第1 触診だけで診療の適否は決まらない
交通事故後に首や腰の痛みが続き、診察で患部に触れられないと、「状態を確認せずに治療を続けてよいのか」と不安になることがある。
触診は身体診察の一つであり、圧痛の位置などを確認する意味がある。
ただし、毎回の受診で必ず同じ触診をしなければならない、触診がなければ治療方針を立てられない、と一律にいうことはできない。
大切なのは、症状とその変化に応じて、診断や治療方針に必要な評価が行われているかである。
問診、姿勢や動作の観察、関節の動き、筋力・感覚・反射などの診察、必要な画像検査を組み合わせて考える。
患者から見て短い診察であることと、必要な評価が欠けていることも、同じではない。
一方、初めての痛みや症状の悪化があるのに、状態の確認や方針の説明を受けられない場合は、改めて診察を求める理由になる。
触診の有無だけを争点にするより、「何を診断し、何を確認しながら治療しているのか」を尋ねる方が、次の対応につながりやすい。
第2 首や腰の診察では何を確認するのか
1 痛む場所と動作を確認する
問診では、痛む場所、事故後からの経過、しびれの有無、睡眠や仕事への影響などを伝える。
身体診察では、姿勢、首や腰の動かしやすさ、痛む動作、圧痛などが確認事項になる。
どの検査を行うかは、症状や安全性によって異なる。
強い痛みがあるときに、患者が自分で無理に首を回したり、痛い場所を強く押したりして確かめる必要はない。
オーストラリアのSIRAによる急性期むち打ち関連障害の案内は、問診に加え、姿勢、圧痛、首の可動域、神経学的な状態などの身体診察を挙げている。
米国整形外科学会の腰痛の患者向け解説にも、背中の診察や動作、脚の筋力・感覚・反射の確認が示されている。
ただし、これらは個々の患者に同じ検査を毎回すべて行うという意味ではない。
2 しびれや力の入りにくさを評価する
外傷性頸部症候群という名称だけで、すべての症状の原因が確定するわけではない。
日本整形外科学会の「むち打ち症」は、頸部の軟部組織の問題のほか、神経根や脊髄の障害を区別する必要があり、神経学的診察や適切な画像診断が必要になることを説明している。
しびれる範囲、物を落とす、足がもつれる、力が入りにくいといった変化は、痛みの強さとは別に伝える。
触診だけでは神経の状態を十分に評価できない場合があり、必要に応じて筋力・感覚・反射などの診察が加わる。
3 画像検査にも役割と限界がある
画像で異常が見つからなくても、それだけで痛みがないとはいえない。
一方、画像に所見がある場合も、その所見が症状を説明するか、事故とどう関係するかは別に検討する。
MRIを受ければ身体診察が不要になるわけでもない。
検査の必要性は、疑う病気や外傷、症状の経過などから判断する。
検査を増やすこと自体を目標にせず、「今回の検査で何を確認し、その結果によって治療がどう変わるのか」を医師に確認するとよい。
第3 初診と経過観察では診察の目的が違う
初診や症状が変わったときは、診断を考え、見逃すと問題になる状態がないかを評価することが重要である。
既に診断と治療計画があり、症状が安定している経過観察では、痛みや生活機能の変化、薬や運動療法への反応などに重点を置く場合がある。
したがって、ある再診で触診をしなかったという一点から、直ちに不適切な診療や医療過誤と判断することはできない。
逆に、初診で一度評価を受けたことだけを理由に、その後の新しいしびれや筋力低下の評価が不要になるわけでもない。
患者としては、「前回から何が変わったか」を具体的に伝えることが役立つ。
「同じ痛みです」だけでなく、「振り向くときの痛みは軽くなったが、長く座ると腰が痛い」「新たに手に力が入りにくくなった」など、変化を分けて話す。
第4 治療を続けても改善しないときの相談事項
電気治療や温熱療法などを続けていても、生活上の困りごとが改善しない場合は、治療の目的と効果を見直す相談をしたい。
ある治療で一時的に楽になることと、動作や生活機能が改善することは、分けて確認する。
診察では、次の事項を相談の手掛かりにできる。
1 現在の診断と、痛みやしびれの原因をどのように考えているか。
2 今の治療で何を改善し、どの時点で効果を見直す予定か。
3 動作や神経の状態を改めて診察する必要があるか。
4 運動療法や、理学療法士による評価・指導が適しているか。
5 追加検査や専門医への紹介を考える条件は何か。
特定の治療を受けているだけで不適切と決めつける必要はない。
症状、経過、治療への反応を踏まえて相談する。
首と腰の治療の比較は、外傷性頸部症候群と外傷性腰部症候群の治療方法(AI作成)を参照されたい。
第5 予約日を待たずに受診したい症状
新たな、又は進行する手足の筋力低下、歩きにくさ、排尿・排便の異常、発熱を伴う強い腰痛などがある場合は、次の定期受診を待たず、医療機関へ速やかに相談する。
特に急な強い麻痺や、尿が出ないなどの症状がある場合は、救急受診の必要性を含めて判断を受けたい。
これらは重い病気が必ずあるという意味ではない。
通常の治療の継続だけでよいか、早急に確認する必要があるという意味である。
症状が急激で移動が難しい場合などは、救急要請も検討する。
第6 説明を受けても不安が残るとき
まず、困っている動作、これまでの治療とその反応、確認したい事項を短くまとめて主治医に伝える。
必要な診察や治療の説明を受けても疑問が解消しない場合は、別の整形外科や専門医への紹介について相談する方法もある。
転院や紹介を考える場合は、画像と読影報告書、診療情報提供書、薬の情報などを引き継ぐと、重複検査を避けながら経過を共有しやすい。
診療記録に残す症状は、実際の症状と生活上の支障を正確に伝える。
補償のために症状を強く表現したり、特定の検査結果を求めたりすることとは分けて考える。
第7 出典と本記事の範囲
本記事は、令和8年10月24日に確認した公開資料に基づく一般的な説明である。
個別の診断や、特定の診療の適否を判断するものではない。
SIRAの資料は主に受傷後12週以内の成人のむち打ち関連障害を対象としており、長く続く症状や腰の外傷へ、そのまま適用することはできない。
本記事の受診時の質問例は、資料を踏まえた整理である。
– 日本整形外科学会「むち打ち症」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/traumatic_cervical_syndrome.html
– 日本整形外科学会「腰痛」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html
– SIRA “Quick reference guide for the management of whiplash associated disorders (whiplash injury)”(身体診察の項目)
https://www.sira.nsw.gov.au/resources-library/motor-accident-resources/publications/for-professionals/whiplash-resources/quick-reference-guide-for-the-management-of-whiplash-associated-disorders
– AAOS “Low Back Pain”(Medical History and Physical Examination)
https://www.orthoinfo.org/diseases--conditions/low-back-pain/