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部品だけを販売する特許権者に特許法102条1項・2項は適用されるか―レーザ加工装置事件の二つの知財高裁判決(AI作成)

第1 二つの判決が示した結論

レーザ加工装置事件では,同じ特許権と同じ種類のレーザ加工装置をめぐり,知的財産高等裁判所が令和6年3月6日と同年4月24日に損害額について異なる算定経路を採った。
特許権者側が販売していたのは,完成品であるレーザ加工装置そのものではなく,その中核部品であるSDエンジンであった。
他方,侵害者側は,SDエンジンに相当する部分を組み込んだ完成品のレーザ加工装置(ダイサ)を販売していた。

令和6年3月6日判決は,特許法102条2項の適用要件自体は満たすとしながら,完成品全体の限界利益をそのまま特許権者の損害と推定することは合理的でなく,部品相当の限界利益を一義的に算定する方法も確立していないとして,同項による算定を採らなかった。
その上で,同条1項により,特許権者のSDエンジンの単位数量当たり利益に侵害品の販売数量を乗じ,販売することができなかった事情として70%を控除し,1億2384万円の損害を認めた。
弁護士費用1300万円を加えた認容額は1億3684万円である。

令和6年4月24日判決は,部品と完成品が同じ市場で直接競合していなくても,完成品市場を通じた間接的な競合があり,SDエンジンが技術的な中核を成すことを重視して,同条2項を適用した。
まず侵害者が完成品の販売で得た限界利益全額を推定の出発点とし,完成品価格に占めるSDエンジン価格の割合を推定覆滅事情として控除する方法により,7億5628万7981円の損害を認めた。
弁護士費用7562万8772円を加えた認容額は8億3191万6753円である。

両判決はいずれも確定している。
結論の違いは,特許法102条2項の入口を狭く捉えたかどうかだけではなく,完成品利益をどの段階で推定し,部品以外の価値を誰の立証によって控除するかという証明構造の違いにある。

第2 特許法102条の三つの算定方法

1 1項―特許権者製品の利益を基準にする方法

特許法102条1項は,侵害品の譲渡数量に,特許権者又は専用実施権者が侵害行為がなければ販売できた物の単位数量当たり利益を乗じる方法を定める。
ただし,特許権者の実施能力を超える数量や,侵害行為がなくても販売できなかったと認められる数量は控除される。

この方法では,特許権者が完成品を販売していなくても,侵害品と市場で競合し得る部品を販売しているなら,その部品を「販売することができた物」と捉えられるかが問題になる。
令和6年3月6日判決は,特許権者のSDエンジンをこの物に当たるとした。

2 2項―侵害者の利益を損害と推定する方法

同条2項は,侵害者が侵害行為により利益を受けているとき,その利益の額を特許権者又は専用実施権者の損害額と推定する。
この規定は,侵害者利益を損害と無関係に吐き出させる制度ではなく,特許権者の逸失利益の立証を容易にする推定規定である。

知財高裁令和元年6月7日大合議判決は,特許権者に侵害行為がなければ利益を得られたであろう事情があれば足りるとし,特許権者が特許発明を実施していることを同項適用の必須条件とはしなかった。
レーザ加工装置事件の二判決も,この柔軟な入口を前提としている。

3 3項―実施料相当額を基準にする方法

同条3項は,特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を請求できるとする。
令和6年4月24日判決は,同項による実施料率について,原審が採った30%は過大であり,15%が相当とした。
ただし,同事件では2項による額の方が大きかったため,最終的な損害算定は2項によった。

第3 令和6年3月6日判決が2項による算定を採らなかった理由

1 2項の適用要件は認めた

知財高裁令和6年3月6日判決(令和5年(ネ)第10037号)は,特許権者が完成品を販売していなかったことだけを理由に同条2項を排除していない。
特許権者が販売するSDエンジンと侵害者が販売する完成品は,完成品市場を通じて競合し,侵害行為がなければ特許権者が利益を得られた可能性があるとして,同項の適用要件を認めた。

2 完成品全体の利益を部品販売者の損害とみることには無理があった

しかし,侵害者の完成品には,SDエンジン相当部分のほか,ステージ,制御機構,筐体その他の構成と,完成品としての製造・販売活動が含まれる。
特許権者が販売していた部品の市場機会の喪失を問題にする場面で,侵害者の完成品全体の限界利益をそのまま推定の基礎に置くと,特許発明以外の価値まで損害と推定することになる。

同判決は,完成品の限界利益からSDエンジン相当部分の利益を切り出すための一義的な算定方法がなく,必要な基礎資料も十分でないと判断した。
そのため,2項の適用要件は満たすが,同項によって損害額を算定することはできないとした。

3 1項により特許権者の部品利益から算定した

同判決は,特許権者が実際に販売していたSDエンジンの限界利益を基礎とする1項の方が,失われた販売機会を直接に捉えられると考えた。
SDエンジンの単位数量当たり利益に侵害品の数量を乗じた4億1280万円を出発点とし,代替品の存在,侵害者製品の価格・性能・営業力その他の事情を踏まえ,販売することができなかった事情として70%を控除した。

