第1 対象と結論
本記事は、法務省が公表した令和8年司法試験の選択科目の問題のうち、国際関係法(私法系)第1問(問題冊子42・43頁、配点50点)を対象とする。令和8年9月30日現在、同年度の出題の趣旨と採点実感は確認できない。以下の評価項目、重み及び答案は、問題文、法令、裁判例と公開された再現答案を照合して作成した独自の予想であり、法務省の採点基準・配点ではない。参考答案の照合を経た稿であり、問題文だけから作成した未読復元答案とは区別する。
本記事の主案は、①AのBに対する訴えにつき日本の国際裁判管轄を認める、②その損害賠償請求には甲国法と丙国法を累積適用する、③AのCに対する直接請求の存否も同じ法によって判断し、両法が直接請求を認めないため請求を棄却する、④Eの訴えについてAが甲国を選択した結果、日本の訴えを却下する、⑤丙国判決につきAの民訴法118条3号の主張を退ける、というものである。特に③と⑤は解釈及び事実評価の争いがあり、理由を示した別解を一律に誤答と扱う趣旨ではない。
第2 評価項目の作り方と重み
問題文で明示的に問われた法律関係ごとに、条文の選択、連結点、反対説の根拠、事実の評価及び結論を分けた。重み5は答案の結論を左右する中核、4は不可欠な論証、3は重要な当てはめ、2は補強、1は除外指示の遵守に用いる。重みの数値を足して実際の点数を推定することはできない。別解を採る場合も、立場の違いだけでなく根拠と帰結が一貫しているかを重視する。
1 設問1・小問1(1)――日本の国際裁判管轄
| 番号 | 予想される評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり・根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | Bの日本の営業所・財産がないことを踏まえ、一般管轄や財産所在地管轄だけで処理しない | 2 | 42頁、民訴法3条の2第3項・3条の3第3号 |
| 2 | 船舶衝突に基づく損害賠償として民訴法3条の3第9号を特定する | 5 | 42頁、αとβの衝突 |
| 3 | 同号の対象を「損害を受けた船舶」αとし、その事故後の最初の到達地が日本と認定する | 5 | 42頁、αの日本での寄港・修理・荷揚げ |
| 4 | βの寄港・再出航をαの最初の到達地と混同しない | 2 | 42頁、βの応急処置・出航 |
| 5 | 公海での直接損害と、日本での修理費という派生損害を分け、同条8号だけで管轄を説明しない | 3 | 42頁、公海事故、修理 |
| 6 | 民訴法3条の9の特別の事情を独立に検討する | 4 | 両社が外国法人、事故が公海、証拠が日本 |
| 7 | 当事者の衡平・Bの応訴負担・適正迅速な審理を具体的事情に当てはめ、管轄の結論を示す | 4 | 42頁、αの修理・βの検査 |
2 設問1・小問1(2)――衝突による不法行為の準拠法
| 番号 | 予想される評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり・根拠 |
|---|---|---|---|
| 8 | AB間の損害賠償請求を不法行為と性質決定し、通則法17条を出発点にする | 4 | 42頁、小問1(2) |
| 9 | 直接の船体破損は公海で生じ、日本近郊であっても公海を日本領域とみなせないと述べる | 5 | 42頁、事故地 |
| 10 | 日本で支出した修理費を17条の直接の結果発生地としない | 3 | 42頁、事故後の修理 |
| 11 | 結果発生地に属する国の法を指定できないことを説明し、条理による連結を検討する | 5 | 通則法17条、東京高裁平成29年6月30日決定 |
| 12 | 異なる旗国を有する両船の旗国法を累積する理由を示し、甲国法・丙国法を挙げる | 5 | αは甲国旗、βは丙国旗 |
| 13 | 東京高裁決定は保険先取特権事件における前提判断であり、直接請求事件の先例だと取り違えない | 2 | 決定の事案と射程 |
| 14 | 事故後の日本寄港をもって通則法20条の「明らかにより密接」と直ちにしない | 3 | 42頁、寄港と修理 |
