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吸収合併の承認日程と事前開示書類―未設立・未決算の会社,備置開始日と変更時の注意(AI作成)

第1 合併契約と承認の日程を分けて確認する

吸収合併では,株主総会で合併契約を承認する日だけを決めても,手続の日程は確定しない。
消滅会社と存続会社について,契約の内容,会社の成立,社内の意思決定,事前開示書類の備置き,株主等への通知・公告及び債権者保護手続をそれぞれ確認する必要がある。

本稿は,株式会社同士の吸収合併を主な対象として,会社法と会社法施行規則に基づく確認順序を整理する。

1 原則となる承認期限

吸収合併をする会社は,吸収合併契約を締結し,会社法749条所定の事項を定める。
消滅株式会社は会社法783条1項,存続株式会社は同法795条1項により,原則として効力発生日の前日までに株主総会で合併契約の承認を受ける。

もっとも,略式合併や簡易合併等では承認を省略できる場合がある。
消滅会社側の784条と存続会社側の796条では要件が異なるため,両社を一括して「総会不要」と扱わない。
承認を省略できても,それだけで事前開示や通知・公告がすべて不要になるわけではない。

2 契約締結前の株主総会承認という見解

通常の進行順序としては,社内の意思決定を経て契約を締結し,その契約について株主総会の承認を受けることが考えられる。
他方,玉井利幸「M&A取引と差止め(3)」607頁注287は,株主総会で承認決議をした後に合併契約を締結することも可能であるとの見解を紹介している。

ただし,この見解から,具体的な契約内容や相手方が確定していない段階での一般的な了解だけで,後日の契約が当然に承認されるとはいえない。
承認対象となる契約案の特定,決議と実際の契約との一致,効力発生前の締結及び他の法定手続の履践を確認する必要がある。

また,この議論を,まだ成立していない会社が契約当事者となる場合へそのまま広げることはできない。
株式会社は設立登記によって成立する(会社法49条)。
相手方が未設立の場合には,成立日,契約名義,代表権,成立後の契約締結・承認の有無を別に確認する。

3 取締役会の決議とも区別する

株主総会の承認と,取締役又は取締役会による業務執行の決定は別の問題である。
取締役会設置会社では会社法362条等,それ以外の会社では同法348条等を踏まえ,機関設計と契約の重要性に応じて決定権限を確認する。

株主総会を先に開いたことや,後日に決議したことだけを理由に,社内の決定権限や契約の効力の問題が一律に解消すると判断しない。

第2 事前開示書類の備置開始日は「最も早い日」で決める

1 消滅会社と存続会社の違い

会社法782条・794条は,吸収合併契約の内容と法務省令所定の事項を記載・記録した書面又は電磁的記録を,本店に備え置くよう求めている。
備置開始日は,それぞれの条文が挙げる日のうち最も早い日となる。

確認項目消滅株式会社(782条)存続株式会社(794条)
総会で承認を受ける場合原則として株主総会の日の2週間前の日。種類株主総会も確認する原則として株主総会の日の2週間前の日。種類株主総会も確認する
319条1項による決議省略同項の提案があった日同項の提案があった日
株主への通知・公告785条3項の通知又は同条4項の公告の該当日797条3項の通知又は同条4項の公告の該当日
新株予約権者への通知・公告787条3項の通知又は同条4項の公告の該当日794条2項には,これに対応する独立の開始日候補はない
債権者保護手続789条2項の公告又は催告の該当日799条2項の公告又は催告の該当日
備置きの終期効力発生日効力発生日後6か月を経過する日

表は吸収合併に関係する事項を整理したものである。
各通知・公告の対象者や要件,承認省略の特則も,条文に即して確認する。

株主総会の2週間前だけを見て開始日を決めると,それより前の通知・公告によって既に備置義務が始まっている場合を見落とす。
通知の法定期限だけでなく,実際に通知・公告をする日を日程表へ記載する。

2 全員同意による決議省略でも開始日を確認する

会社法319条1項では,議決権を行使できる株主全員が提案に書面又は電磁的記録で同意すると,その提案を可決する株主総会決議があったものとみなされる。

しかし,事前開示の開始日候補は,全員の同意がそろった日ではなく,319条1項の提案があった日である。
持ち回りで同意を集めるときも,提案があった日から備置きできるよう,あらかじめ開示書類を整える。

3 株主・債権者による閲覧等

会社法782条3項・794条3項により,株主及び債権者は,営業時間内に,備置書類等の閲覧その他所定の請求をすることができる。
閲覧と謄本・抄本等の交付では費用の扱いも異なるため,会社は請求方法と対応窓口を準備しておく。

