第1 会社の債務免除だけで,経営者の保証が消えるとは限らない
会社が金融機関から債務免除を受けたとき,経営者は「元の借金がなくなったのだから,自分の保証も終わった」と考えるかもしれない。
しかし,保証への影響は,会社の債務を整理した手続と,保証人についての合意内容によって異なる。
会社に対する債権の処理と,保証人に対する請求権の処理を別に確認することが必要である。
特に,特別清算の協定,特別清算における個別和解,裁判外の個別合意は,同じ方法ではない。
また,保証の存続を認める確約書・念書が作成されている場合には,その書面自体が重要になる。
廃業手続の全体像は,私的整理・特別清算・経営者保証の進め方を参照されたい。
第2 特別清算の協定は,保証人への権利に影響を及ぼさない
会社法571条2項は,特別清算の協定が,協定債権者の保証人などに対する権利や,第三者が提供した担保に影響を及ぼさない旨を定めている。
同条3項は,協定の認可決定が確定したとき,協定債権者の権利が協定の定めに従って変更されるとしている。
会社について協定による減免が行われたというだけで,保証人も同じ割合で免除されたと考えることはできない。
これは,法律が特別清算の協定について定める効果である。
経営者についても保証を整理する場合には,そのための手続や合意を別に検討する。
協定書の会社に関する免除条項だけを見て,保証関係の確認を終えるべきではない。
第3 個別和解の保証への影響は,2判決の手続と判断を分けて読む
1 東京地裁平成11年11月26日判決は,旧会社整理の事件である
この判決は,旧会社整理の手続において,各債権者の個別の同意に基づく整理計画が保証債務に及ぼす影響を扱ったものである。
和解型の特別清算を直接判断した事件ではない。
裁判所は,個別の合意が契約としての性質を持つことなどを踏まえ,倒産手続の協定等に関する保証への特則の類推適用を認めなかった。
この判決からは,主債務の変更と保証の関係を,採られた手続と合意の性質に即して検討する必要性が分かる。
ただし,「個別合意なら,あらゆる整理手続で保証が必ず消える」という一般論を導くことはできない。
保証人との独立の合意によって保証の扱いを定める問題も残る。
東京地裁平成11年11月26日判決(平成11年(ワ)第15224号,判例秘書の判例番号 L05430391)。
2 東京地裁平成18年6月27日判決は,旧商法下の特別清算の個別和解を扱う
この判決は,旧商法下の特別清算で,協定によらず個別和解をした場合の保証の扱いを判断している。
裁判所の主たる判断は,和解が協定に代わる機能を持ち,当事者も会社の免除によって保証まで消滅することを予定していなかったことなどを踏まえ,旧商法・旧破産法の規定の準用により,保証債務に影響が及ばないとするものである。
ただし,判決はそれだけで結論を支えていない。
仮に保証の付従性を排除するために別段の定めが必要であるとしても,保証を存続させる確約書や念書から,その別段の定めを認めることができる,という判断も示している。
この書面に関する判断を落として,「和解型特別清算では何も取り決めなくても保証が必ず残る」と要約するのは適切ではない。
東京地裁平成18年6月27日判決(平成17年(ワ)第10996号,判例秘書の判例番号 L06132514)。
3 現行法についての結論を,一般化しすぎない
両判決は,手続の種類が異なり,いずれも旧法下の下級審裁判例である。
前者を現行の和解型特別清算の直接の先例としたり,後者を現行会社法571条2項がすべての個別和解に当然に及ぶことを確定した判例としたりすることはできない。
個別和解をする場合には,主債務の免除が保証に及ぼす影響についての法的な検討に加え,保証を存続させるのか,免除するのか,その範囲と条件をどうするのかを明確にする。
主債務者だけが署名した合意と,保証人も当事者となった合意を同一視しないことも大切である。
第4 担保解除・債務免除・保証解除は,別々に確認する
平成18年判決では,株式の譲渡担保が解除されたことから保証債務も免除されたとする主張は認められていない。
担保の解除と,人的な保証債務の免除は別の処理である。
会社の事業譲渡や債務整理に合わせて担保を外してもらった場合でも,保証がどう扱われたのかは,別途書面で確認する必要がある。
事業譲渡契約や株式譲渡契約に,買主が保証を解消するよう努める旨が書かれていても,それだけで金融機関が保証を解除したことにはならない。
債権者自身の保証解除への同意,対象となる借入れ,解除の時点と条件を確認する。
中小M&Aの実務上の対策は,経営者保証を残さないための事前相談・クロージング条件等を参照されたい。
第5 合意書と保証関係の書類で確認すること
1 誰に対する,どの債務を変更するのか
債権者,会社,保証人,担保提供者を区別する。
会社について免除する債務,保証人について存続又は免除する債務,利息・遅延損害金の扱いを確認する。
複数の借入れや保証契約がある場合には,一つの合意がどの契約に対応するかも特定する。
2 保証人が作成した確約書・念書も確認する
主たる合意書だけでなく,確約書,念書,確認書,保証契約変更書などを一式で読む。
会社の債務免除の前後に保証の存続を認める書面を作成していれば,その文言が重要な判断材料になる。
表題が「確認書」であることだけから,実質的な負担を生じない書類だと決め付けるべきではない。
3 保証を整理する場合には,別の合意内容を詰める
経営者保証に関するガイドラインを利用する場合でも,財産開示,弁済計画,残存する保証債務の免除など,所定の要件に沿った検討と合意が必要である。
会社の債務免除の効果だけに頼るより,保証人について何を合意したのかを明確にすることが重要である。
会社と保証人の利害が異なる場面では,同じ専門家が双方の手続を扱えるかについても個別の確認が必要になる。
第6 主な参照資料
会社法571条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
東京地裁平成11年11月26日判決(平成11年(ワ)第15224号,判例秘書の判例番号 L05430391)。
東京地裁平成18年6月27日判決(平成17年(ワ)第10996号,判例秘書の判例番号 L06132514)。
判決の手続,適用法,主たる判断と保証存続書面に関する判断を区別して参照している。
全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」関連資料。
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/
全国倒産処理弁護士ネットワーク編『私的整理(廃業型手続)・特別清算の実務Q&A115問』(金融財政事情研究会,2026年3月30日初版)。
同書の判例紹介にとどまらず,上記2判決の本文を確認し,判決が判断した手続と論点の範囲を区別している。