第1 投票できる年齢と立候補できる年齢
1 この記事で扱う問題
日本では18歳から国政選挙で投票できるが,衆議院議員に立候補するには25歳,参議院議員に立候補するには30歳に達している必要がある。この違いを考える際は,現在の法律が定める資格,その資格の憲法適合性,裁判で争う方法を順に区別する必要がある。
本記事は,令和8年10月3日を基準に,現行法令と裁判所が公開する判決書に基づいてこれらを説明する。年齢要件を満たさない者の立候補が,違憲との主張だけで受理されるという説明ではない。
2 現行法の年齢要件
公職選挙法9条1項は,日本国民で満18歳以上の者に衆議院議員及び参議院議員の選挙権を認める。同法10条1項が定める被選挙権の年齢要件は,次のとおりである。
①衆議院議員,地方議会議員及び市町村長は満25歳以上である。
②参議院議員及び都道府県知事は満30歳以上である。
地方議会議員については,年齢だけでなく,その地方公共団体の議会の議員の選挙権を有することも必要である。欠格事由その他の資格も別に確認する必要があり,年齢を満たすだけで常に立候補できるわけではない。
年齢は,届出日ではなく,選挙の期日により算定する(公職選挙法10条2項)。告示日に基準年齢に達していない場合も,まず選挙期日における年齢を確認することになる。
3 選挙運動の年齢要件は別の問題
選挙権は投票する資格,被選挙権は選挙される資格であり,候補者の当選を働きかける選挙運動とも異なる。公職選挙法137条の2は,満18歳未満の者の選挙運動と,その者を使用して選挙運動をすることを規律している。
したがって,18歳から投票できること,25歳又は30歳から立候補できること,18歳未満の選挙運動が制限されることは,対象となる行為も条文も異なる。一つの規制についての違憲判断から,別の規制の結論を直ちに導くことはできない。選挙運動の具体的な扱いは,18歳未満の選挙運動禁止の国際比較と東京地裁令和8年9月25日判決で説明している。
第2 立候補の自由と国会の立法裁量
1 立候補の自由は重要な基本的人権である
最高裁昭和43年12月4日大法廷判決は,立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にあることを踏まえ,憲法15条1項が保障する重要な基本的人権の一つとした。候補者の自由は,選挙人が候補者を自由に選ぶことにも関わるからである。
ただし,この判決は,労働組合による立候補取下げ要求や統制権の限界を扱ったものであり,25歳・30歳という年齢要件を直接審査した判決ではない。立候補の自由の重要性を示す判例と,特定の資格制限の合憲性を判断した裁判例を分けて読む必要がある。
2 法律で定める資格にも憲法上の限界がある
憲法44条は,両議院の議員と選挙人の資格を法律で定めるとしつつ,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入による差別を禁止する。47条も,選挙区や投票方法その他の選挙事項を法律で定めるとしている。
年齢は44条ただし書の列挙事由に明記されていないが,そのことは,どのような年齢制限も許されることを意味しない。立候補の自由や法の下の平等(憲法14条1項)との関係で,資格制限の理由と範囲を検討する必要がある。
3 二院制から特定の年齢差が当然に決まるわけではない
憲法は,衆議院と参議院で任期,解散の有無,議決の扱い等を異ならせている(45条,46条,59条等)。こうした制度上の違いを資格設計の理由として論じることはできるが,憲法そのものが25歳・30歳,あるいは両院の5歳差を指定しているわけではない。
年齢差を設ける政策上の説明と,その具体的な差が憲法上許されるかという判断は別である。同じ年齢にする制度にも二院制との両立可能性があり,年齢差がないことだけで憲法違反になるという結論は,これらの条文からは導けない。
第3 東京地裁令和7年10月24日判決
1 確認訴訟と国家賠償請求の結論
東京地裁令和7年10月24日判決は,統一地方選挙で年齢要件を理由に立候補届出を受理されなかった原告らが,国を被告として地位等の確認と国家賠償を求めた事件である。対象は地方議会議員の25歳要件と都道府県知事の30歳要件であり,衆議院・参議院の要件を直接判断した事件ではない。