第3 最終事業年度がない会社の財務情報を確認する

1 「決算前だから財務書類なし」としない

株式会社は,成立の日における貸借対照表を作成する必要がある(会社法435条1項)。
合併当事会社に最終事業年度がない場合にも,成立の日における貸借対照表の内容が事前開示事項となる場面がある。

消滅会社の事前開示を定める会社法施行規則182条6項1号イは,相手方である存続会社に最終事業年度がない場合の成立の日における貸借対照表の内容を含む。
消滅会社自身に最終事業年度がない場合は,同項2号ロを確認する。

2 両社の書類を取り違えない

存続会社の事前開示を定める会社法施行規則191条3号イは,消滅会社に最終事業年度がない場合の成立の日における貸借対照表の内容を含む。
他方,存続会社自身に最終事業年度がない場合は同条5号ロを確認する。

清算会社には別の定めがあるため,通常の株式会社と同じ書類一覧で済ませない。
書類一覧には,対象会社名と,「最終事業年度の計算書類等」「成立の日の貸借対照表」「その後の重要な財産変動等」を分けて記載する。
相手方の財務情報と,自社の財産変動等に関する情報を一つの欄で済ませない。

3 対価,少数株主への配慮,債務履行の見込み

事前開示事項は財務書類だけではない。
会社法施行規則182条・191条に従い,合併対価の相当性,新株予約権の取扱い,該当する場合の少数株主の利益への配慮,債務履行の見込みなどを確認する。

全株主の同意による省略規定も,その規定が指定する事項についてのものである。
全員が賛成したという事情だけで,事前開示書類全体を省略してよいと扱わない。

第4 通知・公告と債権者保護手続を日程表へ落とし込む

株主への会社側の通知と,株式買取請求を考える株主が行う反対の事前通知は,主体も目的も異なる。
会社側の通知・公告については会社法785条3項・4項,797条3項・4項を確認し,該当する場合には効力発生日の20日前までという期限を守る。

消滅会社の新株予約権者への通知は会社法787条3項・4項を確認する。
吸収合併消滅株式会社では,全部の新株予約権の新株予約権者が同条3項の通知対象となる。

債権者保護手続では,会社法789条2項・799条2項に基づく公告・催告と,1か月以上の異議申述期間を確認する。
個別催告を省略できる場合の要件も別に確認する。
株主総会の承認を得たことだけで,債権者保護手続の代わりにはならない。

日程表へ記入する事項確認する内容
両社の成立日と機関設計登記,代表者,業務執行の決定機関
契約・承認契約案,締結日,総会日又は319条の提案日,承認省略の根拠
事前開示両社別の開始日候補,最も早い日,書類完成日,備置終期
通知・公告対象者,方法,実施日,到達・公告等の証拠
債権者保護公告・個別催告,異議申述期間,異議が出た場合の対応
効力発生法定手続の完了,変更の有無,登記その他の実行準備

第5 契約や開示事項を変更したときの確認

合併対価,効力発生日,財務情報等に変更が生じた場合には,会社法施行規則182条1項6号及び191条7号に基づく開示内容の更新を確認する。

それに加えて,当初の承認決議が変更後の契約を対象としているか,改めて社内決定や株主総会承認が必要か,通知・公告及び債権者保護手続の日程を組み直す必要があるかを,変更内容ごとに検討する。
開示書類を差し替えただけで,承認対象や通知内容との食い違いまで解消するとは限らない。

保存する資料は,最終版だけにしない。
契約案・締結版・変更契約,承認議案と議事録,開示書類の各版,備置開始の記録,通知・公告の実施資料を対応付けておくと,どの時点に何が承認・開示されたかを確認しやすい。

第6 不備が見つかったときは効力発生前後を分ける

事前開示や承認手続の不備が見つかった場合には,効力発生日までの残日数,影響する会社と対象者,不足事項及び是正可能性を特定する。

株主側の手段には,法定要件を満たす場合の差止請求,株式買取請求,株主総会決議取消しの訴え,合併無効の訴え等がある。
ただし,開示上の不備があれば当然に合併が無効になる,という関係ではない。
請求主体,根拠,期間及び不備の内容を個別に検討する。

それぞれの手段の関係は,吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段を,消滅会社の反対株主の手続は,吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求を参照されたい。

第7 参照資料

– 会社法(e-Gov法令検索)の49条,319条,435条,748条,749条,782条以下及び794条以下。
– 会社法施行規則(e-Gov法令検索)の182条及び191条。
– 玉井利幸「M&A取引と差止め(3)」『一橋法学』18巻2号(2019年7月)583~618頁,特に607頁注287。