第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和2年司法試験論文式試験・租税法第1問を対象とする。
法務省の出題の趣旨・採点実感から50項目を抽出し,5段階の重みと1,890字の模範解答を示す。
重みと項目の区切りは独自の分析であり,法務省の配点,得点又は合格可能性を示さない。
| 設問 | 結論と検討の中心 |
|---|---|
| 1⑴ | 平成25年の払戻金は雑所得。事業所得を先に検討し,営利目的の継続的行為を評価する。 |
| 1⑵ | ソフト販売事業との付随性を肯定して事業所得とする答案を示す。関連性を理由付きで否定する構成も許容される。 |
| 2 | 係争増額賃料等は裁判が確定した平成29年分に算入する。 |
| 3⑴ | 時価を上回る1000万円を寄附金とし,限度額を超える部分を損金不算入とする。 |
| 3⑵ | 益金3300万円と原価としての損金3000万円を別々に示す。 |
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
各行は,公式資料に基づく一つの判定対象である。
必須,高評価,負例,許容分岐を区別し,重みとは別に表示する。
負例の回避には長い独立論証を要求せず,別構成の許容は全答案への累積要求を意味しない。
頁はすべてPDF実頁である。
「記載なし」は対象の関連範囲を読んで明示的な要求を確認できなかった場合,「間接」は記載からの推論を示す。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 基準 |
|---|---|
| 5 | 答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目として示す事項。 |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)。 |
| 3 | いずれか一方が明示する中核の理由付け又は具体化。 |
| 2 | 軽い補強又は典型的な誤りの確認。 |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項。 |
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
Aは不動産賃貸業のほか,平成21年から25年まで5年間,年間約3000レースのほぼ全てを対象に毎年約5000万円の馬券を購入し,毎年利益を得ている。
情報分析により予想の確度と配当率を組み合わせた購入パターンを用い,偶然性を減殺して年間収支で利益を得る方法であり,利益は年平均約200万円で変動する。
平成26年には競馬予想ソフトの小売販売を始め,馬券購入から得たノウハウを商品の改良に利用した。
AはDへの賃料を月20万円から25万円へ増額請求した。
争いを経て月23万円とする判決が平成29年12月28日に確定し,Dは平成30年1月4日に増額未払賃料等を支払った。
B社は平成30年8月,C社への資金援助として,時価3000万円の土地を4000万円で買い受け,C社に対する同額の債権と相殺した。
登記費用はC社が負担した。
B社は令和2年5月に土地を代表取締役Aへ時価3300万円で売却した。
2 設問が求めること
中立的立場で,Aの2年分の所得分類,Aの本件未払賃料等の収入帰属年,B社の取得時の損金と転売時の益金・損金まで答える。
事業所得とする結論が指定されているわけではなく,設問1⑵では関連性の肯否に応じた説明が必要である。
C社の課税,Aの取得後の課税,外れ馬券の必要経費の具体計算,寄附金限度額の政令による具体計算は答案の中心に置かない。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 検討順序を事業所得,一時所得,雑所得とする。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 2 | 自己の危険と計算・独立性・営利有償性・反復継続意思と社会的地位の事業基準。(必須) | 5 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 3 | 労力・人的物的設備・安定収益可能性等を総合して事業性を評価する。(必須) | 4 | 間接:PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 4 | 平成25年分について事業所得を否定する。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 5 | 一時所得の条文上の残余性と営利継続行為の除外を示す。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 6 | 行為態様と利益発生状況を総合して継続性・客観的営利性を判定する。(必須) | 5 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 7 | 5年間・ほぼ全レース・年間約5000万円を継続性へ結ぶ。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 8 | 購入パターン・偶然性減殺・毎年の利益を客観的営利性へ結ぶ。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 9 | 一時所得にも当たらず雑所得35条1項と結論する。(必須) | 5 | PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
