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会社備品を盗んで転売した社員への対応―証拠保全,懲戒解雇と預金仮差押えを並行して進める方法(AI作成)

第1 最初に分けるべき3つの判断

1 逮捕と,会社が証明できる行為を分ける

会社の工場から備品が繰り返し持ち出され,転売の疑いで社員が逮捕された場合,会社は,証拠保全,雇用上の処分及び損害回収を並行して検討することになる。
しかし,逮捕の事実だけで,その社員が全ての在庫不足を生じさせたこと,懲戒解雇が有効であること,又は預金の仮差押えが認められることまで決まるわけではない。
本記事は,令和8年10月3日時点の法令と公的資料に基づき,会社が確認すべき事実と手続を一般向けに整理するものである。

2 懲戒,損害賠償及び仮差押えを別々に検討する

懲戒解雇では,就業規則上の根拠,周知,処分対象行為の証拠,処分の重さ及び所定の手続を確認する。
損害賠償では,本人の行為,会社の権利侵害,故意・過失,品物ごとの損害額及び因果関係を確認する。
仮差押えでは,その賠償請求権に加え,将来の強制執行ができなくなり,又は著しく困難になるおそれと,差し押さえる預金債権の特定が必要となる。

会社が民法709条に基づく損害賠償請求権を有する場合,その保全を検討するために,懲戒解雇の完了を待つ必要はない。
資産処分の危険が具体的であれば,処分の検討や本人の弁明の確認と並行して,証拠のそろった範囲で保全申立てを準備することが考えられる。

第2 発覚直後に確保する証拠と被害品の台帳

1 会社所有と持出し・転売の対応を確認する

被害品の品名,型番,製造番号,取得日,保管場所,管理担当者,最終確認日及び不足が判明した日を記録する。
購入資料,固定資産台帳,棚卸記録,写真,入退室記録,防犯カメラ映像,持出し承認及び廃棄・払下げの記録を突き合わせ,会社の物であることと,無断で持ち出されたことを分けて確認する。
古い備品であっても,帳簿価額が零であることだけで会社所有ではなくなったり,損害が零になったりするわけではない。

転売先の取引記録と会社の備品を結び付けるには,製造番号,特徴,数量,売却日及び持込み人物等の対応が重要である。
在庫不足の総額を,逮捕された社員1人の被害額として直ちに扱うべきではない。
他の持出し,記帳漏れ,正規の廃棄・譲渡等の可能性も確認し,本人の行為と結び付く品物を特定する。

原材料や薬品については,倉庫から担当者への払出しと,機台・工程への実投入を区別する。
払出し時点で使用済みと記帳している場合,帳簿と倉庫在庫が合っていても,その後の持出しを把握できない可能性があるが,実際の記帳方法と担当者の説明による確認が必要である。
長期間発覚しなかったというだけで,大量購入していたはずと説明する必要が常にあるわけではない。

会社が提供できる購入・実在庫・工程投入・回収・製品検査の資料と,その依頼理由は,工場の原材料が長期間盗まれていたときの被害立証―購入・在庫・工程使用量・売却記録から数量と損害額を組み立てる(AI作成)で整理している。
社外の買取台帳や本人の口座明細が会社にあるとは限らないため,会社保有資料の依頼と,社外資料の取得手続を分ける。

2 原資料を残し,調査権限の限界を守る

防犯カメラは自動上書きの期限を確認し,必要な期間の原映像と日時設定を保全する。
ログやメールも取得者,取得日時,取得元及び複製の方法を記録し,調査用のコピーと原資料を区別する。
私物端末や個人アカウントについて,会社が当然に強制調査できると考えてはならない。

会社の資料だけでは転売先や共犯者の記録を確保できない場合は,社内調査と並行して警察相談を検討する。
警察に資料を渡した場合も,可能な範囲で控えと提出記録を残す。
会社が刑事記録を全て自由に入手できるわけではないため,捜査機関の調査結果を待てば民事上の証拠もそろうと考えるべきではない。

調査の順序,事情聴取,所持品検査及び私物調査の限界については,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査-初動,証拠保全,事情聴取及び調査の限界(AI作成)を参照されたい。
会社所有というだけで刑法上の窃盗か業務上横領かが決まるわけでもなく,対象物を誰がどの権限で占有していたかを確認する必要がある。

