第1 ガバメントAI「源内」と今回の調査
ガバメントAI「源内」は,デジタル庁が整備する行政向けの生成AI利用環境である。
デジタル庁は令和8年10月30日,「ガバメントAI 源内 利用状況アンケート調査(第1回)」の結果を公表した。
本記事は,同日公表の調査資料及び同月20日制定の「源内基準」を基に,数字の意味と利用上の注意点を整理する。
調査期間は令和8年8月21日から9月18日までであり,回答者は6439人である。
内訳は本省2467人,地方支分部局等3972人であり,調査対象には衆議院事務局と最高裁判所事務総局も含まれる。
ただし,このことから裁判官の裁判業務や訴訟記録への利用状況が分かるわけではない。
出典はデジタル庁の公表ページ及び調査資料のPDF3頁である。
第2 満足度71.7%は誰についての数字か
1 6439人と3078人を分ける
調査では,週1回以上利用する3078人を定期利用者としている。
その内訳は,ほぼ毎日669人,週3~4回711人,週1~2回1698人である。
満足度71.7%は,この定期利用者についての数字である。
回答者全体6439人や,今後の利用対象となる職員全員について,7割以上が満足したという意味ではない。
利用頻度が低い理由も一様ではない。
資料には,ほかの生成AIを使っているという回答もあるため,源内を使わない人を,生成AIそのものを使わない人と読み替えることはできない。
調査資料のPDF4・5頁及び利用頻度・非利用理由の各集計を併せて読む必要がある。
2 未利用と未登録も分ける
利用頻度が「ほとんど使わない・全く使わない」の31.2%と,アカウント未登録の21.0%は別の区分である。
両者を同じ集団の言い換えとして扱うと,利用の広がりを取り違える。
利用率を見るときには,調査への回答,登録,実際の利用,継続利用のどの段階を数えたのかを確かめたい。
第3 週約110分の削減は実測値か
調査資料は,定期利用者の回答から,1人当たり週約1.83時間,約110分の時間削減を推計している。
これは利用者が選んだ時間帯の回答を数値に換算した推計であり,端末の操作記録などによって実労働時間の減少を測定した結果ではない。
例えば,1~3時間の削減は2時間,5~10時間の削減は7.5時間,10時間以上の削減は10時間として計算されている。
変化なし・分からないという回答の扱いも含め,計算方法は調査資料のPDF5頁に記載されている。
したがって,この推計を職員全体の人数にそのまま掛けて,全組織の実労働時間や予算が確実に減ったと評価することはできない。
比較対象を置いた因果効果の検証や,確認・修正に要した時間の実測とは区別する必要がある。
なお,1時間以上の削減に関する割合は,資料のPDF5頁では54.5%,PDF15頁及び公表ページでは54.4%と表記されている。
資料内で表記が一致していないため,本記事では,その割合の小数点以下を効果の大小を論じる根拠にしない。
第4 便利さと,確認・修正の負担
調査の自由記載には,生成AIに慣れた職員へ仕事が集まることや,回答を確かめる負担についての意見も掲載されている。
これは回答者の経験・意見を知る材料であり,同じ問題が職場全体でどの程度起きているか,又は源内が原因で労働時間を増やしたかを,それだけで証明するものではない。
組織で導入効果を検討する際には,初稿を作る時間だけでなく,根拠確認,誤りの修正,学習・研修,他の職員への支援に使う時間も記録する方法が考えられる。
担当者の提案と決裁者の判断を分け,修正前後の品質と,誰に負担が生じたかを併せて見ることが,本記事の運用上の提案である。
AI利用を命じる場合の労働時間・人事評価については,会社が社員に生成AIの利用・作成を求める場合の記事も参照されたい。
第5 10月の機能拡張とアンケートの時期
令和8年10月20日の発表では,エージェントチャットの順次提供と,源内工房などの展開予定が示された。
エージェントチャットは対話を通じた作業支援,源内工房は業務に応じたエージェントの作成に関する仕組みとして説明されている。
ただし,8~9月のアンケートを,10月に発表された府省庁への機能拡張の効果測定として読むことはできない。
他方,源内基準の2-3(印刷25頁・PDF27頁)によれば,デジタル庁では令和8年8月以降にエージェントチャットを全庁展開している。
したがって,調査時点にはエージェント機能が一切なかった,ともいえない。
出典は源内基準の掲載ページ及び10月20日の大臣会見である。
第6 情報管理では何を確かめるか
源内基準には,入力・出力をモデルの学習に利用しないことに関する説明がある一方,運用等のためのログ収集も定められている。
学習に使わないことと,入力・出力を含む記録が残らないことは同じではない。
秘密区分,所属組織のルール,閲覧権限,保存・共有方法を別々に確かめる必要がある。
この基準は,デジタル庁が提供する源内についての基準である。
同じ名称や公開ソースを使った別の環境,又は民間のAIサービスについて,そのまま同じ安全性・契約条件があると推定することはできない。
AIの回答と情報公開の関係は,源内の回答は行政文書かで,国会答弁の作成支援については,国会答弁作成支援AIの記事で整理している。
第7 主な一次資料
ガバメントAI 源内 利用状況アンケート調査(第1回)の公表ページ・調査資料(令和8年10月30日。本文中の頁はPDFの通し頁)
源内基準と概要資料(令和8年10月20日初版。基準本文の1-2,1-6,2-3,3-4)
デジタル大臣記者会見(令和8年10月20日)