約款は,レターパックに用いる封筒を「特定封筒」として切手類に位置付け(同約款3条8号),これを差し出したものを特定封筒郵便物としている(同約款43条)。したがってレターパックは郵便物であり,回送嘱託の対象になる。
これに対し,ゆうメールのサービス案内には「信書を送ることはできません。(ただし内容物に関する無封の添え状・送り状であれば送付することができます。)」と表示され,クリックポストの公式サイトも「全国一律運賃で荷物を送れるサービス」であり「信書を送ることはできません」としている。ゆうパケットには独立のゆうパケット約款・運賃表があり,その本文に「郵便物」の語は現れない。内国郵便約款には,ゆうパック,ゆうパケット,ゆうメール,クリックポスト,レターパック,スマートレターのいずれの名称も出てこず,郵便物としての取扱いは特定封筒郵便物などの約款上の類型によって定められている。
| 送付手段 | 区分 | 破産法81条1項の回送嘱託 |
|---|---|---|
| 手紙(定形・定形外),はがき | 郵便物 | 対象になる |
| レターパックライト,レターパックプラス | 郵便物(特定封筒郵便物) | 対象になる |
| ゆうパック,ゆうパケット | 荷物 | 対象にならない |
| ゆうメール,クリックポスト | 荷物 | 対象にならない |
| ヤマト運輸,佐川急便その他の宅配便 | 貨物 | 対象にならない(事業者が嘱託の名宛人にもならない) |
宅配便については,ゆうパックより一段外側の問題がある。破産法81条1項の嘱託の名宛人は「信書の送達の事業を行う者」に限られているから,信書の送達を行っていない宅配事業者は,そもそも嘱託を受ける立場にない。信書便事業への参入と貨物運送の関係については,貨物軽自動車運送事業(軽貨物運送業)でバイク便による特定信書便の取扱いを取り上げている。
第6 転居届による転送との違い
破産手続とは別に,日本郵便には転居届による転送の仕組みがある。郵便物については郵便法35条が,「郵便物(郵便約款の定めるものを除く。)は,その受取人がその住所又は居所を変更した場合においてその受取人から郵便約款の定めるところによりその後の住所又は居所を届け出ているときは,その届出の日から一年内に限り,これをその届出に係る住所又は居所に転送する。」と定め,内国郵便約款86条が同旨を定める。ゆうパックについても,ゆうパック約款14条が,荷受人が住所又は居所を変更して届け出たときは,届出の日から1年以内に限り,その住所又は居所に荷物を転送すると定めている。
この二つを並べると,ゆうパックが破産管財人に回送されないのは物理的な理由によるのではないことが分かる。日本郵便は,荷受人が自ら届け出れば,ゆうパックも転送する。回送されないのは,届出をすることができるのが受取人又は荷受人本人だけであり,裁判所も破産管財人も転居届を出す立場にないからである。破産法81条1項が「配達すべき旨を嘱託する」という構成をとり,これを受けた事業者が従うことになるのは法律が特に定めた場合であって,その対象が郵便物と信書便物に限定されている以上,荷物についてはこの経路が存在しない。
第7 回送嘱託の実務運用
1 各地裁の運用
破産法81条1項は「嘱託することができる」という任意的な規定であるが,実務では原則として全件で嘱託が行われている。東京地方裁判所破産再生部は,資産調査の手段としての重要性に鑑み,法人・個人を問わず全件について嘱託しており,法人事件については商業登記簿上の本店及び支店の所在地を管轄する郵便局に,個人事件については住民票上の住所及び居所を管轄する郵便局に宛てて嘱託している(2015年刊行の実務書による。)。大阪地方裁判所第6民事部は,全件について終期を定めずに嘱託する運用である(2019年刊行の実務書による。)。名古屋地方裁判所も全管財事件について嘱託しているとされ,いずれの庁も信書便物については嘱託をしていない(名古屋については2012年刊行の実務書による。)。
登記簿に記載のない営業拠点,破産者が用いている屋号や通称名,開始決定の前後に転居した場合の旧住所や新住所については,破産管財人が上申をすることで嘱託が追加される取扱いである。破産者が転居しても裁判所が当然に新住所についての嘱託を行うわけではないから,破産管財人としては,居住制限(破産法37条1項)に関する許可申請の機会などを利用して転居の有無を把握し,回送が途切れないようにしておく必要がある。
2 回送期限の分かれ方