| 10 | 馬券という名称又は無対価性だけで一時所得としない。(負例) | 2 | 間接:PDF24頁・設問1⑴ | PDF6頁・設問1⑴ |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 11 | ソフト小売販売が事業であることを前提とする。(必須) | 3 | PDF25頁・設問1⑵ | PDF7頁・設問1⑵ |
| 12 | 事業に付随する経済活動の所得という接続を示す。(必須) | 5 | PDF25頁・設問1⑵ | PDF7頁・設問1⑵ |
| 13 | 新たなノウハウの商品改良への利用を事業関連性へ評価する。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑵ | PDF6頁・設問1⑵ |
| 14 | 前年と同じ購入態様という反対事情を処理する。(必須) | 4 | PDF24頁・設問1⑵ | PDF6頁・設問1⑵ |
| 15 | 新聞等でノウハウ取得可能として関連性を否定する構成も許容される。(許容分岐) | 3 | PDF25頁・設問1⑵ | PDF7頁・設問1⑵ |
| 16 | 平成26年分に平成28年の法人設立事情を遡及させない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF14頁・設問1⑵ |
3 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 17 | 所得税法36条1項の「収入すべき金額」を起点とする。(必須) | 4 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 18 | 現実の受領を待つ現金主義を否定する。(必須) | 4 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 19 | 恣意的な収入時期操作の排除・課税公平を理由として示す。(必須) | 4 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 20 | 収入原因となる権利の確定的発生を権利確定主義として示す。(必須) | 5 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 21 | 形成権行使による私法上の発生と税法上の確定を区別する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 22 | 借地借家法32条2項等で確定までの不明確性を裏付ける。(高評価) | 3 | 記載なし | PDF7頁・設問2 |
| 23 | 係争増額賃料は原則として裁判確定時という規範を示す。(必須) | 5 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 24 | 仙台賃料増額請求事件の原則を用い,管理支配の例外と混同しない。(必須) | 4 | PDF25頁・設問2 | PDF7頁・設問2 |
| 25 | 裁判確定の平成29年分に算入し平成28年・30年を排除する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問2 | PDF8頁・設問2 |
| 26 | 債務名義等による権利確定の具体化も相応に評価される。(許容分岐) | 2 | 記載なし | PDF7頁・設問2 |
| 27 | 収入金額とすべき金額という別文言を非現金主義の根拠にしない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF7頁・設問2 |
