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令和8年成年後見制度改正と金融機関の権限確認―代理権・同意権・特定補助及び経過措置(AI作成)

第1 金融取引では肩書と取引ごとの権限を分けて確認する

令和8年の成年後見制度改正は,後見・保佐・補助の三類型を補助に一元化し,必要な範囲で権限を付与する制度へ改めるものである。
金融機関が改正後の補助人から預金の払戻し等を求められたときは,補助人という肩書だけで代理取引を受け付けることはできない。
本人が取引をするのか,補助人が本人を代理するのかを区別し,対象となる取引が審判による権限の範囲に含まれるかを確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月4日に確認した法務省の成立法と概要資料に基づき,改正後の制度と施行準備の確認事項を説明する。
令和8年法律第45号は同年6月24日に公布されたが,成年後見制度の主要な改正規定は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日から施行される。
公布日や遺言に関する先行施行日と,成年後見制度の施行日を混同してはならない。
本記事では具体的な政令指定日を確認できていないため,日付を断定しない。

第2 代理権・同意権・特定補助の違い

1 本人を代理して取引をする権限

改正後の民法11条では,家庭裁判所が必要と認めるときに,特定の法律行為について代理権を付与する。
したがって,口座に関する取引をまとめて一つの権限として扱う前に,代理行為目録等で,払戻し,振込み,口座の開設・解約,定期預金の取扱い等のうち何が認められているかを確かめる。
ある取引に代理権があることから,別の取引にも当然に代理権があるとはいえない。

2 本人の取引に同意する権限

改正後の民法9条は,必要がある場合に,同条2項の行為の一部について補助人の同意を要する旨の審判をする仕組みである。
同項には預貯金の預入れ・払戻しや借財・保証などが掲げられているが,補助開始の審判だけで,列挙された行為のすべてに同意が必要になるわけではない。
本人が取引を行い,補助人が必要な同意を与える場面と,補助人が代理人として取引を行う場面は,権限の根拠が異なる。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は,同条の同意を要する行為から除外される。

3 特定補助人の選任だけで包括的な代理権は生じない

改正後の民法10条の特定補助は,事理を弁識する能力を欠く常況にあり,必要が認められる場合に付される。
同条5項による特定補助人の権限は,取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為であり,預金の払戻し等を包括的に代理する権限が当然に与えられる制度ではない。
代理による取引については,民法11条による代理権付与の有無と範囲を別途確認する。
また,特定補助による取消しの対象となる行為からも,日常生活に関する行為は除外される。

第3 旧制度の利用者に一律の切替えを求めない

1 旧後見・旧保佐と旧補助で経過措置が違う

令和8年法律第45号附則2条・3条によれば,施行日前に開始された後見・保佐は,附則の特則を除き,従前の制度が続く。
施行日に全員が自動的に新制度の補助へ移るわけではない。
新制度の補助開始の審判がされる場合には,従前の後見・保佐開始の審判を取り消す仕組みである。

これに対し,附則4条は,旧補助開始の審判と,旧制度による同意権・代理権の審判を,それぞれ改正後の対応する審判とみなす。
実務では,旧後見,旧保佐,新制度へ移行した者,施行によって新制度の適用を受ける旧補助の利用者を区別して管理することになる。

2 証明書の肩書だけで処理しない

登記事項証明書,審判書及び権限の目録を照合し,適用される制度,対象行為及び権限の変更を確認する運用が考えられる。
旧制度の証明書であるという理由だけで権限がすべて失われたと扱ったり,新制度の名称だけを見て従来と同じ包括的な管理を認めたりすることは避ける。
後見登記等に関する法律の改正は,令和8年法律第45号第3条に含まれている。

本記事で確認した成立法は,金融機関に対して証明書を一律に何か月ごとに再提出させる期限を定めたものではない。
更新確認の頻度,提出資料及び受付方法は,各金融機関の規定と,施行に向けて公表される登記・裁判所の運用も踏まえて整える必要がある。

第4 弁護士と金融機関が準備しておく記録

1 任意代理の消滅事由を補助開始と区別する

改正後の民法111条1項2号は,代理人が民法10条1項の審判を受けたことを代理権の消滅事由とする。
また,民法653条3号は,受任者が同じ審判を受けたことを委任の終了事由とする。
この審判は,特定補助人を付する処分の審判である。
改正後の民法7条の補助開始の審判一般と同じものではない。