| 15 | 事後の準拠法選択がないこと、外国法による不法行為請求には同法22条の制限が及ぶことを整理する | 2 | 設問の除外指示、通則法21・22条 |
3 設問1・小問2――AのCへの直接請求
| 番号 | 予想される評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり・根拠 |
|---|---|---|---|
| 16 | 「保険金を直接支払え」というAの請求を、Bの保険金請求やCによる保険代位と区別する | 5 | 42頁、小問2と43頁、設問3の対比 |
| 17 | A説の根拠として、保険者の引受範囲・契約の予測可能性と、BC間の丁国法選択を示す | 4 | 42頁、保険契約・通則法7条 |
| 18 | C説の根拠として、被害者の法定の権利であること、AがBC契約の当事者でないことを示す | 4 | 42頁、直接請求条項なし |
| 19 | 直接請求権の存否を不法行為準拠法に結び付ける主案、又は保険契約準拠法に結び付ける別解を、理由とともに選ぶ | 5 | 明文の抵触規則なし、両説対立 |
| 20 | 主案なら甲国法・丙国法はいずれも直接請求を認めないという帰結を示す | 5 | 42頁、各国法についての設問指定 |
| 21 | 直接請求権の発生と、契約の補償範囲・限度を区別し、保険の担保危険を推測で確定しない | 3 | 42頁、保険契約の詳細は不記載 |
| 22 | 丁国法説を採る場合は、約款に直接請求条項がなくても丁国の法定の請求権が及ぶ理由を述べる | 3 | 42頁、直接請求条項なし・丁国法の内容 |
4 設問2――船荷証券の管轄合意
| 番号 | 予想される評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり・根拠 |
|---|---|---|---|
| 23 | Eの契約上の請求について日本の引渡地という管轄原因と、管轄合意による排除を分ける | 3 | 43頁、商品引渡地は日本 |
| 24 | 民訴法3条の7第1・2項の一定の法律関係・書面という要件を示す | 4 | 43頁、船荷証券裏面約款 |
| 25 | 条項が船荷証券下の請求を対象とし、候補国を甲国・乙国・日本と客観的に特定できると述べる | 4 | 43頁、条項全文 |
| 26 | AD間の合意の効力がEに及ぶとの設問の前提を守る | 1 | 43頁末尾のなお書き |
| 27 | 「運送人の選択に従い」「裁判所によって判断される」を読み、選択後の専属管轄か付加的管轄かを論じる | 5 | 43頁、条項の文言 |
| 28 | Aの甲国選択が第1回口頭弁論時である点を、選択期限・信義則・手続保障から評価する | 5 | 43頁、選択時期 |
| 29 | 外国裁判所が裁判権を行使できないときは合意を援用できないことを示す | 3 | 民訴法3条の7第4項 |
| 30 | 甲国と運送人の関連、日本の引渡地・Eの所在地を比較し、合意が著しく不合理な場合を検討する | 3 | 43頁、各当事者と土地 |
| 31 | 日本で提訴済みという一事と、外国で再提訴できない等の具体的不利益を区別して結論を出す | 4 | 43頁、第一回口頭弁論での選択 |
5 設問3――丙国判決の手続的公序
| 番号 | 予想される評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり・根拠 |
|---|---|---|---|
| 32 | 執行判決における外国判決の承認要件を民訴法118条で捉え、2号と3号を分ける | 4 | 43頁、執行判決請求 |
| 33 | 訴状の領事送達は適式であり、2号の開始送達に問題がないと述べる | 3 | 43頁、領事送達 |
| 34 | 判決書が届かなかっただけでは直ちに3号違反とならないという最高裁平成31年1月18日判決の命題を示す | 5 | 43頁、誤住所への郵送 |
| 35 | 判決内容を知り又は知る実質的機会と、不服申立ての機会の有無を基準にする | 5 | 同最高裁判決、118条3号 |
| 36 | 欠席被告への送達不要、呼出状の警告、Aの欠席、郵便の不達、ウェブ上の閲覧可能性をそれぞれ評価する | 5 | 43頁、手続の経過 |
