メインコンテンツへスキップ
       

信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項-費用,紛争時の辞退及び資金拘束の問題(AI作成)

第1 遺言信託の意味と本記事の対象

1 同じ名称で異なる制度がある

「遺言信託」は,一つの法制度だけを指す言葉ではない。
銀行又は信託銀行が行う遺言書作成の相談,遺言書の保管及び遺言執行を組み合わせたサービスを指す場合と,遺言によって財産を信託する信託法上の制度を指す場合がある。

信託協会のQ&Aも,金融機関が用いる「遺言信託」は,通常,信託法上の信託契約ではなく,遺言書作成の相談,遺言書の保管及び遺言執行等を組み合わせたサービスであると説明している。
両者では,契約当事者,財産管理の仕組み,相続開始後に必要となる手続及び費用が異なるため,まず利用中又は検討中の商品がどちらであるかを確認する必要がある。

2 本記事が中心に扱う銀行サービス

本記事は,令和8年9月22日現在の日本法を前提として,銀行又は信託銀行が提供する遺言書作成の相談,保管及び遺言執行のサービスを中心に,遺言者と家族が時系列で確認すべき事項を説明する。
信託法上の遺言信託については,第6で追加の注意事項を取り上げる。

制度の全体像と用語の違いについては,遺言信託(AI作成)を参照されたい。

3 本記事の結論

信託銀行の遺言信託は,「相続をまとめて任せられるサービス」と受け取られやすいが,実際には,財産事務,紛争対応,税務申告,不動産登記及び信託財産の管理が別々の主体と料金で処理される。
しかも,家族間の対立が顕在化してサービスの必要性が最も高くなった場面で,銀行が遺言執行者への就任を辞退することがある。

このため,最大の問題は,手数料が高いことだけではない。
遺言者が生前に費用を負担して複雑な遺言又は信託を設計した後も,紛争処理,就任辞退後の遺言執行者選任,登記,税務及び事情変更への対応が家族側に残り得るという,費用,権限及び責任の分断にある。

財産関係が単純で家族間の対立もない場合には,公正証書遺言と弁護士等による個別対応の方が低コストで柔軟なことがある。
反対に,財産又は家族関係が複雑で紛争可能性が高い場合には,信託銀行だけでは処理できない事項が増えるため,契約前に銀行から独立した弁護士の審査を受ける必要性が高い。

第2 契約前に疑うべき三つの前提

1 銀行が担当する範囲

(1) 財産に関する事務

銀行の遺言執行サービスは,預貯金,有価証券及び不動産等の財産に関する遺言を対象とするのが通常である。
認知,未成年後見人の指定その他の身分行為は,銀行が遺言執行者として処理できる財産事務とは別に考える必要がある。

契約前には,①対象財産,②相続人及び受遺者への通知,③財産目録の作成,④預貯金等の解約又は名義変更,⑤不動産の移転登記の手配,⑥遺言執行の完了報告のうち,どこまでが基本業務に含まれるかを確認する必要がある。
「遺言執行を任せる」という説明だけでは,実際の担当範囲は確定しない。
商品名に「信託」又は「相続サポート」と付いていても,家族間の利害調整まで引き受けるワンストップサービスであるとは限らない。

(2) 法的紛争と専門職業務

相続人間の争いについて代理交渉を行うこと,税務申告を行うこと及び不動産登記申請を代理することは,通常の銀行事務だけでは完結しない。
信託協会のQ&Aも,遺言執行報酬には税理士への相続税申告報酬及び司法書士への不動産登記報酬等が含まれないことがあると説明している。

弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,訴訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を業として取り扱うこと等を原則として禁止している。
遺留分侵害額請求,相続人間の遺産をめぐる対立又は遺言の有効性をめぐる争いが予想される場合には,銀行の担当範囲と弁護士へ引き継ぐ範囲を契約前に分けておくことが重要である。
紛争解決を担当しないにもかかわらず,「銀行が間に入るから家族は争わずに済む」と理解して契約すれば,期待したサービスと実際の権限との間に重大なずれが生じる。

2 相続開始後の就任判断

(1) 遺言書での指定だけでは就任は確定しない

遺言者が遺言書で銀行を遺言執行者に指定しても,相続開始後に銀行が当然に就任するとは限らない。
民法1007条は,遺言執行者に指定された者が就職を承諾するかどうかを相続人その他の利害関係人が催告できることを定めており,指定と就職承諾を区別している。