第3 懲戒解雇の根拠,手続及び重さを確認する

1 行為時の就業規則と周知を確認する

行為時に適用されていた就業規則,懲戒規程,労働協約及び雇用契約を確保する。
窃盗,横領,不正な持出し,又は会社に重大な損害を与えた行為等のどの条項に該当するのかを,認定できる事実に対応させる。
就業規則を監督署へ届け出たことと,社員に周知していたことは別であり,閲覧できる場所や社内システム等の周知状況も確認する(労働基準法106条)。

労働契約法15条・16条により,懲戒及び解雇には,客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要である。
持出しの回数,期間,品物の価値,転売による利益,職務上の管理権限,隠蔽,過去の処分歴,本人の説明,返還・弁償及び同種事案との処分の均衡を確認する。
繰り返しや転売は重い評価につながり得るが,「会社の物を盗んだ」という呼び方だけで,最も重い懲戒解雇の有効性を断定することはできない。

期間の定めのある労働契約の途中で解雇する場合は,労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」も問題になる。
刑事判決の確定まで常に待つ必要はないが,就業規則の条項自体が有罪判決や刑の確定を要件にしている場合は,逮捕だけでその条項を適用できない。

2 拘禁中でも,可能な弁明方法を検討する

就業規則等が弁明,懲戒委員会又は事前協議を定めている場合は,その手続を履行する。
法律が全ての懲戒事件に同一の弁明手続を要求しているわけではないが,処分対象事実と本人の説明を確認することは,誤認と処分の過重を避けるために重要である。

本人が拘禁されている場合は,拘禁施設,接見・通信の制限,刑事弁護人及び連絡可能な方法を確認し,質問事項を具体的にした書面回答等を検討する。
弁護人を連絡窓口とする場合も,本人の意向と対応可能な範囲を確認する。
接見禁止や通信上の制約によって回答できないことを,直ちに窃盗・転売の自認又は調査への不当な拒否と評価するべきではない。

逮捕,欠勤及び解雇を分けて検討する考え方は,逮捕されたら会社にばれるか-職場での逮捕,欠勤,懲戒及び解雇(AI作成)でも扱っている。

第4 解雇予告除外認定と本人への通知

1 懲戒解雇でも解雇予告の問題は残る

労働基準法20条は,原則として少なくとも30日前の解雇予告,又は30日分以上の平均賃金の支払を求めている。
予告日数は,平均賃金を支払った日数分だけ短縮できる。
会社が「懲戒解雇」と名付ければ,予告や予告手当が当然に不要となるわけではない。

労働者の責めに帰すべき事由を理由に予告・予告手当を省略する場合は,同条3項が準用する同法19条2項に基づき,所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることが問題となる。
申請に当たっては,窃盗・転売を裏付ける資料,就業規則,雇用関係及び予定する解雇の資料を整理し,具体的な提出資料は管轄監督署に確認する。
申請中であるというだけで,認定を得たものとして予告手当を省略してよいとはいえない。

解雇予告除外認定は,懲戒解雇が労働契約法上有効であることを確定する制度ではない。
認定を受けた場合も,第3の根拠,事実認定,手続及び相当性を別に確認する。
予告手当を支払う方法を選ぶ場合も,解雇自体の有効性が自動的に確保されるわけではない。

2 通知の到達と未払賃金を別に管理する

解雇の意思表示は,原則として本人に到達した時に効力を生ずる(民法97条1項)。
本人が拘禁中であるのに,自宅宛てへ発送したというだけで到達を確認したことにはならない。
拘禁施設での書面受領の取扱い等を確認し,通知内容,送付先,送付方法及び受領を示す資料を残す必要がある。

刑事弁護人や家族が,当然に解雇通知を受領する代理権を持つわけではない。
本人への連絡窓口となることと,解雇の意思表示を受領する権限があることを区別する。
拘禁施設,接見禁止の内容及び受領方法が不明な場合は,到達日を推測して退職日を処理する前に確認する。

損害賠償を理由とする賃金の一方的な天引きは,労働基準法24条の問題となる。
解雇理由等の証明書を請求された場合は同法22条,退職時に権利者から賃金や返還物の請求があった場合は同法23条の取扱いも確認する。
賃金等に争いがある場合でも,異議のない部分は同条所定の7日以内の支払・返還の対象となる。
退職金の減額・不支給も,損害回収や懲戒解雇とは別に規程と相当性を確認する問題である。