4 設問3⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 時価3000万円と債権4000万円との差額1000万円の社外流出を把握する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 29 | 土地取得対価3000万円の資産計上と差額の損金問題を区別する。(必須) | 4 | 間接:PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 30 | まず22条3項による費用・損失を検討する。(必須) | 4 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 31 | 別段の定めとして37条1項の損金算入制限へ接続する。(必須) | 4 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 32 | 37条7項の経済的利益の贈与・無償供与を根拠にする。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 33 | 低額譲渡の8項を高額譲受けへ無説明で直接適用しない。(必須) | 4 | 間接:PDF25頁・設問3⑴ | PDF15頁・設問3⑴ |
| 34 | 援助目的と反対給付のない差額を無償の利益供与へ評価する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF8頁・設問3⑴ |
| 35 | 損金制限で課税が増えるため租税法律主義に即した根拠説明をする。(必須) | 3 | PDF25頁・設問3⑴ | 記載なし |
| 36 | 援助に合理性があるというだけで寄附金を否定しない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF9頁・設問3⑴ |
| 37 | 貸倒要件の不充足だけで相殺後の損金問題を終わらせない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF9頁・設問3⑴ |
| 38 | 寄附金1000万円は限度額まで算入し超過額を不算入とする。(必須) | 4 | PDF25頁・設問3⑴ | PDF9頁・設問3⑴ |
| 39 | 政令の具体的限度額計算までは要求されない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF9頁・設問3⑴ |
5 設問3⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 40 | 有償譲渡の収益3300万円を22条2項により益金算入する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑵ | PDF9頁・設問3⑵ |
| 41 | 損金の根拠は22条3項1号の原価と特定する。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑵ | PDF9頁・設問3⑵ |
| 42 | 寄附金部分を除く取得原価3000万円を売却時の損金とする。(必須) | 5 | PDF25頁・設問3⑵ | PDF9頁・設問3⑵ |
| 43 | 益金・損金をそれぞれ示し所得差額300万円だけで答えない。(必須) | 4 | PDF25頁・設問3⑵ | PDF9頁・設問3⑵ |
| 44 | 前問の寄附金1000万円を再度原価に戻し二重控除しない。(負例) | 3 | 間接:PDF25頁・設問3⑵ | PDF16頁・設問3⑵ |
| 45 | 代表取締役への時価売却から役員給与の議論へ逸れない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF14頁・設問3⑵ |
6 全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 46 | 事実の引写しで終えず規範への評価を介して結論する。(高評価) | 3 | 間接:PDF24頁・全体 | PDF14頁・全体 |
| 47 | 判例と自説の関係を判例同旨等の短い表現で明らかにする。(高評価) | 3 | 記載なし | PDF16頁・全体 |
| 48 | 所得分類制度・包括的所得概念の一般論で字数を浪費しない。(負例) | 2 | 記載なし | PDF16頁・全体 |
| 49 | 設問3⑴の損金のみ・⑵の益金と損金という出力範囲を守る。(負例) | 2 | 間接:PDF25頁・全体 | PDF16頁・全体 |
| 50 | 条文の適用方法を説明し要件・効果の文言を正確に運用する。(高評価) | 3 | 記載なし | PDF15頁・全体 |
7 重みの分布
| 重み | 件数 | 加重合計 |
|---|---|---|
| 1 | 0 | 0 |
| 2 | 10 | 20 |
| 3 | 8 | 24 |
| 4 | 18 | 72 |
| 5 | 14 | 70 |
| 合計 | 50 | 186 |
N=0+10+8+18+14=50,W=1×0+2×10+3×8+4×18+5×14=186である。
重み5は,番号2,6,9,12,20,21,23,25,28,32,34,40,41,42の14件である。
これらも適用条件に従って用い,負例や不採用の別構成を全答案への追加要求にしない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
