第1 証人は旅費・日当を請求できる
民事裁判の証人は,民事訴訟費用等に関する法律18条1項により,旅費,日当及び宿泊料を請求することができる。会社の同僚・知人として証言を頼まれた場合でも,その関係だけで請求権がなくなるわけではない。
日当は休業による給与の減少額をそのまま補償する制度ではなく,旅費も自分が選んだ交通手段の代金が無条件に全額認められるわけではない。支給額と請求方法は,事件を担当する裁判所書記官に確認する。
本記事は,令和8年10月12日に確認した費用法・費用規則に基づく民事の証人費用を扱う。刑事事件の証人や裁判員には別の法令がある。訴訟費用全体は訴訟費用の費目と敗訴者負担を参照されたい。
1 裁判所への請求と,当事者からの支払を区別する
裁判所が費用法に従って支給する旅費日当と,申請当事者やその弁護士が証人へ直接支払う交通費・謝礼は別である。直接支払った金額を,勝訴後に相手方へ請求できる法定の訴訟費用へ当然に置き換えることはできない。
法定の給付を受ける予定なら,出廷前に担当書記官へその旨を伝え,必要な請求書・口座情報・交通資料を確認する。領収書や利用した区間・日付を整理し,提出が必要かを尋ねる。
2 証人と当事者本人の尋問は別である
自分が訴訟の原告・被告として当事者尋問を受ける場合は,証人への給付ではなく,当事者の出頭費用の問題となる。当事者・代理人の出頭日当の額と,証人日当の上限を混同しない。
また,代理人の弁護士との契約にある尋問日当・出張日当は,裁判所が支給する証人日当とは別である。弁護士費用の見方も参照されたい。
第2 証人日当の現行上限と適用時期
費用法22条は,出頭・取調べ及びそのための旅行に必要な日数に応じ,最高裁判所が定める額の範囲内で,裁判所書記官が日当を定めるとしている。
費用規則7条による民事の証人日当の上限は,令和8年7月1日以後に支給原因となる事実が生じたものについて,1日8750円である。鑑定人・通訳人等の上限8350円とは区別する。
「1日8750円」は必ず支給される定額ではない。実際に支給される額は裁判所書記官の判断による。古い通達・データブックにある日当額や時間区分を,現行の支給額としてそのまま使わない。
令和8年最高裁判所規則第10号附則は,施行前に支給原因となる事実が生じた日当には従前の例によると定める。請求書を出す日や振込日だけで新しい上限を適用せず,出頭等の時点を確認する。
第3 旅費・宿泊料はどう計算するか
1 交通手段と経路ごとの条件
費用法21条は,旅費を鉄道賃,船賃,路程賃及び航空賃に分けている。鉄道賃・船賃では,区間,運賃の等級,急行料金等の条件を確認する。航空賃は,航空機を利用すべき特別の事由がある場合に支給される。
同法25条は,旅費(航空賃を除く。)並びに日当及び宿泊料の計算上の旅行日数について,最も経済的な通常の経路・方法による旅行を基準とする。ただし,天災その他やむを得ない事情による例外がある。
遠方からの出頭,航空機の利用,前泊・後泊を要する場合は,予約や支払の前に,出発地,日時,利用予定の区間及び必要性を担当書記官へ示すとよい。これは支給を保証するものではなく,事後の金額の食い違いを避けるための確認である。
2 徒歩・タクシーと路程賃
鉄道の便のない区間の陸路旅行等に対応する路程賃は,費用規則6条1項により,通常1キロメートル37円を基準とし,1キロメートル未満の端数を切り捨てる。路程賃は徒歩だけを対象とするものではない。
タクシーを利用したからといって,その代金全額が当然に支給されるわけではない。通常の路程賃で実費を支弁できない天災その他やむを得ない事情がある場合の例外は,同条2項で確認する。移動の事情と資料を示して支給額を確認する。
3 宿泊料
