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取消訴訟の原告適格と訴えの利益の違い―行政事件訴訟法9条と最高裁判例(AI作成)

第1 原告適格と訴えの利益は別の問題である

1 原告適格は誰が争えるかという問題である

取消訴訟の原告適格は,処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められる。
処分の名宛人は通常これを有するが,周辺住民,競業者,共有者その他の第三者については,処分の根拠法令がその者の利益を個別的利益として保護しているかを検討する。

2 訴えの利益は取消判決による回復可能性の問題である

訴えの利益は,処分後の事情が変わっても,なお処分を取り消すことにより回復すべき法律上の利益が残っているかという問題である。
処分期間の満了,許可対象施設の完成,法令又は基準の変更,後続処分の終了などがあっても,直ちに利益が消滅するとは限らない。

同じ「法律上の利益」という言葉が用いられるが,原告適格は原告と処分との結び付き,訴えの利益は取消判決の必要性・実効性に着目する。
両者を一括して論じてはならない。

第2 原告適格の判断枠組み

1 行政事件訴訟法9条1項

最高裁大法廷平成17年12月7日判決(平成16年(行ヒ)第114号・民集59巻10号2645頁)は,「法律上の利益を有する者」とは,処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され,若しくは必然的に侵害されるおそれのある者であるとした。

不特定多数者の利益であっても,根拠法規が一般的公益に吸収させず,個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むときは,法律上保護された利益になり得る。
同判決は,小田急線連続立体交差事業による騒音・振動等の著しい被害を直接受けるおそれのある周辺住民について原告適格を認めた。

2 同条2項の考慮要素

処分の相手方以外の者については,根拠法令の文言だけでなく,①根拠法令の趣旨・目的,②目的を共通にする関係法令の趣旨・目的,③処分で考慮される利益の内容・性質,④法令違反の場合に害される利益の内容・性質,⑤被害の態様・程度を考慮する。

したがって,原告の住所と対象施設との距離だけでなく,被害の種類,影響範囲,関係法令の安全・環境規制及び行政庁が許可時に考慮すべき事項を対応させる必要がある。

3 処分の法的効果を直接受ける第三者

最高裁平成25年7月12日判決(平成24年(行ヒ)第156号)は,滞納者の共有持分が差し押さえられた場合の他の共有者について原告適格を認めた。
名宛人以外であっても,処分の法的効果によって権利の制限を受ける者は,名宛人と同様に考えられる。

4 無効等確認の訴え

最高裁平成26年7月29日判決(平成24年(行ヒ)第267号・民集68巻6号620頁)は,産業廃棄物処分場に起因する著しい被害を直接受けるおそれのある周辺住民について,許可更新処分の取消訴訟と許可処分の無効確認訴訟の原告適格を認めた。
行政事件訴訟法36条の「法律上の利益」も,取消訴訟の原告適格と同じ意味に解される。

第3 原告適格が認められた主要例

1 生命・身体・生活環境への被害

最高裁平成9年1月28日判決は,がけ崩れ等により生命・身体等に直接的被害を受けることが予想される範囲の住民について,開発許可取消訴訟の原告適格を認めた。

最高裁平成13年3月13日判決は,土砂流出,崩壊又は水害等により生命・身体等に直接的被害を受けることが予想される範囲の住民について,森林法上の開発許可取消訴訟の原告適格を認めた。

最高裁平成14年1月22日判決は,総合設計許可に係る建築物の倒壊・炎上等により直接的被害を受けることが予想される範囲の建築物の居住者又は所有者について原告適格を認めた。
最高裁平成14年3月28日判決は,同許可により日照を阻害される周辺建築物の居住者についても原告適格を認めた。

2 施設の位置基準により保護される事業者

最高裁平成21年10月15日判決(平成20年(行ヒ)第247号)は,場外車券発売施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがある区域の文教施設又は医療施設の設置者について,位置基準を根拠として原告適格を認めた。