字数は,見出し・句読点・末尾「以上」を含め,改行を除くUnicode文字数で1,890字である。
基準日は選択科目の試験日である令和2年8月12日とし,答案は設問1⑵の事業付随性を肯定する構成を採る。
判例への言及は,原判決を独立確認したものと,法務省公式資料が示す判旨に依拠するものとを第7で区別する。
2 答案
1 設問1
(1)平成25年分
一時所得と雑所得は他の所得に該当しない所得であるから,まず事業所得該当性を検討する(所得税法27条1項,34条1項,35条1項)。
事業所得の基因となる事業とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性・有償性を有し,反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務をいう(弁護士顧問料事件最判昭和56年4月24日)。
労力,設備,収益の安定性等を総合して判断する。
Aは5年間,年間約5000万円もの馬券を購入しているが,利益は年平均約200万円で変動し,馬券購入を職業的事業として営む設備・社会的地位等を積極的に示す事情はない。
規模と継続性だけから事業としての実態までは認められず,事業所得ではない。
次に,一時所得からは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」が除かれる(34条1項)。
その該当性は,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間等を総合考慮して判断する(最判平成29年12月15日)。
Aは毎年約3000レースのほぼ全てを対象に,情報分析に基づき予想の確度と配当率を組み合わせた購入パターンを用い,網羅的購入で偶然性を減殺し年間収支で利益を得ている。
5年間毎年利益があり,一連の行為は継続的で客観的な営利目的も認められる。
利益の変動や個別レースの偶然性はこれを妨げない。
よって一時所得にも当たらず,雑所得である(35条1項)。
(2)平成26年分
ソフトの小売販売は事業に当たり(27条1項,所得税法施行令63条7号),その事業に付随する経済活動から生じる所得も事業所得となり得る。
Aは馬券購入で得た新たな予想ノウハウをソフトの改良に取り入れている。
前年と購入方法や利益規模が同じでも,予想方法の実践・検証が販売商品の継続的改良に機能的に結び付く点が異なる。
新聞等からも情報は得られるが,A自身の購入活動を通じた検証には商品改良との具体的関連性がある。
したがって,本件では販売事業に付随する所得として事業所得と解する。
2 設問2
所得税法36条1項の「収入すべき金額」は,現実に収入した金額ではなく,収入の原因となる権利が確定的に発生した金額をいう。
受領まで課税を待てば納税者の恣意を許し課税の公平を害するからである(最判昭和49年3月8日)。
増額請求権が形成権であり行使により私法上相当額の賃料債権が発生しても,増額の当否や額が争われる場合,税法上の権利確定とは直ちにいえない。
借地借家法32条2項も裁判確定までは相当と認める額の支払で足りるとしている。
この場合,原則として増額賃料債権の存在を認める裁判の確定時に権利が確定する(仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日)。
本件では月額25万円の請求に対し23万円とする判決が平成29年12月28日に確定した。
仮執行による先行収受の事情は示されていない。
よって本件未払賃料等は,平成28年の請求時や平成30年の受領時ではなく,平成29年分の不動産所得の総収入金額に算入する。
3 設問3
(1)平成30年の買受け
B社は時価3000万円の土地を取得するため4000万円の債権を相殺により消滅させており,差額1000万円の価値を社外に流出させている。
土地取得対価3000万円は資産となり,取得時の損金ではない。
差額は一般則上,法人税法22条3項3号の損失として損金となり得るが,同項柱書の「別段の定め」として37条1項の寄附金の損金算入制限が問題となる。
37条8項は低額譲渡を定め,高額譲受けを直接規定していない。
損金制限は課税額を増加させるから,租税法律主義上,経済的実質だけで寄附金とせず,同条7項の「経済的な利益の贈与又は無償の供与」への該当性を説明すべきである。
売買全体は有償でも,B社がC社への資金援助として了承した時価超過額には土地等の反対給付がなく,その部分はC社の債務を無償で消滅させる利益供与である。
したがって,7項の寄附金に当たり,1000万円は1項により限度額まで損金算入し,超過額を不算入とする。
具体的限度額の計算は不要である。
土地の取得価額は寄附金部分を除く3000万円である。
登記費用はC社負担でありB社の取得価額に加えない。
(2)令和2年の売却
B社は有償による土地の譲渡収益3300万円を益金に算入し(22条2項),原価3000万円を損金に算入する(同条3項1号)。
寄附金1000万円を原価へ戻して二重控除しない。