宿泊料は,出頭等に必要な夜数に応じて支給される(費用法23条)。費用規則8条は,所定の国家公務員の宿泊費の算定額と同額とする基準を置いている。古い資料の「甲地方・乙地方」の金額をそのまま現在の額とせず,宿泊地・日程・必要性と現行の基準を確認する。
宿泊費を先に自己負担した場合も,予約記録・領収書等を残す。宿泊した事実だけで支給対象・額が決まるとは限らない。
第4 申請当事者の予納と,証人の請求・放棄
1 証人費用の予納を確認する
証人の旅費日当等を裁判所から支給するため,証人尋問を申し出た当事者に必要な費用の予納が求められる場合がある(費用法11条・12条)。申立手数料に郵便費用相当額が組み込まれたことは,証人費用の予納まで一律に不要になったという意味ではない。
申請当事者は,証人が給付を請求する予定か,裁判所が求める予納額・納付方法・期限は何かを,尋問期日前に確認する。証人に請求をしないことを一方的に前提として,必要な予納を省かない。
2 放棄する前に負担と支払先を整理する
証人が旅費日当を請求しない場合や放棄する場合でも,裁判所への請求をしないことと,当事者から別途の支払を受けることは同じではない。放棄書の提出が必要か,どの範囲を放棄するのかは担当書記官に確認する。
申請当事者が証人に直接支払った費用は,裁判所が法定の給付として支給した費用とは区別して記録する。支払先・目的・額を整理し,後の費用額確定の計算で二重計上や法定費用への混入をしない。
3 宣誓・証言を拒んだ場合等
正当な理由なく宣誓又は証言を拒んだ者には,費用法18条1項ただし書により旅費日当等の請求が認められない。同条3項は,前払いを受けた者が正当な理由なく出頭せず,又は宣誓・証言等を拒んだ場合の返納も定めている。
費用給付とは別に,不出頭に対する費用負担・過料等が問題になる。証人が正当な理由なく出頭しなかった場合の取扱い及び民事裁判の宣誓書と宣誓拒絶を参照されたい。
第5 証人へ交通費や謝礼を渡すときの注意
弁護士職務基本規程75条は,偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし,又は虚偽と知りながらその証拠を提出することを禁止する。裁判所への法定の請求と,当事者側が任意にする支払を分け,支払を証言の内容や裁判の結果の対価にしないことが必要である。
証人の交通費等について当事者側で負担を検討する場合は,実際の負担,支払目的,金額,時期・方法を明らかにし,証言を有利に変えてもらうための利益と受け取られる条件を付けない。費用法の支給額や請求放棄の制度があることから,任意の高額な謝礼が適法になるわけではない。
裁判所への請求を放棄してもらうことを前提に,証言の内容を約束させたり,真実を話す対価を取引したりしてはならない。支払を求められた事情に疑問がある場合は,支払前に担当弁護士と整理する。
第6 出廷前に確認する事項
① 呼出しを受けた事件番号,日時,出頭場所と担当書記官の連絡先を確認する。
② 裁判所に旅費日当等を請求する予定を伝え,請求書・振込先・提出資料を確認する。
③ 交通経路,利用予定の交通手段,前泊・後泊の必要性を示し,支給の条件を確認する。
④ 申請当事者は,必要な予納額・期限と,証人側の請求予定を確認する。
⑤ 当事者からの直接支払がある場合は,法定給付と分けて記録し,証言内容の対価にならないことを確認する。
⑥ やむを得ず出頭できなくなった場合は,放置せず直ちに裁判所へ連絡する。
第7 出典と関連記事
① 民事訴訟費用等に関する法律2条,11条・12条,18条,21条から25条。
② 裁判所民事訴訟費用等に関する規則2条,6条から8条及び令和8年最高裁判所規則第10号附則。
③ 日本弁護士連合会弁護士職務基本規程75条。
④ 裁判員等の日当。裁判員の制度と,民事の証人費用を区別して確認する。