第1 公開の事実と出願の期限を同時に確認する
出願前に新製品を店頭へ出し,展示会で説明し,又は試作品を配った場合は,誰が,いつ,何を,どの条件で外部へ出したかを直ちに確認する。
販売したという一事だけで特許取得の可否を決めることはできないが,新規性喪失の例外には出願時の手続もあるため,分析結果がそろうまで相談を延期すべきではない。
本記事は,令和8年10月14日に確認した日本の特許法を基準とし,通常の国内出願を中心に扱う。
まず,最初の出荷日,店頭で購入できるようになった日,展示・説明の日,ウェブ公開日及び出願日を別々に並べる。
受注日,請求書発行日又は入金日が分かっても,それだけで技術内容が公衆に知られ得た日時を確定できるとは限らない。
追加の公開をどう扱うかと,既に起きた公開をどの証拠で説明するかを,弁護士・弁理士と並行して検討することが有用である。
第2 実施行為と技術内容の公開を分ける
特許法29条1項は,出願前の公知,公然実施,刊行物記載又は電気通信回線を通じた公衆への利用可能化を,それぞれ新規性の問題として扱う。
物の発明については,生産・使用・譲渡等に加え,譲渡等の申出も実施に含まれる(2条3項1号)。
物を生産する方法の発明では,その方法で生産した物の譲渡等やその申出も実施に含まれる(同項3号)。
しかし,実施行為があったことと,発明の技術内容を知り得る状態になったことは別である。
東京地裁平成17年2月10日判決(平成15年(ワ)第19324号)は,単に実施品が存在しただけでは足りず,物について,当業者が利用可能な分析技術で請求項に記載された物に該当するかを判断できる状態かを検討した。
同事件では,製剤から練合前の粒子の状態を解析する困難さなどを踏まえ,市販の事実だけでは公然実施を認めなかった。
店頭で自由に購入できる商品と,外観を見ることだけが許された展示品では,入手・分解・測定の条件が異なる。
現実に買った人がまだいないという事情だけで安全とは判断せず,どの情報を誰が取得できたかを確認する。
秘密保持契約も,その有無だけでなく,当事者,対象情報,開示先及び実際の流通・閲覧条件と対応させる必要がある。
第3 物の構造が分かることと製法が分かることは同じではない
完成品の成分,層構造又は寸法を測定できても,特定の温度,順序又は処理時間で製造したことまで直ちに判明するとは限らない。
反対に,製法を秘密にしていても,製品の特徴と当時の技術常識から工程を推認できる場合があり得る。
物の請求項と製法の請求項を分け,各構成について,製品,説明資料及び当時利用可能な分析技術から何を知り得たかを検討する。
分析依頼では,試料のロット,入手日,保管条件,測定手順,検出限界及び誤差を記録する。
現在の高性能機器で測定できたことを,そのまま公開当時にも可能だったという結論に置き換えない。
これらの記録方法は,公開当時の技術内容を検証するための実務上の提案である。
製造方法を用いて物を特定したPBPクレームでは,物の構造・特性による技術的範囲の判断も必要となる。
製法の相違,物の同一性及び特許の有効性の関係は,PBPクレームの権利範囲・明確性・侵害立証を参照されたい。
第4 自己の公開には三つの時点を管理する
特許を受ける権利を有する者の行為に起因する公開については,特許法30条2項・3項による新規性喪失の例外を検討する。
発明等に関する公報掲載による公開は同項の対象から除かれている。
一般的な手続の骨格は次のとおりであり,公開から1年以内に出願したという一つの事情だけでは足りない。
| 確認する時点 | 原則として必要なこと | 保存する資料の例 |
|---|---|---|
| 公開から1年以内 | 権利者又は承継人による出願について,30条2項の要件を確認する。 | 公開日,公開者,公開された技術内容,権利の帰属・承継を示す資料 |
| 特許出願と同時 | 例外の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出する。 | 出願書類,提出書面,受付記録 |
| 出願から30日以内 | 例外の適用要件を満たすことを証明する書面を提出する。 | 証明書と根拠資料,提出記録 |
30条4項には,責めに帰することができない理由で証明書の提出期限を守れなかった場合の規定がある。
その理由がなくなった日から14日以内(在外者は2か月以内)で,かつ原則の期間の経過後6か月以内という制限があるため,通常の延長制度と考えてはならない。
出願と同時の書面を欠いた場合まで,この規定で当然に補えるというものでもない。
権利者の意に反する漏えい等は30条1項の問題であり,自己の行為に起因する公開と適用条項を区別する。
複数回の販売・展示・投稿があるときは,各公開の内容,時点及び因果関係を一覧にし,どの公開について例外を求めるかを確認する。
国際出願,分割出願,外国出願及び旧法が適用される案件には別の検討が必要である。
第5 例外を使っても出願日が前へ移るわけではない
30条は,その対象となる公開を29条1項・2項の適用上扱う規定であり,先に公開した日を出願日とする制度ではない。
第三者の独立した公開や先の出願は別に調べる必要があり,例外の適用によって特許取得の要件がすべて満たされるわけではない。
出願前に公開する計画の段階では,例外を前提に日程を組むより,公開前に必要な出願を整えることを優先して検討すべきである。
先の出願との関係では,先願の当初明細書等に記載された発明と比較する29条の2と,同一発明の先後願を扱う39条を区別する。
先願の広い表現が後願の数値範囲を含み得るというだけで,その具体的な技術内容まで開示されていたと即断しない。
実際の記載,当時の技術常識及び比較する請求項を確認することが必要である。
第6 相談時に保全しておく資料
次の資料を,作成日や変更履歴が分かる形で保全することが有用である。
後から説明用の一覧を作る場合も,元の記録を上書きしない。
– 出荷指示,納品書,店頭陳列記録,サンプル配布先及び製造ロット
– 展示物の写真,説明台本,配布資料,参加者の範囲及び閲覧・分解の条件
– ウェブページの表示内容,公開日時,アクセス制限及び更新履歴
– 秘密保持契約,送付メール,開示先と再開示の記録
– 現物試料,製造工程表,分析の生データ,公開当時の測定技術を示す資料
– 発明者・権利承継の資料,出願書類,例外申請・証明書の提出記録
紛争になった後は,どの請求項のどの構成が,どの証拠によって公開されていたといえるかを対応させる。
分析ができないという説明にも,対象構成,利用できた手法,試みた操作及び限界を示す必要がある。
公開前の管理と,公開後の期限管理・証拠保全を一つの時系列で扱うことが,判断の抜けを減らす。
第7 関連記事
令和4年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目(AI作成)では,物と製法の公然実施を別々に検討する事例を扱う。
試験問題の仮定と,実際の製品・分析技術について立証すべき事実は区別する必要がある。
第8 出典と確認範囲
特許法・令和8年6月24日施行版の2条3項,29条,29条の2,30条及び39条を確認した。
法令APIで令和8年10月14日に施行中と表示された版を使用している。
東京地裁平成17年2月10日判決は,裁判所公開PDF21頁の公然実施と分析可能性の判断を確認した。
同判決の結論は当該製剤と証拠関係に即したものであり,あらゆる製品・展示・製法について同じ結論を示すものではない。