第1 この記事の要点
本記事は,成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が本人の意思決定を支援するときの考え方と手順を,大阪意思決定支援研究会の「意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン」(令和6年12月補訂版。以下「大阪版ガイドライン」という。)と,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)が月刊大阪弁護士会に連載している大阪家裁後見センターだよりに即して整理するものである。
結論は次のとおりである。
①後見人等は,本人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重しなければならない(民法858条,876条の5第1項,876条の10第1項)。
意思決定支援は,この義務を実践するための考え方と手順である。
②大阪版ガイドラインは,全ての人は意思決定能力がないと評価されない限り能力があると推定されること,意思決定能力は「その時点」で「その課題」ごとに判断され,精神上の障害や後見等の開始だけで能力を欠くとされないことなど,六つの原則を掲げている。
③非日常的な課題(居所の決定,重要な財産行為等)については,課題ごとに本人を中心とする支援チームを編成し,プレミーティングで準備した上で,本人を交えたチームミーティングで本人の意思を引き出し,読み取る。
④意思決定能力は,情報の理解,記憶保持,情報の比較考察及び意思の表現の4要素について,支援を受けてもなお満たせないものがあるかを踏まえ,支援チーム全員の意見として評価する。
⑤代行決定は最後の手段であり,課題に期限があることを前提に,本人の意思表明が得られず意思決定能力がないと判定された場合,本人に見過ごすことのできない重大な影響を与える場合(三つの事情を全て満たす場合),又は第三者の権利を侵害する場合に検討される。
本人の希望が客観的に実現困難であるというだけで代行決定に移ることには慎重であるべきとされている。
⑥代行決定は後見人等が行うが,その内容は本人の意向,感情,価値観等に基づく最善の利益(主観的最善の利益)に基づき,支援チームで検討する。
⑦大阪版ガイドラインは研究会が示した行動指針であり,後見人等の代理権・同意権の範囲を広げるものではない。
代行決定の結論を実行する場合も,後見人等が法律上有する権限の範囲内で,必要な許可等を得て行うことになる。
本記事の基準日は令和8年10月10日である。
大阪版ガイドラインは,大阪弁護士会のウェブサイトに掲載されたPDF(42頁)を用い,主に本文1頁~26頁(総論,意思決定支援の手順及び代行決定)によった。
巻末のアセスメントシートと個別事例の検討は,本記事では手順の説明に必要な限度でしか触れない。
大阪家裁後見センターだよりは,第36回(意思決定支援),第48回(チームの一員としての後見人等)及び第51回(統一書式の策定経緯や目的等)を用いた。
第2 意思決定支援の位置付け
1 法律上の根拠
民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
保佐人については民法876条の5第1項が同じ趣旨を定め,補助人には同項が準用される(民法876条の10第1項)。
第36回1頁は,成年後見制度利用促進基本計画(平成29年3月24日閣議決定)が,以前には成年後見人の職務として財産管理が重視され,必要な場面で本人に意思決定させ,それを支援したり,本人の意思を把握・推測したりすることが疎かにされてきたのではないかと指摘したことを紹介している。
第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)でも,意思決定支援は権利擁護支援の重要な要素とされている(第36回1頁)。
2 大阪版ガイドラインと全国版ガイドライン
大阪版ガイドラインは,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)の裁判官及び家庭裁判所調査官と,三士会(大阪弁護士会,大阪司法書士会・公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部,公益社団法人大阪社会福祉士会)所属の専門職らが結成した大阪意思決定支援研究会が,平成30年3月に策定したものである(大阪版ガイドラインはしがき)。
その後,令和2年3月と令和6年12月に補訂された。