したがって,代理人又は受任者が補助を利用しているという情報だけから,既存の任意代理権又は委任が当然に消滅したと処理することはできない。
誰に対するどの審判がされたかを特定し,適用時点の法令,委任契約・授権の内容及び他の終了事由も確認する必要がある。

2 変更の記録と連絡を取引ごとに管理する

次の項目を取引・権限の台帳に記録する方法が考えられる。
これは条文に同一の様式が定められているという意味ではなく,権限の取り違えを防ぐための実務上の提案である。

①適用される制度と開始・変更の審判を特定する。
②取引の主体が本人か代理人かを記録する。
③予定する取引と,代理行為目録又は同意行為目録の対象行為を対応させる。
④必要な本人の意思確認,同意又は許可の有無を,その取引に即して確認する。
⑤確認した資料,確認日,確認した権限の範囲及び金融機関への届出内容を残す。
⑥権限の追加・取消し,補助人の交代,制度の移行又は終了があったときに,取引先への連絡と台帳更新につなげる。

改正後の民法12条は,不要となった同意権・代理権等の取消しを予定している。
初回に証明書を確認した後も,権限がそのまま続くとは限らない。
弁護士が補助人を務める場合は,裁判所への報告と取引先への権限変更の連絡を別の工程として管理すると,変更の伝達漏れを防ぎやすい。

なお,権限の確認と金融機関への届出は,検討対象が異なる。
具体的な届出義務・免責条項,届出前後の取引の効力及び損害負担については,取引時の預金規定,適用法及び事実関係に即した検討が必要である。

3 通知の受領者と取引の代理人を区別する

改正後の民法98条の3は,精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある意思表示の相手方について,その意思表示を受ける者がいない場合に,表意者の請求で家庭裁判所が特別代理人を選任できる仕組みを設けている。
この特別代理人の選任によって,預金の払戻しその他の取引を包括的に代理する権限まで生じるわけではない。
同条3項は,必要があると認める場合に,補助開始又は代理権付与の審判を請求できる旨を別に定めている。

金融機関の通知を受ける者を確保することと,その後の契約・処分を代理する者と権限を確保することは,別々に検討する必要がある。
通知の効力は,通知の種類,適用法及び受領時の事情に即して確認する。

4 代理権確認と犯罪収益移転防止法上の確認を分ける

犯罪収益移転防止法上の特定取引等に当たる場合は,民法上の代理権確認とは別に,同法上の取引時確認を行う必要がある。
警察庁の令和8年8月7日更新の概要資料は,自然人の顧客の代理人が取引をする場合,顧客についての確認に加え,取引を行う代表者等の本人特定事項を確認し,顧客のために取引の任に当たっていると認められる事由も確認することを説明している。
審判書・代理行為目録で代理権の範囲を確認したことだけで,これらの確認がすべて済んだと処理してはならない。

確認記録と取引記録等は,保存期間の起算点も区別する必要がある。
警察庁の同資料によれば,確認記録は特定取引等に係る契約が終了した日から7年間,特定業務に係る取引についての取引記録等は取引の行われた日から7年間の保存が必要である。
対象取引,記録内容及び法令上の例外は,取引時に適用される法令に即して確認する。

第5 出典・関連記事と本記事の範囲

1 公開された一次資料と関連記事

法務省「民法等の一部を改正する法律及び民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律について」(令和8年6月30日掲載)
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)(第1条の改正民法7条・9条~12条・98条の3・111条・653条,第3条,附則1条~4条)
法務省・民法等の一部を改正する法律の概要
警察庁「犯罪収益移転防止法の概要」(令和8年8月7日更新,印刷21頁・37~38頁・48頁)
保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正
令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備

2 本記事で扱わない事項

金融機関ごとの預金規定・届出様式の改定,権限変更を受付システムに反映する方法,預金払戻しをめぐる裁判例の改正後の射程は,本記事では扱っていない。
新制度の具体的な施行政令,改正後の登記事項証明書の様式及び裁判所・金融機関の施行後の運用は,本記事では未確認である。
遺言の押印要件の改正と保管証書遺言については,本記事の金融機関の権限確認とは別のテーマとして,方式と経過措置を検討する必要がある。