第1 入院雑費は慰謝料と別の損害である
1 入院によって増えた身の回りの費用
交通事故で入院すると,治療費のほかに,寝具・衣類等の日用品,電話等の通信,新聞やテレビの利用などに費用がかかる。
このような入院に伴う身の回りの支出が,入院雑費として問題となる。
大阪民事交通訴訟研究会編著『大阪地裁における交通損害賠償の算定基準〈第4版〉』(判例タイムズ社,令和4年。以下「大阪基準第4版」という。)23頁は,入院によって生じる日用雑貨費,通信費,文化費等を説明し,少額の費用を個別に立証する煩雑さを避けるため,一般的に必要となる金額を基準化している。
したがって,個々の買物のレシートを全て合計した金額だけを入院雑費とする考え方ではない。
2 慰謝料・治療費・付添費を分ける
入院雑費は,けがや治療による精神的苦痛を賠償する慰謝料とは別の費目である。
保険会社の提示を確認するときは,慰謝料の金額だけでなく,入院雑費がどの欄に,何日分,どの単価で計上されているかを見る必要がある。
他方,入院中の支出が全て入院雑費になるわけではない。
病院に支払う治療関係費,家族の付添費,入退院・通院の交通費等は,それぞれの必要性や内容に即して区別し,同じ支出を別の費目へ重ねて計上しないことが大切である。
第2 1100円と1500円は何が違うのか
1 自賠責の支払基準
(1) 入院中の諸雑費
国土交通省掲載の自賠責支払基準2頁は,入院中の諸雑費を1日につき1100円としている。
資料によって1日1100円を超えることが明らかな場合には,必要かつ妥当な実費とする扱いも定めている。
このため,自賠責基準について「領収書があっても1100円が絶対の上限である」と理解するのは適切ではない。
超過分を主張する場合は,支出額だけでなく,療養との関係や必要性を説明する資料も整理する。
(2) 通院又は自宅療養中の諸雑費
同じ支払基準でも,通院又は自宅療養中の諸雑費は,必要かつ妥当な実費とされている。
入院中の日額1100円を,通院日や自宅療養日へそのまま掛ける計算とは区別する必要がある。
2 大阪基準第4版の日額1500円
大阪基準第4版2頁・23頁は,入院雑費について1日1500円を基準とし,入院期間に応じて定めるとしている。
これらの少額・多種類の費用について,個々の具体的な金額の立証を要しないと説明している。
ただし,ここで参照しているのは令和4年刊行の書籍の記述である。
法律によって全ての事件に日額1500円が一律に保障されるという意味でも,現在の全裁判所が必ず同額を採用するという意味でもない。
3 どの基準で計算した提示なのかを確かめる
| 比較するもの | 日額等 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 自賠責の入院中諸雑費 | 1100円 | 超過が資料で明らかな場合の実費の扱いもある |
| 大阪基準第4版の入院雑費 | 1500円 | 令和4年刊行の算定目安として読む |
| 通院・自宅療養中の諸雑費 | 自賠責は必要・妥当な実費 | 入院中の日額をそのまま使わない |
例えば,対象となる入院日数を30日と仮定し,日額だけを比較すると,1100円では3万3000円,1500円では4万5000円となる。
これは基準の違いを示す計算例であり,差額の1万2000円がそのまま追加支払額になることを意味しない。
実際の請求では,事故に適用される基準,入院の必要性・期間,損害の全体,過失相殺,既払金等も確認する必要がある。
慰謝料の基準の違いについては,交通事故の慰謝料相場と計算方法も参照されたい。
第3 領収書がない場合に確認すること
1 個々の少額支出と入院の事実は別である
大阪基準第4版23頁の説明によれば,通常の入院雑費について,衣類や日用品等の具体的な支出額を一つずつ立証する必要はない。
もっとも,このことと,入院した事実や事故との関係を確認しなくてよいことは別である。
入退院日が分かる診療資料や病院の請求書等を保存し,どの期間の入院雑費を求めているかを整理しておくとよい。
領収書の紛失だけで通常の入院雑費を直ちに断念するのではなく,基準額による請求と,個別の実費を求める請求を分けて検討することが重要である。
2 基準額を超える支出を説明する資料
自賠責の基準額を超える実費を求める場合には,何を,いつ,いくらで購入・利用し,なぜ療養に必要であったかを確認する。
領収書,利用明細,病院の案内,医師の指示等は,支出の内容に応じて保存しておきたい資料である。
本記事では,領収書をなくした個別の超過費用が,別の資料だけで必ず認められるとは述べていない。
通常の入院雑費の定額評価と,特別な支出の必要性・金額の立証を混同しないことが大切である。
3 入退院の反復や外泊がある場合
入退院を繰り返した場合や入院中に外泊した場合には,入院期間と実際の療養状況を対応させて整理する。
大阪基準第4版23頁も,このような日数認定の問題に触れ,日額に必ず基準額を用いなければならない性質のものではないと説明している。
外泊日を全て当然に含める,逆に全て当然に除く,という一律の処理を前提にせず,どの期間をどのように計算したのかを提示書と資料で確かめる必要がある。
第4 家族の付添費・交通費との重複に注意する
1 本人の入院雑費と家族の付添費
本人の入院雑費と,家族が看護のために付き添ったことによる費用は,主体と内容を分けて整理する。
大阪基準第4版3頁は,近親者付添看護費には原則として付添人の交通費・雑費等を含め,特別な事情がない限り基準額へ重ねて加算しないと説明している。
したがって,家族の支出を全て本人の入院雑費へ加え,さらに付添費にも加えるような計算は避けるべきである。
付添いの必要性,実際にした行為,休業との関係については,交通事故の入院付添費で詳しく整理している。
2 個別の治療費や交通費
病院の請求書や家計の記録に複数の支出が混在している場合は,名称だけで判断せず,何に対する支払かを確認する。
本人の入退院・通院の交通費は,入院雑費と別に整理する必要がある。
交通費の記録や領収書の扱いについては,通院交通費明細書の書き方を参照されたい。
第5 保険会社の提示額を確認する手順
1 日額・日数・支払済み額を対応させる
提示額の確認では,①入院雑費の計算欄があるか,②どの基準・日額か,③何日分か,④既払金に含まれているか,を順に見ると整理しやすい。
他の費目とまとめて支払われている場合は,内訳を確認し,同じ支出の請求漏れと二重計上の両方を避ける。
| 資料 | 確認する事項 | 整理の目的 |
|---|---|---|
| 保険会社の提示書・計算書 | 費目,日額,日数,既払金 | 何を比較しているかを明確にする |
| 入退院が分かる病院資料 | 入院先,開始日,終了日 | 請求期間との対応を見る |
| 領収書・利用明細等 | 特別な支出の内容と金額 | 通常の雑費と超過実費を分ける |
| 付添記録・交通費の記録 | 支出した人,目的,日付 | 別費目との重複を確認する |
2 雑費だけで示談全体の適否を決めない
入院雑費の差額が小さくても,休業損害,後遺障害,慰謝料,過失相殺等の評価によって示談全体の結果は変わり得る。
雑費の単価だけで示談が適切かを決めず,損害の内訳と,合意により解決する範囲を確認することが重要である。
必要書類や交渉の進め方は,交通事故の示談交渉も参照されたい。
第6 出典
① 国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」2頁。令和8年10月24日に掲載資料を確認した。
② 大阪民事交通訴訟研究会編著『大阪地裁における交通損害賠償の算定基準〈第4版〉』(判例タイムズ社,令和4年)2頁~3頁・23頁。日額1500円や領収書に関する説明は同書の記述として示したものである。