令和6年12月補訂版は,表現を改めたほか,後記の全国版ガイドラインとの関係に関する記述を盛り込み,代行決定の位置付けやその際の考慮要素等の記述を新しくしたとしている(同補訂版はしがき)。
これとは別に,最高裁判所,厚生労働省,日本弁護士連合会,リーガルサポート及び日本社会福祉士会で構成された意思決定支援ワーキング・グループが,令和2年10月30日に「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(以下「全国版ガイドライン」という。)を公表している(大阪版ガイドライン6頁,第36回2頁)。
大阪版ガイドラインは,全国版ガイドラインについて,その基本思想と方向性は大阪版ガイドラインと軌を一にするものであり,運用に当たっても大いに参考とされるべきものであるとしている(大阪版ガイドライン6頁)。
第51回6頁は,大阪版ガイドラインが近時改訂されたことに触れ,大阪弁護士会の高齢者・障害者総合支援センター「ひまわり」のウェブサイトから入手できるとして,一度手に取って実践するよう求めている。
3 ガイドラインと法律上の権限
大阪版ガイドラインは,後見人等が後見等事務を行う際の行動指針である(大阪版ガイドライン1頁)。
ガイドラインに従った手続を踏んだからといって,後見人等が法律上持っていない代理権や同意権が生じるわけではない。
例えば,保佐人や補助人の代理権は代理権付与の審判で定められた範囲に限られ,居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要である(民法859条の3,876条の5第2項,876条の10第1項)。
意思決定支援の手順は,これらの法律上の枠組みの中で,誰が何をどのように決めるかを丁寧にするためのものと理解する必要がある。
第3 意思決定支援の六つの原則
大阪版ガイドライン3頁は,意思決定支援の原則として次の六つを掲げている。
①全ての人は意思決定能力がないと評価されない限り,能力があると推定される。
②意思決定能力の有無は,「その時点」で「その課題」ごとに判断され,精神上の障害があること,成年後見等が開始されていること,及び成年後見等が相当であるとの医師の診断があることをもって,本人が意思決定能力を欠いているとされない。
③一見,不合理にみえる意思決定を行ったということだけで,本人には意思決定能力がないと判断されることはない。
④本人の意思決定を助けるあらゆる実行可能な方法が尽くされたのでなければ,本人は意思決定ができないとはみなされない。
⑤本人が意思決定能力を欠くために最後の手段としてなされる代行決定は,本人の主観的最善の利益のために行われなければならない。
⑥代行決定は,本人にとってより制約の小さい方法となるよう留意して行われなければならない。
②は,後見開始の審判があることや,医師の診断書で後見相当とされていることを理由に,個別の課題について本人に聞かずに決めてはならないことを意味する。
後見等の類型は法律行為の効力に関わる区分であり,個々の課題について本人が意思を形成し表明できるかとは別に判断される。
第4 ガイドラインで用いられる用語
1 意思決定支援と本人中心主義
意思決定支援とは,特定の行為に関する判断能力が不十分な人について,必要な情報を提供し,本人の思いや考えを引き出すなどして,本人が意思決定をするために必要な支援をする活動をいう(大阪版ガイドライン3頁)。
大阪版ガイドラインは,本人があらゆる支援をもってしても意思決定ができない,あるいは表明された意思を実現できない場合に,最後の手段として後見人等による代行決定へと至る一連のプロセスも検討の対象としている(同頁)。
本人中心主義(person-centered)とは,「意思決定の中心に常に本人を置く」という理念であり,本人に関わる事項は基本的には本人が同席する場で,本人の意思に基づいて決定されなければならないというものである(大阪版ガイドライン3頁)。
同頁は,これを「物事を決めるのは本人である」「本人のことを本人抜きで決めない」と言い換え,後見人等や支援者の価値観や判断等を本人に押しつけてはならないという意味も併せ持つとしている。
2 エンパワメント
大阪版ガイドライン4頁は,意思決定をした経験に乏しい本人については,その日に着用する衣服をどれにするか,散歩に出かけるかといった日常の事柄についても意思決定を支援していくことが必要であるとする。
このような関わりが日常的に繰り返されれば,本人は自身の意思を尊重される体験を積み,自信をもって意思を表明できるようになるとされている(同頁)。