第5 品物ごとの損害額と回収済み部分を整理する

1 帳簿価額,転売代金及び新品価格を混同しない

民法709条による請求では,品物ごとに,会社の権利,本人の持出し・転売,損害及び因果関係を示す資料を対応させる。
取得価格,使用年数,使用状況,中古市場の価格,修理や代替取得の必要性等から,損害額の計算根拠を説明する。
帳簿価額が零だから損害も零,新品価格だからその全額,転売価格だから必ずその額,という機械的な計算はできない。

被害品の台帳には,品物の識別情報,帰属・管理資料,本人との対応資料,評価額とその根拠,返還,弁償及び保険による填補を記載する。
本人の行為との対応が不明な品物は,確認できた品物と区別し,仮差押えの申立額を在庫不足全体から逆算しないようにする。

2 返還,弁償及び保険金の二重回収を避ける

品物が返還された場合は,残る価値減少や費用等を検討し,未返還品の損害と区別する。
弁償金を受領した場合は残額へ反映し,保険金については保険者の代位等も含め,会社自身が請求できる範囲を確認する。
返還や填補があった品物について,喪失した価値の全額を重ねて回収してはならない。

通常業務の過失事故に関する責任制限の例を,故意の窃盗・転売にそのまま当てはめることはできない。
他方,故意だから会社が挙げた金額の全てが当然に認められるわけでもなく,行為との対応,現実の損害及び残額の裏付けが必要である。
社員に対する請求の範囲と賃金控除の制限については,社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条(AI作成)を参照されたい。

第6 預金仮差押えの申立てを準備する

1 請求権と保全の必要性を疎明する

民事保全法13条により,保全命令の申立てでは,保全すべき権利と保全の必要性を明らかにし,疎明する必要がある。
仮差押えは,金銭債権について,将来の強制執行ができなくなり,又は著しく困難になるおそれがあるときに認められる(同法20条)。
逮捕されたこと又は解雇を予定していることだけで,このおそれまで当然に認められるわけではない。

他の財産の有無,判明した資産処分,預金移動や費消の状況,支払能力,請求額及び本人の対応等の具体的な事実を資料に結び付けて説明する。
東京地裁の債権仮差押え書式も,他に仮に差し押さえるべき財産がない状況の疎明について,住所地等の不動産登記事項証明書やブルーマップの提出に言及している。
その取扱いを全国一律の提出物と断定せず,申立先の案内を確認する。

担保の要否・金額は裁判所が定める(民事保全法14条)。
窃盗事件だから無担保,又は常に請求額の一定割合であると考えず,担保資金と提供方法も事前に準備する。

買取業者に対する仮差押えも検討する場合は,社員への請求とは別に,その業者の故意・過失,関与した取引,因果関係及び請求額を裏付ける。
会社から通知を受けたことや警察の訪問があったことだけで,過去の全取引について賠償責任又は資産散逸のおそれがあると断定することはできない。
業者自身について判明した財産・処分状況等から保全の必要性を検討し,社員への請求額をそのまま転用しない。

2 銀行,取扱店舗及び対象債権を特定する

給与振込先の届出等,会社が適法に保有する資料から銀行名,取扱店舗,口座名義,預金の種類及び分かる範囲の口座番号を確認する。
過去の給与振込先が判明しても,現在の残高があることまで証明されるわけではない。
私物端末へ無断でアクセスするなど,違法な方法による探索をしてよいわけでもない。

第三債務者は原則として銀行等の法人であり,支店を独立した法人として扱うわけではない。
当事者目録の本店所在地・代表者と,預金債権目録の取扱店舗・対象債権の記載を,申立先の書式に合わせて準備する。
口座番号が不明でも直ちに申立不能と決まるわけではないが,債権を特定できる記載が必要であり,銀行名しか分からない状態で全店舗の預金を一括して凍結できると考えるべきではない。

民事執行法207条による預貯金情報の取得は,債務名義や同法197条の要件等が問題となる制度である。
会社が通常の窃盗被害に基づく不法行為請求を持つというだけで,判決等を得る前に当然に利用できる近道ではない。
取扱店舗,預金目録,銀行の相殺及び陳述催告の詳細は,預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)を参照されたい。

