第1 相続登記の期限を調べるときの出発点
相続登記の申請義務化は,令和6年4月1日に始まった。
それより前の相続も対象となるが,すべての人の期限が令和9年3月31日になるわけではない。
まず,不動産を相続したことを知った時期,遺産分割の有無,相続人申告登記をしたかを分けて確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月18日に確認した法務省の案内に基づき,登記済みの不動産についての基本的な期限と手続の選び方を説明する。
相続全体の期限・財産調査・税務については,「相続事件に関する実務メモ-期限・手続・財産調査(AIリライト)」も参照されたい。
記事URL:https://yamanaka-bengoshi.jp/2022/07/31/souzoku-memo/
第2 基本的義務と遺産分割後の義務を分ける
1 基本的義務は二つの事実を知った日から3年以内
相続によって不動産の所有権を取得した相続人は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に,相続登記を申請する義務を負う。
相続人に対する遺贈による取得も含まれる。
根拠は,不動産登記法76条の2第1項である。
被相続人の死亡日だけで一律に期限を決めることはできない。
死亡を知っていても,後になって別の土地を相続したことが分かった場合には,その土地について取得を知った時期を確認する。
2 分割後の登記には別の義務がある
法定相続分による登記をした後に遺産分割が成立した場合や,相続人申告登記の後に遺産分割が成立した場合には,分割によって不動産を取得した相続人に,分割内容を反映する登記の義務が生じる。
その期限は,原則として遺産分割の日から3年以内である。
根拠は,不動産登記法76条の2第2項,76条の3第4項等である。
相続人申告登記によって履行できるのは基本的義務であり,遺産分割後の追加的義務を履行したことにはならない。
遺産分割が既に成立している場合には,その内容に基づく登記を検討し,申告登記だけで済むと考えないことが大切である。
法務省「相続登記の申請義務化について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
第3 令和9年3月31日が期限になるのはどのような場合か
1 令和6年4月1日より前の相続も対象となる
令和6年4月1日より前に開始した相続についても,未登記であれば義務化の対象となる。
施行前に不動産の相続による取得を知っていた場合の基本的義務の期限は,令和9年3月31日である。
施行後に取得を知った場合は,その日から3年以内となる。
| 確認した事情 | 基本的義務の期限の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 令和6年4月1日より前から相続による取得を知っていた | 令和9年3月31日まで | 古い相続も放置できない |
| 施行前の相続だが,施行後にその不動産の取得を知った | 取得を知った日から3年以内 | 死亡日だけで判断しない |
| 施行後の相続で,開始と不動産の取得を知った | 二つの事実を知った日から3年以内 | 不動産ごとの把握漏れに注意する |
2 具体例は「相続の日」と「知った日」を分けて考える
例えば,令和2年に父が亡くなり,その時から父名義の自宅を相続したことを知っていたが登記していない場合,基本的義務の期限は令和9年3月31日である。
同じ令和2年の相続でも,令和8年になって初めて別の土地を相続していたと知った場合には,その土地について取得を知った日から3年以内という扱いになる。
これらは,法務省が示す期限のルールを説明するための設例である。
「いつ知ったか」が問題になりそうなときは,登記事項証明書,固定資産税の通知,親族との連絡など,取得を知るに至った経緯の資料を保管しておくとよい。
基本的義務の起算日と,遺産分割後の登記の起算日は別に記録する。
法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
第4 相続人申告登記でできること・できないこと
1 分割が難しい場合にも基本的義務を履行できる
相続人申告登記は,登記記録上の所有者が亡くなったこと,自分がその相続人であること等を,必要な資料とともに登記官へ申し出る制度である。
登記官は審査の上,申出をした相続人の氏名・住所等を登記に付記する。
法定相続人全員の範囲や法定相続分を確定する手続ではないため,通常の相続登記に比べて必要書類を少なくできる場合がある。
2 一人の申出で全員の義務が済むわけではない
特定の相続人が単独で申し出ることはできるが,義務を履行したとみなされるのは申出をした相続人である。
相続人全員について履行するには,全員それぞれの申出が必要となる。
複数人が連名で申し出る方法や,他の相続人の分も含めた代理申出もある。
したがって,「長男が一人で自分の申告をしたので,他の相続人も何もしなくてよい」とはならない。
誰について,どの不動産の申出をしたかを,受付資料・完了後の登記で確認する。
3 所有権の帰属を公示する登記の代わりにはならない
相続人申告登記は,不動産についての権利関係を公示するものではない。
