第1 最初に事件の手続段階と求める資料を確認する
刑事裁判の証拠開示では,検察官が裁判で使う証拠を知ること,検察官の保管証拠の一覧表を受け取ること,請求されていない証拠の内容を確認することを分けて考える必要がある。
一覧表に資料が載っていることだけで,その資料の本体を閲覧・謄写できるわけではない。
反対に,検察官が取調べを請求していないことだけで,開示を求める余地がなくなるわけでもない。
本記事は,令和8年10月14日現在の刑事訴訟法に基づき,通常の刑事裁判における証拠開示の進め方を説明する。
とくに公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件の制度を扱い,捜査中の資料取得,被害者の記録閲覧及び再審請求における開示と区別する。
実際の請求では,担当弁護人が事件の段階,争点,保有者及び対象資料を確認することが出発点となる。
1 一般の事前閲覧と整理手続の開示を区別する
刑事訴訟法299条1項は,証拠書類又は証拠物の取調べを請求する当事者が,あらかじめ相手方に閲覧する機会を与えることなどを定めている。
これは,検察官が保管する資料をすべて開示するという規定ではない。
公判前整理手続等に付された事件では,これに加えて,検察官請求証拠の開示,証拠一覧表の交付,類型証拠開示及び主張関連証拠開示の仕組みを使い分ける。
| 求めるもの | 根拠・対象 | 確認すること |
|---|---|---|
| 請求される証拠の事前閲覧 | 299条1項 | 取調べ請求の対象と閲覧機会 |
| 検察官請求証拠の開示 | 316条の14第1項 | 書証・証拠物又は人証に応じた開示方法 |
| 保管証拠の一覧表 | 同条2項~5項 | 請求時期,記載事項,追加交付 |
| 類型証拠の本体 | 316条の15 | 類型,特定の請求証拠との関係,必要性 |
| 主張関連証拠の本体 | 316条の20 | 明示した予定主張との関連性,必要性 |
| 裁判所による開示命令 | 316条の26 | 法律上開示すべき証拠と不開示の理由 |
2 裁判所の記録をコピーする手続とは別である
弁護人が刑事訴訟法40条により裁判所の訴訟記録を閲覧・謄写することと,検察官の保有証拠の開示を受けることは別の手続である。
裁判所に提出されていない資料を調べたい場合,裁判所の記録をコピーするだけでは必要な情報に届かないことがある。
取得経路と利用上の注意は,起訴事件の刑事記録の入手方法(被告人側)を参照されたい。
第2 証拠一覧表の交付を求める
1 請求できる時期と一覧表の範囲
刑事訴訟法316条の14第2項は,同条1項の開示をした後,被告人又は弁護人から請求があったときは,検察官が保管する証拠の一覧表を速やかに交付しなければならないと定めている。
最初の一覧表は請求による制度であり,起訴されればどの事件でも自動的に届くものではない。
期日間整理手続では,同法316条の28第2項による準用も確認する。
条文上の対象は検察官が保管する証拠である。
警察その他の機関に資料があると考える場合には,誰が何を保管しているか,送致又は引継ぎがされているかを具体的に確認し,一覧表にないことだけで不存在と判断しない。
一覧表の記載事項から内容が分からないときは,対象を識別するための確認と,証拠本体の開示請求を区別して行うことが有用である。
2 記載事項と記載しないことができる例外
同条3項は,証拠物では品名と数量,署名又は押印のある供述録取書では標目・作成年月日・供述者氏名,その他の証拠書類では標目・作成年月日・作成者氏名を記載事項としている。
証拠の内容全文や検察官の評価を一覧表へ記載する制度ではない。
同条4項には,一定の事項の記載により,人への加害等,名誉又は社会生活の平穏への著しい侵害,犯罪の証明又は捜査への支障のおそれがある場合の非記載の例外がある。
一覧表が短いという理由だけで違反と決めず,記載すべき事項,例外の理由及び別の資料から判明している証拠との対応を検討する必要がある。
3 新たに保管された証拠と一覧表の更新
同条5項は,一覧表の交付後に検察官が証拠を新たに保管するに至ったとき,その証拠の一覧表を速やかに交付しなければならないと定めている。
最初の交付を受けた後も,新規保管証拠の有無と追加一覧を確認する必要がある。
受領日,対象資料,既存の一覧表との重複及び本体の開示状況を記録すると,追加資料の検討漏れを防ぎやすい。
第3 一覧表から証拠本体の開示請求につなげる
1 類型証拠開示では請求証拠との関係を示す
刑事訴訟法316条の15は,列挙された証拠類型に該当し,特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な証拠について,請求による開示を定めている。
証拠物,検証関係書面,鑑定関係書面,一定の供述録取書等,被告人の供述録取書等,取調べ状況や押収手続等の記録に関する類型がある。
重要性,防御準備のための必要性及び開示による弊害を考慮した相当性の判断が必要であり,類型に当たるというだけで結論は決まらない。
請求時には,同条3項に従い,証拠類型,対象を識別するに足りる事項及び開示が必要である理由を明らかにする。
例えば証人の供述変遷を調べるなら,検察官請求証拠の番号,問題となる供述部分,確認したい時期の供述録取書等,その比較が信用性の判断に必要な理由を対応させる。
押収手続等記録書面については,同条1項9号だけでなく,同条2項及び3項2号の対象・要件も確認する。