銀行は,相続開始の連絡を受けた後,相続人及び財産の状況並びに遺言内容の実行可能性を調査し,就任の可否を判断するのが通常である。
信託協会のQ&Aも,遺言作成後の事情変更によって遺言執行が法的又は事実上著しく困難となった場合には,金融機関が就職を辞退することがあると説明している。
遺言者が生前に相談料,取扱手数料又は保管料を支払っていても,相続開始後の就任が保証されるわけではない点は,契約の入口で明確に理解すべきである。

(2) 代替手順を決めておく

遺言書及び契約書では,銀行が就職を辞退した場合,業務の一部を扱えない場合又は契約が終了した場合の手順を確認する必要がある。
予備的な遺言執行者の指定,家庭裁判所への遺言執行者選任申立てを行う者,弁護士その他の相談先及び費用負担を決めておけば,相続開始直後の空白を小さくできる。
銀行が辞退しても遺言書の効力及び複雑な執行手順が当然に消えるわけではないため,代替手順のない設計は,残された家族へ問題の解決を先送りすることになる。

銀行と弁護士の役割及び辞退リスクについては,遺言執行者は信託銀行より弁護士に依頼する方が合理的か——「遺言信託」の手数料構造と辞退リスクからの検討(AI作成)も参照されたい。

3 費用

(1) 費用を四つの層に分ける

費用は,①契約時の基本手数料,②遺言書の保管中に生じる費用,③相続開始後の遺言執行報酬,④税理士,司法書士,弁護士,不動産鑑定士その他の外部専門家の報酬及び実費に分けて確認すると分かりやすい。
遺言執行報酬については,最低額,財産評価の基準日,料率の段階及び銀行で管理中の資産とそれ以外の資産の取扱いも確認する必要がある。

各社の商品及び料金は改定され得るため,契約時には最新の公式料金表及び契約書本文を確認すべきである。
広告上の例示額だけで総額を判断せず,想定財産を用いた試算を受け取り,どの費用が別料金であるかを書面に残すことが望ましい。

特に注意すべきなのは,遺言執行報酬を支払っても,不動産登記は司法書士,税務申告は税理士,紛争対応は弁護士へ別に依頼し,それぞれの費用が追加され得る点である。
銀行の報酬額だけでなく,遺言者の死亡から財産移転が完了するまでの総費用を比較しなければ,商品の経済的合理性は判断できない。

(2) 途中終了と返金の条件を確認する

遺言の変更,契約の解約,遺言者の判断能力低下,銀行の就任辞退又は相続人側で別の遺言執行者を選ぶことになった場合について,既払手数料の返金の有無を確認する必要がある。
契約時の手数料は,遺言書作成支援や保管の対価を含むことがあり,相続開始後に銀行が遺言執行者へ就任しなかったことだけで当然に全額が返金されるとは限らない。

信託協会が公表した令和6年度のあっせん事例には,遺言者による財産及び債務の理解並びに説明の十分性が問題となった例がある。
この事例は一般的な法的結論を示す裁判例ではないが,重要な説明事項,遺言者の理解及び想定した費用を,面談記録又は確認書に残す実務上の必要性を示している。
契約書に手数料が記載されていることと,遺言者が複数段階の費用及び就任辞退後の負担まで理解していたことは別問題である。

4 遺言内容の実行可能性

(1) 遺留分

兄弟姉妹以外の法定相続人には,民法上の遺留分が認められることがある。
遺留分を侵害する内容の遺言が直ちに無効になるわけではないが,遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため,受遺者が金銭を準備できるかまで検討する必要がある。

民法1048条1項により,遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効により消滅し,相続開始時から10年を経過したときも同様である。
銀行に任せたことによって,相続人間の争い又は期間管理がなくなるわけではない。

(2) 処分又は評価が難しい財産

共有不動産,未上場株式,海外資産,債務付き不動産,管理の難しい収益物件及び所有関係が不明確な財産は,遺言執行を難しくすることがある。
契約前には,名義,所在地,評価方法,換価の要否,第三者の同意の要否及び資料の保管場所を整理する必要がある。