主文は,確認の訴えを却下し,国家賠償請求を棄却した。確認の利益に関する判断と,国家賠償請求の判断過程で示された憲法適合性の判断を区別する必要がある(判決21~35頁)。
2 合憲とした理由とその読み方
同判決は,被選挙権の重要性を認めながら,資格の内容を定める国会の合理的裁量を重視し,地方議員や知事の職責・権限に必要な知識や社会経験を考慮することには合理性があるとした。そして,当該年齢要件は立法裁量の限界を超えず,憲法15条1項等,14条1項及び44条ただし書に違反しないと判断した(判決25~33頁)。
この判断から,すべての公職の年齢制限や,将来さらに引き上げられた年齢制限まで合憲であるとはいえない。下級審判決であることと,審理対象となった具体的な規定を明示して引用することが大切である。
同判決は,特定年齢に達するまで必要な能力がなく,その年齢で能力を獲得するという前提を採用していない(判決30頁~31頁)。
年齢を社会経験の客観的指標に用いる一般的合理性と,25歳・30歳という具体的な下限の正当化を分けて読む必要があり,「誕生日に能力が急変しない」という批判だけでは判決の推論に十分答えたことにならない。
3 年齢と社会経験について何を立証するか
年齢要件の合理性を検討するには,社会経験を重視する目的だけでなく,年齢がその経験をどの程度表すか,一律に候補者から排除する必要があるか,選挙人の選択で評価できないかという問題もある。
この点について,25歳又は30歳を科学的な成熟の境界として断定することは避けるべきである。職務に必要な経験の内容,若年者の政治参加,候補者を選ぶ有権者の判断など,立証しようとする命題を具体化した上で,調査・研究資料がその命題を支えるかを検討する必要がある。これは本記事の実務上の検討提案であり,特定の年齢が科学的に証明済みであるという説明ではない。
資料を集める際は,「年齢→経験の量・種類→職務に関連する能力→公職遂行への効果→選挙前の一律排除の正当化」という関係を分解する。
就労年数,地域活動,学校自治,介護,異なる立場との交渉等のどれを経験とするのかを特定し,年齢群の平均差だけでなく,群内のばらつきと,能力を備えた若年者を排除する程度も検討する。
これらは測定・検討項目の提案であり,各経験の効果を実証済みとするものではない。
昭和21年12月24日の帝国議会会議録には,参議院に期待する思慮分別の説明がある。
ただし,立法理由が説明されたことと,その効果及び具体的な年齢の妥当性が実証されたことは異なり,衆議院・地方議員・知事の制定理由も別に確認する必要がある。
研究資料についても,25歳未満を含まない研究で25歳の下限を論証したり,年齢と能力の関連から経験による因果効果を結論したりしてはならない。
立法史,対立調整・発達研究,政治家研究及び世論調査の測定対象と限界は,年齢と社会経験は被選挙権制限を正当化するか―立法史・発達研究・政治家研究の検証に整理した。
年齢の客観性や適用しやすさという利点,個別の経験審査の恣意性,選挙人による評価や就任後の研修・支援という代替制度を,職種ごとの事情に即して比較することが重要である。
後年の研究は現在の制度評価に用いる資料であり,平成16年当時の知見として扱わない。
4 控訴されたことと,判決が確定したことを区別する
原告ら及び弁護団は,令和7年11月6日付け声明で控訴したことを公表している。これは当事者側が示した手続経過であり,裁判所の憲法判断の根拠となる資料とは区別して扱う。
本記事は第一審判決の原文で確認できる内容を説明するものであり,最高裁の確定判断として紹介するものではない。上級審の判断や,提出された意見書・実証研究の内容を評価する場合は,それぞれの原資料を追加して検討する必要がある。
令和7年12月26日付け控訴理由書の29頁~33頁では,立法史と実証研究に関する控訴人側の主張を確認できる。
また,令和8年5月27日付け準備書面が引用する全国知事会研究会の2026年4月最終報告書は,年齢引下げと国会での議論を提言する政策資料である。
研究の測定結果,控訴人の評価,政策提言及び裁判所の認定を混同せず,提出資料を上級審の判断として紹介しない。
第4 年齢要件を争う訴訟の選び方
1 選挙無効訴訟に載せられる主張には限界がある
公職選挙法204条の国政選挙の選挙無効訴訟は,法律が特に認めた民衆訴訟である。選挙人という資格で提起できることから,選挙制度に関わるすべての憲法問題を無効原因として主張できるとは限らない。
