第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査基準日
(1) この記事で扱う場面
弁護士に対する懲戒請求をすると,弁護士会から綱紀委員会や懲戒委員会の議決書の写しが届くことがある。
本記事は,その議決書や懲戒手続の情報をインターネット等で公開した弁護士,依頼者に公開を助言した弁護士,及び相手方の弁護士に対する懲戒請求を働きかけた弁護士が懲戒された例を,日本弁護士連合会の機関誌『自由と正義』に掲載された公告の原本で確認して整理するものである。
(2) 調査基準日と氏名の扱い
法令は令和8年10月23日にe-Gov法令検索で確認した現行の弁護士法により,懲戒の公告は『自由と正義』2026年10月号までに掲載されたものを対象とした。
懲戒された弁護士の氏名は,本記事の目的に照らして省略し,掲載号と頁を示す。
2 先に示す結論
①懲戒請求は弁護士会の懲戒権の発動を促す申立てにとどまり,懲戒請求者は懲戒手続の当事者ではない。
議決書の写しが懲戒請求者に送られるのは,主に異議の申出をするかどうかを判断する資料とするためである。
②自らの懲戒請求の議決書を団体のホームページで公開させた弁護士,依頼者に議決書のネット公開を助言した弁護士,懲戒手続の進行をSNSに書き込んだ弁護士は,いずれも戒告とされている。
③相手方の弁護士に対する懲戒請求を別の弁護士らに働きかけ,実費まで負担した弁護士も戒告とされ,日本弁護士連合会は審査請求を棄却した。
④最高裁平成19年4月24日判決は,根拠を欠く懲戒請求が不法行為となる場合を示し,懲戒請求書を作成した代理人弁護士の不法行為責任も認めている。
第2 懲戒請求者に議決書が届く仕組み
1 懲戒請求は懲戒手続の端緒にとどまる
(1) 弁護士法58条の定め
弁護士法58条1項は,何人も,弁護士又は弁護士法人に懲戒の事由があると思料するときは,その事由の説明を添えて所属弁護士会に懲戒を求めることができると定めている。
懲戒請求があると,弁護士会は綱紀委員会に事案の調査をさせ,綱紀委員会が審査を求めることを相当と議決したときは,懲戒委員会が審査をする(同条2項~6項)。
(2) 懲戒請求者の地位
日本弁護士連合会調査室編『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』64頁は,懲戒請求を弁護士会の懲戒権の発動を促す申立てであり,懲戒権発動の端緒にすぎないとし,懲戒請求者に懲戒を求める権利を与えたものではないと説明している。
同書128頁も,懲戒請求者は懲戒手続の当事者としての地位を有しないと述べている。
2 議決書の写しが懲戒請求者に送られる理由
(1) 弁護士法が定める通知
弁護士法は,綱紀委員会や懲戒委員会が議決をしたときは,理由を付した議決書を作成しなければならないと定めている(弁護士法67条の2,70条の8)。
弁護士会は,懲戒しない旨の決定をしたときはその旨と理由を,懲戒したときは処分の内容と理由を,書面で懲戒請求者に通知しなければならない(弁護士法64条の7第1項2号,64条の6第2項)。
懲戒請求者は,懲戒しない旨の決定や,処分が不当に軽いと考える場合には,通知を受けた日の翌日から3か月以内に日本弁護士連合会に異議を申し出ることができる(弁護士法64条1項・2項)。
(2) 議決書の写しを添付する趣旨
前掲『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』147頁は,通知に議決書の写しを添付するのは,対象弁護士の防御権の行使や,懲戒請求者の異議の申出の判断資料に供するためであると説明している。
同書193頁も,懲戒しない旨の通知には,異議の申出の機会を与えるために,議決書の謄本を添付するなどして理由も通知しなければならないとしている。
このように,議決書の写しは,懲戒手続の中で不服申立ての判断に使うことを予定して送られるものである。
弁護士法58条,64条,64条の6及び64条の7は,懲戒請求者が受け取った議決書の写しを公開してよいかどうかを定めていない。
3 手続の非公開と日本弁護士連合会による公表
(1) 綱紀委員会・懲戒委員会の議事
前掲『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』128頁は,綱紀委員会の議事及び議決は,委員相互の自由な議論を保障する必要から,原則として非公開とすべきであるとし,調査期日も対象弁護士や関係者のプライバシー保護のため非公開とすべきであるとしている。
