第1 会社から書面が届いたら,先に通知と到達日を確認する
相続などで取得した非上場株式を売却したいときは,株式を取得した経緯,持っている株式の種類と数,会社に何を申し入れたか,会社から何が届いたかを整理すると,相談を始めやすい。
既に書面が届いている場合は,決算書や株価算定書がそろうのを待たず,書面と到達日が分かる資料を先に持参する。
1 不承認の通知と買取りの通知を分ける
譲渡制限株式の譲渡承認を請求した際に,不承認の場合には会社又は指定買取人による買取りを求める旨を併せて請求していたときは,会社法138条から144条の買取手続が問題になる。
会社法144条2項・7項の売買価格決定の申立期間は,会社又は指定買取人による同法141条1項・142条1項の買取りの通知があった日から20日以内である。
譲渡を承認しない旨の通知と買取りの通知は,根拠条文も手続上の意味も異なる。
一通に複数の事項が書いてある場合や,通知の種類・日付が分かりにくい場合は,書面の表題だけで判断せず,全文と受領経緯を確認する。
会社又は指定買取人は,買取りの通知をしようとするときは,1株当たり純資産額に買い取る株式の数を乗じた額を供託し,供託を証する書面を交付しなければならない(会社法141条2項・142条2項)。
買取りの通知と一緒に届いた書面も,封筒とともに保存する。
2 会社から売却の打診を受けただけの場合
任意の買取提案,相続人等に対する定款に基づく売渡請求,合併等に反対した株主の買取請求には,それぞれ異なる手続が問題となる。
会社法144条2項の20日の期間は,会社から株式に関する連絡を受けたすべての場合に共通する期間ではない。
相続人等に対する売渡請求では会社の請求の日から20日以内(会社法177条2項),吸収合併等に反対した株主の買取請求では効力発生日から30日の協議期間の満了後30日以内(同法786条2項)というように,期間と起算点は手続ごとに定められている。
会社に買い取ってほしい場合は,既に行った請求の内容,譲渡先候補の有無,定款及び通知を示して相談する。
第2 弁護士に持参する5種類の資料
次の表は相談用の持参資料の例である。
裁判所への申立てに必要な書類は,手続と申立先の案内に応じて確認する。
| 資料 | 確認する箇所 |
|---|---|
| 株主名簿の記載,株券,譲渡契約書,相続関係資料 | 誰からどう取得したか。名義,株式の種類,株数はどうなっているか。 |
| 定款,譲渡承認請求書の控え,送付記録 | どのような譲渡制限があるか。不承認の場合の買取りを請求したか。 |
| 会社・指定買取人の通知,供託を証する書面,封筒,配達記録,メール | 誰から何が届いたか。通知に書かれた日付と実際に届いた日はいつか。 |
| 価格提示書,計算書類,株価算定書 | 金額は1株当たりか総額か。評価時点,評価方法,減価の記載があるか。 |
| 相談メモ | 早く売りたい,提示価格を検証したい等の目的と優先順位は何か。 |
第3 相談用の一枚メモの記入例
以下は架空の例である。
通知の表題を転記し,日付が確実なものと推測を分けて書く。
①持株と希望 相続で取得したと考えている普通株式100株。名義の記載を確認し,可能なら売却したい。
②10月1日 第三者への譲渡承認と,不承認の場合の買取りを請求。請求書控え1頁,配達記録あり。
③10月8日 会社から「譲渡を承認しない旨の通知」を受領。通知と封筒あり。
④10月15日 会社から「対象株式を買い取る旨の通知」を受領。通知と配達記録あり。買取対象は100株と記載。
⑤10月16日 1株7,000円の提示をメールで受領。価格の計算資料は手元にない。
⑥相談したいこと 10月15日受領の書面の法的な位置付け,申立期間と提出先,提示価格の算定資料を確認する方法。
第4 算定書がないときと,提示価格に納得できないとき
算定書が手元にない場合は,提示額,提示した人,対象株数,提示日,回答を求められた日を控える。
算定書がある場合は,①どの時点の会社の状態で計算したか,②どの資料と評価方法を使ったか,③何を理由に,計算のどの段階で減価したかに印を付ける。
相続税評価額と会社法上の価格決定額は,用途と算定の考え方を分けて検討する。
第5 AIで整理する場合に気を付けること
時系列表の書式は架空の資料で作成できる。
実際の会社名,株主名,決算書や通知書などを外部サービスへ入力する前に,秘密保持や個人情報の扱いを確認する。
AIが作った表に転記する場合も,日付・通知の名称・株数・金額は原資料に戻って確認し,原資料で確かめられない箇所はその旨を弁護士に伝える。
第6 関連記事・出典
1 関連記事
①譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合
②会社法の株式価格決定と相続税評価の違い
③名義株の解消方法
④相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法
2 出典
①会社法136~145条・174~177条・785~786条
②大阪地方裁判所「会社非訟事件とは」
③個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」