不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には,別途,相続登記が必要である。
相続人申告登記をしても,遺産分割が成立したことや,自分が単独所有者になったことを意味しない。
申告登記をした後に分割が成立したときは,取得者と分割日を記録し,分割結果に基づく登記を改めて管理する。
相続人申告登記を済ませたまま,その後の手続を失念しないことが重要である。
法務省「相続人申告登記について」制度の概要・申出手続:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
第5 申出の準備と費用を確認する
1 基本書類と管轄を確認する
基本的な提出書類は,申出書,相続人であることが分かる戸籍の証明書,申出人の住所を証する情報,代理人が手続を行う場合の委任状である。
ただし,法定相続情報一覧図の写しや法定相続情報番号,戸籍電子証明書提供用識別符号等による代替,住基ネットによる住所確認で省略できる場合がある。
被相続人と登記名義人の同一性を示す資料が追加で必要になる場合もあるため,戸籍1通だけで常に足りるわけではない。
申出先は不動産を管轄する法務局である。
親子,配偶者,兄弟姉妹,数次相続などの関係に応じて必要な戸籍が異なるので,法務省の現行の記載例と提出書類を確認する。
登記されていない建物や,名義と実際の権利関係が合わない不動産は,同じ手続で処理できると決めつけず,個別に相談する必要がある。
2 登録免許税とその他の費用を分ける
相続人申告登記には登録免許税がかからない。
ただし,戸籍等の取得費用,郵送費用,専門家に依頼した場合の報酬まで一切かからないという意味ではない。
その後に行う所有権移転の相続登記の費用とも区別する。
オンラインの申出では押印・電子署名は不要とされ,専用ソフトウェアを使わず,ウェブブラウザー上の「かんたん登記・供託申請」を利用する方法もある。
利用する際は,法務省の現行案内から手続先へ進み,申出の対象不動産・申出人・添付資料を確認する。
第6 過料・税務・相談先を別々に確認する
1 期限を過ぎれば直ちに一律10万円になるわけではない
正当な理由なく相続登記の申請を怠った場合は,10万円以下の過料の対象となる。
法務省の案内では,登記官による催告を経て,正当な理由なくその期間内に申請しない場合に,裁判所へ事件を通知する取扱いが示されている。
相続人が非常に多い場合,権利帰属に争いがある場合,重病や避難等の事情がある場合などは,正当な理由が認められることがあるが,具体的な事情による。
催告が来るまで放置してよいという趣旨ではない。
手続が進まない理由と残っている作業を整理し,期限前から相談することが望ましい。
2 相続税の申告期限は別に進む
相続税の申告が必要な場合,申告期限は原則として,被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内である。
相続人申告登記は税務署への相続税申告ではなく,これを行っても相続税の期限が延びるわけではない。
登記の3年と税務の10か月を同じ期限表で混同しないようにする。
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
3 相談の際は解決したい問題を分けて伝える
登記手続の相談では,対象不動産,登記名義人,相続関係,遺言・分割の有無,取得を知った時期をまとめておくと,必要資料と手続を整理しやすい。
遺産分割の対立,遺言の効力,財産の範囲等に争いがある場合は,その紛争の解決と登記義務への対応を分けて弁護士に相談する。
相続税の申告・評価・特例の適用については,税務の期限も示して税理士と検討する。
第7 出典・関連記事
1 法令・公式資料
①不動産登記法76条の2・76条の3・164条:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
②民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条6項。法務省掲載の法律本文:https://www.moj.go.jp/content/001348043.pdf
③法務省「相続登記の申請義務化について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
④法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」特に4のQ1~Q4:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
⑤法務省「相続人申告登記について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
⑥国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
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相続事件に関する実務メモ-期限・手続・財産調査(AIリライト)
記事URL:https://yamanaka-bengoshi.jp/2022/07/31/souzoku-memo/