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弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条と調査範囲・依頼者説明(AI作成)

第1 37条は法令の調査と事実関係の調査を分けている

1 この記事で扱う問題

弁護士に事件を依頼したとき,どこまで調べてもらえるのか,依頼者の説明をそのまま主張に使ってよいのか,追加調査の費用をどう決めるのかが問題となる。弁護士職務基本規程37条は,法令の調査と事実関係の調査を分けて定めている。

本記事は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』140頁~142頁及び249頁~250頁と,日弁連が公表する規程をもとに,調査範囲と依頼者との協議を整理する。以下の確認表は,これらの規律を具体的な事件処理に用いるための整理であり,同書が一律に要求する書式ではない。

2 1項と2項の位置付け

規定対象と内容82条2項との関係
37条1項事件処理に必要な法令の調査を怠らないこと行動指針・努力目標の対象として列挙されていない
37条2項必要かつ可能な事実関係の調査に努めること行動指針・努力目標として解釈・適用する対象である

第4版141頁は,1項を法令調査に関する義務規定,2項を事実調査に関する努力規定と説明する。ただし,2項が努力規定であることから,必要な確認をしなくてもよいとはいえない。また,義務規定への形式的な違反があることだけで,直ちに懲戒処分の結論が決まるわけでもない。82条は,職務の多様性・個別性を踏まえた実質的な解釈・適用を求めている。

規程全体の位置付けは,弁護士職務基本規程の条文別索引及び82条の行動指針・努力目標を参照されたい。

第2 法令調査では事件に適用される規定と期限を確認する

1 現在の条文だけでは足りない場合

第4版141頁は,必要な範囲の法令調査で足りるとしつつ,調査対象には,現在効力を有する国内法令だけでなく,効力を失った旧規定や外国法令も含まれると説明する。

例えば,契約締結時や事故発生時の法律が問題となる事件では,現在の条文を読むだけでは足りない。改正の施行日と経過措置を確認し,どの時点の規定を適用するのかを明らかにする必要がある。外国法が関係する事件でも,日本法についての説明をそのまま当てはめず,適用法と調査方法を検討することになる。

2 期限と手続を調査の優先事項にする

調査結果が正しくても,必要な申立てや届出の期限を過ぎれば,権利を実現できなくなる場合がある。受任時には,既に進行している裁判・倒産手続,送達された書類,通知の受領日及び期限を確認し,調査と手続対応を並行して行うことが重要である。

ここでいう優先順位は事件処理上の整理であり,特定の期限についての法律判断を代替するものではない。各期限の起算点,期間の性質,必要な手続及び例外は,事件に適用される法令で個別に確認する。

第3 事実調査の範囲は「必要かつ可能」を事件ごとに判断する

1 依頼の目的と調査の重要性

第4版141頁~142頁は,依頼者の抱える全ての事実を際限なく調べることを求めているのではなく,依頼の趣旨と,依頼者の権利・正当な利益の実現という目的に照らして範囲を判断すると説明する。

争点に影響する事実なのか,現在の資料で確認できるのか,追加資料の取得によって結論や対応が変わり得るのかを検討する。依頼者が気にしているという事情だけでも,費用がかかるという事情だけでも,調査の要否を決めることはできない。

2 可能性を具体的に確認する

確認できない事項については,「調査済み」とせず,どの資料がなく,どの方法を試し,何がなお不明なのかを記録する。弁護士会照会などの調査手段も,対象,必要性,取得できる情報及び秘密・プライバシーとの関係を検討して用いる必要がある。

費用,期限,資料へのアクセスなどから調査に制約があるときは,その制約が事件の見通しに与える影響を依頼者へ説明する。必要な調査を省いたまま確実な結論を伝えることと,調査の限界を示して暫定的な見通しを伝えることは区別される。