最高裁平成29年10月31日第三小法廷判決は,参議院の30歳要件の違憲を,選挙人が204条訴訟の無効原因として主張することはできないとした。他方で,本人が自己の被選挙権侵害の救済を求めて提起する訴訟で争えるかについては,判断を留保している(判決1~2頁)。
したがって,同判決を「最高裁が30歳要件を合憲と確定した」と説明することも,「本人なら確認訴訟が必ず適法となる」と説明することもできない。204条訴訟の原告・被告・出訴期間等は,第1号法定受託事務である国政選挙事務と選挙無効訴訟で整理している。
2 確認判決が届出の問題を解決するか
令和7年東京地裁判決では,地方選挙の届出を審査する選挙長と,その選挙管理委員会が属する地方公共団体との関係が重視された。国に確認判決を求めても,当該届出の問題を解決するために必要かつ適切な手段にならないとして,確認の利益が否定された(判決21~24頁)。
実務では,法律を制定する主体が国であるという理由だけで被告を国に決めず,実際に資格を審査する機関,確認したい法律上の地位,その判決が解消する危険や不安を対応させる必要がある。もっとも,同判決が本件で示した説明から,地方公共団体を被告とするあらゆる確認訴訟の適法性や勝訴が保証されるわけではない。
3 国家賠償は立候補資格を直接与える判決ではない
確認訴訟が求める地位の確定と,国家賠償請求が求める損害の金銭的回復は異なる。国家賠償請求で違憲性を争う場合にも,誰のどの行為又は不作為が違法であり,どの損害との因果関係があるかを検討する必要がある。
法律の憲法適合性と,立法行為・立法不作為について国が国家賠償責任を負うかという問題も区別する。国家賠償請求を提起することや,損害の賠償を得ることだけで,次の選挙への届出が受理されるわけではない。
第5 相談・受任時に確認しておく事項
1 具体的な選挙と届出に関する資料
立候補の年齢要件をめぐる相談では,次の資料を整理すると,資格と救済方法を検討しやすくなる。
①立候補を予定する公職,選挙の種類,選挙区,告示日又は公示日及び選挙期日。
②生年月日,選挙期日における年齢,地方議会議員の場合は住所及び選挙権に関する資料。
③提出した届出書と添付書類,提出日時,相手方,受領又は不受理を示す書面・記録。
④不受理とされた具体的な理由,窓口での説明,追加提出又は訂正を求められた事項。
⑤次回の選挙で立候補できる地位を確認したいのか,過去の不受理による損害の回復を求めるのかという希望。
2 請求と根拠資料を対応させる
相談を受けた弁護士は,まず現行法に従った資格判定と,法律自体を違憲として争う主張を分ける。続いて,求める判決,被告,訴訟の種類,確認の利益,利用する手続の出訴期間等を確認する。
違憲主張の準備では,判決が判断した部分と当事者の主張にとどまる部分を分け,年齢要件の目的,年齢との関係,制限の範囲,代替方法を支える資料を集める。政治的な改革提案として説得的であることと,現在の法律が裁判で違憲とされることを同一視しないことが重要である。
第6 出典・関連記事
1 法令と裁判例
①日本国憲法14条,15条,44条,45条,46条,47条及び59条。
②公職選挙法9条,10条,137条の2,204条及び205条。
③行政事件訴訟法4条,5条及び42条。
④最高裁昭和43年12月4日大法廷判決・昭和38年(あ)第974号・刑集22巻13号1425頁。立候補の自由と労働組合の統制権を扱う。
⑤最高裁平成29年10月31日第三小法廷判決・平成29年(行ツ)第67号・裁判集民事257号1頁。204条訴訟で主張できる無効原因の範囲を扱う。
⑥東京地裁令和7年10月24日判決・令和5年(行ウ)第299号及び令和5年(ワ)第17364号。地方選挙の年齢要件,国を被告とする確認訴訟及び国家賠償請求を扱う。
2 手続経過の資料と関連記事
①立候補年齢引き下げ訴訟弁護団の令和7年11月6日付け声明。控訴の公表を確認するために用いた当事者側の資料である。
②第1号法定受託事務である国政選挙事務と選挙無効訴訟。
③18歳未満の選挙運動禁止の国際比較と東京地裁令和8年9月25日判決。
④一票の格差とは何か―違憲状態・違憲判決の違いと最高裁判例一覧。年齢要件の争いとは異なる議員定数訴訟の判断を整理している。
⑤平成16年度旧司法試験論文式試験の模範答案―全12問と出題趣旨を踏まえた解説。憲法第2問でこの論点を扱っている。