第1 返済額が変わる前から確認する
住宅ローンの返済が苦しくなったときは,契約上の金利と返済額の見直し時期を確認し,今後の家計を計算したうえで,借入先と弁護士に早めに相談することが重要である。
金利が上がっても毎月の引落額が変わらない商品では,負担の変化を見落とすことがある。
一方,返済額を据え置く仕組みがなく,金利変更に伴って返済額が変わる商品もある。
本記事は,令和8年10月20日に確認した銀行の公式説明,金融庁及び裁判所の公表資料を基に,個人の住宅ローン返済を点検する手順を整理したものである。
商品の例を自分の契約にそのまま当てはめず,契約書,特約,変更合意書及び最新の返済予定表で確認する必要がある。
家計表や相談資料のまとめ方は実務上の整理例であり,将来の金利を予測するものではない。
第2 5年ルールと125%ルールの適用を確かめる
1 金利と返済額の変更日を分ける
三菱UFJ銀行の公式FAQは,同行の変動金利・元利均等返済について,返済額を5年ごとに見直す仕組みと,見直し時の増額を従前の返済額の125%までとする仕組みを説明している。
金利が変わっても返済額の見直しまで引落額が同じ場合,その内訳である利息と元金への充当額が変わる。
例えば月10万円の返済額に125%の上限が適用される見直しでは,上限額は12万5000円となるが,金利そのものや生涯の総返済額の上限を意味するものではない。
同FAQでは,元金均等返済に両ルールはないと説明されている。
また,SBI新生銀行の変動金利の商品案内は,同行では両ルールを採用せず,適用利率の変更の都度返済額を変更すると説明している。
変動金利という名称だけで,5年間は返済額が変わらないと判断してはいけない。
2 元金の減り方と最終返済日の残額を見る
返済額が据え置かれている間も,金利上昇によって利息の割合が増え,元金返済が進みにくくなることがある。
三菱UFJ銀行の前記FAQは,利息が返済額を上回った部分の繰延べと,最終返済日に残る未返済残高を原則としてその日に一括返済する取扱いも説明している。
すべての契約で未払利息が生じるわけではないため,自分の残高・適用金利・残期間に基づく返済表で確認する。
借入先には,現在の元金残高,未払利息の有無,次回の返済額見直し日及び最終返済日の残額について説明を求めるとよい。
借入日や契約条件によって時期が異なるので,全国の借り手が特定の年から一斉に増額されるという見方は適切でない。
第3 住宅費と他の債務を合わせて家計を試算する
1 引落額だけで返済余力を判断しない
毎月の手取り収入から,生活費,住宅ローン,住宅の維持費,他の債務の返済を差し引き,実際に残る額を確かめる。
管理費・修繕積立金,固定資産税等の支払,修理費,教育費及び医療費も,毎月払いと年払・臨時支出に分けて把握する。
年払費用の月割りによる積立額と実際の支払額を,同じ計算で重ねて控除しないようにする。
次は家計の変化を考えるための仮定であり,金利から返済額を算出した例ではない。
| 項目 | 現在 | 返済額見直し後 |
|---|---|---|
| 毎月の手取り収入 | 38万円 | 38万円 |
| 住宅費・借金返済を除く生活費 | 22万円 | 22万円 |
| 住宅ローン返済 | 10万円 | 12万円 |
| 住宅維持費等の月割り負担 | 3万円 | 3万円 |
| 他の債務の返済 | 5万円 | 5万円 |
| 差引き | マイナス2万円 | マイナス4万円 |
この例では,返済額が増える前から不足している。
金利だけを問題にせず,現在の不足原因と,増額後の不足を分けて検討する必要がある。
2 収入減少や大きな支出も重ねる
賞与が減る場合,育児・介護等で収入が減る場合,大きな修理や教育費が生じる場合も計算する。
賞与払いに依存しているときは,賞与が見込みどおり支給されないケースも確認する。
預金を取り崩して支払えている場合は,残高だけでなく,何か月続けられるかを見る。
新たな借入れで返済をつないでいるときも,その借入れの返済を含めて家計全体を点検する。
第4 借入先との条件変更協議で確認すること
1 支払期限に先立って具体的な資料を示す
金融庁は令和7年11月27日付の金融機関への要請の「5.住宅ローン等」で,個人ローンを含む丁寧な相談対応と,状況に応じた返済猶予等の条件変更への対応を求めている。
これは金融機関に対する要請であり,個々の借り手が希望する変更の承認を保証するものではない。
借入先には,収入が減った理由,不足額,不足する時期,回復の見込み及び希望する変更を資料とともに伝える。