第4 依頼者の説明と資料の食い違いを確認する

1 聞き取りと客観資料を照合する

第4版142頁は,容易な調査で事実が分かるのに確認を怠ることや,依頼者の説明をそのまま信じて調査せず,事実と異なる主張をすることに注意を促す。

契約書,取引履歴,メール,事故記録などが依頼者の説明と食い違う場合は,作成時期,記載の意味,前後の経緯及び不足資料を確認する。食い違いがあるだけで依頼者が虚偽を述べたと断定することも,説明を優先して資料を無視することも適切ではない。

2 確認不足と虚偽の認識を区別する

調査不足で誤った主張をする場面と,虚偽であると知りながら証拠を提出する場面は,検討すべき問題が異なる。75条の真実義務,提出後に虚偽が判明した場合の対応及び秘密保持との関係は,弁護士の真実義務と虚偽証拠で扱っている。

また,事実を確かめる必要があることは,違法な取得方法を正当化しない。証拠の取得経緯と弁護士の関与は,不当な依頼と違法な証拠収集も参照されたい。

第5 調査方法・費用・期限を依頼者と協議する

1 協議すべき事項

第4版142頁は,調査の範囲と方法について,費用との関係も含め,依頼者と十分に協議しておく必要を指摘する。受任時の説明だけでなく,調査の途中で重要な前提や費用が変わった場合も,協議を見直すことが考えられる。

確認事項依頼者に説明する内容記録の例
調査する事実どの争点・権利に関係するか確認したい事項と重要性
資料と方法依頼者が出す資料と追加取得の方法入手先,確認日,取得状況
費用と期限見込費用,追加費用の相談時期,手続期限協議内容と次の確認日
調査の限界未確認事項と見通しへの影響未入手資料,暫定判断の条件

2 見通しが変わった場合

重要な事実が新たに判明したり,期待していた資料を取得できなかったりした場合は,当初の方針をそのまま続けるのか,主張・請求・和解方針を変えるのかを検討する。依頼者に結果だけを伝えず,変化した前提と選択肢を説明することが重要である。

29条・36条による説明と報告の整理は,弁護士の説明義務・報告義務を参照されたい。

第6 懲戒・損害賠償・AIの使用を分けて考える

1 調査不足だけで結果を決めない

懲戒については,問題となる具体的な行為,規程上の位置付け,依頼者への影響などを踏まえた実質的な評価が必要である。損害賠償についても,受任内容,注意義務の内容,違反,損害及び因果関係など,別途の法律上の要件を検討する。倫理規程の説明だけから,民事責任や処分の重さを断定することはできない。

2 AIの回答は調査結果として確認する

AIを使って法令や事実関係を整理する場合も,生成された文章と,実際に読んだ原資料を分けて管理する。条文の施行時期,裁判例の実在と内容,資料にない推測及び引用箇所を確認し,未確認の回答を確認済みの根拠として書面へ入れないことが重要である。

これは37条の調査に関する規律をAI使用時に当てはめた実務上の整理である。第4版の37条解説が,特定のAIサービスや確認手順を指定しているという意味ではない。具体的な書面確認は,裁判所提出書面のハルシネーション防止方法も参照されたい。

3 否認請求への訴訟移行と不変期間の見落とし

(1) 条文の確認で回避できた期限徒過を問題とした

平成19年8月21日の日弁連懲戒委員会議決(平成18年懲(異)第20号,第10集50頁~52頁)は,再生手続の否認請求に対して必要な訴訟手続を1か月の不変期間内に取らなかった事案である。否認請求の決定書を受領してから期限まで約2週間あり,関係条文を調べれば必要な対応を容易に把握できたとされた。
原会は不懲戒としたが,日弁連はこれを取り消し戒告とした。議決は当時の旧弁護士倫理等を適用しており,現在の37条を遡って適用した判断ではない。収録された日弁連議決が述べる原会の理由と,原会の議決書全文を読んだことは区別する。

