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弁護士職務基本規程82条の行動指針・努力目標-対象条文と懲戒判断(AIリライト)

弁護士職務基本規程82条は,同規程の全条文を同じ強さで形式的に適用するのではなく,弁護士の職務の多様性と個別性を踏まえて実質的に解釈するための条文である。
特に,同条2項は,弁護士の職務の行動指針又は努力目標として解釈し適用すべき条文を列挙している。
本記事では,令和8年9月6日現在の日弁連公表資料に基づき,対象条文と懲戒判断との関係を整理する。

第1 弁護士職務基本規程82条の位置付け

1 規程全体の実質的な解釈

弁護士職務基本規程82条1項は,次のとおり定めている。

第82条 この規程は,弁護士の職務の多様性と個別性に鑑み,その自由と独立を不当に侵すことのないよう,実質的に解釈し適用しなければならない。
第5条の解釈適用に当たって,刑事弁護においては,被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護権を侵害することのないように留意しなければならない。

したがって,個々の条文に用いられた文言だけで結論を出すのではなく,問題となる職務の内容,依頼者その他の関係者への影響,弁護士の自由と独立及び刑事弁護における防御権等を踏まえて解釈する必要がある。

2 行動指針又は努力目標とされる条文

同条2項は,次のとおり定めている。

2 第1章並びに第20条から第22条まで,第26条,第32条,第37条第2項,第46条から第48条まで,第50条,第55条,第59条,第61条,第68条,第70条,第73条及び第74条の規定は,弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければならない。

同項は,列挙した条文の一つ一つを「行動指針」と「努力目標」のどちらか一方に機械的に分類する規定ではない。
日弁連弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程〔第3版〕』221頁~222頁も,「又は」という文言から各条文を二者択一で分類すべきではない旨を説明している。

3 現行条文は33条ではなく32条を列挙していること

現行の82条2項は,第32条を列挙し,第33条を列挙していない。
第32条は,複数の依頼者相互間に利害対立が生じるおそれがある場合の不利益事項の説明を定める条文であり,第33条は,法律扶助制度等の説明を定める条文である。

平成29年刊行の『解説 弁護士職務基本規程〔第3版〕』及び法務省ウェブサイトに掲載された令和2年当時の規程本文は,第33条を列挙している。
これに対し,令和3年6月11日の改正後である日弁連の現行規程は,第32条を列挙している。
同改正は令和4年11月1日に施行されており,旧版の転記を現行条文として用いないよう注意を要する。
なお,第33条が現行の82条2項に列挙されていないことだけから,第33条違反の法的評価を一律に決めることはできず,条文の文言及び具体的事案に即した検討が必要である。

第2 現行の対象条文

以下は,日弁連が公表する現行の弁護士職務基本規程のうち,82条2項が列挙する条文である。
句読点は本記事の表記に合わせているが,条文の内容は同規程本文と照合した。

1 基本倫理

第1条(使命の自覚) 弁護士は,その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し,その使命の達成に努める。

第2条(自由と独立) 弁護士は,職務の自由と独立を重んじる。

第3条(弁護士自治) 弁護士は,弁護士自治の意義を自覚し,その維持発展に努める。

第4条(司法独立の擁護) 弁護士は,司法の独立を擁護し,司法制度の健全な発展に寄与するように努める。

第5条(信義誠実) 弁護士は,真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うものとする。

第6条(名誉と信用) 弁護士は,名誉を重んじ,信用を維持するとともに,廉潔を保持し,常に品位を高めるように努める。

第7条(研鑽) 弁護士は,教養を深め,法令及び法律事務に精通するため,研鑽に努める。

第8条(公益活動の実践) 弁護士は,その使命にふさわしい公益活動に参加し,実践するように努める。

2 依頼者との関係

第20条(依頼者との関係における自由と独立) 弁護士は,事件の受任及び処理に当たり,自由かつ独立の立場を保持するように努める。

第21条(正当な利益の実現) 弁護士は,良心に従い,依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。