| 37 | ウェブ掲載だけで当然に足りるとはせず、控訴期間中の閲覧可能性等が欠ける場合の別論を示す | 4 | 43頁、掲載時期等は明示なし |
| 38 | AB間の日本の訴訟を設問3の判断に持ち込まない | 1 | 43頁末尾のなお書き |
以上38項目の内訳は重み5が13項目、4が10項目、3が9項目、2が4項目、1が2項目である。特に結論が割れる設問1・小問2と設問3では、結論の一致より、対立する考え方の法的根拠と事案への適用を評価するという予想である。
第3 模範解答
以下は上記主案による答案である。CBT試験の入力上限は選択科目1問につき4頁、各頁23行・各行30文字(最大2,760文字)である。そこで、30文字以内の行に改行し、見出しを含めて92行とした。実際のCBT入力画面の自動改行・禁則処理まで再現したものではない。
第1 設問1・小問1(1)
1 Bは丙国法人で日本に営業所も財産もない。民訴法3条の2
第3項、3条の3第3号は管轄の根拠とならない。本訴は
船舶衝突に基づく損害賠償の訴えであり、同条9号を検討する。
2 損害を受けた船舶αが事故後最初に到達した地は
日本である。その地で修理と荷揚げをしており、同号
により日本の裁判所に管轄がある。βの一時寄港や出航は、
αについての「最初に到達した地」を左右しない。
3 もっとも民訴法3条の9により、特別の事情があれば訴え
を却下する。両当事者が外国法人で事故地が公海であることはB
の負担に関係する。しかしαの修理、βの検査が日本で行われ、
損傷の証拠も日本にある。日本で審理することが当事者の衡平
や迅速な審理を害する特別の事情はなく、日本の国際裁判管轄
を肯定する。同条8号の一般的な不法行為地管轄では、公海を
日本の領域として扱えない。日本で生じた修理費用も船体破損か
ら派生した損害であって、日本を直接の結果発生地にはしない。
第2 設問1・小問1(2)
1 AB間の請求は不法行為であり、通則法17条は
結果発生地法を定める。直接の損害たるαの破損は
公海で生じた。後の日本での修理費支出をもって、結果
発生地を日本とすることはできない。公海は国の領域で
ないから同条の結果発生地法を定めることができない。
2 条理上、公海での異国籍船衝突は両船の旗国法を累積
適用すべきである。両船の運航を規律する法への予測可能
性と双方の船舶を対等に扱う必要がある。したがって甲国
法と丙国法による。日本への寄港は事故後の事情であり、
通則法20条により日本法へ変更しない。事後の選択合意も
なく同法21条は働かない。日本で外国法による請求には同
法22条の不法性と救済の制限が及ぶ。東京高裁平成29年
6月30日決定も、公海での異国籍船の衝突について、17
条の結果発生地法は存在しないとして両旗国法を累積した。
22条は甲国法・丙国法を日本法に置き換える規定ではない。
第3 設問1・小問2
1 Aは、直接請求がBC間の保険契約の効力
として生ずると捉える。契約準拠法は通則法7条により
選択された丁国法であり、同法ならAの直接請求を
認めるという。保険者の責任範囲を契約法で統一できる。
2 Cは、契約当事者でないAが保険者に固有の請求権を得るか
は、事故被害者の保護という不法行為の問題だと捉える。AB間の
賠償請求の準拠法と同じ甲国法・丙国法によるべきだと主張する。
3 直接請求はBの保険金請求権の譲渡でも、Cによる保険代位で
もない。被害者にCへの請求権を与えるかは、被害者と加害者の事
故関係に従属する。BCの選択だけで第三者Aの権利の発生を決
めるのは相当でないから、Cの見解を採り甲国法と丙国法による。
両法とも直接請求を認めずAの請求は棄却される。保険契約の補
償範囲はなお丁国法による問題として区別する。反対に、第三
者の直接請求も保険者が引き受けた危険の一部で、保険者は丁
国法を前提に保険料と補償範囲を定めたと考えれば、丁国法を適
用する説にも理由がある。しかし、それによって当事者でない被
害者の権利の存否まで保険契約の選択に委ねるのは妥当でない。
丁国法の直接請求規定を本問に直ちに適用することはできない。
第4 設問2
1 Eの請求は日本での引渡しを伴う運送契約の