3 意思決定能力
意思決定能力は,その時点における,その課題に関して,情報の理解,記憶の保持,情報の比較考察,意思の表現というコミュニケーションの4要素のほか,本人の障害や脳損傷の程度などの医学的な要素も参考にして評価される(大阪版ガイドライン4頁)。
同頁は,意思決定能力の有無は支援チームの支援力によって差が生じ得るから,「意思決定能力がない」との評価になった原因がチームの支援力の弱さに起因しないか,よく振り返る必要があるとしている。
4 代行決定と最善の利益
代行決定とは,意思決定支援を尽くしても本人が意思を決定できない場合等に,最後の手段として後見人等が本人に代わって決定することをいい,意思決定支援そのものとは区別される(大阪版ガイドライン4頁)。
最善の利益には,支援者の価値観に基づき本人にとって客観的・合理的に良いと考えられるもの(客観的最善の利益)と,本人の希望や価値観などを最大限に考慮し,本人の価値観において最善と考えられるもの(主観的最善の利益)がある(大阪版ガイドライン4頁~5頁)。
大阪版ガイドラインは主観的最善の利益を採用し,意思決定支援におけるチームミーティング参加者により判断されるものとしている(同5頁)。
なお,意思決定支援の場面では,あくまで本人が表明した意思を中心に支援が行われ,主観的最善の利益も客観的最善の利益も検討されることはないとされている(同頁)。
第5 意思決定支援の手順
1 日常生活上の意思決定と環境整備
大阪版ガイドラインは,日常生活上の意思決定支援(何を食べるか,どんな服を着るか等)と,非日常生活上の意思決定支援(居所の決定,重要な財産行為,周囲の人間関係の変動等)を分けている(大阪版ガイドライン1頁)。
日常生活上の意思決定は,基本的には本人と常時接する親族や介護サービス事業所のスタッフ等の支援を受けて行われる(大阪版ガイドライン7頁)。
後見人等は,速やかに支援者の輪に参加して本人の状況を把握し,「支援者が本人の意思や嗜好等を把握し,それを尊重することができているか」「本人に関わる事柄が,支援者が(客観的に)最善と考える方法によって決定されていないか」に注意を払い,そうでなければ支援者に本人の意思に沿った支援を促す役割を担う(同頁)。
それでも対応が改善されない場合には,介護支援専門員,地域包括支援センター,中核機関等と,事業所との利用契約の当否について協議・検討するとされている(同頁)。
2 状況把握と支援者の輪への参加
後見人等は,選任後,地域包括支援センター,介護支援専門員,障害者相談支援事業所,市町村の担当者,民生委員,親族などに接触して支援の内容や程度を確認し,本人の生活歴,心身の状況,本人が目指す暮らし及びキーパーソン(本人が最も信頼している人)を把握する(大阪版ガイドライン9頁)。
その際,収集した情報には常に提供者の評価が含まれていることを認識し,収集した情報をもって本人を理解したとしないことが求められている(同頁)。
後見人等は,日常の支援者に働き掛けて本人を交えた面談を試み,誰がどのように本人の意思を引き出しているか,本人は周囲の聴き方によって反応を変えていないかといった点を観察する(同9頁~10頁)。
3 支援チームの編成
非日常生活上の課題について本人の意思決定を支援するため,課題ごとに意思決定支援チーム(以下「支援チーム」という。)を編成する(大阪版ガイドライン11頁)。
支援チームには,(a)本人の日常生活を知る者,(b)専門的知見から発言ができる者,(c)その課題について本人に適切な選択肢を示すことができる者が参加することを要するとされている(同頁)。
例えば居所が検討される場合には,建築業者,大家・管理人,近隣住民等が個別の課題に応じて選ばれる(同12頁)。
他方,本人と利害が対立する者や,本人に対して支配的・介入的な親族等の参加は望ましくなく,本人が参加を拒否する者も参加させるべきではないとされている(大阪版ガイドライン11頁注10)。
本人に対するミーティングの趣旨説明は,キーパーソンが本人の理解度に合わせて行うのが望ましく,「分からないことは分からないと言える」「嫌なことは嫌と言える」ことが本人の権利であることを分かりやすい言葉で伝えることが重要であるとされている(同12頁)。
4 プレミーティング(事前打合せ)
支援メンバーは,本人に対する意思決定支援の準備のため,あらかじめチームで集まり,本人のニーズや置かれた状況等の情報を共有し,意思決定支援の基本原則等の共通認識を得ておくほか,場の設定や情報提供の在り方を検討する(大阪版ガイドライン13頁)。
