第1 企業が最初に確認すること
製品事故の相談を受けた企業は,安全確保と事故情報の収集を進めながら,誰が,どの法律又は契約に基づき,どの損害を負担するかを整理する必要がある。
製造物責任法は,消費者が買った製品の事故だけに適用される法律ではない。
企業間で納入した機械や部品についても,同法の要件を満たせば責任が問題となる。
また,自社工場を持たず,他社に製造を委託して販売する企業も,製品に付した表示や取引の実態によって責任主体になり得る。
本記事は,令和8年10月4日現在の日本法と公的資料を基に,国内取引を中心とした責任主体,欠陥,事故対応及び契約審査の入口を説明する。
事故報告の制度は対象製品と事故の内容によって異なるため,以下の消費生活用製品の報告期限を,医薬品,自動車又は全ての産業機械へ一律に当てはめてはならない。
後記の管理表・確認手順は,本記事が示す実務上の提案である。
第2 誰が製造物責任を負うか
1 製造者・輸入者・表示をした者を調べる
製造物責任法2条3項は,①業として製造,加工又は輸入した者,②自らを製造業者として表示した者又は製造業者と誤認させるような表示をした者,③製造・加工・輸入・販売の形態その他の事情から実質的な製造業者と認めることができる表示をした者を,責任主体としている。
会社の登記目的や「販売元」という肩書だけで結論を出さず,製品本体,包装,取扱説明書,商標表示,製造委託関係及び輸入経路を確認する。
OEM又はプライベートブランドの販売者については,自社ブランドを付している事実に加え,製品にある他の表示,設計・製造への関与及び流通の形態を検討する。
全ての販売者が当然に製造物責任を負うわけではない一方,実際に製造していないという説明だけで責任を否定することもできない。
消費者庁の逐条解説2条の「表示」についての具体例は,PBとOEMを区別して説明している(冊子26頁)。
2 部品メーカーと完成品メーカーの責任を分ける
部品の欠陥が完成品の事故につながった場合,部品メーカーと完成品メーカーのそれぞれについて,欠陥及び事故との因果関係を検討する。
部品メーカーが発注者の図面どおりに製造したというだけで,製造物責任法上の免責が認められるわけではない。
同法4条2号は,欠陥が専ら完成品等の製造業者による設計上の指示に従ったことにより生じ,かつ,その欠陥について部品等の製造業者に過失がないことの証明を求めている。
実務では,指示書の版,変更履歴,危険を指摘したメール,仕様変更の承認及び検査結果を対応させて保存する方法が考えられる。
「誰が設計したか」と「欠陥がどこから生じたか」は同じ問題ではない。
3 販売者・設置業者の別の責任も確認する
一般の販売者は,原則として,販売したという理由だけで製造物責任法の責任主体になるものではない。
しかし,買主に対する契約不適合責任,危険を認識した後の対応に関する不法行為責任等は別に検討する必要がある。
設置・修理に原因がある場合も,製品引渡し時の欠陥と,設置・修理の契約又は注意義務の問題を分ける。
製造業者等への該当性は,消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」Q12~Q18も参照されたい。
第3 不具合,欠陥及び損害を混同しない
1 契約どおりでないことと安全性を欠くこと
製造物責任法2条1項の対象は,製造又は加工された動産である。
同条2項の欠陥は,製品の特性,通常予見される使用形態,引渡し時期その他の事情を考慮して,通常有すべき安全性を欠くことをいう。
性能不足や外観不良があることと,事故につながる安全性の欠如とは区別する必要がある。
設計上,製造上及び指示・警告上という分類は,調査対象を整理するために役立つ。
もっとも,分類の一つを選んだだけで,欠陥や因果関係の証明が終わるわけではない。
事故が起きた事実だけで責任が決まるのでもなく,過失の証明が不要であることを,欠陥・因果関係の証明が不要であることと混同してはならない(同法3条,消費者庁逐条解説3条・冊子28頁)。
2 製品自体だけの損害と拡大した損害
同法3条ただし書は,損害が当該製造物についてのみ生じた場合を除いている。