回送期限の定め方は庁によって異なる。裁判所職員総合研修所監修の書記官実務研究報告書が全国の地方裁判所本庁50庁を対象に平成23年7月に実施したアンケートによれば,全件について期限を定めている庁が16庁,破産者が自然人の場合のみ期限を定めている庁が7庁,全件について期限を定めていない庁が13庁,その他が4庁であった。期限を定める運用で最も多いのは第1回財産状況報告集会までとするものであり,自然人の場合のみ期限を定める7庁は全庁がこの運用である。期限を定める側の理由としては,嘱託取消通知の事務を省略でき,自然人である破産者について必要以上に通信の秘密(憲法21条2項)を制限しないで済むことが挙げられ,期限を定めない側の理由としては,再嘱託に伴う失念や空白期間を避けられることが挙げられている。
3 嘱託書及び嘱託の取消し
嘱託書の文言も,対象が郵便物に限られることを示している。大阪地方裁判所の書式は,「今後,破産者宛ての郵便物(破産者に宛てて差し出された郵便物のうち,破産裁判所若しくは破産管財人から差し出されたもの又は破産裁判所以外の裁判所から別段の指示があるものを除く。)は,すべて下記2の破産管財人宛てに配達されるよう嘱託します。」というものであり,書記官実務研究報告書が掲げる参考書式も同様に「郵便物」とだけ記載している。破産手続が終了したときは,裁判所は嘱託を取り消さなければならず(破産法81条3項),期限を定めない運用の庁では全件について嘱託取消通知の事務が生じる。期限付きの嘱託書には,期限の翌日以降は回送を停止する旨と,嘱託取消通知を送付しない旨が併せて記載される。
第8 回送をめぐる裁判例
1 回送と開披は破産管財人に対する通知ではない
回送嘱託によって破産管財人が郵便物を受け取り,これを開披したという事実が法律上どのような意味を持つかについては,最高裁判所第一小法廷昭和49年11月21日判決(昭和45年(オ)第1133号,民集28巻8号1654頁)がある。同判決は,破産債権である指名債権の譲渡を破産管財人に対抗するには譲渡人が破産管財人に通知するか破産管財人が承諾することを要するとした上で,「破産者宛の通知が破産管財人に配達され,破産管財人がこれを開披したとしても,破産管財人に対する通知があつたとはいえない。」と判示した。回送は破産管財人が情報を取得する仕組みにすぎず,破産者に宛てられた意思表示の受領を破産管財人に振り替えるものではないという整理である。
東京高等裁判所昭和50年5月30日判決(昭和48年(ネ)第126号,高等裁判所民事判例集28巻3号221頁)も,同じ考え方に立つ。破産宣告と同時に破産者宛ての郵便物及び電報をすべて破産管財人に配達するよう嘱託がされていた事案において,郵便局の過誤により代金減額請求の書面が破産者に配達されたところ,同判決は前記最高裁判決を引用し,回送嘱託があっても破産者宛ての意思表示が破産管財人に到達したことにはならないとした。同判決には,破産管財人が誤配を発見するたびに郵便官署に抗議して嘱託の趣旨を徹底させる措置をとっていたという事実も摘示されている。
この二つの判断は,ゆうパックが回送の対象外であることの評価にも関わる。回送されないことによって失われるのは破産管財人の情報取得の機会であって,破産者宛ての意思表示の効力や対抗要件の具備が左右されるわけではない。
2 回送嘱託を逃れる送付先の変更と詐欺破産罪
回送嘱託の網から郵便物を逃がす行為が刑事責任を生じさせた例として,東京地方裁判所平成30年3月16日判決(平成27年特(わ)第1454号,破産法違反被告事件)がある。博物館に寄託出品していた重要文化財7点について,被告人が博物館の研究員に対し,出品継続の通知の送付先を自己から夫に変更する手続をさせ,回送嘱託により破産管財人へ回送されるべき通知を夫の住所に郵送させて,破産管財人が当該文化財を発見することを困難にしたという事案である。同判決は,「破産法81条の回送嘱託によって破産者宛ての郵便物が破産管財人に配達され,同法82条によって破産管財人がそれを開披して確認することは,破産管財人が破産者の財産を調査する上で非常に有用な手段であり」と述べた上で,送付先変更依頼がなければ破産管財人が文化財の所在を容易に把握することができたと認定している。
同判決は,破産法265条1項1号の「財産……を隠匿し」に当たる行為として,物そのものを隠す行為だけでなく,財産の所在を知らせる郵便物の宛先を操作する行為も含まれ得ることを示したものである。もっとも,同判決が扱ったのは郵便物の宛先を変更させた事案であり,最初から荷物として送受された場合が同じ評価を受けるかどうかは,これとは別に検討を要する。破産手続開始決定後の財産隠匿は,免責不許可事由(破産法252条1項1号)としても問題になる。免責の許否がどのような要素で分かれるかについては,破産免責の許可・不許可の限界事例で検討している。
第9 関係者ごとの実務上の対応
1 破産管財人
