第1 結論
交通事故後の頭痛では,最初に緊急性のある頭蓋内病変等を見逃さないこと,次に頭部外傷・むち打ち・片頭痛等のどの病態が考えられるかを医師に評価してもらうこと,そして症状・服薬・生活への影響を時系列で記録することが重要である。
脳CT又は脳MRIで大きな異常が見つからなかったことは重要な情報であるが,それだけで軽度外傷性脳損傷(脳振盪)や外傷後頭痛を否定できるわけではない。他方,事故後に頭痛があるというだけで,頭痛の原因がすべて事故にあると決めることもできない。症状の始まった時期,頭痛の性質,神経症状,頚部症状,既往の頭痛及び薬の使用状況を総合して判断する必要がある。
突然の激しい頭痛,悪化して治まらない頭痛,繰り返す嘔吐,意識の変化,けいれん,ろれつが回らない,片側の手足の脱力・しびれ等がある場合は,通常の予約受診を待たず,119番又は救急医療機関への相談を優先する。
第2 直ちに救急受診を考える症状
厚生労働省は,突然の激しい頭痛,突然のしびれ,突然片方の腕や足に力が入らなくなる症状等を,迷わず119番を利用すべき症状として案内している。CDCも,頭部外傷後に悪化して消えない頭痛,反復する嘔吐,けいれん,ろれつの異常,混乱,強い眠気,片側の瞳孔が大きい状態,脱力又はしびれ等がある場合には,直ちに救急医療を受けるよう案内している。
救急受診を考える主な症状は,次のとおりである。
①突然発症した,経験したことのない強い頭痛
②時間とともに悪化し,休んでも治まらない頭痛
③繰り返す嘔吐,意識がもうろうとする,呼びかけても起きにくい状態
④けいれん,ろれつが回らない,普段と異なる言動又は強い混乱
⑤顔のゆがみ,片側の手足の脱力・しびれ,歩行又は協調運動の異常
⑥物が二重に見える,左右の瞳孔の大きさが異なる等の視覚・眼の異常
これらは例示であり,該当しなければ安全であるという意味ではない。判断に迷う地域では救急安心センター事業(♯7119)を利用できる場合がある。
第3 脳CT・脳MRIで異常なしと言われた場合
1 画像検査が確認するもの
頭部CTは,急性期の頭蓋内出血や骨折等の確認に用いられることが多い。MRIは,撮影方法と目的に応じて脳実質その他の病変を詳しく評価するために用いられる。どの検査が必要かは,事故状況,年齢,症状,神経学的所見,抗凝固薬等の服薬及び経過に応じて医師が判断する。
2 正常画像でも症状が残ることがある
CDCは,軽度外傷性脳損傷又は脳振盪の診断のために脳画像が常に必要なわけではなく,出血等の危険がある場合に画像が用いられるとしている。そのため,「画像に出ない症状は存在しない」とも,「画像が正常なら受診を終えてよい」ともいえない。
画像が正常でも,頭痛,めまい,吐き気,光・音への過敏,集中困難,記憶の問題,疲労,睡眠障害等が続く場合がある。症状が改善しない,又は日常活動を再開すると悪化する場合は,再診して経過を伝える必要がある。
3 正常画像を軽視しない
画像で出血その他の重大な所見が確認されなかったこと自体は重要である。画像が正常だから無意味なのではなく,画像で分かる病変と,問診・診察・経過から判断する病態の役割が異なる。検査結果は,撮影日,撮影部位,検査種類及び読影結果が分かる形で保管する方がよい。
第4 外傷後頭痛とむち打ち後の頭痛
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)は,頭部外傷に起因する頭痛と,頭部の加速・減速運動を伴うむち打ちに起因する頭痛を分けている。持続性の頭部外傷後頭痛については,原則として外傷等から7日以内に頭痛が始まり,発症から3か月を超えて続くこと等を診断基準としている。ただし,この期間基準は診断分類上の基準であり,患者が自分で事故との因果関係を確定するためのものではない。
事故後の頭痛は,脳振盪に伴う頭痛,むち打ちに伴う頚性頭痛,片頭痛又は緊張型頭痛に似た頭痛,薬剤の使用過多による頭痛等,複数の病態が重なることがある。頭痛の場所だけで決めず,痛み方,持続時間,随伴症状,頚部痛,姿勢,活動との関係及び事故前の頭痛歴を医師に伝える。
第5 受診先の考え方
1 事故直後又は危険症状がある場合
事故直後で頭部を打った,意識を失った,記憶が途切れた,又は第2の危険症状がある場合は,救急科,脳神経外科その他の救急対応ができる医療機関への相談を優先する。
2 頭痛が続く場合
頭痛が続く場合は,これまでの検査結果と症状経過を持参し,脳神経内科,頭痛外来,脳神経外科又はかかりつけ医に相談する。どの診療科が適するかは地域と病態によって異なるため,紹介状が必要かも含めて現在の主治医に確認する。
3 頚部痛・肩痛を伴う場合
