◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。
第1 この記事の対象と結論
半月板損傷という診断名又はMRI上の異常だけで,後遺障害等級が決まるわけではない。認定では,①真の半月板断裂が存在するか,②その断裂が交通事故によって新たに生じ,又は症状化したか,③残存する疼痛又は可動域制限がその断裂によるか,④残存障害がどの等級要件を満たすかを順に検討する必要がある。
半月板損傷で中心となる認定経路は,他動可動域の制限を評価する第12級7号,器質的損傷に裏付けられた疼痛等を評価する第12級13号及び医学的に説明可能な疼痛等を評価する第14級9号である。可動域が正常でも疼痛の等級が問題となり得る反面,MRIで断裂が見えても事故起因性又は残存症状との対応が証明できなければ認定されないことがある。
この記事は,自賠責保険及び交通事故損害賠償実務における一般的な判断枠組みを説明するものであり,特定の事案に対する法的又は医学的助言ではない。個別案件では,MRI画像そのもの,受傷直後の診療録,可動域の経時記録及び事故態様を確認する必要がある。
第2 半月板損傷で問題となる後遺障害等級
自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,膝関節の機能障害と局部の神経症状を別の項目として定めている。半月板損傷では,傷病名を等級へ置き換えるのではなく,症状固定時に残る障害の種類から認定経路を選ぶことになる。
| 認定経路 | 等級・号 | 法令上の障害 | 半月板損傷での中核事実 |
|---|---|---|---|
| 膝関節の機能障害 | 第12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 原則として,患側の他動による屈曲・伸展の合計が健側の4分の3以下であり,器質的損傷との対応があること |
| 頑固な神経症状 | 第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 事故による器質的損傷と残存する疼痛等との対応が他覚的に証明できること |
| 神経症状 | 第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 第12級13号の他覚的証明には達しなくても,事故後の経過等から残存症状を医学的に説明できること |
1 第12級7号は他動可動域を基礎とする
膝関節では屈曲と伸展が主要運動であり,両者の可動域を合計して,原則として健側と比較する。患側が健側の4分の3以下なら第12級7号,2分の1以下なら第10級11号,完全強直又はこれに近い状態なら第8級7号が問題となる。膝には,肩関節又は股関節のように主要運動を補う参考運動はない。
厚生労働省の関節機能障害に関する通達は,他動運動による測定を原則とし,他動測定が適切でないと医学的に判断される場合に自動運動の値を参照する。したがって,本人が疼痛のため自動運動を止めた角度だけでは足りず,測定肢位,患側・健側,自動・他動の別及び制限原因を確認しなければならない。詳しい測定方法は,膝関節の可動域制限と後遺障害12級7号で説明している。
もっとも,数値が4分の3以下であるだけでは十分でない。同通達は,関節角度の制限原因を明らかにしてから測定する必要があるとしており,半月板断裂,術後拘縮,関節包拘縮,変形性膝関節症又は疼痛性防御のどれが制限を生じさせているのかが問題となる。治療中の値と症状固定時の値が大きく逆転している場合には,診療録を通じた説明も必要である。
2 第12級13号は損傷と疼痛の対応を問う
可動域が第12級7号の基準に達しなくても,事故による半月板損傷が器質的損傷として確認され,その部位及び形態が関節裂隙痛,圧痛,荷重時痛,運動時痛又はロッキング等と整合するときは,第12級13号が問題となる。ここで必要なのはMRIに何らかの高信号があることではなく,その所見が真の断裂を示し,事故によるものであり,残存症状の部位及び性質を説明できることである。
関節鏡で断裂を直接確認した事実は,損傷の存在を強く裏付ける。しかし,手術時に断裂が見つかったことだけで,その断裂が当該事故によって生じたことまで証明されるわけではない。事故前症状,受傷機序,初期所見,手術までの時間及び介在外傷を併せて検討する必要がある。
3 第14級9号は症状の一貫性が中心となる
事故による器質的損傷の他覚的証明が第12級13号に達しなくても,事故直後から同じ部位の疼痛が続き,治療内容及び診察所見に不自然な変動がなく,医学的に説明できる場合には,第14級9号が問題となる。初診が遅い,通院が中断している,痛む部位が変動する,又はMRI所見と圧痛部位が一致しないという事情は,症状の連続性及び医学的説明を弱めることがある。
