第1 AI規制は国名だけでは判断できない
1 比較の結論と基準日
EU及びアジア主要法域のAI規制は,「EUは厳しく,アジアは緩い」という説明では捉えられない。
EUの用途別高リスク規制,中国本土のサービス別規制,韓国・ベトナムの横断的な法律,日本・台湾の基本法,シンガポールのモデル指針は,対象とする主体,機能及び法的効果が異なるためである。
本記事は,令和8年10月5日現在の主要な法律・規則及び公表資料を比較するものである。
日本企業の海外サービス展開,AIの調達,生成コンテンツの配信及び社内利用について,最初に確認すべき条件を示す。
最初に固定すべき事実は,①モデル自体の提供か下流アプリの提供か業務利用か,②対象市場と出力の利用場所,③公開範囲,④具体的な用途・機能,⑤市場投入日・稼働日,⑥その後の変更である。
同じ生成AIでも,採用評価,文章作成,実在人物に似た合成動画,情緒的な対話,購買を実行するエージェントでは,検討すべき規律が変わる。
2 対象法域と読み方
中心対象はEU,日本,中国本土,韓国,台湾,ベトナム,インド及びシンガポールであり,香港とASEANを補足する。
台湾及び香港は独立した比較法域として扱い,中国本土の規則との法的同一性を前提としない。
| 法域 | 中心となる制度 | 実務上の読み分け |
|---|---|---|
| EU | AI Act及び2026年改正 | 高リスク,透明性,汎用AIモデルの義務と適用日を分ける |
| 中国本土 | 公衆向け生成AI,生成合成内容の標識,擬人化対話の規則 | 公開範囲と機能ごとに規則を重ねる |
| 韓国 | AI基本法及び施行令 | 事前告知,生成結果表示,高影響及び安全性確保の対象を分ける |
| 日本 | AI法及び指針 | 協力義務と国の施策,既存法上の義務を区別する |
| 台湾 | 人工智慧基本法 | 政府の制度整備義務と事業者の個別義務を区別する |
| ベトナム | AI法134/2025/QH15 | 三段階のリスク分類と通知・評価を,現行細則と併せて読む |
| インド | IT Rulesの合成生成情報規制 | 対象情報の定義と仲介者の種類を確認する |
| シンガポール | Agentic AIモデル枠組み | 権限,承認,停止及び検証を設計するための指針として読む |
本記事は全業法,個人情報法,著作権法,技術標準及び執行実績の網羅調査ではない。
法律本文の比較と,個別サービスの届出・認証・実装の適否は別の判断であり,外国法の日本語表現は原文の要約である。
第2 EU―高リスク規制の延期と既存の義務を分ける
1 2026年改正後の適用日
AI Actは,制定時のRegulation (EU) 2024/1689に,Regulation (EU) 2026/1744の改正を重ねて読む必要がある。
改正は2026年7月27日に発効しているため,単なる検討案として扱うのは適切でない。
根拠は,改正規則正文及び欧州委員会の発効発表である。
| 対象 | 適用関係 | 注意点 |
|---|---|---|
| 汎用AIモデルのChapter V | 原則2025年8月2日から | 同日前に市場投入されたモデルは2027年8月2日までに対応 |
| 50条の透明性 | 原則2026年8月2日から | 高リスク規制の延期と同じではない |
| 2026年8月2日前に市場投入された生成システムの50条2項 | 2026年12月2日までに対応 | 同条1項・4項を含む全面猶予ではない |
| Annex IIIの高リスク関連Chapter III Sections 1~3 | 2027年12月2日から | 6条5項を除く |
| Annex Iの製品関連の同部分 | 2028年8月2日から | 製品分野に関する2条2項の特則も確認する |
| 追加された5条1項(ba)(bb)等 | 2026年12月2日から | 条文所定の非同意性的内容等に関する禁止である |
日程の根拠は,AI Actの統合表示の111条~113条である。
統合表示は確認に便利であるが,それ自体に正式な法的効力を持つ正文という位置付けはなく,制定規則と改正規則を基準とする。
「2027年又は2028年まで対応不要」との説明は,既に適用される透明性や汎用AIモデルの義務を落としている。
既存モデルの経過措置と既存システムの経過措置も異なり,基盤モデルの猶予から下流アプリの表示猶予を導くことはできない。
2 日本からの提供と事業者の役割