同書130頁は,他の弁護士会から調査の委嘱を受けた場合でも,公告・公表制度や懲戒処分歴の開示制度の範囲内で報告することは守秘義務に違反しないが,綱紀委員会の議決書自体をそのまま送付することは守秘義務に違反すると解している。
(2) 懲戒しない旨の決定の公表には対象弁護士の同意が要る
懲戒の処分をしたときは,日本弁護士連合会が処分の内容を官報で公告する(弁護士法64条の6第3項)。
これとは別に,日本弁護士連合会の「懲戒処分の公表等に関する規則」2条1項は,弁護士会がした懲戒に関する処分を日本弁護士連合会が公表するかどうかの基準として,業務停止・退会命令・除名は原則として公表し,戒告は弁護士等及び弁護士会に対する国民の信頼を確保するために特に必要である場合に公表するとしている。
懲戒しない旨の処分は,対象弁護士が同意し,かつ,公表が国民の信頼を確保するために必要である場合に公表するものとされている(同項3号)。
日本弁護士連合会自身が懲戒しない旨の決定を公表する場合でさえ,対象弁護士の同意が要件とされていることは,懲戒請求者の側で議決書を公開するかどうかを考える際にも参考になる。
第3 議決書や懲戒手続の情報を公開して懲戒された例
1 自らの懲戒請求の議決書を団体のホームページで公開させた例
(1) 公告に記載された行為
神奈川県弁護士会は,自ら懲戒請求者となって別の弁護士を対象とする懲戒請求をした弁護士を,戒告とした(令和7年1月27日効力発生,自由と正義2025年6月号91頁)。
公告によれば,この弁護士は,綱紀委員会が懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする議決をし,議決結果と議決書の通知を受けた翌日,自らの法律事務所が事務局となっている団体の投稿を引用する形でインターネット上に議決結果を紹介した。
その2日後には,団体のホームページで議決書を公開させ,さらに,相手の弁護士と対立する当事者となっていた3件の訴訟で議決書を書証として提出し,新聞や雑誌の取材を受けた際に話したことで,全国紙と雑誌の記事に議決結果を紹介させた。
(2) 適用された規定と審査請求の結果
公告は,この行為が弁護士職務基本規程3条(弁護士自治)の趣旨,70条(名誉の尊重)及び71条(他の弁護士等に対する不利益行為)に違反すると述べている。
この弁護士は審査請求をしたが,日本弁護士連合会は令和7年10月21日に審査請求を棄却する裁決をした(自由と正義2025年12月号76頁)。
この事案で公開されたのは,懲戒委員会の審査が始まる段階の綱紀委員会の議決であり,懲戒処分が確定したことを示すものではなかった点に注意を要する。
2 依頼者に議決書のネット公開を助言した例
(1) 単位弁護士会の判断
依頼者(懲戒請求者)から,ある弁護士を対象とする懲戒請求事件等を受任していた弁護士が,その弁護士について綱紀委員会が懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とした議決書(懲戒しない内容の議決書)を,インターネット上で公開してもよいと助言した事案がある。
この助言を受けた依頼者は,ウェブサイトの運営者に議決書を提供し,対象弁護士の氏名とともに議決書の内容がウェブサイトに公開された。
神奈川県弁護士会の懲戒委員会は,公開を控えるべきであったとしつつ,ウェブサイトの運営者に議決書を提供したのは依頼者であり,公開について助言した弁護士の責任は認められないこと等から,懲戒しないことを相当とし,同会は令和7年1月14日付けで懲戒しない旨の決定をした。
(2) 日本弁護士連合会の判断
懲戒請求者の異議の申出を受けた日本弁護士連合会は,この決定を取り消して戒告とした(令和8年8月2日効力発生,自由と正義2026年9月号68頁~69頁)。
公告によれば,日本弁護士連合会の懲戒委員会は,議決書が公開に適さない書面であること,少なくとも公開には慎重な検討を要する書面であることは,弁護士であれば当然に認識できるとした。
そのうえで,助言した弁護士が,議決書が届くと内容に不満を持ったことから,公開の可否や正当な理由について慎重な検討をすることなく,「ネットにさらしてもよい」旨を助言し,公開を自ら積極的に提案したと認定した。
さらに,マスキングを助言したのは「登場人物の固有名詞と住所、場所」だけで,対象弁護士の登録番号についてはマスキングを指示せず,依頼者から適切にマスキングできているかの確認を頼まれても拒否したため,対象弁護士が特定できる状態で議決書が提供されたとした。