第12級13号と第14級9号の境界は,画像の有無だけで決まらない。事故による器質的変化を客観的に証明できる程度,画像と身体所見の対応,受傷直後から症状固定までの一貫性及び変性等の代替原因を総合して評価することになる。
4 動揺関節及び同一膝の疼痛は分けて考える
半月板は膝の安定性にも関与するが,後遺障害実務で動揺関節が問題となる典型は,前十字靱帯,後十字靱帯,内外側側副靱帯又は関節包等の支持機構の損傷である。孤立性の半月板損傷を直ちに動揺関節の等級へ置き換えることはできず,徒手検査,左右差,ストレスレントゲン撮影及び装具の必要性を確認する必要がある。
また,同じ膝関節の機能障害と,そこから通常派生する疼痛は,原則として重い方で評価され,単純に併合されるものではない。もっとも,別の部位又は別系統の障害が独立して残る場合は別途検討を要するため,症状ごとに原因と障害系列を整理する必要がある。
第3 MRIが証明することと証明しないこと
1 半月板内の高信号だけでは真の断裂と限らない
MRIは急性の孤立性半月板損傷を診断するための第一選択となる画像検査であるが,半月板内の高信号がすべて断裂を意味するわけではない。画像診断上,断裂を強く示すのは,高信号が半月板表面に達する所見又は半月板の形態異常であり,複数スライスかつ矢状断・冠状断で再現されるかを確認する必要がある。
半月板内部にとどまる信号,正常構造,部分容積効果,magic angle effect及び周辺の腱・靱帯によって,断裂に似た所見が生じることがある。読影報告書の「変性」「疑い」「断裂」という語だけを取り出さず,DICOM画像で部位,断裂形態,表面到達及び再現性を確認することが望ましい。
2 断裂の存在と事故起因性は別の命題である
MRIで真の断裂を確認できても,①事故で新たに生じた断裂か,②事故前から存在した変性断裂か,③断裂が現在の疼痛の原因かは別に検討しなければならない。中高年者を対象とする一般集団研究では,MRI上の半月板損傷・破壊所見がある者の61%が直前1か月に疼痛,疼き又はこわばりを訴えていなかった。変形性膝関節症がある群では,半月板所見の頻度は有症状者63%,無症状者60%であり,画像所見単独の症状帰属力には限界がある。
この研究は,個別の交通事故被害者について断裂が無症候性であったと証明するものではない。反対に,MRI異常があるだけで事故前には無かった有症状断裂であると証明するものでもない。事故前後の症状,急性期所見及び画像と身体所見の一致を個別に確かめる必要がある。
3 経時画像では変化する所見と残る所見を区別する
急性外傷に伴う関節液,骨挫傷又は軟部組織浮腫は,時間の経過により軽減し得る。これに対し,断裂形態,半月板逸脱,軟骨摩耗,骨棘又は関節裂隙狭小化の推移は異なるため,単一時点のMRIだけでなく,撮影時期を明示して比較することが有用である。
小さく安定した血行のある辺縁部の断裂には治癒可能性がある一方,中央部の乏血性断裂又は複雑断裂は治癒しにくい。したがって,MRI信号が低下したことを理由に事故外傷が無かったと直結させることも,信号が残ったことを理由に未治癒と直結させることもできない。
第4 事故による半月板損傷であることの判断
1 事故起因性を支持する事情
事故起因性を支持する事情は,①膝への直接打撃又は荷重下の回旋を具体的に説明できること,②事故当日又は直後から同じ関節裂隙部の疼痛が診療録に記載されていること,③急性期に腫脹,関節水腫,血腫,骨挫傷又は軟部組織浮腫があること,④早期MRIの断裂が複数断面・複数スライスで再現されること,⑤圧痛,誘発試験,症状部位及び画像部位が整合すること,⑥事故前に同部位症状がなく,事故後に別の外傷がないことである。
「強い事故であった」「膝を打った」という抽象的な説明だけでは,半月板にどの方向の圧縮力又は剪断力が作用したかを示さない。二輪車転倒時の足部固定,屈曲位での回旋,車内構造物への衝突等を,断裂の内外側,前角・体部・後角及び断裂方向と対応させる必要がある。
2 事故起因性を弱める事情
事故起因性を弱める事情は,①事故直後の膝症状又は腫脹が記録されていないこと,②診断が長期間遅れ,その間の症状記録も途切れていること,③MRI信号が半月板表面に達しないこと,④水平・複合断裂,半月板逸脱,軟骨摩耗,骨棘又は関節裂隙狭小化等の変性所見が優位であること,⑤健側にも類似病変があること,⑥症状部位,診察所見,画像部位又は可動域の推移が一致しないことである。
もっとも,これらは一つだけで因果関係を否定する絶対条件ではない。例えば,受傷直後には他部位の重傷治療が優先されたため膝の精査が遅れた場合,初期の看護記録,歩行状態,鎮痛薬の使用又は後日の一貫した訴えが空白を補うことがある。遅延理由と,その間に別の原因が入り込んだ可能性を具体的に検討すべきである。