第4 令和6年4月24日判決が2項を適用した理由

1 部品と完成品の間接的な競合を認めた

知財高裁令和6年4月24日判決(令和5年(ネ)第10052号,第10080号,令和6年(ネ)第10002号)は,2項の適用について,特許権者と侵害者の製品が同一市場で直接競合することを厳格な条件としなかった。
特許権者のSDエンジンは,完成品であるダイサの性能を左右する技術的中核であり,侵害者の完成品販売が特許権者の部品販売の機会を奪う関係にあるとした。

2 完成品利益の全額を推定し,価格比で推定を覆した

同判決は,侵害者の完成品販売から得た限界利益全額を,まず2項の推定対象とした。
その上で,完成品には特許発明以外の部品・機能・営業上の価値も含まれるため,完成品価格に占めるSDエンジン価格の割合を用いて推定を覆した。

この方法は,最初から部品相当利益だけを特許権者が立証するのではなく,完成品全体の限界利益を推定の出発点に置き,特許発明以外の寄与を侵害者側の推定覆滅の問題として扱うものである。
完成品利益のうちどこまでを侵害と結び付けるかという同じ問題を,令和6年3月6日判決とは異なる証明責任の配置で処理したといえる。

3 1項と3項も検討した

同判決は1項の適用可能性も否定しなかったが,SDエンジンの販売価格や控除すべき費用について十分な立証がなく,1項による額は2項による額を下回ると判断した。
3項についても実施料率を15%と認定したが,2項による額が最も大きかった。

第5 二つの判決は矛盾するのか

1 共通する出発点

両判決は,特許権者が完成品を販売していないことや特許発明を実施していないことだけで,同条2項の適用を排除していない。
部品と完成品の間でも,侵害行為がなければ特許権者が利益を得られた関係があれば,同項の適用要件を満たし得る点は共通する。

2 異なるのは推定の範囲と証明責任の置き方である

令和6年3月6日判決は,部品販売者の損害と対応する利益を侵害者の完成品利益から切り出す合理的な方法が示されていないことを重視し,2項による算定を断念して1項へ移った。
令和6年4月24日判決は,完成品利益全額をいったん推定し,部品価格と完成品価格の比率によって推定を覆す方法を採った。

前者では,部品相当利益を算定する資料が十分でないことの不利益を主として特許権者側が負う。
後者では,完成品利益のうち特許発明以外の寄与を具体的に示せないことの不利益を主として侵害者側が負う。
この証明構造の差が,認容額の大きな差につながった。

3 事案の違いも無視できない

令和6年3月6日判決では,代替品の存在,設計変更の可能性,特許発明の寄与の程度その他の事情が大きく評価された。
令和6年4月24日判決では,SDエンジンが完成品の技術的中核であり,部品価格と完成品価格の資料を用いた推定覆滅が可能と判断された。

したがって,二判決を単純に先例の対立とみるよりも,競合関係,特許発明の技術的・顧客吸引上の寄与,完成品利益を部品相当分へ換算する資料の有無によって,1項と2項のどちらが立証に適するかが変わると理解するのが実務的である。
もっとも,部品特許で完成品利益全額を推定の出発点に置くことの当否と,価格比だけで寄与を評価できる範囲は,今後の裁判例でなお検討される論点である。

第6 訴訟実務で確認すべき事項

1 特許権者側

①自社が販売しているのは完成品か部品か,部品を組み込んだ完成品市場でどのように競合するかを示す。
②侵害行為がなければ,誰が誰から部品又は完成品を購入したかという取引経路を具体化する。
③1項に備え,自社製品の販売価格,変動費,単位数量当たり利益,実施能力及び失注資料を整理する。
④2項に備え,侵害者の販売数量,売上高,追加的に要した費用及び限界利益に関する資料を求める。
⑤部品が完成品の性能,選択理由及び価格に与える寄与を,技術資料,営業資料,顧客説明及び取引記録で示す。
⑥完成品利益から部品相当分を算定する価格比,原価比,利益比又は代替的な評価方法を複数検討する。

2 侵害者側

①完成品の利益に寄与した非侵害部分,ブランド,保守,販売網,価格,納期その他の要因を具体的に示す。
②侵害部分の設計変更又は代替部品が可能であったか,その時期,費用及び性能差を証拠化する。
③売上高から控除すべき変動費を取引別に整理し,固定費との区別を説明できるようにする。
④完成品価格と部品価格の比率だけでは利益への寄与を表せない場合,その理由と代替的な算定資料を提出する。
⑤2項の適用要件,推定される利益の範囲,推定覆滅事情及び1項の販売不能事情を区別して主張する。

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①特許権の存続期間満了前に後発品の参入準備としてできること・できないこと―試験研究の例外,生産・在庫,譲渡の申出(AI作成)
②加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法(AI作成)

第8 出典

1 法令・裁判例

①特許法(e-Gov法令検索)102条
②知的財産高等裁判所令和6年3月6日判決(令和5年(ネ)第10037号)
③知的財産高等裁判所令和6年4月24日判決(令和5年(ネ)第10052号,第10080号,令和6年(ネ)第10002号)

2 確定状況・評釈

①浜松ホトニクス株式会社「訴訟の終結に関するお知らせ」
②前田健「部品等の特許権者による完成品全体の利益の推定」新・判例解説Watch知的財産法No.173
③小松英次郎「部品に関する特許の侵害と完成品の利益―レーザ加工装置事件」知財ぷりずむ令和6年9月号公開部分