AI Act2条1項(c)は,第三国に所在する提供者・導入者についても,AIシステムの出力がEUで利用される場合を対象とする。
日本法人,日本のサーバ又は日本語モデルという事情だけで,適用を否定できない。
一方,ウェブページがEUから偶然閲覧できるという事実だけで,全ての役割と義務を確定することも避けるべきであり,提供経路,用途及び出力の実際の利用場所を確認する必要がある。
25条は,用途の変更により既存AIを高リスクAIにする場合等に,導入者その他の主体が提供者の義務を負うことを定める。
調達契約に「顧客は利用者」と記載しても,採用評価等への組込み後の法的役割が当然に固定されるわけではない。
根拠は,AI Actの2条・25条である。
3 高リスクは用途と要件で判定する
6条1項はAnnex I対象製品の安全部品等と第三者適合評価要件を結び付け,6条2項はAnnex IIIの用途を基準とする。
製品の効率改善や便利機能を担うだけのAIについては改正上の限定があるが,故障が健康・安全を危険にさらす場合の留保がある。
Annex IIIに該当しても,6条3項の限定的な例外を検討できる場合がある。
ただし,重大な危害のおそれ,判断結果への実質的影響及び列挙された条件を確認する必要があり,自然人のプロファイリングを行う対象AIは常に高リスクとされる。
人間が最終決裁するという事情だけでは,この判定を省略できない。
高リスクAIの9条のリスク管理はライフサイクルを通じた継続的管理であり,26条2項の人間監督には能力・訓練・権限・支援が問題となる。
これらの準備事項と,基準日時点で既に適用されている義務は,上記日程に従って区別する。
根拠は,AI Actの6条・9条・26条である。
4 生成表示は主体と方式が異なる
| 規定 | 対象主体・機能 | 主な内容・限定 |
|---|---|---|
| 50条1項 | 人と直接対話するAIの提供者 | AIとの対話である旨の通知。状況から明白な場合等に例外がある |
| 50条2項 | 合成音声・画像・動画・テキスト生成システムの提供者 | 機械可読で検知可能なマーキング。技術的実現可能性や標準編集支援等の限定がある |
| 50条4項前段 | ディープフェイクを生成・操作する導入者 | 人工生成・操作の開示。芸術・風刺・創作等には表示方法の配慮がある |
| 50条4項後段 | 公共的関心事項を知らせる生成テキストを公開する導入者 | 開示が原則。人間レビュー又は編集管理と,編集責任者の存在等による例外がある |
公共的テキストについて編集上の例外が成立しても,生成システム提供者の機械マーキング義務まで当然に消えるわけではない。
可視の「AI作成」表示だけで全ての要件を満たすという理解は避ける必要がある。
根拠は,AI Act50条である。
5 汎用AIモデル,リテラシー及び制裁
汎用AIモデルの提供者には,53条の技術文書,下流システム提供者向けの情報,著作権遵守方針及び訓練内容の十分詳細な要約の公開が問題となる。
一定のオープンソースモデルの例外は文書・下流情報の義務に関するものであり,著作権方針・訓練要約まで全面免除するものではない。
51条2項は,訓練累積計算量が10の25乗の浮動小数点演算を超えるモデルについて,システミックリスクに関係する能力を推定する。
毎秒の演算速度ではなく,反証説明や別途の指定もあるため,数字だけで対象全体を確定しない。
第三国の提供者については,54条のEU域内授権代表と所定の例外も確認する。
2026年改正後のAIリテラシーは,能力形成を支える措置を求め,個々人の特定水準の保証を求めないという限定を置く。
全面撤廃と表現するのは適切でない。
透明性違反等の99条4項の上限は,1500万ユーロ又は前年度世界年間売上高の3%の高い方である。
中小企業等には低い方を基準とする特則があるため,違反類型と主体区分を確認せず,一つの上限を全ての違反に当てはめてはならない。
根拠は,AI Actの51条~54条・99条及び改正規則1条(5)である。
第3 中国本土―公開範囲とサービス機能を確認する
1 公衆向け生成AIと社内利用
2023年8月15日施行の生成式人工智能服务管理暂行办法は,中国国内の公衆への生成AIサービス提供を対象とする。
2条3項は,国内公衆にサービスを提供しない研究開発・応用等を同規則の対象外とするが,他の法令からの全面的な適用除外を意味しない。
17条の安全評価・アルゴリズム届出は,世論属性又は社会動員能力を持つサービスを対象とする。