第22条(依頼者の意思の尊重) 弁護士は,委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。
2 弁護士は,依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは,適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める。

第26条(依頼者との紛議) 弁護士は,依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め,紛議が生じたときは,所属弁護士会の紛議調停で解決するように努める。

第32条(不利益事項の説明) 弁護士は,同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは,事件を受任するに当たり,依頼者それぞれに対し,辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。

第32条は「説明しなければならない」という文言であるが,82条2項によって行動指針又は努力目標として解釈し適用すべき対象に含まれている。
このことからも,末尾の「努める」「しなければならない」だけで82条2項上の分類を決めることはできない。

第37条(法令等の調査)第2項 弁護士は,事件の処理に当たり,必要かつ可能な事実関係の調査を行うように努める。

82条2項が列挙するのは第37条第2項だけであり,必要な法令の調査を怠ってはならないと定める同条第1項は列挙されていない。

3 刑事弁護及び組織内弁護士

第46条(刑事弁護の心構え) 弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることに鑑み,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努める。

第47条(接見の確保と身体拘束からの解放) 弁護士は,身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について,必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。

第48条(防御権の説明等) 弁護士は,被疑者及び被告人に対し,黙秘権その他の防御権について適切な説明及び助言を行い,防御権及び弁護権に対する違法又は不当な制限に対し,必要な対抗措置を採るように努める。

第50条(自由と独立) 官公署又は公私の団体(弁護士法人,外国法事務弁護士法人及び共同法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という。)において職員若しくは使用人となり,又は取締役,理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という。)は,弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し,良心に従って職務を行うように努める。

4 共同事務所,法人,弁護士間及び裁判

第55条(遵守のための措置) 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人又は共同法人の法律事務所である場合を除く。)を共にする場合(以下この法律事務所を「共同事務所」という。)において,その共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という。)を監督する権限のある弁護士は,所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置を採るように努める。

第59条(事件情報の記録等) 所属弁護士は,職務を行い得ない事件の受任を防止するため,他の所属弁護士と共同して,取扱い事件の依頼者,相手方及び事件名の記録その他の措置を採るように努める。

第61条(遵守のための措置) 弁護士法人又は共同法人の社員である弁護士は,その弁護士法人又は共同法人の社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という。)がこの規程を,社員等又は使用人である外国法事務弁護士が外国法事務弁護士職務基本規程を遵守するための必要な措置を採るように努める。

第68条(事件情報の記録等) 弁護士法人は,その業務が制限されている事件を受任すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため,その弁護士法人,社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事件の依頼者,相手方及び事件名の記録その他の措置を採るように努める。

第70条(名誉の尊重) 弁護士は,他の弁護士,弁護士法人,外国法事務弁護士,外国法事務弁護士法人及び共同法人(以下「他の弁護士等」という。)との関係において,相互に名誉と信義を重んじる。

第73条(弁護士間の紛議) 弁護士は,他の弁護士等との間の紛議については,協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。

第74条(裁判の公正と適正手続) 弁護士は,裁判の公正及び適正手続の実現に努める。

第50条,第55条,第61条及び第70条には,現行本文で共同法人等に対応する文言が置かれている。
旧版の条文を参照すると,現行の主体又は適用関係を取りこぼすおそれがある。

第3 形式的違反と懲戒判断との関係

1 努力目標の違反も判断要素になり得ること

82条2項の対象条文は,弁護士の職務の行動指針又は努力目標として解釈し適用される。
もっとも,これらの条文に反する行為が懲戒判断と無関係になるわけではなく,違反の態様及び程度が重大である場合には,弁護士法56条1項の懲戒事由に当たるかを判断する一要素となり得る。

『解説 弁護士職務基本規程〔第3版〕』2頁及び221頁~222頁は,条文への形式的な違反だけで直ちに懲戒処分となるものではなく,行為の態様及び程度,依頼者の権利への影響,実害,弁護士全体の信用又は社会的影響等を踏まえて実質的に判断すべきであると説明している。
これは同解説書の見解であり,個別の懲戒事件の結論は,弁護士法56条1項と具体的事実に基づいて判断される。