破産管財人としては,回送されてくる郵便物が破産者の財産関係のすべてを映すものではないという前提で調査を組み立てることになる。ゆうパックその他の荷物で送受された物は回送されないから,物の動きは別の資料から把握するほかない。具体的には,破産法40条1項に基づく破産者本人からの説明聴取において通信販売やフリマアプリの利用状況及び貴金属・時計・骨董品などの売買の有無を確認すること,破産法41条の重要財産開示義務に基づく書面と申立書添付の財産目録を突き合わせること,破産法83条1項に基づいて帳簿及び書類を検査すること,回送されてきたクレジットカードの利用明細や配送業者からの案内から荷物の授受を推認することが考えられる。破産財団に属する財産が破産者の手元にあることが分かれば,破産法78条1項の管理処分権に基づいて引渡しを求めることになる。
なお,破産管財人が現に受け取っていない荷物について,これを開ける権限は破産法82条1項にはない。郵便法77条の郵便物を開く等の罪及び同法80条の信書の秘密を侵す罪は,いずれも「会社の取扱中に係る」郵便物又は信書を対象とするからゆうパックには及ばないが,権限なく他人宛ての荷物を開披することは,これとは別に責任を問われ得る。
2 申立代理人
法人破産の申立代理人としては,破産手続開始決定までの間に事業所宛ての郵便物や荷物が滞留しないようにしておく必要がある。開始決定前には回送嘱託の制度がないため,事業所を閉鎖する場合には,代表者の自宅へ転送されるよう郵便局に転居届を出しておくか,代表者などが定期的に回収する方法をとり,回収したものを整理して破産管財人に引き継ぐという対応が実務書で説明されている。申立代理人の事務所を転送先とすることは,通常は認められていない。
個人破産の場合には,破産者に対し,回送嘱託の対象が郵便物に限られること,したがってゆうパックや宅配便は自宅に届き続けることを説明しておくことが有用である。届いた荷物の内容を破産管財人に報告しないままにしておくと,説明義務違反や財産の隠匿と評価されるおそれがあるからである。
3 破産者
破産者は,回送された郵便物について,破産管財人に対し閲覧を求め,破産財団に関しないものの交付を求めることができる(破産法82条2項)。また,回送嘱託の取消し又は変更を裁判所に申し立てることができ(同法81条2項),これを却下する裁判に対しては即時抗告をすることができる(同条4項)。ただし,嘱託をする旨の決定に対する即時抗告には執行停止の効力がない(同条5項)。破産者宛ての郵便物には同居の親族宛ての郵便物が紛れて回送されることがあり,実務書は,破産管財人において開披の際に宛名を十分確認するよう注意を促している。
第10 隣接制度との比較と,文献を読むときの注意
1 会社更生,民事再生,保全管理及び成年後見
同種の規定は他の手続にも置かれているが,適用の条件は同じではない。会社更生法75条・76条は破産法81条・82条とほぼ同じ内容であるが,民事再生法73条・74条は管財人が置かれている場合の規定であるから,管理命令が発せられていない通常の再生手続では利用できない。破産手続でも,保全管理の段階では81条が準用されておらず(破産法96条1項),保全管理人は自ら占有を取得した郵便物等を開披できるにとどまる。成年後見の場合は,前記のとおり成年後見人の請求によることと,期間が6か月を超えられないことが異なる。
| 手続 | 根拠条文 | 対象物 | 期間 | 発動の仕方 |
|---|---|---|---|---|
| 破産 | 破産法81条・82条 | 郵便物・信書便物 | 定めなし(手続終了時に取消し) | 裁判所の職権 |
| 会社更生 | 会社更生法75条・76条 | 同上 | 同上 | 裁判所の職権 |
| 民事再生 | 民事再生法73条・74条 | 同上 | 同上 | 管理命令が発せられている場合に限る |
| 破産の保全管理 | 破産法96条1項 | 82条のみ準用 | ― | 回送嘱託の制度なし |
| 成年後見 | 民法860条の2・860条の3 | 郵便物・信書便物 | 6か月以内 | 成年後見人の請求 |
いずれも通信の秘密(憲法21条2項)に対する例外であり,保全段階で回送嘱託が認められていないことも,成年後見で期間の上限が設けられていることも,制約を必要な限度にとどめるという同じ考え方によるものと整理できる。
2 刊行時点の法令に基づく記述が残っている文献がある
この論点を調べるときに注意を要するのは,破産法の主要な逐条解説書の記述が,必ずしも現在の郵便法を前提としていないことである。大コンメンタール破産法(青林書院)は初版第1刷の発行が2007年11月5日であり,81条の解説では,回送嘱託の対象となる郵便物について,郵便法16条に定める通常郵便物及び小包郵便物であり日本郵政公社によって取り扱われる旨が記載されている。郵政民営化の施行日は同年10月1日であるから,刊行の直前に法令が変わったことになる。他方,新基本法コンメンタール破産法(日本評論社,2014年)は,郵便法14条に定める第一種から第四種までの郵便物であると記載しており,民営化後の条文に対応している。条解破産法〔第3版〕(弘文堂,2020年)の81条の解説は,嘱託の対象について,裁判所又は破産管財人から発した郵便物の除外,法人代表者個人宛ての郵便物の扱い,相続財産破産における相続人宛ての郵便物の可否を論じているが,荷物やゆうパックが対象になるかという点には触れていない。