全AIに同じ事前許可が課されるとの説明は過大である。
根拠は,生成AI暫行規則2条・17条・20条である。
2 可視標識と隠れた標識
2025年9月1日施行の人工智能生成合成内容标识办法は,可視の標識と隠れた標識,生成サービスと流通プラットフォーム,利用者の申告を分けて規定する。
5条のファイルメタデータに関する隠れた標識は義務であり,電子透かし等の奨励と同一視できない。
9条には,利用者が可視標識のない内容を求める場合の特例がある。
合意による利用者責任の明確化と少なくとも6か月の関連ログ保存が伴い,隠れた標識の全面免除とはいえない。
根拠は,標識規則4条~10条である。
配信や再圧縮によりメタデータが失われるかという点まで,提供者と配信担当者の間で確認することが有用である。
具体的な表示寸法・位置・符号仕様の適合判定には,GB45438-2025等の技術標準の現行本文も必要となる。
3 擬人化情緒対話と通常の業務助手
2026年7月15日施行の人工智能拟人化互动服务管理暂行办法は,持続的な情緒的対話を伴う擬人化サービスを対象とする。
情緒対話を伴わない顧客サービス,知識Q&A及び業務助手等は2条3項の適用外であり,チャットボットという名称だけでは該当を決められない。
14条は,未成年者への仮想親族・仮想伴侶等の親密関係サービスを禁止する。
16条は対話データの第三者提供と,センシティブ個人情報に当たる対話データの訓練利用を別々に規律するため,明示同意と個別同意の対象を区別する必要がある。
18条の連続利用2時間超の対応は時間提示であり,一律に2時間でサービスを終了させる規定ではない。
22条の登録100万人以上又は月間アクティブ10万人以上という安全評価基準は,新規提供・重要変更等のトリガーと併読する必要がある。
根拠は,擬人化対話規則2条・14条・16条・18条・22条である。
中国の裁判所内の利用や当事者の提出資料に関する規律は,公衆向けサービス規制と同一ではない。
司法利用については,中国の裁判所におけるAI利用を参照されたい。
第4 韓国―透明性の例外と基本法全体を混同しない
1 告知と生成結果物の表示
AI基本法31条は,高影響AI又は生成AIを利用する製品・サービスについて事前告知を定める。
現行施行令23条は,製品,契約書・説明書・規約,利用者画面,提供場所等の方法を規定する。
生成結果物には,人間可読又は機械可読の表示方式を用いることができる。
ただし,機械可読方式では,生成AIで作成した旨を一回以上,文言・音声等で案内する必要があり,リアルな音声・画像・映像については明確な認識に関する別の基準を併読する。
施行令23条4項には,AI利用が明白な場合,事業者の内部業務用途だけの場合等について,透明性義務の全部又は一部の例外がある。
これを「社内利用ならAI基本法全体が適用されない」と拡張してはならない。
根拠は,現行施行令23条である。
2 高影響AIと安全性確保の基準
施行令25条の高影響判定では,対象分野,生命・身体・基本権への危害の程度・頻度及び分野の特性等を考慮する。
人間の最終判断・統制への制度説明があっても,全用途の一律除外を条文から導くことはできない。
根拠は,施行令25条~26条である。
安全性確保義務の施行令24条は,①訓練累積10の26乗の浮動小数点演算以上,②最先端技術,③生命・身体・基本権への広範かつ重大な影響のおそれという基準を全て満たすシステムを対象とする。
EUの10の25乗超の推定とは,境界,対象及び法的効果が異なり,数字だけで規制の厳格さを順位付けできない。
3 施行と執行方針は別である
科学技術情報通信部は,AI基本法及び施行令の2026年1月22日施行と,少なくとも1年間の事実調査・制裁猶予の方針を発表した。
この行政上の方針は法律の未施行を意味せず,生命,人権又は重大な社会的被害等に関する例外もある。
根拠は,同部の施行発表である。
司法利用に関する記事は,韓国の裁判所におけるAI利用であり,裁判支援の指針と一般事業者に対する基本法上の義務は区別して読む必要がある。
第5 日本・台湾―基本法の主体と効果を読む
1 日本には法律上の規律もある
日本のAI法7条は,活用事業者による積極的な活用の努力と,国・地方公共団体の施策への協力義務を分けて規定する。
16条には国の情報収集・調査,侵害事案の分析,指導・助言等が置かれており,「ソフトローしかない」との説明は不正確である。