遺言書に抽象的な処分だけを書き,実行に必要な資料又は資金を用意しなければ,遺言者の意図どおりに進まないことがある。
銀行から取扱い困難と指摘された財産については,遺言条項の修正だけで足りるのか,生前の整理又は別の専門家の関与が必要かを検討すべきである。
銀行が有料の資産承継提案を行う場合には,不動産の共有又は土地建物の所有者分離,未上場株式の議決権,債務負担及び遺留分資金まで検討対象に含まれているかを確認する必要がある。
商品を販売する銀行の提案だけでなく,銀行から報酬を受けない専門家による検証を受けなければ,提案の適否と商品の販売が同じ評価過程に置かれることになる。

第3 契約後に遺言者が見直す事項

1 遺言内容と財産の変化

(1) 見直しの契機

相続人又は受遺者の死亡,婚姻又は離婚,財産の売却又は取得,会社の再編,住所又は連絡先の変更及び家族関係の悪化は,遺言内容を見直す契機となる。
少なくとも年1回及び大きな事情変更の都度,遺言書,財産一覧,受益者又は受遺者及び連絡先を確認することが望ましい。

(2) 銀行が保管する情報との整合

民法1022条により,遺言者は,いつでも遺言の方式に従って遺言の全部又は一部を撤回できる。
もっとも,銀行に知らせずに別の遺言書を作成した場合,銀行が保管している遺言書及び財産情報との不一致が生じ,相続開始後の確認に時間を要することがある。

遺言を変更した場合には,変更後の遺言書が方式を満たしているか,古い遺言との抵触関係はどうなるか,銀行との契約及び保管資料を更新する必要があるかを確認すべきである。
遺言書自体の変更と銀行サービス契約の変更は別の手続であることがある。
変更のたびに手数料が生じる商品もあるため,変更可能性と変更費用を契約前に確認すべきである。

2 判断能力が低下する前の対応

遺言は,遺言者本人が法定の方式に従って行う必要があり,家族が代わって作成又は変更することはできない。
認知機能の低下が疑われる段階で大幅な変更を行うと,後に遺言能力又は意思決定過程が争われる可能性がある。

変更の必要性が生じた場合には,先送りせず,公証人及び弁護士等へ相談し,面談経過,変更理由及び財産状況を記録することが重要である。
生活費,財産管理又は身上保護の問題は,遺言執行サービスでは解決しないため,任意後見,法定後見,財産管理委任その他の制度を別に検討する必要がある。

3 家族への情報共有

(1) 最低限共有する情報

遺言者は,信頼できる家族又は関係者に,①遺言書の存在,②取扱金融機関,③相続開始時の連絡先,④死亡通知を担当する者,⑤重要書類の保管場所を伝えておくことが望ましい。
相続開始の連絡がなければ,銀行は遺言執行の検討を開始できない。

(2) 遺言内容をどこまで説明するか

遺言内容を生前に全面開示するかどうかは,家族関係及び遺言の目的によって異なる。
全面開示がかえって対立を深める場合もあるが,内容を全く知らせないままでは,家族が銀行との契約を知らず,相続開始後に別の手続を進めることがある。

少なくとも連絡経路及び遺言執行の予定を共有し,説明する場合には,財産配分だけでなく,遺言者がその内容を選んだ理由も整理することが望ましい。
ただし,付言事項に強い非難又は断定を書けば紛争を拡大することがあるため,表現は慎重に検討すべきである。

第4 相続開始前に家族が準備する事項

1 死亡通知を行う者と連絡先

家族は,誰が銀行へ死亡を連絡するか,担当部署及び契約番号が分かるかを確認しておく必要がある。
緊急時に必要な情報は,貸金庫又は本人しか開けない端末の中だけに置かない方がよい。

死亡通知を行う者が遺言内容を知る必要はないが,銀行名,連絡先,遺言者の本人確認情報及び死亡を証明する資料の取得方法は把握しておくことが望ましい。

2 資料と相談先

戸籍,財産資料,借入資料,保険証券,固定資産関係書類,会社関係資料及びデジタル資産の情報が散在していると,遺言執行の着手が遅れる。
家族は,原本の所在と更新時期が分かる一覧を準備し,暗証番号そのものではなく,適法にアクセスするための手順を整理しておくべきである。

