無給のインターンシップが,すべて違法になるわけではない。
しかし,企業の指示を受けて実際の業務を行う学生について,「インターンだから」「勉強になるから」という理由だけで賃金を支払わない運用はできない。
実態が労働基準法上の労働者に当たる場合には,最低賃金や労働時間に関する規制が適用される。
募集要項の名称より,誰がどのように仕事を指示し,学生が実際に何をしていたかが重要である。
本記事は,令和8年10月24日までに確認した法令,厚生労働省の公表資料及び裁判所公開の判決を基礎として,学生と受入企業が確認する事項を整理する。
第1 無給という合意だけでは決まらない
労働基準法9条の労働者に当たるかどうかは,契約の名称だけで決まらない。
インターンシップの申込書や同意書に「雇用ではない」と書かれていても,実際の働き方を確認する必要がある。
最低賃金法4条は,最低賃金の適用を受ける労働者について,最低賃金額以上の賃金を支払う義務を定めている。
同額に達しない賃金を定めた部分は無効となり,最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。
学生が無給に同意したことだけで,この規制を排除することはできない。
反対に,労働者に当たらない見学・体験等についてまで,このことから一律に賃金が発生するわけではない。
ただし,参加者に報酬を支払う契約がある場合の請求は,労働者性とは別に検討する必要がある。
第2 見学・実習と企業の業務をどう区別するか
1 行政資料が示す区別
厚生労働省の「高い専門的知識や能力を有する学生を対象とした採用日程の設定関係Q&A」のQ3・Q4は,見学・体験的な実習と,企業の利益となる生産活動への従事とを区別し,使用従属関係を踏まえて労働者性を判断する考え方を示している。
同資料は専門活用型インターンシップ等を扱うものであり,採用日程に関する部分をすべての募集にそのまま当てはめることはできない。
労働者性の確認では,名称や参加期間だけでなく,個々の実態を調べる。
大学の単位が付くこと,参加者に学習上の利益があること,企業が教育プログラムを用意していることも,実際の労務提供を調べる代わりにはならない。
2 確認する事実
| 確認事項 | 資料や具体的な問い |
|---|---|
| 作業の指示 | 担当業務,手順,優先順位,修正内容を誰が決めるか。メールやチャットに具体的な指示があるか |
| 時間・場所 | 出勤日や時間が指定され,遅刻・欠席について承認や報告を求められるか |
| 断る自由 | 個別の仕事や追加作業を断れるか。断った場合に不利益があるか |
| 成果の利用 | 作成した資料,コード,顧客対応等が,実際の事業にどのように使われるか |
| 教育との関係 | 見学・講義・演習と実業務が,日程や作業内容の上でどう分かれているか |
| 金銭の支払 | 交通費,謝礼,手当等が何を根拠に,どのように計算されているか |
これは実態を調べるための整理であり,該当項目の数で結論を出す採点表ではない。
時間指定があっても見学の運営上必要なものなのか,業務を行わせるための管理なのかを区別する。
第3 実際の仕事を確認するための具体例
以下は説明のための例であり,実際の裁判例ではない。
1 見学と振り返りを中心とする場合
工場や職場の見学,担当者の講義,学生による振り返りが中心であり,会社の受注業務を担当せず,通常の従業員の代わりに作業するものでもない場合である。
参加時間が決まっているという一事情だけから,労働者と決めることはできない。
2 顧客対応や開発を継続して担当する場合
担当者の指示に従って顧客への連絡,営業資料の作成,実サービスの開発等を行い,勤務日や進捗を管理される場合である。
無給の募集であっても,企業の業務に組み込まれた労務提供になっていないかを具体的に検討する必要がある。
3 教育と実業務が混在する場合
午前は講義,午後は社員と同じ業務というような場合には,プログラム全体の目的だけで結論を出さない。
作業の内容,指示,時間の使い方を日ごとに記録しておくことが重要である。
参加時間のすべてが当然に労働時間になるとも,講義が含まれるから全体が労働でなくなるともいえない。
第4 研修医についての最高裁判決が示すこと
最高裁第二小法廷平成17年6月3日判決(平成14年(受)第1250号,民集59巻5号938頁)は,臨床研修医の未払賃金請求について判断した。
同判決は,臨床研修に教育的な側面があっても,病院のための医療行為等という労務提供の側面があり,病院開設者の指揮監督下で行われたと評価できる限り,労働者に当たるとした。
事案では,決められた時間・場所で指導医の指示に従って診療等に従事していたことなどが認定されている。
この判決が扱ったのは,医師免許を有する臨床研修医である。
学生インターン全員について賃金支払義務を認めた判決ではない。
参考になるのは,教育を受ける立場であることと,企業等のための労働をしていることが両立し得るという点である。
判決当時の最低賃金法の条番号と現行法の条番号も区別する。
