第1 供給停止の通知を受けたときに整理すること
「他社の商品を扱うなら供給を止める」「他社製装置では当社の商品を使えない」と告げられた場合は,通知の内容,実際の供給状況及び妨げられた取引を分けて記録する。競争者の商品を扱う販売店,購入する顧客,新規参入企業では,被害の内容も求める対応も異なる。
まず,誰が誰に,どの商品・役務について,どの条件を示したのかを図にする。卸売業者への圧力と,その先の購入者への説明を混ぜず,日時,担当者,対象地域,取引数量及び期間を対応させる。契約書に競争者との取引禁止が書かれていなくても,供給停止の通知が相手方の行動を事実上拘束したかを確認する。
供給継続が必要な場合は,契約上の義務,代替調達の可否及び事業停止の切迫性も並行して調べる。既存契約に基づく履行請求と独占禁止法上の請求は,それぞれの根拠と要件を整理する。供給拒絶の外形だけで違法性が決まるわけではなく,供給能力,信用不安,安全性等の具体的事情も必要となる。
第2 直接妨害された商品と,競争が弱まる市場を分ける
例えば,消耗品を販売する企業が,その競争者の新型装置について「使えない」と購入予定者に説明した場合を考える。調べる対象は,装置の商談が断念されたという直接の影響と,その装置を通じた消耗品の販売拡大が妨げられたという影響の双方である。
消耗品の市場への影響を説明するだけでは,装置の取引に対する妨害の検討が抜ける。一方,装置の一商談が失われたことだけで,消耗品市場の競争が実質的に制限されたとまではいえない。商品ごとの顧客,代替品,販売経路及び失われた機会を記録し,両者をつなぐ事情を示す。
不公正な取引方法の一般指定14項は,自己と国内で競争関係にある他の事業者とその取引相手との取引を不当に妨害する行為を対象とする。行為者が妨害された装置を販売していないという理由だけで検討を終えず,他の商品での競争関係,妨害された取引及び手段の不当性を確認する。
競争者との取引をしないことを条件とする取引は一般指定11項,その他の活動制限は同12項なども候補となる。排除型私的独占については,独占禁止法2条5項・3条の競争の実質的制限を別に検討する。不公正な取引方法と私的独占の要件を同じものとして扱わない。
第3 互換性・安全性の説明は,根拠と説明先を確かめる
物理的な認証ロック等により使えなくした場合と,実際の互換性を確認せずに「使えない」と説明して導入をためらわせた場合では,必要な証拠が異なる。後者では,説明時点の仕様,確認試験の有無,試験条件,対象機種及び説明先への影響を調べる。「安全のため」という言葉だけで合理性を認めず,逆に試験未実施だけで説明が虚偽だったと決めつけない。
公正取引委員会の令和2年3月12日公表資料は,日本メジフィジックスについて,地域別価格での競争者との取引に対する供給停止の意思表示,特定自動投与装置を使用できないとの根拠不明確な説明及び競争者の商品を買う医療機関への当日配送拒否を,違反の疑いがある行為として示している。
この事例では,装置の確認試験結果を医療機関へ通知する措置等を含む確約計画が認定された。ただし,確約認定は独占禁止法違反を認定したものではない。個別企業についての違反断定や損害賠償責任の認定に置き換えず,説明の根拠と,説明を受けた顧客の判断を調べる際の参考とする。
第4 証拠を残し,事業継続と損害の調査を進める
通知書,電子メール,チャット,価格表,注文書,回答,見積書及び仕様書は,日時・送信者・添付資料との対応を保って保存する。口頭説明は,その直後に内容を記録し,可能であれば認識を確認する文書を送る。取引先から提供を受ける資料は,提供の権限,秘密保持及び提出できる範囲も確認する。
社内では,次の資料を営業,技術,経理及び法務で共有すると調査が進めやすい。
① 供給停止の通知と,実際に拒否・遅延された注文の一覧
② 中止された商談,顧客の説明,契約成立の見込みを示す記録
③ 代替調達の照会,回答,納期,追加費用及び供給能力
④ 互換性・安全性の仕様,試験記録,事故情報及び説明資料
⑤ 商品別・顧客別の売上,原価,利益及び行為前後の実績
損害額の試算では,失われた売上全額を当然に逸失利益としない。取引が成立した見込み,得られたはずの利益,販売しなかったことで支出を免れた費用,代替取引,行為以外の減収原因を確認する。装置の売上と消耗品の将来利益を請求する場合は,予測の根拠と重複計上の有無を点検する。代替調達等による損害拡大の防止も記録しておく。