時価での売却なので役員への別の利益供与もない。
所得への純影響は300万円の増加となる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 所得分類の順序と事業付随性
一時所得と雑所得は残余区分であるため,まず事業所得を処理する。
営利的・継続的であることと,社会通念上の事業であることを同一視しない。
平成25年分では,安定性・労力・設備等を含む事業基準を先に置いた上で,継続性・客観的営利性を判断する。
平成26年分については,馬券の利益を販売事業へ使うという関係だけでなく,ノウハウの検証と商品改良の機能的なつながりを示す。
番号15は否定構成を採る場合の枝である。
新聞等でも予想ノウハウの構築が可能で,馬券購入自体は販売事業に関連しないと説明して雑所得とする構成も公式に許容される。
肯定答案に否定構成の全論証を追加要求する趣旨ではない。
(2) 私法上の発生と収入の権利確定
所得税法36条1項の起点は「収入すべき金額」である。
形成権行使で私法上の賃料債権が生じることと,係争増額部分が課税上確定することを分ける。
本問では裁判確定時という判例の原則を使い,仮執行で先に金銭を支配した場合の例外を持ち込まない。
番号26は,判例の原則を再現できない答案でも債務名義・無条件請求権等によって権利確定を具体化した場合の評価枝である。
本答案は原則を直接示すため,これらを累積して論じない。
(3) 高額譲受けの根拠条文と無償性
取得資産3000万円と,反対給付のない1000万円の利益移転を分ける。
一般則から寄附金の別段の定めへ進み,低額譲渡を規定する8項を高額譲受けへ無説明で適用しない。
有償売買の外形があっても,時価超過部分の無償性を7項の文言に即して説明する。
援助目的の合理性だけで非寄附金としたり,貸倒損失の要件を満たさないというだけで検討を終えたりしない。
(4) 転売時の益金・損金と年度間の整合
売却対価3300万円と土地原価3000万円は,益金と損金として個別に示す。
寄附金として切り離した1000万円を後の原価へ戻すと,取得時と転売時の処理が整合しない。
差額300万円は所得への純影響であり,300万円だけを益金と答えることとは異なる。
(5) 重み5・4の答案対応
次の番号は第4の公開表を指す。
内部IDとの一対一対応は別途の評価台帳で保持している。
番号1(重み4):検討順序を事業所得,一時所得,雑所得とする。
答案の対応箇所は「一時所得と雑所得は他の所得に該当しない所得であるから,まず事業所得該当性を検討する(所得税法27条1項,34条1項,35条1項)。」である。
番号2(重み5):自己の危険と計算・独立性・営利有償性・反復継続意思と社会的地位の事業基準。
答案の対応箇所は「事業所得の基因となる事業とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性・有償性を有し,反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務をいう(弁護士顧問料事件最判昭和56年4月24日)。労力,設備,収益の安定性等を総合して判断する。」である。
番号3(重み4):労力・人的物的設備・安定収益可能性等を総合して事業性を評価する。
答案の対応箇所は「事業所得の基因となる事業とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性・有償性を有し,反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務をいう(弁護士顧問料事件最判昭和56年4月24日)。労力,設備,収益の安定性等を総合して判断する。」である。
番号4(重み4):平成25年分について事業所得を否定する。
答案の対応箇所は「Aは5年間,年間約5000万円もの馬券を購入しているが,利益は年平均約200万円で変動し,馬券購入を職業的事業として営む設備・社会的地位等を積極的に示す事情はない。規模と継続性だけから事業としての実態までは認められず,事業所得ではない。」である。
番号5(重み4):一時所得の条文上の残余性と営利継続行為の除外を示す。
答案の対応箇所は「次に,一時所得からは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」が除かれる(34条1項)。その該当性は,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間等を総合考慮して判断する(最判平成29年12月15日)。」である。
番号6(重み5):行為態様と利益発生状況を総合して継続性・客観的営利性を判定する。
答案の対応箇所は「次に,一時所得からは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」が除かれる(34条1項)。その該当性は,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間等を総合考慮して判断する(最判平成29年12月15日)。」である。