本人が不在の場で会議を開くことは本来望ましくないが,チームミーティングの目的やルールを参加者が確認しておく意義が大きいとされている(同頁)。
もっとも,プレミーティングの持ち方が硬直的であってはならず,事案によっては短時間でポイントを絞ったミーティングをするなど柔軟な対応が求められることもあるとされている(同頁)。
プレミーティングでは,チームミーティングは課題について本人の意思を本人中心に聴き取るための会議であってメンバーの立場や意見を述べる場ではないこと,プレミーティングも本人を説得するための介入方法を検討する会議ではないことを確認する(大阪版ガイドライン14頁)。
参加者がしてはいけないこととして,本人にとって望ましいと考えることを押しつけたり,その方向に誘導したりすること(例「○○した方がいいね」),本人の話を否定・批判することが挙げられている(同頁)。
「○○は大変そうだね」「どうして○○しないの?」といった何気ない言葉も,本人には特定の方向を求められていると受け取られ得ることに注意が必要である(同15頁)。
後見人等は,チームミーティングにおいて,参加者が本人を説得したり意見を押しつけたりしていないか,本人が萎縮していないか,参加者の顔色をうかがいながら発言していないかをチェックし,そのような進行を見たときは指摘して是正を促す役割を負う(大阪版ガイドライン15頁)。
プレミーティングで検討する事項として,大阪版ガイドライン16頁~17頁は次のものを挙げている。
①いつ,どこで,誰が,チームミーティングを開くか(本人が意思決定しやすい環境)。
②誰が本人と直接対話するのか。
③いつまでに意思決定をすることが求められているか。
④予想される本人の表明意思は実現できるか,実現できない場合に示せる他の選択肢はあるか。
⑤写真・映像等の分かりやすい情報提供,「Yes-No」ではなく「なぜ?」「どうしたい?」という形の質問,見学・体験・パンフレット等の具体的な選択肢など,どのようなコミュニケーションの手法が適切か。
選択肢自体が周囲の思惑で限定されていれば,真の意味で本人の意思決定を支援することにはならないから,選択肢の見込みを立てることが本人に選択の余地を失わせるものであってはならないとされている(大阪版ガイドライン16頁注18)。
5 チームミーティング
チームミーティングでは,参加者は本人の置かれている状況を分かりやすく説明しつつ,プレミーティングで決めた方法に従って本人に働き掛け,意思を引き出す(大阪版ガイドライン18頁)。
本人の意思が以前の言動により既に表明されているように見える場合でも,同じ方法のみで問い掛けるのではなく,別の視点から質問したり意思を表明した理由を尋ねたりして,本人が真にこだわっている事柄が何かを確認する必要がある(同頁)。
意思決定の経験に乏しい本人には,日常生活の場面から選択する経験を積み重ねながら,図,絵,写真など本人が理解できる形で説明する(意思形成支援)(大阪版ガイドライン18頁~19頁)。
本人が安心して話せる場所や体調の良い時間帯に配慮し,決断を迫ってあせらせたり話をさえぎったりしない(意思表明支援)(同19頁)。
本人の回答や反応(動作,仕草,視線,表情等)から意思を読み取った結果は,次のように分けて扱う(大阪版ガイドライン19頁~20頁)。
①表明した意思がそれまでの意思(本人の好み,価値観など)と合致している場合は,本人の真意に基づく可能性が高く,参加者の価値観からみて不合理に見える決定であっても本人の選択を尊重し,その実現の検討(意思実現支援)に移る。
②それまでの意思と合致しない場合や,日にち,時間帯,尋ねる相手によって異なる場合でも,安易に本人の意思は不明であると即断せず,発言の背景や時間をおいた再確認を検討する。
③本人が意思を表明しない場合やあいまいな場合でも,様々な角度からの情報提供や問い掛けを続け,本人の希望を引き出す努力をする。
本人意思の解釈について支援チーム内で意見が分かれた場合は,まずミーティングを重ねて意見交換を行い,個々の経験や勝手な意見に左右されていないか,議論の論点がずれていないかなどを考え,必要に応じて新たな福祉関係者や専門職をメンバーに加えることも考えられる(大阪版ガイドライン20頁~21頁)。
本人が意思決定をしても,それが実現しなければ意味の乏しいものとなるから,大阪版ガイドラインは意思実現支援も意思決定支援に含まれるものと整理している(同21頁)。
