第1 契約の実態を確定してから税務処理を決める
出向者給与負担金の税務は,請求書の名称だけで決めることができない。
最初に,出向元との雇用関係を維持しながら出向先でも雇用関係に基づいて勤務する在籍出向なのか,人材派遣会社による役務提供なのか,出向先による直接雇用なのかを区別する必要がある。
国税庁のタックスアンサーは,出向を,出向者が出向元との雇用関係を維持しながら,出向先との間でも雇用関係に基づいて勤務する形態としている。
これに対し,人材派遣では,派遣された使用人の雇用関係は派遣元との間にだけ存在し,派遣先は派遣元から役務の提供を受ける。
したがって,定年後に出向先が本人を直接雇用し,出向元との雇用関係が終了する場合は,定年前と同じ職場で働いても,定年後の金銭負担を当然に「出向者給与負担金」と処理することはできない。
再雇用後も出向元が雇用主として賃金を支払い,在籍出向を継続するのかを,労働契約と出向契約の双方から確認する必要がある。
第2 消費税の取扱い
1 出向者給与負担金には消費税の課税関係が生じない
国税庁のタックスアンサーNo.6475は,在籍出向について,①出向元が給与全額を支払い,全部又は一部を出向先へ請求する方法,②出向先が給与全額を支払い,全部又は一部を出向元へ請求する方法,③出向元と出向先が給与の一部ずつを支払う方法のいずれでも,出向者に対して給与を支給したものとして取り扱い,給与負担金には消費税の課税関係が生じないとしている。
これは,出向先が出向元から課税役務を購入するのではなく,出向先との雇用関係に基づく給与を負担するという整理による。
請求書に「出向料」「業務委託料」等の名称を付けただけで実態は変わらないため,契約書,指揮命令,給与計算及び負担額の算定根拠を一致させる必要がある。
2 人材派遣の対価は課税対象である
人材派遣は,派遣元が派遣先へ役務を提供する取引であるため,派遣元が受け取る派遣料金は課税売上げとなり,派遣先では原則として課税仕入れとなる。
出向と派遣では消費税の結論が逆になるため,名目だけを出向にするのではなく,雇用関係と事業の実態に基づいて区別する必要がある。
第3 法人税上の給与負担金
1 出向先の使用人として勤務する場合
国税庁のタックスアンサーNo.5245は,出向元が出向者へ給与を支給し,出向先が退職給与を除く給与相当額を給与負担金として出向元へ支出した場合,その負担金を出向先における出向者への給与として取り扱うとしている。
出向者が出向先において使用人である場合は,その給与負担金は,原則として出向先の使用人給与として損金の額に算入される。
給与負担金の月額,賞与の取扱い,社会保険料の事業主負担分,通勤費その他の付随費用をどこまで含めるかは,出向契約で明確にする。
出向元が実際に負担した給与等と出向先の負担額を照合できる明細を保存し,毎月の請求額が契約上の算式と一致するようにする必要がある。
2 出向先で役員となる場合
出向者が出向先で役員となる場合は,給与負担金にも法人税法34条の役員給与に関する規制が及ぶ。
国税庁は,①給与負担金の額について,出向先の株主総会,社員総会又はこれらに準ずるものの決議があること,②出向契約等で出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められていることを示している。
出向元での肩書が使用人であっても,出向先で取締役等に就任する場合は,使用人給与と同じ処理を機械的に続けるべきではない。
出向先の機関決定,出向契約の定め,定期同額給与又は事前確定届出給与等の該当性を個別に確認する必要がある。
3 実際の給与を超える負担金に注意する
出向先が支出した給与負担金が,出向元が出向者に支給する給与額を超える場合,超過部分は給与負担金としての性格を当然には有しない。
国税庁は,超過に合理的な理由がなく,適正な金額の範囲内でない場合は,出向元に対する寄附金として取り扱うとしている。
したがって,会社間の利益調整,赤字補填又は管理料を給与負担金へ混在させるべきではない。
給与以外の役務又は費用を請求する必要がある場合は,給与負担金と区分し,契約上の根拠,対価性及び消費税の課否を別に検討する必要がある。
第4 退職金負担金の取扱い
1 負担金を支出する三つの時期
国税庁のタックスアンサーNo.5242は,出向期間に対応する退職金負担金の支出時期を,①出向先から出向元へ復帰した時,②出向元を退職した時,③出向期間中の三つに分けている。
復帰時又は出向元退職時に支出する場合は,原則として,出向先が支出した事業年度の損金の額に算入される。
出向期間中に支出する場合は,①あらかじめ定めた負担区分に基づいて定期的に支出すること,②出向期間に対応する退職金負担額として合理的に計算された金額であることの二要件を満たすときに,出向先が支出した事業年度の損金の額に算入される。
2 定年退職後も出向先で勤務を続ける場合
出向者が出向元を定年退職した後も,出向先で役員又は使用人として勤務を続ける場合がある。
国税庁は,この場合でも,出向先が出向元へ支出する出向期間対応の退職金相当額が合理的に計算されたものであれば,支出事業年度の損金の額に算入されるとしている。
もっとも,この取扱いは,出向元退職時までの出向期間に対応する退職金負担金についてのものである。
定年後に出向先が本人を直接雇用する場合の退職金制度,定年前後の勤続期間の通算及び再雇用終了時の給付は,出向元の退職金負担とは分けて設計する必要がある。
3 合理的な計算根拠を残す
退職金負担金は,出向者の退職時に概算額を会社間で分担するだけでなく,退職金規程,基礎給与,勤続期間,支給率,出向期間及び既払負担額に接続できるようにする。
出向期間中に定期負担する場合は,負担割合と算式を出向契約等で事前に定め,各事業年度の支出額を再計算できる資料を保存する必要がある。
第5 契約書・請求書・会計資料の確認事項
出向者給与負担金及び退職金負担金については,少なくとも次の事項を確認する。
①出向元・出向先・本人の雇用関係及び指揮命令関係
②出向期間,出向先での地位,業務及び勤務場所
③給与の支払者,給与負担金の請求者・支払者及び算定式
④基本給,賞与,手当,社会保険料事業主負担分等の負担範囲
⑤出向元の実際の給与支給額と会社間請求額の照合資料
⑥出向先で役員となる場合の機関決定及び役員給与の要件
⑦給与負担金以外の管理料,役務対価又は実費の区分
⑧退職金負担の時期,負担割合,算式及び定期支出の有無
⑨定年後に雇用主が変わる場合の契約切替日と費用負担の終期
⑩会社間精算の仕訳,消費税区分及び保存資料
請求書の摘要だけで出向又は派遣の実態を説明することはできない。
出向契約,雇用契約,給与台帳,会社間請求書,振込記録,退職金規程及び計算明細を一つの取引経路として照合できる状態にしておくことが重要である。
第6 関連記事
出向中の社員が定年を迎える場合の再雇用―出向継続・業務変更・内示書・条件不合意の実務では,出向元が再雇用して出向を継続する場合と,出向先が直接雇用する場合の違いを整理している。
出向命令の有効性―個別同意,就業規則・出向規程,労働契約法14条,途中交替及び命令拒否後の解雇では,在籍出向命令の根拠と出向条件の確認事項を扱っている。
第7 出典・参考資料
①国税庁タックスアンサーNo.6475「使用人の出向・人材派遣など」
②国税庁タックスアンサーNo.5245「出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い」
③国税庁タックスアンサーNo.5242「出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い」