製品の交換代だけの問題と,負傷,他の設備の焼損等の問題を分けて調べる必要がある。
製造物責任法による請求の対象にならないことから,契約不適合又は債務不履行による請求もできないと結論付けてはならない。
自主回収の費用,検査・選別費,完成品の交換費,取引先への和解金及び操業停止損失も,全てが当然に同法3条の損害となるわけではない。
請求原因,欠陥との因果関係,支出の必要性・相当性,契約上の負担合意及び責任上限を,費目ごとに検討する。
契約条項と保険の詳しい審査は,製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイントを参照されたい。
第4 警告は書いた場所と届き方まで確認する
使用者の不注意が疑われても,通常予見される使用形態と適切な警告の有無を検討する必要がある。
取扱説明書に一般的な注意が書かれていることだけで,指示・警告上の欠陥がないとは判断できない。
消費者庁のQ&Aは,予見される誤使用を含めて事故を防ぐため,分かりやすい取扱説明書・警告表示を行うことを説明している(Q11)。
企業の確認事項としては,①どの危険が生じるか,②誰が危険にさらされるか,③どの使用を避けるか,④回避方法を実行できるか,⑤本体・包装・説明書のどこで使用者が認識するかを整理する方法が考えられる。
購入者,設置者及び実際の使用者が異なる製品では,説明書が最終使用者へ渡る運用も確認する。
危険の程度に応じて表示場所や内容を判断するのであって,全ての警告を本体へ書けば足りるというものではない。
警告を改訂したときは,改訂前後の版,対象ロット,出荷時期及び配布先を保存する。
ウェブサイトへ掲載した後も,既存の使用者に情報が届くか,使用中止等の措置が必要かを検討する。
具体的な通知方法や回収の要否は,危険の内容,対象製品及び適用される安全法令に即して決める必要がある。
第5 事故初動と重大製品事故報告
1 安全措置と責任調査を並行する
相談の最初に,救命・二次被害防止の状況,製品名・型式・製造番号,事故日時,使用方法,負傷又は物損の内容及び現在の製品の保管先を確認する。
安全を確保した上で,現物,写真,包装,説明書,購入・納入記録,点検記録及び電子データを保全する。
分解・破壊試験の前には,試験方法,立会い,残存試料及び記録の扱いを検討する。
この手順は原因調査に向けた実務上の提案であり,必要な応急措置を妨げるものではない。
調査中の説明では,確認済みの事実,原因に関する仮説,追加調査事項及び次回の連絡予定を分ける。
補償・和解の判断には,契約,保険者への通知・同意手続及び第三者の権利も関係するため,担当者の口頭説明だけで包括的な約束をしない体制を整えることが考えられる。
証拠保全と複数当事者の責任整理は,大規模商業施設のガス爆発事故の初動・証拠保全も参照されたい。
2 原因調査中でも事故報告の期限を管理する
消費者庁の事故情報集約の案内は,消費生活用製品の製造・輸入事業者について,重大製品事故を知ったときに,知った日から10日以内に報告する義務を説明している。
同庁の報告制度の解説資料は,認識した日を1日目として数え,土日・祝日を含めると説明している。
最終日が行政機関の休日に当たる場合の扱いも確認する必要がある(冊子35頁)。
重大製品事故の要件に該当する場合には,被害者や事故の詳細が十分に把握できていなくても,判明している情報に基づいて期限までに報告する必要がある。
説明書の注意事項を守らなかったという理由だけで,報告不要と判断してはならない。
欠陥による事故ではないことが明らかか不明な場合には報告が必要とされ,判断に迷うときは消費者庁へ連絡する扱いが示されている(同資料・冊子34頁)。
これは消費生活用製品の重大製品事故報告の説明である。
民事上の製造物責任の成立,損害賠償額又は回収費用の最終負担が確定するまで,報告を待つ制度ではない。
一方,事業者が扱う全製品の事故に同じ報告制度が適用されると考えず,製品区分と所管法令を確認する必要がある。
第6 契約上の求償と期間制限
1 被害者への責任と企業間の精算
発注者と受注者が賠償上限を合意しても,その合意だけで契約当事者ではない被害者の権利を制限することはできない。