債務不履行に基づく。日本の管轄原因があっても
管轄合意により日本の審理が排除されるかを問う。
2 民訴法3条の7第1・2項によれば一定の法律
関係につき書面で管轄国を定められる。船荷証券の裏面
約款は本証券下の紛争を対象とし、候補国はAの
主たる事業所の甲国、発送地の乙国及び引渡地の日本と
特定できる。効力がEにも及ぶことは設問の前提である。
3 「運送人の選択に従い」選ばれた国の裁判所が判断す
る文言は、選択後はその国だけに提訴する合意と解する。
第一回口頭弁論での甲国の選択は、期限の定めがなく
本案前の抗弁としてされたから、直ちに遅きに失しない。
4 外国裁判所が裁判権を行使できない場合は同条4項により
援用できず、裁判を受ける機会を著しく奪う場合も信義則等によ
る制限を検討すべきである。本問にその具体的事情は示されず、
Aの主張を認め日本の訴えを却下する。日本が引渡地でありEも
日本法人であることは、日本の訴訟利益を支えるが、それだけで
合意を失効させない。甲国はAの主たる事業所所在地で、候補は運
送取引と無関係でない。外国での訴えが期間制限のため不可能とい
う事情も示されない。選択が提訴後という一事で無効とはしない。
ただし文言を単なる付加的管轄合意と読むなら日本の管轄は残る。
第5 設問3
1 執行判決には外国判決が民訴法118条の要件を満たす
必要がある。訴状の領事送達は適式であり、同条2号の訴訟開始
の送達は満たしている。問題は判決書の不達と同条3号である。
2 最判平成31年1月18日は判決書が
届かないだけで公序違反とせず、判決を
知る実質的機会と控訴の機会を問う。
3 C代理人の郵便は誤住所に送られ、Aは判決内容を
現実には知らなかった。一方、Aには適式に訴状が届き、
呼出状に欠席判決の可能性が記された。Aは自ら欠席し、
その後も丙国裁判所がネットで公表する判決書を閲覧できた。
これらを総合すると、Aには判決を知り期間内に控訴する
実質的機会があった。送達欠缺のみで公序違反とはいえず、
Aの118条3号の主張は認められない。ウェブ上の
掲載だけで常に足りるわけではないが、本件ではAが訴訟
開始と欠席判決の危険を知りながら参加せず、閲覧可能な
判決を確認しなかったことも考慮する。もし公表が控訴
期間後であったり、実際の閲覧に重大な障害があったり
すれば別論となるが、そのような事情は問題文にない。以上
第4 公開された参考答案との照合
令和8年9月30日までにウェブ上で本文を確認できた同年度・同一問題の資料として、Sasa氏の再現答案とtaka肉氏の受験記中の答案構成を照合した。前者は設問2を白紙としており、後者も詳細な答案本文ではない。それぞれ受験者個人の再現・振り返りであり、正解又は採点資料ではない。
| 論点 | 公開資料で確認した記述の要旨 | 本記事での扱い |
|---|---|---|
| 船舶衝突の管轄 | Sasa氏は民訴法3条の3第9号と3条の9を検討する。taka肉氏は8号を中心に書き、9号を見落としたと振り返る。 | 9号を中核とし、8号との違いも記す。 |
| 公海での不法行為の準拠法 | Sasa氏は日本近郊の公海を日本の結果発生地と評価する。taka肉氏は旗国法の累積適用を記す。 | 公海は日本の領域でなく、東京高裁決定の考え方を採る。 |
| 保険者への直接請求 | 両氏とも丁国法を採るが、根拠は保険契約との関係で説明している。 | 丁国法説を有力な別解として説明し、主案では法定の被害者保護に着目する。直接請求と保険代位は区別する。 |
| 船荷証券の管轄条項 | Sasa氏の設問2は白紙。taka肉氏は管轄合意に触れるが、選択時期等の詳細は確認できない。 | 条項の専属性と第一回口頭弁論での選択を独立の評価項目にする。 |
| 外国判決の公序 | Sasa氏はウェブ閲覧可能性からAの主張を退ける。taka肉氏はAの主張を認める構成を記す。 | 最高裁の「実質的機会」の基準で両方向の事情を評価し、主案は退ける。 |
国際私法.jpの同年度第1問ページも確認したが、確認時点では「答案(例)」の本文がない。同ページの「出題の趣旨」「採点実感」のリンク先は令和7年の資料に使われた番号であり、本問の令和8年公式資料として参照していない。また、加藤ゼミナールのCBT演習サイトには令和8年の問題選択ボタンが見えるが、公開検索画面からは本問の参考答案本文を確認できなかった。会員限定・有料資料の本文を読んだものとして論評していない。