同頁注22によれば,全国版ガイドラインでは意思実現支援は意思決定支援には含まれず,後見人等による身上保護の一環として実践されることが期待されるとされている。
6 意思決定能力の評価
意思表明支援を相当期間続けても本人の意思が表明されたとは認めがたく,意思決定すべき課題に期限がある場合は,「本人には,その時点で,その状況で,その事柄に限って意思決定能力がない」と判断することも考えられ,代行決定への移行も念頭に置いて意思決定能力の評価に移る(大阪版ガイドライン21頁)。
評価は,各支援メンバーがチームミーティングでの本人の回答や反応を観察し,課題ごとにアセスメントシート(様式3)を用いて行う(大阪版ガイドライン22頁)。
同一のミーティングで複数の課題を検討した場合でも,評価は課題ごとに行う(同頁注23)。
意思決定能力は,本人の医学的な要素のほか,次の4要素の中に,支援者によるサポートを受けてもなお満たすことができないものがあるかどうかを踏まえて検討し,支援メンバー全員の意見として本人に意思決定能力がないと判断した場合に,代行決定に移行することを検討する(同頁)。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 情報の理解 | 当該意思決定に必要な情報を理解すること |
| 記憶保持 | 当該意思決定に必要な情報を頭の中に保持すること |
| 情報の比較考察 | 当該意思決定に必要な情報を選択肢の中で比べて考えること |
| 意思の表現 | 自分の意思決定を口頭,あるいは手話その他の手段を用いて表現すること |
記憶保持について,前の問い掛けに対する回答を数十分後に忘れていても,再度同じことを問い掛けて同じ回答が得られた場合は,支援を受ければ記憶保持の能力は維持されているのと同等と評価できる場合もあるとされている(大阪版ガイドライン22頁注25)。
意思決定能力がある(ないとはいえない)と判断された場合は,本人の意思の実現を図る(大阪版ガイドライン23頁)。
意思の実現が客観的に不可能であっても本人に意思決定能力があると評価される場合には,実現を困難にしている問題を本人が理解しやすい形で説明し,情報提供を続けるなどの支援を続けることになる(同頁)。
第6 代行決定
1 基本的な考え方
代行決定に移る前に,支援チームで再度プレミーティングを行い,本人の表明意思の背景にある事情等も踏まえて,他に対応すべき課題の有無を検討することも必要であるとされている(大阪版ガイドライン24頁)。
代行決定は,「本人の意向,感情,価値観等に基づく最善の利益(主観的最善の利益)」に基づいて検討される(大阪版ガイドライン24頁)。
代行決定を行う者は後見人等であるが,その具体的な内容は,チームミーティングに表れた本人の意向や希望を踏まえて支援チームで検討する(同頁)。
支援チームは,選択肢のメリット・デメリットを比較考量する際,できるだけ本人の自由に対する制限が最小になるよう留意する(同頁)。
2 代行決定が検討されるべき場合
大阪版ガイドライン25頁は,決定すべき課題に期限があることを前提に,次の三つの場合に代行決定を検討するとしている。
①あらゆる実行可能な方法を尽くしたが本人の意思表明が得られず,意思決定能力判定の段階に進んだ結果,意思決定能力がないと判定された場合。
意思表明が得られない場合とは,本人が意思を全く表明しない場合,表明した意思があいまいで内容を特定できない場合,表明する意思が時間帯,日にち,尋ねる相手によって変わり内容を特定できない場合をいう。
②本人が表明した意思を実現すると本人に見過ごすことのできない重大な影響を与える場合。
③本人が表明した意思を実現すると第三者の権利を侵害する場合。
②の「見過ごすことのできない重大な影響を与える」といえるのは,次の事情を全て満たす場合と考えられるとされている(大阪版ガイドライン25頁)。
①本人の生命・身体の安全又は経済的安定を明らかに害し,尊厳のある本人らしい生活ができなくなる。
②その重大な影響がいったん発生すると,本人に回復できない損失,被害が発生する。
③その重大な影響が発生することがほぼ確実である。
いずれの場合も,判断に至った経過は,アセスメントシート(様式3)で記録化すべきであるとされている(大阪版ガイドライン25頁注28)。
3 客観的に実現困難というだけで代行決定に移らない
大阪版ガイドライン25頁注29は,本人が表明した意思が客観的に実現不可能な場合には,その時点でその課題について意思決定能力がないと判断して代行決定に移るという考え方もあるとしつつ,表明意思に客観的な実現可能性がないことだけを理由として代行決定に移行することは,主観的最善の利益を追求しようとするガイドラインの立場とは整合しない面があるとする。