3 変性の存在と素因減額は同じ問題ではない
事故前から無症候性の変性があり,事故を契機に症状が現れた場合には,事故と症状との因果関係が認められる余地がある。その上で,変性又は変形性膝関節症が損害の発生・拡大に寄与し,損害全部を加害者に負担させることが公平を失するときに,民法722条2項の類推適用による素因減額が別に問題となる。
したがって,「変性があるため事故起因性がない」という評価と,「事故起因性はあるが既存疾患の寄与を損害額で調整する」という評価は区別しなければならない。人身傷害保険金が支払われている場合には,最高裁令和7年7月4日判決・令和5年(受)第1838号が,疾患を斟酌して損害額を減額する場合の保険会社による代位取得の範囲を示しているが,この判決は半月板損傷の等級基準を変更したものではない。
第5 治療内容を等級判断へ使うときの限界
血行のある辺縁部の修復可能な外傷性断裂では,半月板を温存する縫合が重視される。関節可動域を物理的に阻害する転位断裂は早期手術の候補となり得るが,治療選択は断裂形態,転位,ロッキング,年齢,活動性及び併存靱帯損傷によって異なる。手術を受けたことは重症度を推測させる一事情ではあっても,事故起因性又は後遺障害等級を自動的に決める事情ではない。
変性内側半月板断裂に対する部分切除術については,プラセボ手術との無作為比較試験の10年追跡で利益が示されず,害の可能性が報告されている。ただし,その対象は変性断裂であり,明白な急性外傷,ロッキングを伴う膝又は前十字靱帯損傷等を除外している。したがって,この知見を急性の転位外傷性断裂にそのまま適用することはできない。
治療後に疼痛又は可動域制限が残った場合も,術前の断裂,切除範囲,縫合部,術後拘縮,軟骨病変及び変形性膝関節症を分けて評価する必要がある。症状固定後の障害が事故時の断裂そのものによるのか,治療に伴う形態変化又は既存変性によるのかによって,主張すべき等級経路と因果関係の説明が変わる。
第6 主張立証に必要な資料と優先順位
1 最初に集める資料
最初に収集すべき資料は,①救急記録及び初診カルテ,②事故後早期の整形外科診療録,③MRIの読影報告書とDICOMデータ,④事故態様が分かる写真,実況見分資料又はドライブレコーダー,⑤症状固定までの可動域記録,⑥事故前の同側膝の診療歴及び画像である。これらは,損傷の存在,事故起因性,症状原因及び等級を異なる証拠で確認するために必要となる。
診療録では,単に「膝痛あり」と記載されているかだけでなく,内側・外側・前方・後方のどこか,腫脹又は関節水腫があったか,ロッキング,catching又はgiving wayがあったかを時点別に整理する。事故前記録が見つからない場合は,膝に異常が無かったと断定せず,取得できた記録の期間と範囲を明示する必要がある。
2 画像と医師照会で確認する事項
画像については,①高信号が関節面へ達するか,②複数断面・複数スライスで再現するか,③内側・外側及び前角・体部・後角のどこか,④縦,水平,放射状,flap,bucket-handle又はcomplexのどの形態か,⑤骨挫傷,関節液,滑膜炎又は靱帯損傷等の急性所見があるか,⑥軟骨摩耗,骨棘,半月板逸脱又は軟骨下骨変化等の変性所見があるかを確認する。
主治医又は画像診断医への照会は,結論だけを求めるのではなく,どの画像所見が事故機序及び症状部位と整合するかを質問する方が有用である。読影報告書と臨床診断が異なる場合には,画像を見落としたのか,画像には写りにくい病変を身体所見から推定したのか,又は変性所見を症状原因と評価したのかを明らかにする。
3 症状固定時に確認する事項
可動域障害を主張する場合は,患側・健側の屈曲及び伸展について,自動・他動の別,測定肢位,疼痛,終末感及び代償動作を記録する。さらに,治療期間中の数値を一覧化し,一時的な改善後の悪化又は測定者による差があるときは,その医学的理由を確認する。
疼痛を主張する場合は,痛む部位,荷重との関係,誘発動作,頻度,圧痛及び診察所見を具体化する。等級認定後の損害算定では,しゃがむ,階段を昇降する,長時間歩く,重量物を扱う,運転する又は正座するという職務・生活上の支障を,抽象的な痛みとは分けて示す必要がある。
4 高負担の追加調査へ進む条件
低負担の診療録・画像収集で,事故直後の症状,断裂部位及び変性の程度がおおむね一致するなら,次に画像についての医師照会又は意見書を検討する。さらに放射線科又は膝専門医の鑑定へ進むのは,既存画像を専門的に再評価すれば,外傷性か変性性か,真の断裂かアーチファクトか,又は可動域制限の原因が何かという結論が変わり得る場合である。