番号7(重み4):5年間・ほぼ全レース・年間約5000万円を継続性へ結ぶ。
答案の対応箇所は「Aは毎年約3000レースのほぼ全てを対象に,情報分析に基づき予想の確度と配当率を組み合わせた購入パターンを用い,網羅的購入で偶然性を減殺し年間収支で利益を得ている。5年間毎年利益があり,一連の行為は継続的で客観的な営利目的も認められる。利益の変動や個別レースの偶然性はこれを妨げない。よって一時所得にも当たらず,雑所得である(35条1項)。」である。
番号8(重み4):購入パターン・偶然性減殺・毎年の利益を客観的営利性へ結ぶ。
答案の対応箇所は「Aは毎年約3000レースのほぼ全てを対象に,情報分析に基づき予想の確度と配当率を組み合わせた購入パターンを用い,網羅的購入で偶然性を減殺し年間収支で利益を得ている。5年間毎年利益があり,一連の行為は継続的で客観的な営利目的も認められる。利益の変動や個別レースの偶然性はこれを妨げない。よって一時所得にも当たらず,雑所得である(35条1項)。」である。
番号9(重み5):一時所得にも当たらず雑所得35条1項と結論する。
答案の対応箇所は「Aは毎年約3000レースのほぼ全てを対象に,情報分析に基づき予想の確度と配当率を組み合わせた購入パターンを用い,網羅的購入で偶然性を減殺し年間収支で利益を得ている。5年間毎年利益があり,一連の行為は継続的で客観的な営利目的も認められる。利益の変動や個別レースの偶然性はこれを妨げない。よって一時所得にも当たらず,雑所得である(35条1項)。」である。
番号12(重み5):事業に付随する経済活動の所得という接続を示す。
答案の対応箇所は「ソフトの小売販売は事業に当たり(27条1項,所得税法施行令63条7号),その事業に付随する経済活動から生じる所得も事業所得となり得る。」である。
番号13(重み4):新たなノウハウの商品改良への利用を事業関連性へ評価する。
答案の対応箇所は「Aは馬券購入で得た新たな予想ノウハウをソフトの改良に取り入れている。前年と購入方法や利益規模が同じでも,予想方法の実践・検証が販売商品の継続的改良に機能的に結び付く点が異なる。新聞等からも情報は得られるが,A自身の購入活動を通じた検証には商品改良との具体的関連性がある。したがって,本件では販売事業に付随する所得として事業所得と解する。」である。
番号14(重み4):前年と同じ購入態様という反対事情を処理する。
答案の対応箇所は「Aは馬券購入で得た新たな予想ノウハウをソフトの改良に取り入れている。前年と購入方法や利益規模が同じでも,予想方法の実践・検証が販売商品の継続的改良に機能的に結び付く点が異なる。新聞等からも情報は得られるが,A自身の購入活動を通じた検証には商品改良との具体的関連性がある。したがって,本件では販売事業に付随する所得として事業所得と解する。」である。
番号17(重み4):所得税法36条1項の「収入すべき金額」を起点とする。
答案の対応箇所は「所得税法36条1項の「収入すべき金額」は,現実に収入した金額ではなく,収入の原因となる権利が確定的に発生した金額をいう。受領まで課税を待てば納税者の恣意を許し課税の公平を害するからである(最判昭和49年3月8日)。」である。
番号18(重み4):現実の受領を待つ現金主義を否定する。
答案の対応箇所は「所得税法36条1項の「収入すべき金額」は,現実に収入した金額ではなく,収入の原因となる権利が確定的に発生した金額をいう。受領まで課税を待てば納税者の恣意を許し課税の公平を害するからである(最判昭和49年3月8日)。」である。
番号19(重み4):恣意的な収入時期操作の排除・課税公平を理由として示す。
答案の対応箇所は「所得税法36条1項の「収入すべき金額」は,現実に収入した金額ではなく,収入の原因となる権利が確定的に発生した金額をいう。受領まで課税を待てば納税者の恣意を許し課税の公平を害するからである(最判昭和49年3月8日)。」である。
番号20(重み5):収入原因となる権利の確定的発生を権利確定主義として示す。
答案の対応箇所は「所得税法36条1項の「収入すべき金額」は,現実に収入した金額ではなく,収入の原因となる権利が確定的に発生した金額をいう。受領まで課税を待てば納税者の恣意を許し課税の公平を害するからである(最判昭和49年3月8日)。」である。
番号21(重み5):形成権行使による私法上の発生と税法上の確定を区別する。
答案の対応箇所は「増額請求権が形成権であり行使により私法上相当額の賃料債権が発生しても,増額の当否や額が争われる場合,税法上の権利確定とは直ちにいえない。借地借家法32条2項も裁判確定までは相当と認める額の支払で足りるとしている。この場合,原則として増額賃料債権の存在を認める裁判の確定時に権利が確定する(仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日)。」である。
番号23(重み5):係争増額賃料は原則として裁判確定時という規範を示す。