第5 公取委への申告,差止め,損害賠償を選ぶ
独占禁止法45条に基づく公取委への報告は,競争上の問題について行政の調査を求める経路である。被害の回復に向けた民事上の手続は,これと区別して準備する。
同法24条の差止請求は,8条5号又は19条違反による利益侵害又はそのおそれと,著しい損害又はそのおそれを要する。3条の私的独占違反だけから24条の差止めを導くことはできない。供給不能で事業が止まる時期,代替の限界,顧客流出及び求める停止・予防措置を具体化する。
同法25条・26条の損害賠償は無過失責任を定める一方,裁判上の主張には所定の排除措置命令又は納付命令の確定が必要である。確約認定をこの命令確定と同視しない。民法709条による請求は,故意・過失,権利又は法律上保護される利益の侵害,損害及び因果関係を別途検討する。行政の判断を待つかどうかと,民事請求の時効管理も,請求根拠ごとに確認する。
第6 和解金の受領・支払・消費税を別々に判定する
法人が損害賠償金を受ける場合,法人税基本通達2-1-43は,原則として支払を受けるべきことが確定した事業年度の益金に算入し,実際に支払を受けた年度の益金とする経理も認めている。合意・判決・入金の日時と経理処理を確認し,紛争中だから一律に計上不要とは扱わない。
同通達の注記は,損害の発生した年度の損失と,保険金又は共済金で補填される部分の関係を示している。営業機会を失ったという主張だけで,未実現の売上をそのまま税務上の損失に計上することはできない。民事上の逸失利益の計算と,帳簿上発生した費用・資産損失の処理を分ける。
将来の逸失利益・経費等を補填する営業補償金等については,同じ資料の2-1-40が受領年度の益金とする取扱いを示している。将来年度に対応するという理由だけで繰り延べず,賠償・補償の実質と適用する通達を確認する。
支払側の法人については,法人税基本通達2-2-12・2-2-13の債務確定と損害賠償金の取扱いを確認する。業務に関連して与えた損害の賠償額が期末までに未確定でも,期末までに相手方へ申し出た額等から保険金等で補填されることが明らかな部分を除き,未払金に計上した場合の取扱いがある。社内の概算額を置いただけの場合とは区別する。
消費税では,国税庁「損害賠償金」のとおり,純粋な損害の補填は通常,対価に当たらず課税対象外である。ただし,実質が権利の使用料等なら,賠償金という名目でも課税関係が変わる。和解金に商品代金,使用料,追加サービスの対価及び損害の補填が含まれる場合は,実際の給付内容と算定根拠に沿って区分する。
受取金の課税対象外と,回収費用の仕入税額控除は別の問題である。国税庁の質疑応答は,課税対象外の損害賠償金を得るための課税仕入れについて,個別対応方式では共通対応になるとしている。弁護士費用等を受取金と同じく控除対象外と決めず,費用の課税区分,計算方式及び帳簿・請求書の保存要件を確認する。
第7 相談・和解協議に持参する資料と関連記事
相談時には,取引関係図,通知と注文の時系列,技術的説明の資料,失注一覧,代替調達の記録,損害額の試算及び入出金・保険の資料をそろえる。和解条項では,今後の供給条件,顧客への説明の訂正,既存の損害,支払時期及び給付内容を対応させ,税務処理に必要な根拠も残す。
本稿の法令・行政資料は令和8年10月10日に確認した。確約事例は令和2年の公表資料であり,国税庁の回収費用の質疑応答は令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく回答である。上記の証拠整理と部門間の連携は,これらの資料を踏まえた実務上の検討手順である。
① 不公正な取引方法に関する実務メモ(AIリライト)
② 交換部品・保守サービスの締出しと独占禁止法―アフターマーケットと技術的ロックアウト(AI作成)
③ 損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権―破産,財産調査及び回収記録の実務(AI作成)
④ 令和6年司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)