また,税理士,司法書士,弁護士及び不動産関係者のうち,誰へ何を相談するかを整理しておくとよい。
銀行が紹介する専門家を利用する義務があるか,遺族が選んだ専門家と連携できるかも契約書で確認する必要がある。

3 紛争の兆候

遺言能力への疑問,生前贈与の対立,特別受益又は寄与分の主張,遺留分の問題,相続人の所在不明及び財産の使途不明がある場合には,相続開始後に銀行だけで処理できない可能性が高い。
家族は,銀行への連絡とは別に,証拠の散逸を防ぎ,早期に弁護士へ相談する必要がある。

第5 相続開始後に家族が確認する事項

1 銀行への通知と就任確認

家族は,遺言者が死亡したときは速やかに銀行へ連絡し,必要書類及び今後の調査手順を確認する必要がある。
銀行が遺言執行者への就任を承諾するまでは,銀行が就任することを前提として期限のある手続を放置してはならない。

銀行が就任しない場合には,辞退の理由,返還される書類,既払手数料の取扱い及び代替手順を確認する。
辞退又は辞任を求める場合の論点については,信託銀行に遺言執行者を辞退・辞任してもらう方法-相続開始後のメリット・デメリット(AI作成)を参照されたい。

家族にとって重要なのは,辞退が契約上可能かどうかだけでなく,それまでに支払った費用が返還されるか,複雑な遺言を誰が実行するか,新しい遺言執行者の選任及び専門家費用を誰が負担するかである。
銀行の辞退が適法であっても,利用者側から見れば,費用を支払ったサービスが最も困難な局面を担当しないという結果になり得る。

2 範囲,費用及び予定の書面化

銀行が就任するときは,①執行対象となる遺言条項,②対象財産,③追加資料,④外部専門家の選任,⑤費用の見積り,⑥中間報告の時期,⑦完了見込みを確認する必要がある。
相続開始前の料金表と実際の財産状況が異なることもあるため,最新の計算根拠を取得することが望ましい。

民法1011条は,遺言執行者が遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならないことを定めている。
家族は,財産目録と自ら把握する資料を照合し,漏れ又は重複があれば根拠資料を示して確認を求めるべきである。

3 遺言執行と紛争対応を分ける

遺言執行者は,遺言の内容を実現するために必要な行為を行う者であり,相続人全員の代理人又は家族間の調整役であるとは限らない。
民法1012条は,遺言執行者が遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めている。

遺言の有効性,遺留分,生前の財産移動又は損害賠償をめぐる争いは,遺言執行とは別に,主張,証拠及び期間を管理する必要がある。
銀行への質問だけで法的な権利行使をしたことになるとは限らないため,期間制限が問題となる場合には弁護士へ相談すべきである。

第6 信託法上の遺言信託を用いる場合

1 受託者の引受けと後継者

信託法3条2号により,遺言によって信託を設定することができる。
信託法4条2項は,遺言による信託は遺言の効力が生じた時に効力を生ずると定める一方,信託法5条は,遺言で受託者に指定された者に対して,利害関係人が引受けの有無を確答するよう催告できること等を定めている。

したがって,受託者候補との事前協議,受託条件,報酬,辞任又は解任時の手続及び後継受託者を準備する必要がある。
個人を受託者にする場合には,受託者の死亡,病気,判断能力低下及び家族との利益相反も想定すべきである。

2 管理,給付及び報告

信託法上の遺言信託では,誰に,どの財産から,いつ,どの条件で,いくらを給付するかを設計する必要がある。
長期の管理を予定する場合には,運用方針,修繕又は売却の基準,税金及び費用の負担,帳簿及び報告の方法並びに受益者に判断能力がない場合の対応まで定めることが望ましい。

受託者へ広い裁量を与えるだけでは,判断基準が不明確になり,受益者との対立を招くことがある。
反対に,細部を固定し過ぎると,物価,家族構成又は財産状況の変化に対応できないため,裁量と監督の均衡が必要である。

3 終了条件と変更可能性

信託法163条以下は,信託の終了事由,委託者及び受益者の合意による終了並びに特別の事情による終了命令等を定めている。
長期間の信託では,終了事由,残余財産の帰属先及び環境変化に応じた変更手続を明確にしておく必要がある。