答案の対応箇所は「増額請求権が形成権であり行使により私法上相当額の賃料債権が発生しても,増額の当否や額が争われる場合,税法上の権利確定とは直ちにいえない。借地借家法32条2項も裁判確定までは相当と認める額の支払で足りるとしている。この場合,原則として増額賃料債権の存在を認める裁判の確定時に権利が確定する(仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日)。」である。
番号24(重み4):仙台賃料増額請求事件の原則を用い,管理支配の例外と混同しない。
答案の対応箇所は「増額請求権が形成権であり行使により私法上相当額の賃料債権が発生しても,増額の当否や額が争われる場合,税法上の権利確定とは直ちにいえない。借地借家法32条2項も裁判確定までは相当と認める額の支払で足りるとしている。この場合,原則として増額賃料債権の存在を認める裁判の確定時に権利が確定する(仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日)。」である。
番号25(重み5):裁判確定の平成29年分に算入し平成28年・30年を排除する。
答案の対応箇所は「本件では月額25万円の請求に対し23万円とする判決が平成29年12月28日に確定した。仮執行による先行収受の事情は示されていない。よって本件未払賃料等は,平成28年の請求時や平成30年の受領時ではなく,平成29年分の不動産所得の総収入金額に算入する。」である。
番号28(重み5):時価3000万円と債権4000万円との差額1000万円の社外流出を把握する。
答案の対応箇所は「B社は時価3000万円の土地を取得するため4000万円の債権を相殺により消滅させており,差額1000万円の価値を社外に流出させている。土地取得対価3000万円は資産となり,取得時の損金ではない。差額は一般則上,法人税法22条3項3号の損失として損金となり得るが,同項柱書の「別段の定め」として37条1項の寄附金の損金算入制限が問題となる。」である。
番号29(重み4):土地取得対価3000万円の資産計上と差額の損金問題を区別する。
答案の対応箇所は「B社は時価3000万円の土地を取得するため4000万円の債権を相殺により消滅させており,差額1000万円の価値を社外に流出させている。土地取得対価3000万円は資産となり,取得時の損金ではない。差額は一般則上,法人税法22条3項3号の損失として損金となり得るが,同項柱書の「別段の定め」として37条1項の寄附金の損金算入制限が問題となる。」である。
番号30(重み4):まず22条3項による費用・損失を検討する。
答案の対応箇所は「B社は時価3000万円の土地を取得するため4000万円の債権を相殺により消滅させており,差額1000万円の価値を社外に流出させている。土地取得対価3000万円は資産となり,取得時の損金ではない。差額は一般則上,法人税法22条3項3号の損失として損金となり得るが,同項柱書の「別段の定め」として37条1項の寄附金の損金算入制限が問題となる。」である。
番号31(重み4):別段の定めとして37条1項の損金算入制限へ接続する。
答案の対応箇所は「B社は時価3000万円の土地を取得するため4000万円の債権を相殺により消滅させており,差額1000万円の価値を社外に流出させている。土地取得対価3000万円は資産となり,取得時の損金ではない。差額は一般則上,法人税法22条3項3号の損失として損金となり得るが,同項柱書の「別段の定め」として37条1項の寄附金の損金算入制限が問題となる。」である。
番号32(重み5):37条7項の経済的利益の贈与・無償供与を根拠にする。
答案の対応箇所は「37条8項は低額譲渡を定め,高額譲受けを直接規定していない。損金制限は課税額を増加させるから,租税法律主義上,経済的実質だけで寄附金とせず,同条7項の「経済的な利益の贈与又は無償の供与」への該当性を説明すべきである。」である。
番号33(重み4):低額譲渡の8項を高額譲受けへ無説明で直接適用しない。
答案の対応箇所は「37条8項は低額譲渡を定め,高額譲受けを直接規定していない。損金制限は課税額を増加させるから,租税法律主義上,経済的実質だけで寄附金とせず,同条7項の「経済的な利益の贈与又は無償の供与」への該当性を説明すべきである。」である。
番号34(重み5):援助目的と反対給付のない差額を無償の利益供与へ評価する。
答案の対応箇所は「売買全体は有償でも,B社がC社への資金援助として了承した時価超過額には土地等の反対給付がなく,その部分はC社の債務を無償で消滅させる利益供与である。したがって,7項の寄附金に当たり,1000万円は1項により限度額まで損金算入し,超過額を不算入とする。具体的限度額の計算は不要である。」である。
番号38(重み4):寄附金1000万円は限度額まで算入し超過額を不算入とする。
答案の対応箇所は「売買全体は有償でも,B社がC社への資金援助として了承した時価超過額には土地等の反対給付がなく,その部分はC社の債務を無償で消滅させる利益供与である。したがって,7項の寄附金に当たり,1000万円は1項により限度額まで損金算入し,超過額を不算入とする。具体的限度額の計算は不要である。」である。