日本弁護士連合会は,関係者の名誉やプライバシー等に十分な配慮をしたとはいい難いとして,この助言を弁護士法56条1項の品位を失うべき非行に当たると判断した。
この手続は,弁護士法64条の5第2項に基づき,日本弁護士連合会が単位弁護士会の懲戒しない旨の決定を取り消して自ら懲戒したものである。
3 懲戒手続の進行をSNSに書き込んだ例と議決書を書証として出した例
(1) 懲戒委員会の審査開始をツイッターで公表した例
新潟県弁護士会は,ツイッター上で相手方の弁護士と互いに批判し合う書き込みを応酬していた弁護士が,その弁護士について所属弁護士会の綱紀委員会の議を経て懲戒委員会における審理が開始した旨の懲戒手続に関する具体的な情報を書き込み,事実上公表した行為を,弁護士職務基本規程70条及び71条違反として戒告とした(平成30年3月30日効力発生,自由と正義2018年7月号96頁)。
議決書そのものではなく,手続の進行状況を書き込んだだけでも懲戒の対象とされた例である。
(2) 議決書の一部を訴訟の書証として提出した例
富山県弁護士会は,訴訟の争点と関連性がなく,提出の必要性及び相当性を欠くのに,相手方の訴訟代理人であった弁護士に関する所属弁護士会の綱紀委員会の議決書の一部を抜粋し,その写しを書証として裁判所等へ提出した弁護士を,翌日に撤回していたにもかかわらず,弁護士職務基本規程70条及び71条違反として戒告とした(令和2年9月15日効力発生,自由と正義2021年2月号62頁)。
インターネットでの公開でなくても,必要性のない場面で他の弁護士の議決書を第三者の目に触れさせることが問題とされている。
4 公告から読み取れる判断の要素
(1) 対象となった書面と手続の段階
上記の例で公開等の対象となったのは,懲戒委員会の審査を求める段階の議決(第3の1),懲戒しない旨の議決(第3の2),懲戒委員会の審査開始の事実(第3の3(1)),綱紀委員会の議決書の一部(第3の3(2))であり,いずれも懲戒処分の確定を示すものではない。
懲戒しない旨の議決書であっても,公開されれば,対象弁護士が懲戒請求を受けた事実が広く知られることになる。
(2) 公開の必要性と関係者への配慮
日本弁護士連合会が第3の2で重視したのは,公開の可否や正当な理由を慎重に検討したかどうかと,対象弁護士や関係者の名誉・プライバシーへの配慮の程度である。
本記事では,これらの例から,公開の目的と必要性,公開の範囲と方法,マスキングの程度,弁護士自身が主導したか関与したかが判断を分ける要素になっていると整理する。
もっとも,公告は処分の理由の要旨にとどまり,議決書の全文は公表されていないため,この整理は公告から読み取れる範囲のものである。
第4 相手方弁護士への懲戒請求を働きかけた例
1 別の弁護士らに懲戒請求を働きかけ,実費を負担した例
(1) 公告に記載された行為
第一東京弁護士会は,有限会社の代理人をしていた弁護士を戒告とした(令和7年8月25日効力発生,自由と正義2025年12月号74頁)。
公告によれば,この弁護士は,相手方である元従業員らの代理人を務めていた弁護士2名が弁護士職務基本規程の利益相反の規定に違反すると即断し,知人の弁護士らに事件記録を開示したうえで懲戒請求を働きかけ,懲戒請求書の最終文案を確認し,懲戒請求に必要な実費を負担するなどの関与をした。
その際,懲戒請求を受ける弁護士の利益が不当に侵害されることがないよう,懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について自ら調査・検討をせず,知人の弁護士らに慎重な調査・検討を促すこともしなかったとされ,弁護士職務基本規程70条及び71条違反とされた。
(2) 審査請求の棄却
この弁護士は審査請求をしたが,日本弁護士連合会は令和8年7月14日に審査請求を棄却する裁決をし,裁決は同年8月6日に効力を生じた(自由と正義2026年10月号73頁)。
自らは懲戒請求者にならず,他の弁護士に懲戒請求をさせた場合でも,働きかけた弁護士自身の調査・検討の不足が懲戒の理由とされている。
2 懲戒請求の濫用で業務停止2月とされた例
(1) 懲戒請求をした弁護士
第一東京弁護士会は,自らを当事者とする離婚訴訟が係属している間に,相手方の代理人であった弁護士を対象として懲戒請求をした弁護士を,業務停止2月とした(平成31年3月25日効力発生,自由と正義2019年7月号123頁~124頁)。
公告によれば,この弁護士は,相手方代理人の発言の基本的な部分が事実に基づくものであることを知りながら,懲戒制度を濫用する意図をもって懲戒請求をしたとされ,弁護士職務基本規程70条及び71条違反とされた。
