◯弁護士には、法律上の規律や職業倫理により、そもそもお引き受けすることのできない事件があります。
また、法律上は依頼者の同意があれば受任し得る場合であっても、私自身の方針として、あえてお引き受けしないこととしている事件もあります。
これらの制限の多くは、弁護士が依頼者以外の者の利益に引きずられ、あるいは対立する複数の立場を同時に代弁することによって、依頼者の利益が損なわれる事態を防ぐためのものです。
受任をお断りすることは、決して依頼者を軽んじるものではなく、むしろ依頼者の利益を最後まで一貫して守るための仕組みにほかなりません。
以下では、どのような事件をお引き受けできないのか、その根拠とあわせて類型ごとにご説明します。
目次
- 第1 利益相反により受任できない事件
- 第2 相手方の代理人弁護士に対する懲戒請求・損害賠償請求は、原則としてお引き受けしません
- 第3 調整型(まとめ役)の職務はお引き受けしません
- 第4 ご本人と必ず直接お会いします(間接的受任のお断り)
第1 利益相反により受任できない事件
弁護士法25条並びに弁護士職務基本規程27条、28条及び57条は、依頼者と相手方との間、あるいは複数の依頼者の間で利益が対立する事件について、弁護士が職務を行うことを禁じています。
当事務所では、これらの規律に加え、私自身のより厳格な方針に従い、次の事件をお引き受けしていません。
1 相手方と過去又は現在に関係がある事件
弁護士が相手方の側に立って関与したことのある事件を、後に依頼者の側で受任することはできません。
相手方は、かつて弁護士を信頼して手の内を明かしていたかもしれず、その弁護士が翻って自分に対峙することは、弁護士制度への信頼を根底から損なうからです。
(1) 相手方の相談を受け、又は相手方の事件を受任していた場合
私、又は他の所属弁護士(当事務所では林功弁護士及び土井博弁護士を指します。以下「所属弁護士」といいます。)が、依頼者の相手方から相談を受けてこれに具体的な回答をしていた場合、あるいは相手方の事件を既に受任していた場合には、その依頼者の事件をお引き受けすることはできません(弁護士法25条1号・2号、弁護士職務基本規程27条1号・2号)。
ここでいう「賛助」、すなわち相談への実質的な関与とは、単に相談を受けたにとどまらず、事情を聴取した結果として具体的な法律的手段を教示する段階に達した場合をいいます。
最高裁判所も、法律事件の協議に対して具体的な法律的手段を教示する段階に至れば、弁護士法25条1号にいう「賛助」に該当すると判示しています(最高裁判所昭和33年6月14日判決・裁判集民事32号223頁)。
したがって、一般的な助言にとどまらず、とるべき法的手段まで具体的に示した相談であれば、たとえ正式なご依頼に至っていなくても、その相手方の事件はお引き受けできないこととなります。
(2) 現に受任している事件の相手方から、別の事件を依頼された場合
私が現に受任している事件の相手方から、これとは別の事件を依頼された場合も受任できません(弁護士法25条3号、弁護士職務基本規程27条3号)。
法律上は依頼者の同意があれば例外が認められていますが、私の方針として、このような事件は一切お引き受けしません。
もっとも、ここで問題となるのは、あくまで「現に受任している事件」です。
過去に受任し、既に終了した事件は含まれません。
最高裁判所も、いったん受任した事件が既に終了していれば「現に受任している事件」には当たらず、その相手方から別の事件を受任しても弁護士法25条3号に触れないとしています(最高裁判所昭和40年4月2日判決・民集19巻3号539頁)。
(3) 相手方が所属弁護士の親族である場合
相手方が所属弁護士の配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件も、規程上は依頼者の同意があれば受任し得ますが、私の方針として一切お引き受けしません(弁護士職務基本規程28条1号)。
(4) 相手方が他の依頼者又は顧問先である場合
既に受任している他の事件の依頼者や、継続的に法律事務を提供している顧問先を相手方とする事件も、同様に一切お引き受けしません(弁護士職務基本規程28条2号)。
2 依頼者どうし、又は私自身との間で利益が対立する事件
(1) 複数の依頼者の利益が相反する場合
一人の弁護士が、利益の相反する複数の依頼者を同時に代理することはできません(弁護士職務基本規程28条3号)。
典型的には、次の二つの場面があります。