他方,一般の周辺住民・事業者や施設利用者については同じ結論を採らなかった。
誰のどの利益を保護する規定であるかを具体的に分ける必要がある。

3 納骨堂の周辺住民

最高裁令和5年5月9日判決(令和3年(行ヒ)第283号)は,大阪市の細則を含む法令の趣旨・目的を考慮し,納骨堂からおおむね300メートル以内の人家に居住する者の原告適格を認めた。
距離だけで機械的に判断したものではなく,根拠法令と関係規定が生活環境上の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むかが検討されている。

第4 原告適格が否定された主要例

1 反射的利益又は一般公益にとどまる場合

最高裁平成元年4月13日判決(昭和61年(行ツ)第90号)は,特別急行料金の改定認可について,沿線居住者・通勤定期券利用者の原告適格を否定した。
利用上の不利益があることだけでは,認可法令がその利益を個別的に保護しているとは限らない。

最高裁平成元年6月20日判決(昭和61年(行ツ)第102号)は,県指定史跡を研究対象とする学術研究者について,指定解除処分取消訴訟の原告適格を否定した。
強い関心や専門的関係があっても,法令上保護された個別的利益とは別である。

2 競業者の利益

最高裁平成19年10月19日判決(平成17年(行ヒ)第390号)は,病院開設許可について,付近で医療施設を開設する医療法人,医師等及び医師会の原告適格を否定した。
競争上又は経営上の不利益が予想されても,根拠法令が既存事業者の利益を個別的に保護する趣旨を有するかを確認しなければならない。

第5 訴えの利益の判断

1 処分の効果がなくなった後

最高裁昭和55年11月25日判決(昭和53年(行ツ)第32号・民集34巻6号781頁)は,運転免許停止期間が経過し,処分の日から無違反・無処分で1年を経過した事案について,取消しにより回復すべき法律上の利益を否定した。
処分歴による名誉への影響のような事実上の不利益だけでは足りない。

最高裁昭和57年4月8日判決(昭和51年(行ツ)第24号・民集36巻4号594頁)は,学習指導要領の改正により旧基準下の改訂検定が原則として許されなくなった場合,旧基準下の不合格処分を取り消しても記述の自由が法律上回復するわけではないとして,訴えの利益を否定した。

2 将来の量定加重が残る場合

最高裁平成27年3月3日判決(平成26年(行ヒ)第225号)は,公表された処分基準に,先行処分を理由として後行処分の量定を加重する不利益な取扱いが定められている場合を扱った。
先行処分の直接の効果が期間経過でなくなっても,加重対象となる期間内は,先行処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が残り得る。

処分歴が将来どの法令,処分基準,資格制度又は公表制度に利用されるかを具体的に確認する必要がある。
「不利益が残る可能性」だけでなく,法的な仕組みと期間を示すことが重要である。

第6 主張立証のチェックリスト

1 原告適格

①処分の名宛人か,②どの利益が侵害されるか,③根拠法令のどの規定がその利益を保護するか,④目的を共通にする関係法令は何か,⑤被害の態様・程度・範囲を示す資料は何か,⑥行政庁が処分時にその利益を考慮すべきかを整理する。

2 訴えの利益

①処分の直接の効果が残っているか,②期間満了・完成・法改正等の後発事情は何か,③取消判決によりどの法的地位が回復するか,④後行処分,量定加重,資格制限又は公表が残るか,⑤その根拠規定と期間は何かを整理する。

第7 出典及び関連記事

行政事件訴訟法9条・36条(e-Gov法令検索)最高裁大法廷平成17年12月7日判決最高裁平成26年7月29日判決最高裁昭和55年11月25日判決及び最高裁昭和57年4月8日判決を確認した。

行政事件全体は,行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。
本記事は一般的整理であり,個別事件では根拠法令の制定経緯,関係法令,被害範囲の証拠及び後発事情を確認する必要がある。