第1 調査官の面接は何のために行われるか
1 家族の事情と子どもの生活を確認する調査である
家庭裁判所調査官の面接は,家事事件の解決に必要な家族関係,生活状況及び子どもの事情を調べるために行われる。
裁判所の職務案内は,当事者や子どもへの面接を通じて紛争の原因・背景と解決方法を検討し,裁判官に報告すると説明している。
調査官が調査して意見を述べることと,裁判官が事件を判断することは区別する必要がある。
本記事は,令和8年10月14日に確認した裁判所の公開案内と,平成20年3月の『家庭裁判所調査官執務必携』を基に,家事事件で面接や家庭訪問を受ける場合の準備を説明する。
同必携は調査方法を理解するための歴史資料として用い,そこに記載された旧法令や当時の内部運用を,現在の全事件に共通するルールとして扱わない。
少年事件の呼出しや面接については,少年事件の流れと保護者の対応を参照されたい。
2 当事者の主張を聞く場面と子どもの事情を調べる場面
裁判所の現職調査官による仕事の紹介では,親権や親子の交流,児童虐待,養子縁組など,子どもの福祉に関わる家事事件への関与が説明されている。
当事者や子どもへの面接に加え,家庭訪問,保育園・学校等からの聴取り,子どもの福祉に関するガイダンスや親子交流の援助が紹介されている。
この紹介は調査方法の例であり,個々の事件で同じ方法がすべて実施されることを意味しない。
調査官の仕事内容の全体像,調査報告書及び記録の閲覧の基本は,家庭裁判所調査官とはで説明している。
本記事では,調査の場面に備えて何を整理し,どの事項を担当者に確認するかを扱う。
第2 面接でどのようなことを聞かれるか
1 出来事の経過,生活状況及び希望する解決
面接で確認される事項は,事件の種類,争点及び裁判所が必要とする調査によって異なる。
すべての家事事件に共通する質問集や,決まった順番で質問される台本があると考えるのは適切ではない。
子どもの生活が問題になる事件では,日常の養育,通園・通学,健康,家族との関わり及び今後の生活について,具体的に説明できるよう整理しておくとよい。
説明の準備には,次のような区分が使える。
これは事実を明確に伝えるための整理例であり,裁判所が一律に要求する提出書類の一覧ではない。
| 整理する事項 | メモに書く内容の例 | 確認する資料の例 |
|---|---|---|
| 出来事の経過 | いつ,誰が,何をしたか。別居や生活の変更があった時期 | 日付の分かる連絡記録,提出済みの書面 |
| 現在の養育 | 平日と休日の生活,送迎,食事,受診,支援者との分担 | 生活予定表,園・学校からの連絡 |
| 子どもの状況 | 健康,通園・通学の様子,発言があった場面 | 必要な範囲の連絡記録や医療資料 |
| 希望する解決 | 希望の内容,実施方法,子どもの生活への影響 | 具体的な予定案,移動・連絡方法の案 |
2 自分が確認した事実と推測を分ける
「自分が見聞きしたこと」「他の人から聞いたこと」「自分の推測」を分けると,説明の根拠が伝わりやすい。
日時を覚えていない場合や,資料で確認できない場合は,その範囲を示して説明する。
相手方への評価だけを繰り返すより,問題となる出来事,その根拠及び現在の子どもへの影響を対応させる方が,調査で確認すべき事項を明確にできる。
説明が長くなる場合は,最初に主な争点と希望を示し,その後に時系列や資料を説明すると整理しやすい。
面接前に答えを暗記することより,提出済みの主張と資料を読み返し,どこまで確認できているかを把握しておくことが有用である。
第3 面接前の資料と連絡の準備
1 資料の所在と説明する事項を対応させる
面接用のメモは,①重要な出来事の時系列,②現在の生活状況,③希望する解決,④説明の根拠となる資料,の順に整理すると扱いやすい。
資料には日付,作成者及び何を裏付けるのかを付記し,既に裁判所へ提出した資料との対応も確認しておく。
大量の資料を追加する前に,争点との関係と提出の必要性を整理することが大切である。
『執務必携』本文80頁~87頁は,記録の検討,調査計画,情報源の選択,調査対象者への負担への配慮及び面接方法を説明している。
この説明を踏まえると,当事者側でも,伝えたい事実とその資料を対応させる準備には意味がある。
ただし,これは準備方法についての提案であり,同必携が当事者向けに定めた提出義務ではない。