最高裁第三小法廷令和8年6月17日決定(令和6年(許)第30号)は,信託契約について,信託法164条3項に基づく終了制限条項の有効性及び終了請求を拒む合理的必要性を具体的に検討すべきであるとして,原決定を破棄し,東京高等裁判所へ差し戻した。
この決定は契約による信託に関するものであり,銀行の遺言執行サービスに直接適用されるものではないが,長期の信託で終了制限を置くときに,目的と必要性を具体化する重要性を示している。

同決定の詳細については,最高裁令和8年6月17日決定-信託終了制限と受託者解任(AI作成)を参照されたい。

遺言者にとっての「浪費防止」又は「生活保障」は,受益者にとっては資金使途の制限となる。
医療,介護,転居又は物価上昇によって必要額が変わっても,給付額の変更又は信託終了に受託者の同意や追加費用が必要となる設計では,遺言者の善意が将来の受益者を拘束する結果になり得る。

第7 契約書と遺言書のチェックリスト

1 遺言者が確認する事項

遺言者は,少なくとも次の事項を確認すべきである。
①利用する制度が銀行の遺言執行サービスか,信託法上の信託か。
②銀行が扱う財産及び扱わない事務は何か。
③契約時,保管中,相続開始後及び外部専門家に支払う費用はいくらか。
④銀行が遺言執行者への就任を辞退できる条件は何か。
⑤辞退,解約又は遺言変更の場合に,書類及び既払手数料をどう扱うか。
⑥遺留分又は紛争が生じた場合に,誰へ引き継ぐか。
⑦事情変更を誰へ,どの方法で,いつまでに届け出るか。

2 家族が確認する事項

家族は,少なくとも次の事項を確認すべきである。
①遺言書及び契約の存在を把握している者は誰か。
②相続開始時に銀行へ連絡する者及び連絡先は決まっているか。
③必要書類,財産資料及び債務資料の所在が分かるか。
④銀行が就任しない場合の相談先及び代替手順があるか。
⑤税務,登記及び紛争対応の期限を誰が管理するか。
⑥銀行から示された財産目録,費用及び予定を照合できるか。

3 弁護士への事前相談が特に有用な場合

相続人間に既に対立がある場合,遺留分を大きく侵害する配分を予定する場合,事業承継,未上場株式,海外資産又は多数の不動産がある場合,受益者に障害又は判断能力の問題がある場合及び長期の信託を設計する場合には,契約前の弁護士相談が特に有用である。
銀行の商品説明とは別に,遺言条項の有効性,紛争時の対応及び代替手順を検討する必要があるからである。

第8 信託銀行の遺言信託に内在する構造的な問題

1 費用と担当業務が対応しているか分かりにくい

遺言信託では,遺言書作成支援,保管,遺言執行及び相続開始後の信託管理について,異なる名目の費用が順次発生し得る。
その一方で,登記,税務及び紛争対応は別料金又は業務対象外となるため,利用者は高額な対価を支払っても,最終的に誰が何を担当したのかを把握しにくい。

費用の妥当性は,銀行員の面談回数又はブランドへの安心感だけでは判断できない。
公正証書遺言の作成,弁護士による遺言執行,司法書士による登記及び必要な場合だけの財産管理を個別に依頼した場合との総額及び責任範囲を比較すべきである。

2 サービスが必要な局面ほど業務対象外になり得る

家族間に対立がなく財産も単純であれば,遺言執行は比較的進めやすいが,そのような事案で高額な一括サービスが必要かは別に検討すべきである。
反対に,遺留分,遺言能力,生前贈与又は不動産の帰属をめぐる対立がある事案では,弁護士による交渉又は訴訟対応が必要となり,信託銀行が就任を辞退する可能性も生じる。

つまり,処理が容易な事案では費用対効果が問題となり,処理が難しい事案では銀行の権限及び就任可能性が問題となる。
契約前には,自分の事案がその中間にあるのかを具体的に検証しなければならない。

3 商品提供者の提案を独立して検証する仕組みがない

信託銀行は,遺言又は資産承継の提案者であると同時に,遺言執行及び信託管理の報酬を受ける商品提供者となることがある。
このことだけから不適切な勧誘又は利益相反を断定することはできないが,提案の複雑化又は管理期間の長期化が銀行の報酬増加と結び付く可能性は否定できない。