第一に、同一の債務者に対して債権を有する複数の債権者から、そろって債権回収を依頼される場合です。
回収の原資が限られているときは、債権者どうしが取り分を奪い合う関係に立ちます。
この類型については、同一の貸金業者に対する過払金返還請求のように依頼者間で利害が対立しない場合を除き、お引き受けしません。
第二に、同一グループに属する複数の相続人を、そろって遺産分割事件の依頼者とする場合です。
この問題については、東京弁護士会の会報「LIBRA」2008年11月号にも「遺産分割事件における複数の相続人からの受任の是非」と題する解説があります。
私は、相続人全員から、民法108条の双方代理に該当し、かつ利益相反が顕在化した場合には既に発生した弁護士報酬を返還することなく辞任してよい旨の同意書をいただけた場合を除き、お引き受けしません。
実際、大阪家庭裁判所の運用上も、こうした場合には双方代理の申述書の提出が求められます。
(2) 私自身の経済的利益と相反する場合
依頼者の利益と私自身の経済的利益とが相反する事件も、規程上は同意があれば受任し得ますが、私の方針として一切お引き受けしません(弁護士職務基本規程28条4号)。
3 利害の対立が深刻でない遺産分割 ―― 知人弁護士のご紹介
遺産分割事件のうち、両方の相続人を一人で受任できるほど利害の対立がないとまではいえないものの、その対立がさほど深刻でない場合には、私の知人の弁護士をご紹介します。
気心の知れた弁護士が他方の相続人の代理人に就いてくれれば、円滑な意思疎通のもとで事件を処理することができるからです。
ただし、双方の弁護士が親しいことによる、いわゆるなれ合いの可能性を完全には否定できません。
これを少しでも警戒される場合には、他方の相続人において、独自のルートで別の弁護士をお探しいただければと思います。
4 顧問先がからむ事件
(1) 顧問先の紹介により、その従業員から依頼された場合
顧問先の従業員が、顧問先の紹介により私に事件を依頼される場合があります(例えば、勤務先の紹介により自己破産又は個人再生を依頼される場合です)。
このとき、顧問先と従業員との間に紛争が生じ、又は生じるおそれがあるときは、顧問先の利益を優先して事件解決に当たることについてのご同意をいただけない限り、お引き受けしません。
とりわけ、顧問先が従業員に貸し付けた金銭の回収であるなど、顧問先と従業員との利益が明らかに相反する事案については、ご相談自体をお断りしています。
(2) 顧問先と、その窓口担当者とが対立した場合
顧問先とその窓口担当者との間で仲間割れが生じた場合には、原則として顧問先(会社)の側に立って事件解決に当たります。
もっとも、窓口担当者との間に既に深い信頼関係が形成されていた場合には、既に発生した弁護士報酬を返還することなく辞任することがあります。
第2 相手方の代理人弁護士に対する懲戒請求・損害賠償請求は、原則としてお引き受けしません
1 原則としてお引き受けしない理由
弁護士は、他の弁護士との関係において互いに名誉と信義を重んじ(弁護士職務基本規程70条)、他の弁護士との間の紛議については、協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努めるべきものとされています(同規程73条)。
そのため、相手方の代理人弁護士に対する懲戒請求又は損害賠償請求については、確実な証拠があり、かつ、私と依頼者との間に特に高度の信頼関係がある場合でない限り、お引き受けしません。
さらに、相手方の代理人弁護士が大阪弁護士会に所属する弁護士である場合には、これらの要件を満たすときであっても、ほぼ例外なくお引き受けしないこととしています。
2 懲戒請求に伴う法的リスク
懲戒請求は、いつでも自由にできるものではなく、これを軽々に行えば、請求する側が法的責任を問われることもあります。
まず、弁護士に対する懲戒請求において虚偽の事実を述べた場合には、虚偽告訴罪が成立し得ます(刑法172条)。
また、懲戒請求が、弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くと認められる場合には、それ自体が違法な懲戒請求として不法行為を構成します。
最高裁判所も、懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠き、請求者がそのことを知りながら、又は通常人であれば普通の注意を払うことによって知り得たのにあえて懲戒を請求するなど、制度の趣旨目的に照らして相当性を欠く場合には、不法行為が成立するとしています(最高裁判所平成19年4月24日判決・民集61巻3号1102頁)。