(2) 後の敗訴から手続上の不利益がなかったと断定しない

原会は,その後に訴訟が進行して敗訴した事情等から実質的損害を重くみなかった。日弁連は,期限徒過により権利を失うおそれを生じさせたことや,通常の訴訟手続で抗弁を主張する利益等も検討した。15名中4名の反対意見がある。
実務上は,倒産手続の開始,訴訟の中断,否認請求の決定及び不服手続を同じものとして扱わず,各書面の受領日と必要な手続を直ちに確認する。後に請求が認められなかったことだけで,期限を守る義務の問題がなくなるとはいえない。

4 依頼者の非協力と不十分な破産・免責資料

(1) 書記官との相談だけで調査不足を正当化できなかった

平成24年11月12日の日弁連懲戒委員会議決(平成24年懲(審)第3号・懲(異)第1号,第15集102頁~105頁)は,退職金,預金,事業収入等に関する確認・資料が不十分なまま破産・免責の申立てをした事案を扱う。
原懲戒委員会は,依頼者が十分な資料を出さず,申立てを急ぐ事情があったこと等を認めつつ,必要な事実調査を怠ったとした。以前の裁判所での運用や,書記官から申立て後に補充できると聞いたことだけでは,申立てに必要な調査を尽くさないことを正当化できない。日弁連は戒告を維持し,より重い処分を求める異議も棄却した。

(2) 調査不足と故意の虚偽申立てを区別する

原議決は,問題とされたすべての事情について故意の詐欺的申立てを認めたものではない。また,当初の裁量免責や資料を後から提出した事情は考慮されているが,それだけで調査不足の責任が消えるとはされなかった。例集の付記には,後に免責取消し・不許可が確定した旨があり,原議決当時の手続状況とは区別する必要がある。
依頼者の非協力があるときは,必要な資料,確認できない事項,申立てへの影響を説明し,取得・照会の可能性と補充方法を検討する。未確認の情報を確定したものとして記載することと,確認の限界を明らかにして対応を協議することは異なる。

5 起訴後の告訴取消しに関する誤解と訂正

(1) 複数の弁護士が関与していても基本条文の確認は必要である

平成23年2月14日の日弁連懲戒委員会議決(平成22年懲(異)第3号・第4号・第5号,第14集80頁~92頁)は,当時の親告罪の弁護で,起訴後も告訴を取り下げれば公訴が取り消され釈放されるとの誤った説明をした事案である。3名の弁護士が2か月以上にわたり基本条文を確認せず,示談を進めていた。
原会は,誤りを訂正して謝罪したことや不利益の評価等から不懲戒とした。日弁連は,誤りの発見は検察事務官の指摘によること,訂正の説明が十分とはいえないこと,情状弁護や示談条件に影響したことを指摘し,7条,37条1項,36条への違反として全員を戒告相当とした。収録付記には取消訴訟の提起が記載されているが,本記事はその判決の結論まで確認したものではない。

(2) 謝罪だけでなく,誤った前提による判断を見直す

日弁連は,示談の案を適時に示して説明できたのに,了解を得る段階でそれをしなかった点も問題とした。誤りを知った後に「別の有利な結果が期待できる」と説明するだけでは,当初の誤解が意思決定へ与えた影響を解消できるとは限らない。
実務上は,誤った説明の内容,正しい規律,既に取った手続,今後の見通し,示談するか否か・条件を改めて協議する。事案当時の親告罪の制度に関する例であり,現在の性犯罪の制度へそのまま当てはめない。

上記事例の出典は,日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集』第10集50頁~52頁,第14集80頁~92頁,第15集102頁~105頁である。頁数は印字頁による。収録本文には匿名化及び証拠記載等の省略があり,事件記録の全てを示す資料ではない。原会の判断と日弁連の判断,議決後の処分の付記を区別して参照した。

第7 出典と関連する解説

1 主な出典

日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,令和8年9月)140頁~142頁,249頁~250頁。頁数は書籍の印字頁である。同書の解説は日弁連の公式見解又は個別事件の原議決そのものではない。

日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」37条,82条。法令と規程は,個別事件に適用される時点の内容を確認する必要がある。

2 関連する解説

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