第5 解説――結論が分かれる箇所
1 公海の衝突と旗国法
民訴法3条の3第9号は、船舶衝突に関して「損害を受けた船舶が最初に到達した地」を特に管轄原因とする。他方、準拠法について通則法に船舶衝突の専用規定はない。「日本近郊」という距離や日本での修理を根拠に公海を日本の領域と扱うと、管轄と準拠法の連結点を取り違える。東京高裁平成29年6月30日決定の判例評釈には、公海に通則法17条の結果発生地法は存在せず、衝突船の旗国法を累積する判断が掲載されている。この判断は保険法22条の先取特権をめぐる事件で、直接請求の準拠法まで決めたものではない。
2 直接請求権は誰の、どの法律関係から生じるか
Aの「丁国法」説は、第三者の直接請求をBC間の保険契約に結び付け、契約によって引き受けた危険の範囲を契約準拠法により統一する。他方、Cの「不法行為準拠法」説は、Aに法定の請求権を与えるかを被害者保護制度の一部とみて、AB間の不法行為準拠法に結び付ける。日本の通則法にはこの直接請求の準拠法を一義的に定める明文がなく、吉澤卓哉論文の紹介資料も両説の存在を説明する。本記事は後者を主案とするが、丁国法説も理由付け次第で評価され得ると予想する。保険法22条の先取特権についての論考が説明するように、日本法上の一般的な賠償責任保険の先取特権は、被害者の保険者に対する当然の直接請求権と同じものではない。CがBに保険金を払ってBの請求権に代位する設問3とも混同できない。本件保険契約がどの危険を担保するか、その詳細は問題文から確定できず、直接請求の準拠法問題と補償対象の認定も分ける。
3 提訴後に運送人が選択する管轄条項
民訴法3条の7は国際管轄合意を認めるが、本件の文言を専属的と読めるか、選択をいつまでにすべきか、甲国で実際に裁判を受けられるかは別々の問題である。最高裁昭和50年11月28日判決を紹介する関連記事は、船荷証券の管轄約款の方式と外国専属管轄合意の有効性を整理する。東京地裁平成20年9月24日判決を紹介する文献には、運送人が提訴後に候補国を選んで訴えが却下された例がある。ただし同判決の原本は本記事の調査では確認していないため、その紹介以上の判示を断定しない。本件では第一回口頭弁論での選択を有効とみる一方、条項が非専属と読まれる場合や外国での実効的救済が閉ざされる場合は別論となる。
4 判決書の不達とウェブ閲覧可能性
最高裁平成31年1月18日判決は、外国判決の判決書が送達されなかったという事実だけで民訴法118条3号違反とはせず、判決内容を知る実質的な機会と不服申立ての機会の有無を調べるよう求め、差し戻した。インターネット掲載について一般的な十分条件を示した判決ではない。本問は訴状の適式送達、欠席判決の警告とウェブ上の閲覧可能性を加えているため、本記事はAに実質的な機会があったとみる。ただし、判決がいつ公開されたか、控訴期間中にAが閲覧できたか、外国のサイトへのアクセスに障害があったかは細部が示されない。これらに否定的な事情を認定できれば、Aの主張を認める方向もあり得る。「ウェブ掲載=必ず公序適合」と単純化しないことが肝要である。
第6 関連資料と確認状態
- 法務省・令和8年司法試験の問題掲載ページ/選択科目の問題PDF(問題冊子42・43頁)。
- 法の適用に関する通則法(衆議院の制定時法文)の7条、17条、20~22条。制定時法文である点に留意し、試験の原則的な法令基準日は法務省の令和8年司法試験Q&Aにある令和8年1月1日とした。
- 民事訴訟法3条の2~3条の9、118条(WIPO Lex掲載法文)。
- 東京高裁平成29年6月30日決定の判例評釈。決定本文の引用部分と評釈者の意見を区別した。
- 最高裁平成31年1月18日判決全文。
確認状態: 問題文、上記の法令本文、最高裁判決全文及び公開された2件の再現・構成メモの該当部分は確認した。東京高裁決定と東京地裁平成20年判決はそれぞれ掲載資料・紹介文献で確認した範囲にとどまる。令和8年度の公式の出題の趣旨・採点実感は未確認であるため、公開後には予想項目と答案の再点検が必要となる。