頚部の動きで頭痛が変わる,首・肩の痛み,腕のしびれ又は筋力低下を伴う場合には,整形外科で頚椎及び神経の診察が必要となることがある。頭部と頚部を別々の医療機関で診てもらう場合は,それぞれの検査結果,処方及び医師の説明を相互に伝える。
事故直後から症状固定までの一般的な流れは,交通事故治療の流れで説明している。
第6 頭痛ダイアリーに記録する事項
日本頭痛学会は,頭痛の日時,痛み方,持続時間,吐き気,光・音・匂いへの過敏,使用した薬,薬の効果及び日常生活への影響等を頭痛ダイアリーへ記録するよう案内している。
交通事故後の頭痛では,次の事項を一つの時系列表又は頭痛ダイアリーにまとめると,診察時に説明しやすい。
①頭痛が始まった日と時刻,事故から発症までの間隔
②痛む場所,締め付ける・脈打つ等の痛み方,0から10までの強さ,持続時間
③吐き気,嘔吐,めまい,光・音・匂いへの過敏,視覚症状,しびれ,脱力等
④睡眠時間,中途覚醒,画面作業,外出,運動,天候,月経その他の誘因候補
⑤薬の名称,用量,服用時刻,効き方及び服用した日数
⑥仕事,学業,家事,運転,読書,対人活動等への具体的な影響
⑦受診日,診療科,検査,医師から受けた説明及び次回受診の指示
記録は長文でなくてもよい。痛みがない日も含め,同じ項目を継続して記録する方が,症状の頻度と改善・悪化を把握しやすい。
第7 頭痛薬の使用日数も記録する
日本頭痛学会は,急性期又は対症的な頭痛治療薬を過剰に使用すると,頭痛の頻度が増え,連日の頭痛へ移行することがあると説明している。市販薬を含め,薬を飲んだ日数,薬剤名及び効果を記録する必要がある。
薬が効きにくくなった,服用日数が増えた,又は頭痛がないのに予防的に鎮痛薬を飲むようになった場合は,自己判断で増量・中止せず,処方医又は頭痛を診る医師へ相談する。薬剤の使用過多による頭痛の基準は薬剤の種類によって異なるため,一つの数字だけで自己診断しない。
第8 仕事・家事・運動への戻り方
CDCは,軽度外傷性脳損傷又は脳振盪の後,最初の短期間は休息し,その後は症状を悪化させない範囲で徐々に通常活動へ戻る考え方を案内している。活動で症状が悪化する場合は活動量を減らし,改善しない又は悪化する場合は医療機関へ相談する。
運転,高所作業,機械操作,対人安全に関わる業務等は,注意・反応速度・めまいの影響が重大となる。復帰時期,勤務時間,休憩,画面作業及び通勤方法について,主治医から具体的な指示を受ける方がよい。
第9 診察時に持参する資料
診察時には,頭痛ダイアリー,薬の一覧,事故後の診療情報提供書,CT・MRIの画像又は読影結果,検査日と撮影部位が分かる資料,事故前の頭痛歴及び現在困っている活動の一覧を持参する。
複数の医療機関に通院している場合は,どの医療機関が頭痛薬を処方し,どこが画像を管理し,誰が全体の経過を見ているかを確認する。処方の重複や相互作用を避けるため,お薬手帳も共有する。
山中弁護士への依頼後に通院・症状を記録する際の一般的な注意は,重要事項説明書(交通事故事件)で説明している。
第10 よくある質問
1 脳MRIが正常なら頭痛は気のせいか
そうとは限らない。画像で評価する病変と,症状・診察・経過から評価する病態は異なる。ただし,正常画像が示す情報も重要であり,結果を無視して事故が原因と決め付けることも適切でない。症状と検査結果を併せて医師に評価してもらう。
2 頭痛があるたびに救急外来へ行くべきか
毎回同じ対応になるとは限らない。第2の危険症状,新たな神経症状又は急な悪化がある場合は救急相談を優先し,それ以外は主治医から悪化時の受診目安を具体的に聞いておく。
3 頭痛が続けば必ず外傷後頭痛か
必ずしもそうではない。事故前からの片頭痛・緊張型頭痛,むち打ちに伴う頭痛,睡眠障害,薬剤の使用過多その他の原因が競合し得る。発症時期と症状の特徴を記録し,鑑別を受ける。
4 どの程度続けば専門医へ相談すべきか
危険症状があれば期間を問わず救急対応を優先する。危険症状がなくても,症状が改善しない,日常生活や就労への支障が大きい,又は通常活動へ戻ると悪化する場合は,再診又は専門医への紹介を相談する。
第11 出典・参考資料
③米国疾病予防管理センター(CDC)「Symptoms of Mild TBI and Concussion」
④CDC「About Mild TBI and Concussion」
⑤CDC「What to Do After a Mild TBI or Concussion」
⑥国際頭痛学会「ICHD-3 5.2 Persistent headache attributed to traumatic injury to the head」