第1 最初に依頼者と相談の目的を確認する
相続対策や事業承継では,家族が所有する土地,会社の建物,親子間の貸付け,会社の株式などが一つの相談に現れる。
税額だけを比較すると,会社の資金不足や親の生活資金,ほかの相続人との対立を見落とすことがある。
相談の入口では,誰の依頼を受け,誰の財産について,何をいつまでに決めるのかを整理する必要がある。
本記事では,弁護士と税理士が連携する際の関係図,資産表及び判断事項のまとめ方を示す。
以下の表は相談を整理するための実務上の提案であり,法定の様式ではなく,特定の節税方法の適否を判断するものでもない。
1 家族と会社を一人の依頼者として扱わない
親,子,会社及びほかの相続人は,利害が一致する場面もあれば,異なる場面もある。
会社の利益を増やす方法が,親の生活資金を減らすこともある。
社長個人と会社も区別して,委任契約の相手,費用の支払者,説明を受ける人及び最終判断をする人を確認する。
例えば,親の賃貸建物を子の会社へ売る相談であれば,親が売主であり,会社が買主となる。
子が両者の連絡窓口となっても,親本人の希望と会社の意思決定を,子の説明だけで同一視してはならない。
2 利益相反と情報共有を先に点検する
弁護士職務基本規程27条・28条には,職務を行えない事件や一定の同意が問題となる事件について規定がある。
家族全員の同意があれば,どのような案件でも共同で受任できるというものではない。
既存の顧問関係,受任前の相談,関係者間の対立及び各条の条件を個別に確認する。
受任範囲を決める前に,関係者全員の資料を一括して受け取り,共有してしまうことも避ける。
家族共通の説明資料と,個別の相談で得た秘密を区別し,共有できない情報がある場合には,その制約を踏まえて連携方法を決める。
第2 関係図には所有・経営・債務のつながりを書く
1 人の関係と財産の関係を分ける
家族の続柄だけでなく,土地・建物の所有者,会社の株主・役員,借入人・保証人及び貸付先を図に記載する。
登記事項証明書,株主名簿,契約書,借入明細などで確認し,口頭説明だけの事項には「未確認」と付記する。
| 関係 | 確認する資料・事項 | 相談で確認する理由 |
|---|---|---|
| 家族・相続 | 続柄,既存の遺言,希望する承継者 | 財産を受け取る人と説明が必要な人を把握する |
| 所有・利用 | 不動産登記,賃貸借・使用貸借,利用実態 | 所有者と収益・費用の負担者を区別する |
| 経営・議決権 | 株主名簿,定款,役員,議決権の状況 | 財産移転後に誰が経営判断をするか確認する |
| 債権・債務 | 借入・貸付・保証・担保の資料 | 資産額だけでは見えない負担と資金流出を把握する |
2 株式の金額と経営の支配を分ける
株式の評価額が低く見える場合でも,議決権や役員選任に関わる重要な財産となり得る。
株式を誰が取得するか,経営に参加しない家族へどのような財産を配分するか,納税や代償金の資金をどこから用意するかを,別々の判断事項として整理する。
会社形態,定款,株式の種類,譲渡制限その他の事情によって必要な手続は異なる。
関係図は手続の結論を出す資料ではなく,確認すべき論点を見つける入口である。
第3 資産表には時価・税務評価・現金の動きを分けて記載する
1 一つの評価額をすべての判断に使わない
資産表には,評価目的,評価基準日,資料及び評価した人を記載する。
売買価格の検討,相続税の計算,遺産分割の協議などでは,検討目的や前提が異なる。
同じ数字をそのまま流用できるとは限らない。
未確定の評価額を,確定した税額や処分可能額として説明しない。
資産ごとに,所有者,利用者,収益,維持費,借入残高,担保,処分の制約及び現金化に必要な期間を並べる。
帳簿に記載された財産額と,期限までに支払に使える現金とは区別する。
2 親・子・会社・ほかの相続人の負担を比較する
