メインコンテンツへスキップ
       

共犯関係が途中で変わった場合の傷害責任-共謀の射程,共犯からの離脱及び刑法207条(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

複数人が一人の被害者に暴行し,途中で一人が加わり,又は一人が制止・離脱した後も別の者が暴行を続けた事件では,最終的な傷害結果だけを見て全員の責任を一括して判断してはならない。

検討の順序は,①各人の暴行と個別の傷害結果との因果関係,②共同正犯又は幇助犯として帰責できる時間的・内容的な範囲,③因果関係を個別に証明できない傷害について刑法207条を適用できるか,である。
共謀が続いているかという問題と,刑法207条によって原因不明の傷害を帰責できるかという問題は,別の層として検討する必要がある。

本記事は,令和8年9月24日現在の法令及び裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例に基づく一般的な整理である。具体的な事件では,暴行の時刻,部位,凶器,強度,各人の認識,制止行為,現場からの離脱及び傷害の医学的所見によって結論が異なる。

第2 最初に三つの時間軸を分ける

捜査記録を読むときは,次の三つの時間軸を別々に作ると論点の混同を避けやすい。

時間軸記録する事項主な法的問題
暴行の時間軸誰が,いつ,どの部位を,何で,どの程度の力で攻撃したか実行行為と因果関係
意思連絡の時間軸共謀の成立,内容の変更,制止,離脱,新たな動機共同正犯の成立と射程
傷害の時間軸傷害の種類,発生時期,原因となり得る各暴行,医学的鑑別の可否個別因果関係と刑法207条

例えば,先行する暴行については共謀があっても,その後に一人が口封じ,報復又は私的怨恨という別の動機で質的に異なる暴行をした場合,後行暴行まで当初の共謀に含まれるとは限らない。
他方,後行暴行が共謀の射程外であるとしても,先行暴行と後行暴行のいずれが同じ傷害を生じさせたか分からない場合には,刑法207条を別に検討する余地がある。

第3 共謀の射程を判断する事情

刑法60条は,二人以上共同して犯罪を実行した者を共同正犯とすると定めている。共同正犯が成立するには,単に同じ場所にいたことではなく,共同実行の意思と,その意思に基づく相互利用・補充関係を具体的事実から認定する必要がある。

途中で行為の内容が変わった場合は,少なくとも次の事情を時系列で比較する。

① 当初の共謀が予定した目的及び暴行の程度
② 凶器,攻撃部位又は強度が変わったか
③ 被害者が抵抗不能となった後も攻撃が続いたか
④ 後行者に口封じ,報復その他の新たな動機が生じたか
⑤ 他の者が後行暴行を予測し,容認し,又は利用したか
⑥ 制止,救護,現場離脱その他,共謀の継続と相反する行動があったか

「一連の暴行である」という外形だけで共同正犯の射程を広げることも,「新しい動機が生じた」という一点だけで当然に射程を切ることも適切ではない。問題となる各暴行について,その時点の意思連絡と相互利用関係を認定する。

第4 共犯関係からの離脱

共犯関係からの離脱は,単に自分が攻撃をやめたかという問題ではない。先に形成された共謀と自分の関与が,その後の実行に及ぼす因果的影響を解消したと評価できるかが問題となる。

裁判所ウェブサイトに掲載された下級審裁判例には,共同暴行からの離脱について,自己の暴行をやめるだけでなく,離脱の意思を他の者に伝え,暴行をやめるよう求め,従前の共謀に基づく暴行が誰によっても継続されない状態を作ったかを重視したものがある。
もっとも,これは最高裁が一般的な離脱要件を定式化した判例ではない。事件ごとの共謀内容,関与の程度及び残存する因果的影響を個別に評価する必要がある。

弁護側では,制止の発言,凶器の回収,現場からの搬出,救急要請,他の共犯者への連絡,実行計画に関する情報又は道具の回収など,従前の関与の影響を弱めた具体的行為を収集する。単なる沈黙,傍観又は現場からの退去だけでは,離脱を基礎付ける事情として足りないことがある。

第5 刑法207条の同時傷害の特例

1 条文が解決する問題

刑法207条は,二人以上が暴行を加えて人を傷害した場合に,誰の暴行によって傷害が生じたかを知ることができず,かつ,共同して実行したといえない場合でも,共犯の例によるとする特例である。

この規定は,複数の暴行があったというだけで全傷害を全員に負わせる規定ではない。少なくとも,各人の暴行が問題となる傷害を生じさせ得る危険性を有し,外形的に共同実行に等しい同一の機会に行われたことが必要になる。