そして,このような場合に代行決定に移るべきかは慎重に判断すべきであり,前記②の重大な影響又は③の第三者の権利侵害といった観点からの検討が必要であって,特に経済的理由により客観的実現可能性がないと判断することは,しばしば安易な代行決定に流れがちであることに留意すべきであるとしている。
この点は,令和5年に掲載された第36回の説明と比べて注意が必要である。
第36回4頁~5頁注11は,代行決定に移行することを検討すべき「見過ごすことのできない重大な影響が生じる場合」の例として,本人の生命・身体その他の重大な権利を侵害する場合,本人に重大な不利益が生じる場合,身体的・経済的な理由等により客観的に実現が困難である場合及び第三者の権利を侵害する場合を挙げていた。
令和6年12月補訂版は,重大な影響の要件を三つの事情の全てを満たす場合に絞り,客観的な実現困難を独立の理由とすることに慎重な立場を明示している。
現在の実務では,補訂版の記述によるのが相当である。
4 代行決定における留意点
大阪版ガイドライン26頁は,代行決定における留意点として,次の3点を挙げている。
①本人の表明意思と異なる決定をする場合,本人に対し,本人が表明した意思が実現不可能ないし困難であること及びその理由を伝えることが重要である。
②代行決定は常に一定の行為をする方向に決定されるとは限らず,本人の主観的最善の利益の内容によっては,消極的に何もしない方向での決定もあり得る。
③後見人等が主観的最善の利益に基づく代行決定を行うことは,善管注意義務を果たすものと評価される。
③は研究会の見解であり,個別の事案で後見人等の責任が争われた場合の裁判所の判断を拘束するものではない。
もっとも,第1の結論⑦のとおり,代行決定も法律上の権限の範囲内で行われるものであるから,手続を尽くした経過を記録に残しておくことが,後に判断の相当性を説明する基礎になる。
5 全国版ガイドラインとの比較
大阪版ガイドライン26頁によれば,全国版ガイドラインは,代行決定の検討に際して「本人の意思の推定」を行い,意思推定すら困難な場合又は本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合には,後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した,本人にとっての最善の利益に基づく方針を採るとしている。
大阪版ガイドラインは,表現はやや異なるものの,全国版ガイドラインの代行決定に対する考え方は大阪版ガイドラインと軌を一にするとしている(同頁)。
本記事では全国版ガイドラインそのものの各頁は確認しておらず,両者の関係は大阪版ガイドラインの説明によった。
第7 居所の決定の例
第36回5頁~7頁は,在宅の本人の家が老朽化して危険なため施設への入居を検討する必要があるが,本人は自宅での生活にこだわり,施設入居の話をすると怒って声を荒げてしまうという事例で,手順を説明している。
①日頃から支援者による日常生活上の意思決定支援が行われ,本人が個別課題について意思決定支援を受けられる程度にエンパワメントされている環境を整える。
②本人の日常生活を知る者,後見人等のほか,建物の安全性について選択肢を示せる者(建築業者等)を支援チームに加える。
③プレミーティングで建物と本人に関する情報を共有し,雨漏りや傾きの写真で老朽化を示す,居住年数や思い出を尋ねる,オープンな質問を用いる,別の家や施設のパンフレットを用意するなどの方法を検討する。
④チームミーティングで本人が「家を離れたくない」と述べ,それがこれまでの意思と合致していれば,真意に基づく可能性が高いから,その実現を検討する。
⑤もっとも,台風等で建物が倒壊し本人に危険が及ぶおそれが高いなど見過ごすことのできない重大な影響が生じ,一定の期限までに結論を出す必要がある場合には,代行決定への移行を検討する。
この事例でも,④の段階では,本人の意思を実現する方法(補修の可否,見守りの強化,一時的な避難先の確保等)を検討することが先であり,⑤の要件を満たすかどうかは,前記第6の2の三つの事情に照らして支援チームで判断することになる。
施設入所に伴って自宅を売却・賃貸する場合には,居住用不動産の処分許可が別に必要になる(民法859条の3)。
その手続は成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)で扱っている。
