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電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

第1 本記事の対象と基準日

1 対象

本記事は,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)3条が定める電磁的記録の真正な成立の推定について,条文の構造,民事訴訟法228条4項との関係,いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスに関する政府のQ&A,及び訴訟で成立の真正が争われたときの立証の考え方を整理するものである。
紙の契約書では,本人の署名又は押印があれば文書が真正に成立したものと推定されるが,電子契約では,どのような電子署名があれば同じような推定が働くのかが問題になる。

2 基準日と資料

本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した。
電子契約サービスについては,総務省・法務省・経済産業省が令和2年9月4日に公表し,デジタル庁・法務省が令和6年1月9日に一部改定した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(以下「3条Q&A」という。)の原文による。
電子署名法3条の推定の成否を判断した裁判例については,本記事では調査の対象としていない。

第2 条文の構造

1 電子署名法3条の文言

電子署名法3条は,「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
推定の対象は,公務員が職務上作成したものを除く電磁的記録であり,推定が働くための前提は,本人による電子署名であって,本人だけが行うことができることとなるものが行われていることである。

2 「電子署名」の定義

電子署名法2条1項は,「電子署名」を,電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって,「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。」及び「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」の2つの要件のいずれにも該当するものと定義している。
3条の電子署名は,この2条1項の電子署名に当たることを前提に,さらに「本人だけが行うことができることとなるもの」に限定されている。
電子署名法1条は,同法の目的として,電子署名に関し,電磁的記録の真正な成立の推定,特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることを掲げている。

3 民事訴訟法228条4項との対応

民事訴訟法228条1項は,「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定め,同条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
電子署名法の法律案を内閣法制局第四部長として審査した山本庸幸元内閣法制局長官は,回想録の中で,同法3条を民事訴訟法228条4項のいわばデジタル版として置いたと説明している(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁)。
押印された私文書について,印影が本人の印章によるものであれば本人の意思に基づく押印と事実上推定され,その上で228条4項の推定が働くという「二段の推定」については,二段の推定とはで扱っている。

第3 3条の推定が働くための要件

1 3条Q&Aが示す2つの要件

3条Q&A問1は,電子署名法3条の規定が適用されるためには,次の2つの要件が満たされる必要があるとしている。
①電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること。
②その電子署名が本人(電子文書の作成名義人)の意思に基づき行われたものであること。

2 固有性の要件

3条Q&A問1は,3条の電子署名が2条の電子署名よりも要件を加重されているのは,3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからであると説明している。
その上で,この効果を生じさせるためには,「暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められることが必要であり」,これを「固有性の要件」と呼んでいる。
同問は,例えば,十分な暗号強度を有し他人が容易に同一の鍵を作成できないものである場合には,①の要件を満たすとしている。

3 本人の意思に基づくこと

3条Q&A問1は,3条が電子署名を「本人による」ものであることを要件としているのは,「電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたものであることを要求する趣旨である」と説明している。
紙の文書で署名や押印が本人の意思に基づくことが必要であるのと同様に,電子署名でも,形式的に電子署名が付されているだけでは足りず,それが作成名義人の意思に基づくことが前提となる。

第4 立会人型の電子契約サービスの位置付け

1 どのようなサービスか

3条Q&Aが対象とするのは,利用者の指示に基づき,サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスであり,一般に立会人型又は事業者署名型と呼ばれるものである。
3条Q&Aの注は,このサービスには,電子署名を行う際にサービス提供事業者が自動的・機械的に利用者名義の一時的な電子証明書を発行し,それに紐付く署名鍵により暗号化等を行うサービスも含むとしている。
電子署名法2条との関係については,令和2年7月17日に,2条に関するQ&Aが別に公表されている。

2 2条の電子署名に当たるための条件

3条Q&A問2は,2条関係のQ&Aで示した考え方として,技術的・機能的に見て,サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく,利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されており,かつ,事業者が電子文書に行った措置について付随情報を含めて全体を一つの措置と捉え直すことによって,その措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には,2条1項の電子署名に当たるとしている。

3 3条の電子署名に当たるための条件

(1) 2つのプロセスの固有性

3条Q&A問2は,立会人型のサービスが3条の電子署名に当たるためには,十分な水準の固有性が必要であり,それは「①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス」と「②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセス」のいずれにおいても満たされている必要があるとしている。
令和6年の改定で,①と②のいずれか一方だけが十分な水準の固有性を満たしていても,全体として不十分な場合には,十分な水準の固有性を有しているとは認められなくなる,という留意点が追記された。

(2) 利用者と事業者の間のプロセス

3条Q&A問2は,①のプロセスについて,2要素認証を行っている場合には十分な水準の固有性を満たすと評価され得るとし,その例として次の方法を挙げている。
①あらかじめ登録されたメールアドレス及びログインパスワードの入力に加え,SMS送信や手元のトークンの利用など,メールアドレスの利用以外の手段で取得したワンタイム・パスワードを入力する方法
②あらかじめ登録されたメールアドレスに配信された時限アクセスURLへのアクセスと,署名用のトークンアプリをインストールしたスマートフォンによる認証を組み合わせる方法
③利用者専用のログインID・パスワードを利用したアクセスと,利用者に配布されたトークンデバイスによる認証を組み合わせる方法
同問は,十分な水準の固有性を満たすために2要素認証が必須ということではなく,他の方法によることを妨げるものではないとも述べている。