こうしたリスクがあるからこそ、懲戒請求等はごく慎重に取り扱う必要があります。
詳しくは「弁護士の懲戒」もあわせてご覧ください。
第3 調整型(まとめ役)の職務はお引き受けしません
1 調整型の職務とは
弁護士は、裁判外において、いまだ紛争が表面化していない複数の当事者の間に立ち、その利害を調整する役割を担うことがあります。
例えば、二当事者間の契約締結の調整、離婚を含む夫婦関係の調整、遺産分割協議の調整、共同事業その他の法律関係の清算に伴う金銭の分配の調整などです。
このような調整役は、特定の当事者の代理人として行うものではないから、双方代理にも利益相反にも当たりません。
2 お引き受けしない理由
もっとも、私は次の理由から、調整型の職務をお引き受けしないこととしています。
第一に、調整役の弁護士は、すべての当事者に対して公平かつ公正でなければならず、そのすべてから信頼を得ていなければ役割を果たせません。
裏を返せば、調整役は誰か一方の味方をすることができません。
依頼者からすれば、費用を負担しているのに弁護士が自分の味方をしてくれないという不満につながりやすいものです。
第二に、調整が失敗して当事者間の対立が表面化した場合、弁護士は速やかに調整役を辞任しなければならず、その後は、いずれの当事者の代理人にもなれないと解されています(弁護士職務基本規程32条、42条参照)。
つまり、調整が決裂したまさにそのときに、弁護士は事件を途中で手放さざるを得なくなります。
依頼者にとっては、最も助けを必要とする局面で弁護士を失うことになりかねません。
第4 ご本人と必ず直接お会いします(間接的受任のお断り)
弁護士が依頼者ご本人と直接会うことなく、第三者を介して事件を受任すること(間接的受任)には、次のような弊害があります。
そのため、当事務所では、依頼者ご本人との面談を必ず行うこととしています(債務整理事件処理の規律を定める規程3条及び4条参照)。
第一に、処理の経過を第三者にのみ報告し、もっぱら第三者を介して指示を受けていると、肝心の依頼者ご本人の意思が無視される危険があります。
第二に、回収した金員等を第三者に引き渡せば、その第三者に受領の権限があるのかという問題を生じやすいうえ、第三者による横領などの危険もあります。
第三に、事件の内容を第三者に説明することは、秘密保持義務に違反するおそれがあります(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。
第四に、介在する第三者がいわゆる事件屋や紹介屋の類であれば、弁護士法72条が禁じる非弁護士との提携につながりかねません。
第五に、第三者を介して報酬を受け取れば、弁護士職務基本規程12条が禁じる報酬の分配や、同規程13条が禁じる依頼者紹介の対価という色彩を帯びる危険があります。
加えて、依頼者が支払った額と私が受け取った額とが食い違えば、弁護士費用をめぐる紛争を招きかねません。
以上のような弊害を避けるため、ご依頼にあたっては、必ずご本人と直接お会いしたうえで手続を進めさせていただきます。
出典
- 法令 弁護士法25条・23条・72条、刑法172条、民法108条
- 会規 弁護士職務基本規程12条・13条・23条・27条・28条・32条・42条・57条・70条・73条、債務整理事件処理の規律を定める規程3条・4条
- 裁判例
- 最高裁判所昭和33年6月14日判決(裁判集民事32号223頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/63116/detail2/index.html
- 最高裁判所昭和40年4月2日判決(民集19巻3号539頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/53113/detail2/index.html
- 最高裁判所平成19年4月24日判決(民集61巻3号1102頁。裁判所ウェブサイトの裁判例検索には登載がないため掲載誌のみを示します。)
- 文献 東京弁護士会「LIBRA」2008年11月号「遺産分割事件における複数の相続人からの受任の是非」 https://www.toben.or.jp/message/libra/libra-2008-11.html