| 関係者 | 確認する利益・負担 | 先に決める事項 |
|---|---|---|
| 親 | 売却代金,失う賃料,税・維持費,生活費 | 老後の生活資金をどの財産から確保するか |
| 子 | 株式・会社への関与,個人の資金負担 | 個人と会社のどちらが取得・負担するか |
| 会社 | 購入資金,借入返済,税・維持費,収益 | 資金調達と取得後の資金繰りが実行可能か |
| ほかの相続人 | 将来の取得財産,代償金,説明への納得 | 説明する時期と,合意・未合意の事項 |
この比較で「家族全体では有利」と評価する場合も,誰に利益が生じ,誰が負担するかを省略しない。
将来の相続や紛争時に初めて負担が表面化しないよう,生活資金,会社の資金繰り及び家族間の公平について,個別に説明する。
第4 弁護士と税理士の連携事項を一枚にまとめる
1 担当範囲と判断の前提を明示する
税理士法2条は税務代理,税務書類の作成及び税務相談等について定め,2条の2は税理士による補佐人制度を定めている。
弁護士が税理士業務を行う場合の通知等は同法51条に規定されている。
肩書や「共同対応」という表示だけで,各人の受任範囲や手続上の立場が決まるわけではない。
連携表には,法律関係・契約・紛争・会社手続を検討する担当,税目別の課税・申告を検討する担当,評価・会計・資金繰りを確認する担当及び依頼者の決定事項を書く。
双方が同じ前提資料と評価基準日を使っているか確認し,結論が食い違うときは,前提の違いを明らかにする。
2 資料の共有範囲を決める
弁護士職務基本規程23条及び税理士法38条の守秘義務を踏まえ,共有の目的,資料の範囲,受領者,共有の根拠・必要な同意,除外する情報を記録する。
依頼者の了解を確認する際には,「専門家同士で共有する」とだけ説明せず,誰に何を渡すかを具体化する。
個別面談で聞いた家族の希望や,会社が管理する情報を,当然にほかの家族へ開示できると扱わない。
目的に応じて必要な部分だけを整理し,原本・写しの所在,追加資料の請求先及び訂正した情報の伝達方法も決めておく。
第5 選択肢を比べ,実行後の確認まで予定する
1 結論を急がず,現状維持も比較する
「今すぐ移転する」「段階的に進める」「当面は現状を維持する」など,実行可能な選択肢を比較する。
各案について,目的,成立条件,税・費用,必要な資金,関係者の合意,撤回・変更の難しさ及び未確認事項を説明する。
資料が足りなければ,結論を留保し,追加確認の担当と期限を指定する。
例えば,売買が税務上検討可能でも,会社に購入資金がなく,親の生活費が賃料に依存しているなら,実行条件が満たされていない。
その事実を整理したうえで,資金調達や生活資金の確保を検討する。
2 引継ぎと実行後の点検を残す
判断表には,決定者,実行担当,期限,必要な契約・手続・申告,完了を確認する資料及び次回の点検時期を記載する。
「税理士に相談する」「弁護士へ引き継ぐ」で終わらせず,受領した資料,未解決の論点,期限及び受任の可否を相手方専門家と確認する。
実行後は,代金の入出金,契約・登記・会社手続・申告の進捗,生活資金と会社の資金繰りを確認する。
前提が変わった場合には,誰が再検討を依頼するかも決めておく。
第6 関連記事
税務調査・審査請求・租税訴訟における弁護士と税理士の連携では,依頼範囲と資料・期限の引継ぎを説明している。
親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策では,特定の取引について税務と相続上の論点を検討している。
第7 出典
①日弁連・弁護士職務基本規程23条,27条及び28条。
②e-Gov法令検索・税理士法(昭和26年法律第237号)2条,2条の2,38条及び51条。
規程・法令は守秘義務や受任・業務範囲の根拠であり,本記事の関係図や比較表を法定の様式として定めるものではない。