自分の説明に合う資料だけでなく,説明と食い違う資料や,相手方から示された事情も確認しておくとよい。
食い違いがあるときは,時期や場面の違い,資料の作成者,直接確認した範囲及び現在も不明な点を整理し,理由を推測で埋めないことが大切である。
資料を読んで説明を修正する必要がある場合は,どの部分を,どの根拠に基づいて修正するのかを明確にして伝える。
『執務必携』本文82頁~83頁(PDF54頁)は,調査の進行に応じて仮説や調査対象・範囲を柔軟に検討することを説明する。
これを当事者側の準備に生かすなら,最初に考えた説明を維持することより,確認できる事実と反対の資料を併せて整理することが有用である。
2 日時,参加者及び提出方法を確認する
案内を受けたら,面接の日時と場所,子どもの同行の要否,予定する参加者及び資料の提出方法を確認する。
都合が付かない事情,通訳や移動上の事情,安全に関わる懸念がある場合は,実施前に担当部又は調査官へ具体的に伝えることが必要である。
弁護士の同席,録音その他の方法を予定する場合も,実施前にその取扱いを確認するとよい。
面接の回数や所要時間は,事件ごとの調査内容によって異なる。
『執務必携』本文84頁は,調査の深さ,面接回数及び調査対象者の負担を考慮した調査方法の選択を説明している。
この資料だけから,全国共通の回数や時間を示すことはできない。
第4 家庭訪問と子どもの面接
1 家庭訪問は日常の生活状況を確認する方法の一つである
家庭訪問は,子どもの生活環境や家族との関わりを確認するための調査方法の一つである。
裁判所の仕事紹介にも家庭訪問が挙げられ,『執務必携』本文85頁は,住居や生活の実態を捉える訪問調査の意義を説明している。
家庭訪問が予定された場合は,確認したい事項,日時,参加者及び子どもの生活予定について案内を確認しておくとよい。
面接や家庭訪問に向けては,普段の生活と現在の養育の分担を具体的に説明できることが大切である。
住居の見た目だけを取り繕うより,実際の生活上の困難,支援者の存在及び改善できる点を整理する方が,事情を正確に伝えやすい。
訪問方法に不安がある場合は,その理由を担当者に伝えて調査方法を確認されたい。
監護の希望を説明する際は,現在までの養育の経過と,今後の生活を具体的な事実に結び付けるとよい。
次の表は準備上の整理例であり,項目の点数や優劣から監護者を決めるための基準ではない。
| 確認する視点 | 説明する事項の例 |
|---|---|
| 監護の経過 | 別居前後の養育分担,生活の変更時期とその理由 |
| 子どもの発達と現在の状態 | 年齢,通園・通学,健康,日常生活の様子と確認できる範囲 |
| 現在の養育 | 送迎,食事,受診,学習,支援者との分担及び安全への対応 |
| 今後の実施計画 | 住居,学校等との関係,仕事と養育の両立,支援が続けられる範囲 |
『執務必携』の研究部分は,人物への好悪や,監護継続・母性優先等の一般論のみで親子関係を評価する問題を指摘している(PDF104頁~105頁)。
「母親だから」「現在一緒に暮らしているから」という説明だけで希望する結論を導かず,子どもの状況と実際の養育を具体化することが有用である。
これは平成20年の研究資料を参考にした準備上の提案であり,現在の法令又は裁判例が一律の基準を定めたという意味ではない。
2 親の希望と子どもの発言を混同しない
子どもの事情を伝える場合は,発言があった日時,場所,その前後の会話及び質問の仕方を示すと,発言の背景を説明しやすい。
親自身が望む解決と,子どもが実際に述べた内容とは,分けて整理する必要がある。
子どもの発言の一部分だけでなく,普段の生活やその時の様子も,確認できる範囲で伝えるとよい。
子どもに特定の答えを言うよう求めたり,親の希望に合わせた回答を練習させたりすることは避けたい。
子どもが何を感じているかを把握するという調査の目的からは,自分の言葉で話せる状態を大切にすることが適切である。
面接の場所,親が同席するか及び説明の仕方は,子どもの状況と担当者の案内を踏まえて確認する必要がある。
第5 ウェブ調査と情報の保護
1 ウェブ調査は裁判所の案内に従って準備する
裁判所は,家庭裁判所調査官によるウェブ調査について,準備と禁止事項等の確認資料を公開している。
利用するかどうかは裁判所が判断し,案内された会議ID,パスコード又は会議URL等を用いて接続する。