3 申立先と提出資料を確認する

管轄は,本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所を基本として確認する(民事保全法12条)。
預金口座の支店がある市の裁判所へ出せば当然に管轄がある,と決めるべきではない。
債権の所在地に関する同条の取扱いと,会社・社員の住所等を踏まえて申立先を確認する。

申立書,当事者目録,請求債権目録,仮差押債権目録,会社・銀行の資格証明資料,証拠と疎明資料,担当者の陳述書及び委任状等を準備する。
裁判所の記載例が貸金を前提としている場合,そのまま流用せず,窃盗・転売による不法行為と被害額の事実関係に書き換える。
銀行から債権の有無等の回答を得るための陳述催告も,必要に応じて申立てを準備する。

東京地裁民事第9部の案内では,保全事件は令和8年5月21日開始の民事訴訟の全面電子化の対象外とされ,従前どおり書面を提出する取扱いである(令和8年10月3日確認)。
提出方法,必要部数,費用及び担保提供後の手続は,申立時の裁判所の案内で確認する。

第7 発令後の送達,本訴及び回収

1 銀行への送達と2つの期間を混同しない

預金債権の仮差押えは,銀行等への弁済禁止命令によって執行され,銀行に命令が送達された時に効力が生ずる(民事保全法50条,民事執行法145条5項)。
保全執行は,会社に保全命令が送達された日から2週間を経過すると行えなくなるため,銀行の送達先や不達時の対応を確認する(民事保全法43条2項)。
同条3項により,社員本人に命令が送達される前でも保全執行はできる。

この2週間と,同法37条の起訴命令において定められる本案提起等の期間は別である。
起訴命令は,債務者の申立てにより裁判所が発し,本案の訴え提起とその証明等について2週間以上の期間を定める制度である。
仮差押命令の発令日から全事件で一律に2週間以内の本訴提起が義務付けられる,という意味ではないが,本訴の証拠と訴状は並行して準備しておくべきである。

2 仮差押えは回収完了ではない

仮差押えは,将来の強制執行に備えて財産を保全する手続であり,会社が直ちに銀行から預金を取り立てられる制度ではない。
陳述催告への回答で対象債権の有無や競合等を確認し,本訴,和解又は債務名義取得後の執行へつなげる。
口座の残高,銀行の相殺,他の差押え及び担保費用等によって,実際の回収可能性は変わる。

通常の書式で特定した預金債権の仮差押えについて,その後に入る給与等の全てが永続的に凍結されると説明してはならない。
対象となる預金の時点と範囲は,目録の記載と適用法に照らして確認する必要がある。
不十分な根拠や過大な申立額のまま保全を急ぐのではなく,確認できた権利と保全の必要性の範囲で手続を進める。

第8 出典・確認範囲

1 法令

①e-Gov法令検索「労働契約法」15条~17条
②e-Gov法令検索「労働基準法」19条,20条,22条~24条,89条及び106条
③e-Gov法令検索「民法」97条及び709条
④e-Gov法令検索「民事保全法」12条~14条,20条,37条,43条及び50条
⑤e-Gov法令検索「民事執行法」145条,197条及び207条

法令は令和8年10月3日時点の施行法を確認した。
前記の対応順序,資料の突合せ及び台帳の作り方は,これらの法令と以下の公的資料を踏まえた本記事の実務上の整理である。

2 公的資料

①厚生労働省「解雇予告期間を置いたり解雇予告手当を支払わないで解雇することができる場合」
②大阪労働局「退職・解雇・雇止め」に関する事業主向けの質問
③岡山労働局「解雇予告除外認定」の案内
④滋賀労働局「解雇予告除外認定申請書」の提出資料に関する案内
⑤東京地方裁判所民事第9部「保全事件の申立て」
⑥東京地方裁判所【書式2-1】債権仮差押命令申立書
⑦東京地方裁判所【書式2-2】第三債務者に対する陳述催告の申立書

上記の公的資料は令和8年10月3日に確認した。
各裁判所・労働局の書式や案内を,全国で一律に必要な資料又は個別事件の認容を保証するものとして扱うべきではない。
本記事では,特定の会社の就業規則,実際の被害品,拘禁施設,預金残高及び資産処分の状況は確認しておらず,特定の社員の解雇や仮差押えが認められるとの結論を示すものではない。