公告は,名誉ないし人格権の侵害を裏付ける証拠が十分に収集されていたかなどの判断は法律実務の専門家である弁護士には容易であったこと等から,業務停止2月を選択したと述べている。
(2) 代理人として懲戒請求をした弁護士
同じ懲戒請求で代理人を務めた弁護士も,依頼者の弁解を軽信してしかるべき調査を尽くさないまま懲戒請求をしたとして,弁護士職務基本規程70条違反により戒告とされた(平成31年3月25日効力発生,自由と正義2019年7月号124頁)。
この事案は,懲戒請求を受けた側の弁護士に対する影響について,懲戒請求をした本人と代理人の双方が責任を問われた例である。
3 懲戒請求をほのめかして交渉を有利にする行為
(1) 解説書が示す違反例
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程〔第4版〕』227頁は,相手方代理人となった弁護士をはじめ他の弁護士に対する訴訟提起,懲戒請求又は告訴について,「一般人に求められる以上に相当の論拠を要する」とし,訴訟等を有利に展開することのみを目的としてこれらの手段をとることは許されないと述べている。
同書228頁は,弁護士職務基本規程71条違反の例の一つとして,相手方代理人から依頼者本人との直接交渉の承諾を得ておきながら,後に前言を翻し,承諾なく直接交渉したとして懲戒請求をほのめかす行為を挙げている。
(2) 懲戒請求の可能性を示して交渉した例
福井弁護士会が戒告とした弁護士は,調停の相手方の代理人弁護士に対し,連絡状で,懲戒事由が認められる可能性が極めて低い状況で懲戒請求権の行使の可能性を示し,交渉を有利にしようとしたとされた(令和8年3月30日効力発生,自由と正義2026年10月号66頁)。
公告は,この行為を弁護士職務基本規程70条違反としている。
同じ公告では,主張書面で相手方代理人が業務停止の懲戒処分を受けたことを記載した行為等も,同規程70条・71条違反とされている。
第5 最高裁平成19年4月24日判決と代理人弁護士の責任
1 懲戒請求者の調査・検討義務
最高裁平成19年4月24日判決(平成17年(受)第2126号,民集61巻3号1102頁)は,懲戒請求を受けた弁護士が,懲戒請求をした会社の代表者と,懲戒請求書を作成した代理人弁護士に損害賠償を求めた事案である。
同判決は,弁護士法58条1項に基づく請求をする者は,「対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討をすべき義務を負う」とした。
そのうえで,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合に,請求者がそのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことにより知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときは,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると判断した。
2 懲戒請求書を作成した代理人弁護士の責任
同判決は,代理人弁護士について,相手方との訴訟で依頼者の訴訟代理人を務め,法律実務の専門家である弁護士として,懲戒請求が事実上,法律上の根拠を欠くことを認識し得る立場にあったのに,懲戒請求書を作成し,懲戒請求の代理人を務めたとして,不法行為責任を認めた。
慰謝料は,第1審判決が認容した50万円が相当とされ,代表者と代理人弁護士の連帯での支払が認められた。
前掲『解説 弁護士職務基本規程〔第4版〕』227頁は,この判決を依頼者の代理人として相手方の代理人弁護士に対する懲戒を請求した事案であると紹介し,弁護士自らが請求人の立場で請求する場合は,なおいっそうの注意を要すると述べている。
3 田原睦夫裁判官の補足意見
同判決には,田原睦夫裁判官の補足意見が付されている。
補足意見は,弁護士に対する懲戒請求がされたという事実が「第三者に知れるだけでも,その請求を受けた弁護士の業務上の信用や社会的信用に大きな影響を与えるおそれがある」と述べている。
また,弁護士が自ら懲戒請求者となり,又は請求者の代理人等として関与する場合には,根拠のない懲戒請求が被請求者に多大な負担を課すことに思いを馳せるとともに,懲戒請求の濫用が弁護士自治という基盤そのものを傷つけかねないことを自覚すべきであり,慎重な対応が求められるとしている。
この指摘は法廷意見ではなく補足意見であるが,第3で見た議決書の公開が問題とされる理由を理解する手掛かりになる。