一方,AI法単体には,EU型の一般的な高リスク適合評価制度や罰則章は置かれていない。
この点から,個人情報,著作権,広告,医療・金融等の既存法上の義務や民事責任もないと結論付けることはできない。
根拠は,e-GovのAI法本文である。
13条に基づく2025年12月19日の法定指針は,自主的取組とリスクに応じたライフサイクル対応を示す(3頁~6頁)。
政策や指針の推奨内容と,個別法律が直接課す義務は分けて確認する必要がある。
立法資料を用いた説明については,内閣法制局ご説明資料に基づくAI推進法の解説を,法律事務所の公開コンテンツについては,AI生成画像・動画を法律事務所サイトで使う際の注意点を参照されたい。
2 台湾の政府義務を企業の猶予に転用しない
人工智慧基本法は2026年1月14日に公布され,20条と中央法規標準法13条を組み合わせると,同月16日に効力が生じると整理できる。
根拠は,人工智慧基本法及び中央法規標準法13条である。
18条の2年内の関連法令・行政措置の見直しは政府に対する義務であり,民間の全企業に統一の2年猶予を与える規定ではない。
19条の政府によるAI業務・サービスのリスク評価も,全ての民間サービスの一般義務へ置き換えることはできない。
16条のリスク分類枠組み,関係機関の規範及び業界自律の整備を確認し,個別事業では分野別規範を併せて調べる必要がある。
「AI基本法」という名称から,EUと同じ事前認証制度を想定してはならない。
第6 ベトナム―三分類と経過措置を区別する
1 法律本文から分かる枠組み
AI法134/2025/QH15は2025年12月10日成立,2026年3月1日施行である。
9条は高・中・低の三段階のリスク分類を置き,10条3項は中・高リスクについて利用開始前の分類結果通知を定める。
禁止行為は別条文であり,EUの説明で使われる四層分類をそのまま移してはならない。
11条は直接対話の通知と生成物の表示を扱う。
13条の高リスク適合評価では,指定リスト対象の認証と,それ以外の自己評価又は評価機関による評価を区別するため,高リスクを全て一律の第三者認証と説明するのは過大である。
14条6項の外国高リスク提供者の国内連絡窓口と,強制認証対象の商業拠点又は授権代表も分けて検討する必要がある。
根拠は,署名法令PDFの9条~14条(5頁~9頁)である。
2 既存システムの経過措置と現地実装
35条の経過措置は,施行前に稼働していた既存システムについて,医療・教育・金融では施行から18か月,その他では12か月とする。
新規システムへの一律猶予ではなく,重大な被害リスクに関する例外もある。
根拠は,AI法34条~35条(19頁~20頁)である。
政令142/2026/NĐ-CPは,2026年5月1日施行として公式登録されている。
ただし,本記事はその全文及び現行指定リストに基づく個別サービスの認証対象・通知様式の適否を確定するものではない。
現地提供を決める際には,法律本文だけで完結させず,指定リスト,施行細則及び医療等の分野別規制を確認する必要がある。
第7 インド・シンガポール・ASEAN等
1 インドの合成生成情報規制
2026年2月10日付G.S.R.120(E)は,同月20日施行のIT Rules改正であり,合成生成情報(SGI)と仲介者の義務を扱う。
SGIの定義は,真正らしく,実在の人物・事象と区別困難な音声,視覚又は視聴覚情報を中心とし,全ての生成テキストを当然に含むものではない。
善意の通常編集,文書作成又はアクセシビリティ対応等には,虚偽記録化等をしないという条件付きの定義除外がある。
SGIを可能にする対象仲介者については,違法情報の防止と,適法SGIへの顕著な表示,技術的に可能な来歴情報等の付与が定められる。
重要ソーシャルメディア仲介者には,利用者申告,適切な技術的検証及び表示が問題となる。
ラベルを付けても,違法ななりすましや合成情報が適法になるわけではない。
根拠は,最終改正官報のRule 2(1)(wa),3(3),4(1A)(9頁,11頁~12頁)及び訂正官報である。
2025年案の「画面の20%」という定量表示を,最終規則の現行義務として引き写してはならない。
2 シンガポールのAgentic AI指針
IMDAのAgentic AIモデル枠組みは,2026年5月20日公表,同年6月5日更新の第1.5版を確認した。
事前のリスク限定,人間の説明責任,技術的制御・プロセス及び利用者の責任ある利用という四領域を示すモデル指針である。