2 列挙されない規定の違反も直ちに懲戒とは限らないこと

82条2項に列挙されない条文は,一般に行為規範又は義務規定として整理される。
しかし,その条文に形式的に違反したというだけで,直ちに懲戒事由が成立するという関係にはない。
懲戒の根拠は弁護士法56条1項であり,82条1項が求める実質的な解釈適用を経て,事案に即して判断する必要がある。

また,職務基本規程への違反が,委任契約上の責任,訴訟行為の効力又は第三者との私法上の効力を当然に決めるわけでもない。
それぞれの法的効果について,適用される民法その他の法令及び具体的な法律関係を別に検討する必要がある。

第4 最高裁判例に現れた職務基本規程の位置付け

1 最高裁平成21年8月12日決定

最高裁第一小法廷平成21年8月12日決定(平成20年(許)第49号,民集63巻6号1406頁)は,債権回収を受任した弁護士が本案訴訟及び保全命令の申立てのために債権を譲り受けた事案で,仮に弁護士法28条に違反しても,公序良俗に反する事情がなければ直ちに債権譲渡の私法上の効力が否定されるものではないとした。

同決定の補足意見は,職務基本規程が,弁護士が自律的に遵守すべき行為規範・義務規定と,目標として努力すべき職務行動指針を定めたものであると述べた。
その上で,82条に照らして行為規範・義務規定とされる17条についても,懲戒判断は事案に即して実質的に行う必要があるとした。
この補足意見は,82条2項の列挙条文そのものに対する懲戒処分を判断したものではないが,形式的違反と法的効果を直結させない考え方を理解する資料となる。

2 最高裁平成25年4月16日判決

最高裁第三小法廷平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号)は,債務整理で時効完成を待つ方針を採った弁護士について,依頼者に不利益及びリスク並びに別の選択肢を説明すべき委任契約上の義務を認め,原判決を破棄して福岡高等裁判所に差し戻した。

同判決の一つの補足意見は,報告及び説明義務を定める36条を,82条2項を参照して行為規範・義務規定と位置付け,委任契約の解釈適用でも参照すべきものと述べた。
別の補足意見は,経済的に困窮した依頼者に対する受任時の説明には法律扶助制度の説明も含まれると述べている。
同判決は,現行82条2項における第32条と第33条の版差を判断したものではなく,具体的な委任契約上の説明義務を判断した裁判例として射程を限定して参照すべきである。

第5 関連記事

① 弁護士が家族との時間を確保するための業務設計-専門分野より重要な8つの確認事項(AI作成)は,第20条,第21条,第37条第2項及び第59条等を,受任・案件管理の設計に具体化する観点を扱っている。

② 非弁護士との提携の禁止(AIリライト)は,職務基本規程11条から13条まで等の一般規律を扱っている。

③ 山中弁護士がClaudeコードを使って裁判所提出書面を作成するときに行っているハルシネーション防止方法(AIリライト)は,第37条第2項及び第74条を,生成AI利用時の事実確認及び裁判の公正という観点から扱っている。

④ 国選弁護人の報酬・費用―接見,身柄釈放,保釈,謄写,交通費,通訳及び14営業日の請求期限は,第46条及び第47条が求める最善の弁護活動,必要な接見及び身体拘束からの解放と,法テラスの報酬・費用の支給範囲とが同一ではないことを扱っている。

第6 出典・参考資料

① 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(平成16年11月10日会規第70号,令和3年6月11日最終改正)

② e-Gov法令検索「弁護士法」

③ 最高裁第一小法廷平成21年8月12日決定(平成20年(許)第49号,民集63巻6号1406頁)

④ 最高裁第三小法廷平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号)

⑤ 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程〔第3版〕』日本弁護士連合会,平成29年,2頁及び221頁~222頁

⑥ 柳沢雄二「弁護士職務基本規程57条違反に基づく訴訟行為の排除を求める申立ての可否」名城法学72巻1・2号,令和4年,193頁~206頁