破産法の文献で「ゆうパックは対象外である」と明示したものは,今回調べた範囲では見当たらなかった。他方,同じ文言を用いる民法860条の2については,成年後見実務マスター(新日本法規出版,2023年)86頁が,「『ゆうパック』は郵便物でないので回送の対象にならない」と述べ,法務省のQ&Aを引用している。逐条解説書の記述を引用するときは,その版の刊行時点と,引用元がさらに引用している文献の刊行時点を確認しておく必要がある。
出典・参考資料
1 法令
①破産法(平成16年法律第75号)37条・40条・41条・78条・81条・82条・83条・96条・252条・265条(e-Gov法令検索)
②郵便法(昭和22年法律第165号)4条・7条・8条・14条・15条・35条・77条・80条及び附則(平成17年10月21日法律第102号)1条・60条(e-Gov法令検索)
③民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)2条・3条(e-Gov法令検索)
④民法(明治29年法律第89号)860条の2・860条の3(e-Gov法令検索)
⑤会社更生法(平成14年法律第154号)75条・76条(e-Gov法令検索)
⑥民事再生法(平成11年法律第225号)73条・74条(e-Gov法令検索)
⑦日本国憲法21条2項(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷昭和49年11月21日判決(昭和45年(オ)第1133号,民集28巻8号1654頁,裁判所ウェブサイト)
②東京高等裁判所昭和50年5月30日判決(昭和48年(ネ)第126号,高等裁判所民事判例集28巻3号221頁,裁判所ウェブサイト)
③東京地方裁判所平成30年3月16日判決(平成27年特(わ)第1454号,破産法違反被告事件,刑事第11部,裁判所ウェブサイト)
3 公的資料・約款
①法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」Q2・A2及びQ3・A3(法務省)
②総務省「信書のガイドライン」(平成26年4月1日更新,総務省)
③総務省「信書便制度について」(総務省)
④総務省「信書便事業者一覧(令和8年6月29日現在)」(総務省)
⑤日本郵便株式会社「各種約款」のうち内国郵便約款3条8号・16条・43条・86条
⑥日本郵便株式会社ゆうパック約款・運賃表1条・11条から17条まで及び運賃表(2007年10月1日実施,2025年4月1日最近改正,2頁~5頁・9頁)
⑦日本郵便株式会社ゆうパケット約款・運賃表(日本郵便株式会社)
⑧日本郵便株式会社「レターパック」・「ゆうメール」・「クリックポスト」(日本郵便株式会社)
⑨参議院「郵便法及び民間事業者による信書の送達に関する法律の一部を改正する法律案」(第221回国会,令和8年6月19日公布・令和8年法律第42号,参議院)
4 文献
①竹下守夫編集代表『大コンメンタール破産法』(青林書院,2007年)345頁~347頁
②山本克己=小久保孝雄=中井康之編『新基本法コンメンタール破産法』(別冊法学セミナー233号,日本評論社,2014年)191頁~193頁
③伊藤眞=岡正晶=田原睦夫=中井康之=林道晴=松下淳一=森宏司『条解破産法〔第3版〕』(弘文堂,2020年)670頁~674頁
④中山孝雄=金澤秀樹編『破産管財の手引〔第2版〕』(金融財政事情研究会,2015年)129頁~131頁
⑤川畑正文=福田修久=小松陽一郎編『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕』(新日本法規出版,2019年)103頁~104頁・436頁
⑥木内道祥監修・全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A220問』(金融財政事情研究会,2019年)112頁~113頁
⑦愛知県弁護士会倒産実務委員会編『破産管財人のための破産法講義』(愛知県弁護士協同組合,2012年)21頁・203頁
⑧裁判所職員総合研修所監修『破産事件における書記官事務の研究――法人管財事件を中心として』(裁判所書記官実務研究報告書,司法協会,2013年)41頁~42頁・60頁~61頁
⑨額田洋一『成年後見実務マスター』(新日本法規出版,2023年)85頁~86頁