2 主張関連証拠開示では予定主張との関係を示す
刑事訴訟法316条の20は,所定の開示済み証拠以外の証拠で,同法316条の17第1項による主張に関連するものについて,請求による開示を定めている。
主張との関連性,防御準備のための必要性及び開示による弊害を考慮した相当性が問題となる。
証拠を識別するに足りる事項と,予定主張との関連性その他の必要性の理由を明らかにしなければならない。
例えば現場にいなかったという予定主張に関係する映像を求めるなら,対象時刻,撮影場所,記録媒体,既存証拠との関係及び映像によって確認したい点を具体化することが考えられる。
これは請求内容を整理するための例であり,特定の書式が法令で一律に義務付けられているという意味ではない。
資料の内容を推測して主張を固定せず,既に把握している事実と,開示を受けて確認したい事項を分けて記載する。
3 請求と回答を対応させて管理する
開示請求の管理では,証拠の存在,保管者,一覧表への記載,開示請求,開示の可否,実際の閲覧・謄写及び公判での証拠意見を別々に記録することが有用である。
開示されたことは,証拠能力又は信用性を認めたことを意味しない。
伝聞法則や証拠意見は,刑事裁判の書証の証拠能力で別に整理している。
| 管理項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 対象 | 一覧番号,標目,作成日,供述者又は作成者 |
| 開示の根拠 | 請求証拠,類型証拠又は主張関連証拠の別と条項 |
| 必要性 | 対応する請求証拠又は予定主張,確認したい事実 |
| 経過 | 請求日,回答日,拒否理由,条件,交付・閲覧日 |
| 検討 | 本体・添付物の不足,証拠意見,追加確認,請求期限 |
第4 開示されない場合の裁判所への請求
1 開示裁定の対象と即時抗告
刑事訴訟法316条の26第1項は,検察官が同項に列挙された規定によって開示すべき証拠を開示していないと認められる場合,相手方の請求により裁判所が開示を命じなければならないと定めている。
同条は,被告人又は弁護人が開示すべき証拠を開示していない場合も対象とする。
裁判所は時期・方法を指定し,又は条件を付すことができ,決定前に相手方の意見を聴く必要がある。
同条3項は,請求についての決定に対する即時抗告を認めている。
弁護側は,求める証拠,根拠条項,要件を満たす理由,これまでの請求・回答及び不開示による防御上の支障を具体的に示す必要がある。
一覧表の交付と証拠本体の開示は別制度であり,一覧表への不記載をそのまま本体の開示命令の要件へ置き換えない。
2 裁判所による提示命令との違い
刑事訴訟法316条の27は,裁判所が開示裁定のため必要な証拠の提示を命じることができる旨などを定めている。
同条2項の一覧表の提示も,裁判所が開示すべき証拠の範囲を判断するための仕組みである。
いずれの提示についても,裁判所は何人にも閲覧又は謄写をさせることができないと定められている。
裁判所への提示と,被告人又は弁護人への証拠開示を同じものとして扱わない。
また,同法300条が検察官に取調べ請求を義務付けるのは,同法321条1項2号後段によって証拠とすることのできる書面である。
検察官の保管証拠すべてを提出する一般的義務の規定として援用するものではない。
第5 整理手続の終了と開示証拠の利用に注意する
1 追加証拠の請求が制限される
刑事訴訟法316条の32第1項は,整理手続に付された事件について,やむを得ない事由により整理手続で請求できなかったものを除き,終了後の証拠調べ請求を制限している。
同条2項は,裁判所が必要と認めて職権で証拠調べをすることを妨げないと定めているが,当事者の遅れた請求が当然に認められるという意味ではない。
終了が近づいた段階では,未回答の開示請求,交付待ちの資料,追加一覧,新たな証拠の分析及び予定する証拠調べ請求を確認することが有用である。
終了後に資料が判明した場合も,いつ何を知り,なぜそれ以前に請求できなかったかを資料により示せるようにする。
主張明示と審理計画の関係は,公判前整理手続の長期化と弁護人の対応を参照されたい。
2 取得後の目的外提供とオンライン利用
刑事訴訟法281条の4は,検察官が審理準備のため閲覧又は謄写の機会を与えた証拠の複製等について,所定の目的以外での交付・提示・電気通信回線による提供を禁止している。
取得できたことと,依頼者,関係者又は別事件の担当者へ提供できることは別問題である。
秘密・プライバシーへの配慮と,提供目的が許容されるかの判断を分けて行う必要がある。
電子的な閲覧・謄写についても,法令上の制度,施行日・経過措置及び実際の利用方法を確認する。
すべての証拠が一律にオンラインで取得できると考えず,刑事手続のデジタル化の記事及び担当裁判所・検察庁の案内を確認されたい。
第6 出典
法令の根拠は,刑事訴訟法40条,281条の4,299条,300条,316条の2,316条の14・15・17・20・26・27・28・32である。
令和8年10月14日時点で施行中の条文を基準としている。
請求内容の整理例と管理表は,これらの制度を使うための実務上の提案であり,法令所定の統一書式ではない。
制度改正の概要は,法務省「刑事訴訟法等の一部を改正する法律の概要」3頁の証拠一覧表交付手続等の説明を参照されたい。
平成21年の研修教材だけを現在の開示制度の説明に代用せず,適用する時点の条文を確認する必要がある。