したがって,複雑な信託,長期の定額給付,受益権放棄時の代替配分及び終了制限を含む設計については,銀行から独立した弁護士が,より単純で低コストな代替案と比較すべきである。
銀行の説明資料だけで「安心」が得られるかを判断するのではなく,どの危険が解消され,どの危険が家族へ残るかを確認する必要がある。

4 銀行が関与しなくなっても複雑な法的効果は残る

銀行との周辺的なサービス契約,遺言公正証書及び信託行為は,法的には同一のものではない。
銀行のサービス契約を解約し,又は銀行が遺言執行者への就任を辞退しても,遺言による財産配分又は信託設定の効力が当然に消滅するわけではない。

この分離は,利用者にとって重大である。
入口では一つのパッケージとして説明された仕組みが,問題発生後には別々の法律関係として扱われ,遺言の変更,遺言執行者の選任,信託の終了又は専門家への依頼を家族が個別に行わなければならないことがある。

第9 銀行サービスの利点と限界

銀行の遺言信託は,遺言書作成時から相続開始後まで窓口を一定させ,書類保管及び財産事務を組織的に進められる点に利点がある。
財産関係が整理され,遺言内容が実行可能で,家族も連絡手順を理解している事案では,有用な選択肢となり得る。

他方で,契約しただけで遺言執行者への就任,紛争解決,税務申告,登記及び将来の事情変更への対応が全て保証されるわけではない。
遺言者は契約前の役割分担と費用を確認し,契約後も遺言及び財産情報を更新し,家族は相続開始時の連絡と代替手順を準備しておく必要がある。

重要なのは,銀行,弁護士,税理士,司法書士及び家族の役割を分け,銀行が就任しない場合又は紛争が生じた場合にも手続が止まらない設計にすることである。

信託銀行の遺言信託を選ぶべきなのは,「大手金融機関だから安心」という理由ではなく,費用を含めても銀行による継続的な財産事務が必要であり,対象外業務及び辞退リスクを補う体制が別に用意されている場合である。
費用の全体像,独立した法的助言及び代替手順がないまま契約することは,遺言者の安心と引換えに,家族へ高コストで硬直的な仕組みを残す危険がある。

第10 関連記事

遺言信託(AI作成)

遺言執行者は信託銀行より弁護士に依頼する方が合理的か——「遺言信託」の手数料構造と辞退リスクからの検討(AI作成)

信託銀行に遺言執行者を辞退・辞任してもらう方法-相続開始後のメリット・デメリット(AI作成)

日弁連と信託協会の協議会合意書(平成6年2月22日付)

最高裁令和8年6月17日決定-信託終了制限と受託者解任(AI作成)

第11 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索・民法
本記事では,遺言の方式及び効力,遺言執行者,遺言の撤回並びに遺留分侵害額請求に関する規定を参照した。

e-Gov法令検索・信託法
本記事では,遺言による信託の設定及び効力,受託者の引受け,辞任及び解任並びに信託の終了に関する規定を参照した。

e-Gov法令検索・弁護士法
本記事では,非弁護士による法律事務の取扱い等を制限する72条を参照した。

2 裁判例

最高裁第三小法廷令和8年6月17日決定・令和6年(許)第30号
本記事では,信託法164条3項に基づく終了制限条項の有効性及び終了請求を拒む合理的必要性に関する判断を参照した。

3 信託協会の資料

信託相談所・よくあるご質問
本記事では,金融機関の遺言信託の意味,遺言執行者への就任辞退,対象外となる行為及び別途生じ得る専門家報酬に関する説明を参照した。

信託協会・遺言信託
本記事では,サービスの一般的な流れ,公正証書遺言及び費用構造に関する説明を参照した。

信託相談所における相談・苦情等の取扱状況等(令和6年度)
本記事では,遺言信託に関するあっせん事例を参照した。

4 金融機関の公式資料

三菱UFJ信託銀行・遺言執行業務の流れ
本記事では,相続開始の連絡後に相続人及び財産の調査を行い,遺言執行者への就任手続へ進む流れを参照した。

三井住友信託銀行・遺言信託(執行コース)
本記事では,契約時,保管中及び遺言執行時に生じる費用の区分を参照した。

りそな銀行・遺言信託の手数料
本記事では,契約時及び遺言執行時の手数料構造並びに別途生じ得る費用に関する説明を参照した。