反対に,事故直後から長期間膝症状の記録がなく,MRIも変性所見だけで,断裂部位と現在の症状が一致せず,その空白を補う客観資料もない場合には,高額な鑑定を行っても事故起因性の立証が改善しないことがある。追加調査は,何が判明すれば等級又は因果関係の結論が変わるのかを特定してから行うべきである。
第7 裁判例から確認できる等級判断の限界
1 正常可動域でも疼痛が後遺障害となり得る
東京地裁平成9年5月28日判決は,右内側半月板損傷等が問題となった事案で,膝の伸展0度・屈曲150度として機能異常を認めなかった一方,画像上の半月板損傷と疼痛を後遺障害として評価し,他の症状と併せて14%の労働能力喪失を認めた。これは,可動域障害の第12級7号を認めた事例ではなく,可動域と疼痛の認定経路を分ける必要を示す事例である。
同判決は交通事故民事裁判例集30巻3号778頁に掲載され,判決全文の転載ページで内容を確認できるが,裁判所HP未掲載であり,事件番号は確認できなかった。また,右足関節靱帯断裂等を含む事案であるため,半月板損傷単独の労働能力喪失率を14%と定めた判決と理解してはならない。
2 裁判例で反復して問題となる事情
公刊された裁判例及び自賠責紛争処理事例では,①事故直後からの症状記録,②MRI又は関節鏡所見が真の断裂を示すか,③急性所見と変性所見のどちらが優位か,④画像部位と症状部位の一致,⑤可動域測定の一貫性と自動・他動の別,⑥手術所見及び術後経過,⑦事故前症状及び介在事故,⑧職種に応じた具体的な労働支障が繰り返し問題となっている。
もっとも,少数の裁判例から統一的な認定公式を導くことはできない。下級審判決には裁判所HP未掲載のものが多く,自賠責の判断と裁判所による損害賠償上の判断も同一ではないため,各判決が認定した傷病,証拠,等級経路及び損害項目を区別して読む必要がある。
第8 出典・参考資料
1 法令・行政資料
① e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」第2条・別表第二
② 厚生労働省平成16年6月4日基発第0604003号「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」
③ 厚生労働省平成16年6月4日基発第0604002号「障害等級認定基準の一部改正について」
④ 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法」令和4年改訂
2 裁判例
① 最高裁令和7年7月4日判決・令和5年(受)第1838号・民集79巻5号2155頁・損害賠償,求償金請求事件・裁判所HP判決全文
② 東京地裁平成9年5月28日判決・交通事故民事裁判例集30巻3号778頁・裁判所HP未掲載・事件番号未確認・判決全文転載ページ
3 書籍
① 新津守『膝MRI 第3版』(医学書院,平成30年)142頁~148頁,162頁~174頁,179頁~188頁
② 榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断―傾向を踏まえた交通事故事件処理―』(新日本法規,令和8年)166頁~168頁,435頁~437頁
③ 井樋栄二ほか編『標準整形外科学 第15版』(医学書院,令和5年)半月板損傷の項
4 医学文献・ガイドライン
① American Academy of Orthopaedic Surgeons, Management of Acute Isolated Meniscal Pathology: Clinical Practice Guideline, 2024.
② Kopf S, et al., Management of traumatic meniscus tears: the 2019 ESSKA meniscus consensus, Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy 2020;28:1177-1194.
③ Englund M, et al., Incidental Meniscal Findings on Knee MRI in Middle-Aged and Elderly Persons, New England Journal of Medicine 2008;359:1108-1115.
④ Kalske R, et al., Arthroscopic Partial Meniscectomy for Degenerative Tear — 10-Year Outcomes, New England Journal of Medicine 2026;394:1757-1759.