(3) 事業者内部のプロセス

3条Q&A問2は,②のプロセスについて,十分な暗号の強度,適切な鍵の管理,利用者ごとの個別性を担保する適切な仕組みが備わっていれば,十分な水準の固有性を満たしていると評価され得るとし,その例として,アクセスや操作のログ等が正しく記録され改ざんや削除ができない仕様とされていること,運用担当者による不正ができないシステム設計・運用設計がされていること,適切な運用が監査等で確認されることとされていること,必要に応じてログや監査の記録,システム仕様書等を提出できるよう十分な期間保存することとされていることを挙げている。
その上で,あるサービスが3条の電子署名に当たるか否かは,「個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの」,一般論として,①及び②のいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には,3条の電子署名に当たるとしている。

4 「符号及び物件」の適正な管理

3条Q&A問3は,立会人型のサービスで3条の「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理すること」の具体的内容は個別のサービス内容により異なり得るとした上で,例えば,サービス提供事業者の署名鍵と利用者のパスワード(符号),サーバーと利用者の手元にある2要素認証用のスマートフォン又はトークン(物件)等を適正に管理することが該当し得るとしている。

第5 訴訟で成立の真正が争われたときの立証

1 利用者と作成名義人の同一性

3条Q&A問4は,訴訟で電子文書の成立の真正が争われた場合,3条の推定の主張が認められるためには電子署名が本人の意思に基づき行われたものであることが必要であり,「挙証者が、電子文書の作成名義人本人による電子署名が行われていること、すなわち電子契約サービスの利用者と電子文書の作成名義人が同一であることを立証する必要がある。」としている。
同問は,サービス提供事業者による利用者の身元確認は,3条の推定の要件として必ず求められているものではないが,利用者と作成名義人の同一性を立証する有効な手段の一つとなり得るとし,取引の当事者同士で身元確認を行っている場合や,事業者が身元確認を附帯サービスとして代行している場合も同様であるとしている。

2 身元確認の水準とサービスの選択

3条Q&A問5は,作成名義人と利用者の同一性の証明の水準や,そのために求められる身元確認の水準・方法,なりすまし等への防御の程度は,裁判所の判断に委ねられるべき事柄であるとしている。
その上で,「現状では必要な基準についての裁判例の蓄積が十分でなく、身元確認の水準や防御レベルが低い場合には、実際の裁判において真正な成立を推定するためには不十分であると判断される可能性がある。」と述べ,契約の重要性や金額に照らして,推定が得られない場合に生じる損害等を考慮した上で,適切なサービスを慎重に選択することが適当であるとしている。

3 推定以外の立証手段

3条Q&A問6は,電子文書の成立の真正は3条の推定のみによって判断されるものではなく,民事訴訟法247条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により裁判所が判断するものであるとしている。
同問は,身元確認が取引開始時点で高い水準で行われていなかった場合でも,契約当事者間における電子文書の成立過程を裏付ける証拠等を提出できれば,それも成立の真正の有効な立証手段となり得るとし,令和2年6月19日の内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」でも,成立の真正を証明する手段を確保する方法の例が公表されていることに触れている。

4 実務上の留意点

以上の3条Q&Aの内容からすると,電子契約で締結した契約について後に成立の真正が争われる事態に備えるには,次の資料を契約時点で確保しておくことが考えられる。
①電子契約サービスの利用者が作成名義人本人であることを示す身元確認の記録
②署名時の認証方法とその記録(2要素認証の有無,ログインの日時等)
③サービス提供事業者の操作ログ,監査記録及びシステム仕様に関する資料を必要なときに入手できるかどうかの確認
④契約締結に至るまでの当事者間のメールその他のやり取り
電子データを証拠として保全するときの記録の残し方については,デジタル証拠の原本保全とハッシュ値で,AIで作成・加工された証拠の問題については,AIで作成・加工された証拠と民事訴訟の対応で扱っている。

第6 認定認証業務との関係

電子署名法2条3項は,電子署名のうち,その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務を「特定認証業務」と定義し,同法4条1項は,特定認証業務を行おうとする者は主務大臣の認定を受けることができると定めている。
同法40条1項により,主務大臣は,内閣総理大臣及び法務大臣である。
認定を受けた認証業務による電子証明書を用いた電子署名は,本人確認の水準を示す資料の一つとなり得るが,3条の推定の成否は,前記のとおり,最終的には個別の事案における裁判所の判断による。

第7 出典

1 法令

①電子署名及び認証業務に関する法律1条,2条,3条,4条及び40条(e-Gov法令検索)
②民事訴訟法228条及び247条(e-Gov法令検索)

2 公的資料

①総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(令和2年9月4日,令和6年1月9日デジタル庁・法務省一部改定,法務省)

3 文献

山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