第6 懲戒請求者と代理人弁護士が確認しておくこと
1 議決書を公開・提出する前に
(1) 懲戒請求者本人が確認すること
第2の2のとおり,議決書の写しは異議の申出の判断資料として送られるものであり,不服がある場合の手続は,日本弁護士連合会への異議の申出や綱紀審査の申出である。
第3で見た例は,いずれも弁護士に対する懲戒であり,懲戒の対象は弁護士及び弁護士法人である(弁護士法56条1項)から,弁護士でない懲戒請求者が議決書を公開した行為が懲戒されたものではない。
もっとも,第5の3の補足意見が指摘するとおり,懲戒請求を受けた事実が第三者に知られることには大きな影響があるため,議決書を公開すれば,内容によっては対象弁護士との間で名誉やプライバシーをめぐる紛争になることも考えられる。
(2) 弁護士が助言・関与するときに確認すること
依頼者から議決書の公開について相談を受けた弁護士は,第3の2の例のとおり,公開の可否と正当な理由を検討せずに公開を勧めれば,自らが懲戒の対象となり得る。
実務上は,公開の目的が異議の申出等の手続で達せられないか,公開する範囲を限れないか,対象弁護士や関係者を特定できる情報(氏名,登録番号,住所,事務所名等)が残っていないかを確認し,その検討の経過を記録しておくことが考えられる。
訴訟で他の弁護士の議決書を書証として出すときも,第3の3(2)の例のとおり,争点との関連性と提出の必要性を先に確認する必要がある。
2 弁護士が懲戒請求に関わるとき
(1) 自ら懲戒請求者となる場合
他の弁護士を対象に懲戒請求をするときは,最高裁平成19年4月24日判決が示した調査・検討義務に加え,前掲『解説 弁護士職務基本規程〔第4版〕』227頁が述べる「一般人に求められる以上に相当の論拠」を備えているかを確認することになる。
係属中の事件を有利に進めるために懲戒請求を持ち出すことは,第4の2・第4の3の例のとおり,それ自体が懲戒の理由とされている。
(2) 依頼者や他の弁護士の懲戒請求に関与する場合
代理人として懲戒請求書を作成する場合や,他の弁護士に懲戒請求を勧める場合も,第4の1・第4の2の例のとおり,関与した弁護士自身の調査・検討の不足が問われる。
依頼者の説明だけに頼らず,懲戒事由を裏付ける資料を確認し,根拠が十分でない部分は懲戒請求の理由から外すことが考えられる。
懲戒請求を受けた側の対応は,弁護士が懲戒請求を受けたときの初動と綱紀委員会への答弁書の書き方(AI作成)で整理している。
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第8 出典
1 法令
弁護士法(昭和24年法律第205号)56条,58条,64条,64条の5,64条の6,64条の7,67条の2,70条の8(令和8年10月23日にe-Gov法令検索で確認)
2 裁判例・弁護士懲戒
最高裁平成19年4月24日判決(平成17年(受)第2126号,民集61巻3号1102頁)
日本弁護士連合会「懲戒処分の公告」『自由と正義』2018年7月号96頁(新潟県弁護士会,戒告)
同2019年7月号123頁~124頁(第一東京弁護士会,業務停止2月及び戒告)
同2021年2月号62頁(富山県弁護士会,戒告)
同2025年6月号91頁(神奈川県弁護士会,戒告)
日本弁護士連合会「裁決の公告(棄却)」『自由と正義』2025年12月号76頁(上記2025年6月号の戒告に対する審査請求の棄却)
日本弁護士連合会「懲戒処分の公告」『自由と正義』2025年12月号74頁(第一東京弁護士会,戒告)
同2026年9月号68頁~69頁(日本弁護士連合会が神奈川県弁護士会の懲戒しない旨の決定を取り消してした戒告)
同2026年10月号66頁(福井弁護士会,戒告)
日本弁護士連合会「裁決の公告(棄却)」『自由と正義』2026年10月号73頁(上記2025年12月号74頁の戒告に対する審査請求の棄却)
3 日本弁護士連合会の会規・規則
弁護士職務基本規程(平成16年会規第70号)3条,70条,71条
懲戒処分の公表等に関する規則(平成16年規則第92号)2条(『令和七年度版 日本弁護士連合会関係法規集』(令和7年9月1日現在)で確認)
4 文献
日本弁護士連合会調査室編『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』(日本弁護士連合会,平成23年)64頁,128頁,130頁,147頁,193頁
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程〔第4版〕』(令和8年)227頁~228頁