消費者庁逐条解説6条は,免責特約の効力が取引の相手方との間の問題であり,製品が引き渡された全ての者へ当然に及ぶものではないと説明している(冊子50頁)。
被害者に対する責任,企業間の求償・補償義務及び保険からの支払を分けて審査する必要がある。
契約では,事故の通知,調査への協力,対象製品の確保,緊急措置,費用の明細,和解・回収の意思決定及び最終精算を具体化することが考えられる。
基本契約だけでなく,品質保証協定,注文書,仕様書,購買条件及び変更覚書の優先関係も確認する。
回収費用や第三者対応費用を別条項に定める場合は,一般の賠償上限がそこにも適用されるかを明記する。
これらは交渉上の検討事項であって,一律の法定ひな形ではない。
2 保証期間と製造物責任法の時効を分ける
製造物責任法5条は,被害者又は法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年,生命・身体の侵害については5年という期間を定める。
また,製造業者等の引渡しから10年という期間を定め,身体に蓄積する物質又は一定の潜伏期間を伴う損害については起算点の特則を置いている。
購入者が店で購入した日を,常に製造業者等の引渡し日と同一視してはならない。
契約上の保証期間,契約不適合の通知期限,債務不履行の時効及び製造物責任法の時効は,それぞれ別に確認する。
過去の引渡し・事故では改正法の経過措置も関係するため,現在の3年・5年・10年という数字だけで既存案件の期限を判断してはならない。
第7 相談時に作る確認表
| 確認対象 | 集める資料と判断事項 |
|---|---|
| 責任主体 | 製造・輸入経路,製品・包装の表示,製造委託契約,設計への関与 |
| 欠陥と原因 | 当時の仕様,警告表示,現物,使用・設置・保守の履歴,試験条件 |
| 損害 | 人身被害,他の財産の損害,製品自体,回収・調査・補償の費目別資料 |
| 安全措置・報告 | 対象製品の法令区分,事故認識日時,報告義務者,期限,拡大防止策 |
| 企業間の負担 | 文書の優先関係,求償根拠,責任上限,通知・承認・精算手続 |
| 保険と時効 | 対象事故・費用,通知・同意条件,法定時効,契約上の期限,経過措置 |
上記の資料を,確認できた事実,原資料の記載,推論及び未確認事項に分けて管理する方法が考えられる。
事故報告の判断と民事責任の判断は同一ではないため,一つの結論で全てを処理しないことが重要である。
第8 公開資料と確認範囲
① 製造物責任法(e-Gov法令検索)1条~6条。令和2年4月1日施行の現在施行条文を令和8年10月4日に確認した。
② 消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」。特にQ3,Q7,Q11~Q22,Q24及びQ25。
③ 消費者庁「逐条解説 製造物責任法」2条。冊子24頁~27頁,PDF実頁23頁~26頁の表示責任・PB・OEM・販売業者・設置業者の説明。
④ 同逐条解説3条。冊子28頁,PDF実頁1頁の要件の説明。
⑤ 同逐条解説6条。冊子49頁~51頁,特に50頁の免責特約の説明。
⑥ 消費者庁の重大製品事故報告制度の解説資料。冊子34頁~35頁,PDF実頁37頁~38頁の情報不足・誤使用・認識日・報告期限の説明。
逐条解説の公表ページは平成30年9月の資料とされ,原則として令和2年4月1日施行の改正法を前提にした説明である。
本記事は上記の公開資料から確認できる国内法上の一般論を扱う。
第9 別途検討を要するテーマ
海外への輸出では,輸出先国の責任主体,対象製品,立証,管轄及び保険の適用地域を別に確認する必要がある。
米国の州法,EUの改正製造物責任指令の国内法化・適用時期,中国法の個別要件は,本記事では検討していない。
また,OEM取引の個別の回収費用求償については,契約文言,拡大損害の有無,費用の相当性及び裁判例原文を踏まえた検討が残る。
子供向け製品及び海外事業者による直接販売に関する製品安全法令の適用区分・経過措置も,対象製品を特定した上で別途検討するテーマである。