番号40(重み5):有償譲渡の収益3300万円を22条2項により益金算入する。
答案の対応箇所は「B社は有償による土地の譲渡収益3300万円を益金に算入し(22条2項),原価3000万円を損金に算入する(同条3項1号)。寄附金1000万円を原価へ戻して二重控除しない。時価での売却なので役員への別の利益供与もない。所得への純影響は300万円の増加となる。」である。
番号41(重み5):損金の根拠は22条3項1号の原価と特定する。
答案の対応箇所は「B社は有償による土地の譲渡収益3300万円を益金に算入し(22条2項),原価3000万円を損金に算入する(同条3項1号)。寄附金1000万円を原価へ戻して二重控除しない。時価での売却なので役員への別の利益供与もない。所得への純影響は300万円の増加となる。」である。
番号42(重み5):寄附金部分を除く取得原価3000万円を売却時の損金とする。
答案の対応箇所は「B社は有償による土地の譲渡収益3300万円を益金に算入し(22条2項),原価3000万円を損金に算入する(同条3項1号)。寄附金1000万円を原価へ戻して二重控除しない。時価での売却なので役員への別の利益供与もない。所得への純影響は300万円の増加となる。」である。
番号43(重み4):益金・損金をそれぞれ示し所得差額300万円だけで答えない。
答案の対応箇所は「B社は有償による土地の譲渡収益3300万円を益金に算入し(22条2項),原価3000万円を損金に算入する(同条3項1号)。寄附金1000万円を原価へ戻して二重控除しない。時価での売却なので役員への別の利益供与もない。所得への純影響は300万円の増加となる。」である。
重み3以下の番号10,11,15,16,22,26,27,35,36,37,39,44,45,46,47,48,49,50は,各設問の規範・反対事情・適用条件又は前記解説と併せて読む。
条件付きの番号15・26は前記のとおり別々に説明した。
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低額譲受けと高額譲受けは利益移転の方向が異なるため,主体と価額の流れを区別して参照する。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
令和2年司法試験論文式試験・選択科目問題(法務省)のPDF6~7頁が租税法第1問である。
令和2年司法試験論文式試験問題の出題の趣旨(法務省)はPDF24~25頁の租税法第1問を確認した。
令和2年司法試験の採点実感・選択科目(法務省)はPDF6~9頁の第1問と,PDF13~17頁の科目総論にある関連記載を確認した。
令和2年司法試験の実施日程等について(司法試験委員会)は,選択科目を令和2年8月12日に実施する日程を示す。
2 法令・行政資料
所得税法(e-Gov)の27条1項,34条1項,35条1項,36条1項を,公式APIの基準日指定で確認した。
取得した試験日版の改正識別子は「340AC0000000033_20200501_501AC0000000028」である。
法人税法(e-Gov)の22条,37条1・7・8項を同様に確認した。
試験日版は「340AC0000000034_20200612_502AC0000000049」,高額譲受け時の版は「340AC0000000034_20180401_430AC0000000007」である。
所得税法施行令(e-Gov)63条7号,借地借家法(e-Gov)32条を試験日指定版で確認した。
所得税基本通達27-5(国税庁),同36-5,法人税基本通達7-3-1も関連する。
通達の現在の掲載文と試験時点の原典性は区別し,答案の法的根拠は法令及び公式資料が示す判例の規範に置く。
3 裁判例
最判平成29年12月15日・平成28年(行ヒ)第303号(裁判所)は4頁全文を独立に確認した。
とりわけPDF3~4頁の継続性・客観的営利性の総合判断を参照した。
弁護士顧問料事件最判昭和56年4月24日,名古屋地判昭和60年4月26日,最判平成27年3月10日,最判昭和49年3月8日,仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日は,法務省公式資料が示す判旨・位置付けを用いた。
これらの判決原文すべてを独立に確認したという意味ではない。
4 確認状態
確認日は令和8年10月18日である。
公式2資料の対象第1問,必要な科目総論,前記の試験日指定条文及び平成29年判決の原文を実読した。
平成25・26年の全関連法令と各経過措置の独立照合,一部の原判決全文は未確認である。
この限界は,各時点の法源をすべて遡及確認したとの主張を妨げるが,公式資料が本問について示す分類・年度・損益処理の要求とは区別される。
評価項目の区切り,重み及び模範解答の当てはめは本記事の独自分析である。