希望すれば必ずウェブ調査になるという扱いではない。
案内を受けた場合は,機器,通信環境,周囲の音及び第三者が会話を聞く可能性を確認し,指定された準備・禁止事項に従う。
調査官によるウェブ調査と,調停期日のウェブ会議及び書面のオンライン提出は,それぞれ別の場面である。
2 知られて困る情報は提出前に確認する
住所等の知られて困る情報を含む資料は,提出前にその記載箇所を確認する必要がある。
裁判所の案内は,マスキング,秘匿決定の申立て及び家事事件の非開示希望の申出を区別して説明している。
非開示希望の申出が必ず認められるとは限らず,秘匿決定後も,別の書面に同じ住所等を記載した部分が当然に保護されるとは限らない。
子ども,学校,医療機関又は支援者に関する情報を提出するときも,争点に必要な範囲と,保護したい情報の所在を整理する。
調査官に事情を伝えることと,相手方にどの資料が開示され得るかを確認することは,併せて検討する必要がある。
第6 面接後の報告と内容の確認
1 調査結果と調査官の意見を分けて読む
調査官は,面接や資料等から得た事情を整理し,裁判官へ報告する。
『執務必携』本文92頁~95頁は,報告書の作成・審査と,調査で得た事実及び調査官の判断・評価を区別することを説明している。
最高裁判所が公表する家事事件等調査報告書の様式も,調査結果と調査官の意見を分けている。
報告書の閲覧・謄写の取扱いは,家事審判と家事調停など,事件に応じた手続で確認する必要がある。
面接を受けたことから,報告書全体が自動的に交付されるとはいえない。
具体的な閲覧基準と申請の違いは,調査報告書の閲覧と情報の保護を参照されたい。
2 説明の訂正と調査後の変化を区別する
報告の内容に誤りがあると考える場合は,該当箇所,正しいと考える事実及び裏付け資料を対応させて整理する。
面接時に説明した内容の訂正と,面接後に生じた生活状況の変化は,分けて伝えると確認すべき事項が明確になる。
意見の提出方法や時期は,担当部の案内と事件の進行状況を確認する必要がある。
調査官の意見に異なる評価を述べる場合も,結論への賛否だけでなく,評価の前提となる事情や資料の相違を示すことが有用である。
これは意見を明確に伝えるための整理方法であり,報告書が必ず書き換えられる手続を示すものではない。
第7 出典・関連記事
①裁判所「家庭裁判所調査官」:職務の全体像と家事事件での面接・報告。
https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyosakan/index.html
②裁判所「裁判所で活躍するProfessional:家庭裁判所調査官」:家事事件の仕事紹介。
https://www.courts.go.jp/saiyo/siritai/shigoto/kateisaibansyocyousakan/index.html
③最高裁判所事務総局家庭局『家庭裁判所調査官執務必携』(平成20年3月):本文80頁~87頁,92頁~95頁(PDF53頁~56頁,59頁~60頁)。
https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2020/10/家庭裁判所調査官執務必携(平成20年3月の,最高裁判所事務総局家庭局作成の文書)-圧縮済み.pdf
④裁判所「家庭裁判所調査官によるウェブ調査」。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/chousakan_web/index.html
⑤裁判所「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/hitokuseido/index.html
⑥最高裁判所「家事事件等調査報告書の様式について」(平成24年11月29日,PDF1頁~6頁)。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/tsuutatsu/06kajijiken/kajijikentoutyousahoukokusyonoyousikinituite.pdf
親子交流の手続と試行的実施については,親子交流調停・審判と間接強制を参照されたい。
家庭裁判所調査官の採用と養成の基本は,家庭裁判所調査官とは―採用後の養成課程で説明している。