相談しただけで支払条件が変わったとは扱わず,合意の内容と適用開始日を確認する。
既に延滞している場合は,督促状,期限の利益喪失に関する通知及び保証会社の通知を,日付が分かる状態で早期に弁護士へ見せる。
2 変更後の総費用と返済終了まで比べる
協議では,返済期間の延長,一定期間の返済負担の調整,賞与払いの見直しなど,その金融機関・契約で可能な方法を尋ねる。
目先の返済額だけでなく,変更中と終了後の返済額,総利息,費用,最終返済日の残額及び担保・保証への影響を比べる。
固定金利への変更や借換えを検討するときも,適用条件,諸費用及び審査を確認する。
手元資金をすべて繰上返済に回す前には,その後の生活費や臨時支出を賄えるかを試算する必要がある。
第5 個人再生や売却も含めて生活再建を考える
1 住宅ローンと他の債務を分けて検討する
住宅ローン以外にもカードローン等がある場合は,債務全体を整理する方法を比較する。
他の債務の条件を変えられれば住宅ローンを継続できるのか,住宅ローン自体の返済負担も調整しなければ生活を維持できないのかを区別する。
大阪地方裁判所の案内のQ12・Q16は,個人再生の収入等の要件と,住宅資金特別条項によって自宅を維持する制度を説明している。
住宅資金特別条項は,法律上の要件を満たしたときに利用できるものであり,住宅ローンを他の再生債権と同じように減額する制度ではない。
住宅の所有・利用状況,借入金の使途,抵当権等の設定,滞納及び保証会社の代位弁済の有無と時期などを弁護士が確認する。
住宅ローンと再生計画による返済の両方を,生活費とともに継続して支払える見通しも必要である。
5000万円の上限の計算は,個人再生の5000万円要件で扱っている。
住宅資金貸付債権を上限計算から除けることと,自宅を維持するための特別条項を利用できることは,それぞれ確認する必要がある。
2 住宅を維持する負担が続けられない場合
住宅費の調整や他の債務の整理をしても家計が成り立たないときは,住宅の売却,転居又は破産を含めて,生活再建の方法を比較する。
売却を検討する際は,査定額だけでなく,ローン残高,担保権者との協議,売却費用,売却後の残債及び転居費用を確認する。
担保の抹消に必要な条件を確かめる前に,住宅が必ず売れることや,売却代金だけで借金がなくなることを前提にしない。
手続を検討するときの一般的な注意事項は,重要事項説明書(任意整理・自己破産・個人再生)を参照されたい。
返済の停止や財産の処分を自分だけで決めず,具体的な事情を弁護士に伝えて方針を確認することが重要である。
第6 相談時に持参する資料
①住宅ローン契約書,特約,変更合意書及び最新の返済予定表
②金利・返済額変更の通知,残高証明及び入出金明細
③収入資料,家計の実績,年払・臨時支出の予定
④他の借入れ,保証債務,税金等の滞納を含む債務一覧
⑤土地・建物の登記事項証明書及び売却査定があればその資料
⑥督促状,保証会社の通知及び裁判所から届いた書類
資料が全部そろうまで相談を延ばす必要はない。
分からない項目は分からないまま示し,支払期限や通知の日付から先に伝えると,次に調べることを整理しやすい。
第7 公式資料と確認箇所
1 三菱UFJ銀行「住宅ローンの5年ルール・125%ルールについて知りたい。」
適用する返済方法,返済額の見直し,未払利息及び最終返済日の残額について参照した。
https://faq01.bk.mufg.jp/faq/show/5787?site_domain=default
2 SBI新生銀行「住宅ローン 変動金利のご紹介」
「SBI新生銀行の住宅ローンについてのご留意事項」にある,両ルールを採用しない商品条件を参照した。
https://www.sbishinseibank.co.jp/retail/housing/interest/floating/
3 金融庁「金融の円滑化に向けた取組及び事業者支援の徹底について」(令和7年11月27日)
「5.住宅ローン等」を参照した。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/ginkou/20251127/yousei.html
4 大阪地方裁判所「倒産部(第6民事部)」
個人再生手続についてのQ12・Q16を参照した。
https://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minjibu6/index.html