2 最高裁平成28年3月24日決定

最高裁平成28年3月24日第一小法廷決定(平成27年(あ)第703号・刑集70巻3号1頁)は,複数の暴行が同一の機会に行われ,いずれも死亡原因となった傷害を生じさせ得る危険性を有する事案について,刑法207条を適用し得るとした。
一方の暴行と死亡との因果関係が認められる可能性があることだけで,他方の暴行に同条を適用する余地がなくなるわけではない。

3 最高裁令和2年9月30日決定

最高裁令和2年9月30日第二小法廷決定(令和元年(あ)第1751号・刑集74巻6号669頁)は,検察官が,①各暴行に当該傷害を生じさせ得る危険性があること,②各暴行が外形的に共同実行に等しい同一の機会に行われたことを証明した場合,行為者は自己の暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り,刑法207条による責任を免れないとした。

同決定は,途中から共謀が成立したことだけで,同条の適用が当然に排除されるわけではないことも示した。
もっとも,後から加わった者の暴行に,先行して生じた特定の傷害を発生させる危険性がなければ,その傷害について同条を適用することはできないとした。したがって,傷害ごとに,暴行の部位,凶器,強度及び発生機序を対応させる必要がある。

第6 途中参加・途中離脱と刑法207条を混同しない

問題確認する中心事実判断の効果
途中参加参加前の暴行を認識・利用したか,参加後の共謀内容共同正犯として帰責される時間的範囲
途中離脱離脱意思の伝達,制止,因果的影響の解消離脱後の実行を共同正犯として帰責できるか
刑法207条傷害発生の危険性,同一の機会,個別原因の不明共謀がない傷害について共犯の例による帰責が可能か

この三つは互いに関連するが,代替関係ではない。共謀の成立又は継続が認められれば,その射程内の傷害について共同正犯の原則で処理できる。他方,共謀の射程外と判断した傷害でも,刑法207条の要件を満たすことがある。逆に,外形上一連の暴行でも,問題となる傷害を生じさせる危険性がない行為者に同条を適用することはできない。

第7 刑事弁護で集めるべき証拠

① 防犯カメラ,通話・メッセージ,位置情報等による秒単位の時系列
② 各人の位置,視界,発言及び制止行為
③ 凶器の種類,形状,付着物及び使用順序
④ 各打撃の部位,方向及び強度
⑤ 診療録,画像,写真及び鑑定意見による傷害発生機序
⑥ 被害者の姿勢,意識状態及び抵抗可能性の変化
⑦ 共謀の目的・内容と,後に生じた別個の動機
⑧ 制止,救護,通報,凶器回収等の離脱を基礎付ける行動

供述だけで一連性を評価せず,映像,位置関係,医学的所見及び通信記録を一つの時系列に重ねることが重要である。刑法207条が問題となる場合は,検察官がどの傷害について,どの暴行に危険性があると主張しているかを傷害ごとに特定させる。

第8 令和3年司法試験問題から得られる実務上の学び

法務省の令和3年司法試験・論文式試験問題(刑事系科目)には,先行暴行後に一人が制止され,他の者が別個の動機を形成して暴行を続け,傷害の原因行為が特定できない場面が含まれている。

この問題から実務に移せる学びは,罪名を先に決めるのではなく,共犯図因果図を別々に作ることである。共犯図には共謀の成立・変更・離脱・新たな動機を,因果図には各暴行の時刻・部位・凶器・強度・傷害発生危険性を記録する。二つの図を作った後に,共同正犯の射程と刑法207条を順に検討する。

なお,本記事の作成に当たり,同年度の法務省「出題の趣旨」及び「採点実感」は,検索結果のスニペットや転載を含めて参照していない。本記事は,問題文と下記一次資料から独立に再構成した実務整理であり,公式の解説又は正解を示すものではない。

第9 出典・確認範囲

① e-Gov法令検索「刑法」60条,204条及び207条(令和8年9月24日確認)。
② 最高裁平成28年3月24日第一小法廷決定(平成27年(あ)第703号・刑集70巻3号1頁)。
③ 最高裁令和2年9月30日第二小法廷決定(令和元年(あ)第1751号・刑集74巻6号669頁)。
④ 共同暴行からの離脱が争われた下級審裁判例(裁判所ウェブサイト掲載PDF。本文の該当部分を確認)。
⑤ 法務省「令和3年司法試験・論文式試験問題(刑事系科目)」全9頁。

裁判所ウェブサイトは全裁判例を掲載するデータベースではない。判例秘書は,本記事作成時にはログアウト状態で検索できず,検索件数・追加裁判例とも未確認である。したがって,直接同型の裁判例が存在しないとはしていない。また,前記下級審裁判例を最高裁の一般命題として扱っていない。