ツール・データへの最小権限,重要・不可逆行為での人間承認及びシステム側の制限が推奨される。
例えば,購買を実行するエージェントでは,指示文だけでなく,決済権限,金額制限,承認点及び停止方法を設計対象にすることが有用である。
根拠は,モデル枠組み第1.5版(3頁~4頁,19頁,29頁,33頁)である。
指針の推奨をそのまま罰則付き法律上の義務に置き換えることはできない。
同時に,指針の任意性から既存のデータ保護法や分野別法の義務が消えるともいえない。
3 香港とASEAN
香港PCPDは,2024年6月11日にAIの個人データ保護モデル枠組みを公表した。
中国本土のサービス規則の適用を当然に前提とせず,香港の個人データ規律を別に確認する必要がある。
根拠は,香港PCPDの公表資料である。
ASEANの2025年生成AI拡張ガイドは,任意であり,加盟国の既存国内法上の義務を変更しないと明記する。
地域ガイドが任意でも,ベトナム等の国内法まで任意になるわけではない。
根拠は,ASEAN拡張ガイドのConclusion(PDF39頁)である。
第8 日本企業の法務が実行する確認
1 提供前の判断メモ
本記事では,海外展開の判断を,国名だけでなく「市場・主体・用途・日付・証拠」の組合せで記録する方法を提案する。
以下は統一の法定届出様式ではなく,社内の事業判断に用いる確認項目である。
①事業担当は,提供国,利用者,公開範囲,具体的用途及び開始日を固定する。
②開発・調達担当は,モデルとシステムの版,学習・第三者提供,表示・来歴情報,外部操作の権限を示す。
③法務は,主体と適用条文,経過措置,例外,現地の通知・認証・連絡窓口を確認する。
④決裁者は,実行,機能制限,対象市場の限定又は延期という選択肢と,未充足条件を明示して判断する。
特に,採用・融資等への用途変更,未成年向け情緒対話,実在人物風の合成物,新規の高リスク提供及び外部行為を実行するエージェントでは,提供開始前に担当者だけの判断で完結させず,該当法域・分野の確認に切り替えることが有用である。
2 契約と運用で分担を決める
AI調達契約の「全ての適用法を遵守する」という一文だけでは,複数国の対応作業を分担できない。
対象市場と役割,用途変更,表示・来歴情報の維持,データ利用,証拠提供,エージェントの権限,インシデント及び改正対応費用を,仕様書・運用文書も含めて具体化することが有用である。
提供者がマーキングを実装しても,配信担当が再圧縮で失わせる場合には,表示仕様だけの検収では足りない可能性がある。
書出し後・再配信後のファイルと利用者画面を,契約上の検証対象に含めることが考えられる。
契約上の責任配分と行政法上の義務主体は別である。
契約で相手方に費用や協力を負担させても,法律上の自社の義務が当然に移るとは限らない。
3 残す証拠と再評価の時点
市場・用途・版,開始日・変更日,分類理由,表示画面と出力ファイル,メタデータ,同意文言,権限設定,試験結果及び停止・監督の記録を対応させて保存することが有用である。
「準拠」「安全」という宣伝,ガイドラインに従う方針又は可視表示の画面だけでは,全要件の実装と継続運用を証明できない。
再評価の機会は,対象国の追加,用途変更,モデルの更新,配信方式の変更,未成年者対応及び外部操作権限の追加である。
施行前の制度については,上記適用日から逆算し,現地細則の確認,仕様変更,試験及び決裁の期限を決める必要がある。
第9 出典
1 法令及び公式資料
①EU:AI Act制定規則,2026年改正規則,2026年7月27日統合表示。
②中国本土:生成AI暫行規則,生成合成内容標識規則,擬人化対話暫行規則。
③韓国:施行令23条,24条,25条~26条,科学技術情報通信部の施行発表。
④日本:AI法,法定指針。
⑤台湾:人工智慧基本法,中央法規標準法13条。
⑥ベトナム:AI法署名PDF,政令142/2026/NĐ-CP公式登録。
⑦インド:最終改正官報,訂正官報。
⑧シンガポール:Agentic AIモデル枠組み第1.5版。
⑨香港・ASEAN:PCPD公表資料,ASEAN生成AI拡張ガイド。
2 出典の射程
本記事の比較は,主要法令の該当条文と,指針・行政発表の記述を根拠とする。
個別国の全ての下位法令・技術標準,行政処分及び裁判例を根拠として,違反時の制裁額や責任判断を予測するものではない。
表示の技術仕様,ベトナムの現行指定リスト・通知手続及び個別業法については,提供予定のサービスに即して現行原文を確認する必要がある。