第8 家庭裁判所での使われ方と報告書への書き方
1 大阪版ガイドラインが想定する用法
大阪版ガイドライン5頁~6頁は,家庭裁判所における用法として,次のものを挙げている。
①後見人等の選任,解任,辞任許可:ガイドラインに基づく運用が定着すれば,意思決定支援のプロセスを経ずに非日常生活上の決定を代行し本人に悪影響を及ぼした後見人等についても,財産管理に不正があった後見人等と同様に速やかな交代が可能になると考えられる。
②後見等監督(民法863条):後見等事務報告書の添付資料として,アセスメントシートの導入を検討する。
③後見人等の報酬:アセスメントシートを報酬を定める際の資料としても用いることがある。
④居住用不動産の処分許可(民法859条の3):意思決定支援の結果課題が解決したことを示すアセスメントシートが提出された場合,処分が本人の意思に基づくもので悪影響を及ぼすおそれはないとの疎明があったと判断されるとしている。
④は研究会の考え方を示したものであり,許可の判断は個別の申立てごとに家庭裁判所がする。
2 統一書式の意思確認欄
令和7年4月から全国で使われている後見等事務報告書の統一書式は,本人の意思確認や面談等の状況を報告対象としている。
第51回3頁は,運用開始から1年余りの振返りとして,飽くまで印象の範囲であると断った上で,「どのように本人の意思を確認(又は推定)したか」の記載は「本人と面談の上確認した」などといった抽象的な記載にとどまるものが多く,具体的な内容まで記載された報告はまだまだ少ないとしている。
同頁~4頁は,専門職の後見人等の間でも意思決定支援が十分に実践されているとまではいえなさそうだとしている。
報告書には,本人が実際に述べたことや示した反応,説明の日時・場所・同席者・方法,支援者から得た情報,それらを踏まえた後見人等の評価を区別して書くと,意思決定支援を実践した経過が伝わりやすい。
統一書式の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で扱っている。
第9 令和8年改正との関係
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)は,令和8年6月24日に公布され,成年後見制度に関する部分は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
第51回5頁~6頁は,法改正による見直し後の成年後見制度においては様々な場面で本人の同意が要求されることが見込まれることから,意思決定支援の重要性はより一層高まるとしている。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
第10 関連記事
後見人等が支援チームの一員としてどう関わるか,身上保護事務がどう評価されるかは成年後見人等の身上保護事務とチーム支援―ケース会議への参加,役割分担,苦情への対応と家庭裁判所の評価で扱っている。
後見等開始の申立ての段階での説明と説明状況報告書は本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書で,医療行為の同意は成年後見人の医療行為の同意で,親族の意向の扱いは成年後見事件における親族の意向の取扱い――選任,職務遂行及び解任の各場面における法的地位で扱っている。
大阪家裁後見センターだよりの各回の一覧とテーマ別の索引は,大阪家裁後見センターだよりに掲載している。
第11 出典
1 法令
①民法(858条,859条の3,863条,876条の5,876条の10)
②法務省「「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(令和8年10月10日閲覧)
2 ガイドライン
①大阪意思決定支援研究会「意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン」(平成30年3月策定,令和6年12月補訂)はしがき,本文1頁~26頁 大阪弁護士会(PDF)
②大阪弁護士会「「意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン」補訂のお知らせ」 大阪弁護士会
3 大阪家裁後見センターだより
①第36回(意思決定支援)本文1頁~7頁 本ブログ掲載のPDF
②第48回(チームの一員としての後見人等)本文1頁~9頁 本ブログ掲載のPDF
③第51回(統一書式の策定経緯や目的等)本文1頁~7頁 本ブログ掲載のPDF