現在の最低賃金の効力については現行法4条を確認する。
第5 労働者に当たる場合の賃金と労働時間
1 最低賃金との比較
適用される最低賃金,実際の労働時間及び支払済みの賃金を対応させて確認する。
地域や発効日を確かめず,現在の最低賃金を過去の全期間に当てはめることはできない。
交通費や手当も,そのすべてが最低賃金との比較に算入されるわけではない。
2 残業代は「予定より長くいた時間」の一律計算ではない
労働基準法37条による割増賃金については,労働時間を確定し,法定時間外労働,法定休日労働又は深夜労働に当たるかを確認する。
予定した実習時間を超えたことだけから,すべて同じ割増率で計算するものではない。
受入企業は,賃金を支払えば労働時間管理等の問題がなくなると考えず,労働条件の明示,休憩・休日,時間外労働に必要な手続も含めて運用を点検する必要がある。
第6 学生が保存したい資料と相談時の整理
賃金の問題を相談するときは,次の資料が役立つ。
①募集ページと参加時の条件,②同意書や契約書,③出勤・退勤・休憩の記録,④作業指示のメールやチャット,⑤担当した業務と成果の利用状況,⑥謝礼や手当の支払明細である。
相談用には,「いつ・誰から・何を指示され・何時から何時まで行ったか」を日付順にまとめると,契約書と実態の違いが分かりやすい。
会社の秘密や第三者の個人情報を含む資料は,無関係な部分を広く持ち出したり公開したりせず,保存・提示の範囲を相談する。
賃金請求には期間制限等も関係するため,終了後いつまでも判断を先送りせず,労働基準監督署や弁護士等に早めに相談することが考えられる。
第7 受入企業が募集前・実施中・終了時に確認すること
1 募集前
見学・教育の内容と,企業の実業務として担当させる内容を分ける。
労働者に当たり得る働かせ方を予定するなら,無給という名称で募集を進めず,賃金,勤務時間,指示系統等を含めた条件を整える。
2 実施中
当初は見学中心でも,人手不足のため通常業務を継続的に任せる運用へ変わることがある。
受入担当者の裁量だけで業務や時間を増やさず,実際の作業内容と時間を確認する。
3 終了時
活動記録と支払状況を照合し,不足や疑義があれば事実を調べる。
「本人から請求がなかった」という事情だけで,賃金や労務管理上の問題が解決したものとは扱わない。
第8 よくある疑問
1 学生が希望した無給インターンでも問題になるか
本人の希望は確認すべき事情であるが,労働者に当たる場合の最低賃金の規制を排除するものではない。
2 交通費だけ払えばよいか
交通費の支払だけで結論は決まらない。
労働者性,実際の労働時間,金銭の性質及び適用される最低賃金を分けて確認する。
3 大学の単位になる実習なら雇用ではないか
単位になることだけで決めることはできない。
大学の関与や教育内容と併せて,企業での実際の業務,指示及び時間管理を確認する。
第9 出典・参考資料と関連記事
1 法令・行政資料・判決
– 労働基準法9条,13条,15条及び37条(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
– 最低賃金法4条(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
– 厚生労働省「労働基準法における『労働者』とは」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html
– 厚生労働省「高い専門的知識や能力を有する学生を対象とした採用日程の設定関係Q&A(労働関係法令等との関係で留意すべき事項)」2頁・Q3及びQ4
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/002104235.pdf
– 最高裁第二小法廷平成17年6月3日判決(平成14年(受)第1250号)
https://www.courts.go.jp/hanrei/52353/detail2/index.html
判決全文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52353.pdf
2 参考文献
下平将人・尾西祥平『起業家のためのリスク&法律入門―致命的な失敗を避けるための26話』(ダイヤモンド社,2024年)289~291頁。
本記事の具体例と確認事項は,実際の裁判例を再現したものではない。
3 関連記事
– 「労働者性」の判断基準-労基法・労契法・労組法の違いと主要判例(AIリライト)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2023/03/19/roudousha-kijyun/
– 時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求(AIリライト)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2023/03/26/zangyoudai/