第1 この記事の結論
ChatGPTの広告については,①ChatGPT内でどの広告を表示するかという広告選定,②広告主に渡る広告実績,③OpenAIが自社サービスを外部サイトで宣伝するための情報共有,④広告クリック後の外部サイトにおけるコンバージョン計測を分けて理解する必要がある。
OpenAIは,広告主にChatGPTの会話,履歴,メモリ又は個人情報を提供せず,広告主に提供するのは,現時点の案内では広告の表示回数及びクリック数等の集計された非識別情報であるとしている。他方,ChatGPT内の広告選定には現在の会話の文脈が用いられ,広告のパーソナライズを有効にしている場合には,過去の会話及びメモリ等の一部のシグナルも利用され得る。
したがって,「広告主に会話本文が渡らない」ことと,「会話の文脈が広告選定に一切使われない」ことは同じではない。弁護士は,広告の有無だけでなく,入力内容,契約プラン,データ設定,外部サイトへの遷移及び事務所端末の運用を一体として管理すべきである。
第2 ChatGPT内に表示される広告
1 広告が表示される利用者
OpenAIの案内では,広告はFree及びGoプランの利用者に表示される場合があり,Plus,Pro,Business,Enterprise及びEduの各プランには表示されない。米国では令和8年(2026年)2月9日から段階的なテストが始まっており,対象地域及び利用条件は今後変更され得る。
Temporary Chatには広告が表示されない。また,個人の健康,メンタルヘルス又は政治等のセンシティブ若しくは規制対象の会話の近くには広告を表示しないとしている。
2 広告は回答と分離される
OpenAIは,広告が回答内容に影響せず,広告主は回答を形成し,順位付けし,又は変更できないとしている。広告は回答の末尾の下部に,スポンサー表示を伴って回答と視覚的に分離して表示される。
もっとも,広告が回答から分離されていることは,広告の選定に会話の文脈が使われないことを意味しない。広告システムは,現在の会話の文脈及び意図,広告のリンク先,見出し,広告文,広告主が提供した情報等を考慮すると説明されている。
第3 広告選定に使われる情報と広告主に渡る情報
1 ChatGPT内にとどまる広告選定シグナル
広告選定には,現在の会話で何を話しているかのほか,一般的な地域又は言語等の基本的な文脈が使われ得る。広告のパーソナライズを有効にしている場合には,現在の会話,パーソナライズされた回答,広告への反応,過去の会話及びメモリも広告の関連性の判断に使われ得る。
パーソナライズを無効にしても広告自体が消えるわけではなく,現在の会話スレッドの文脈に基づく広告は表示され得る。過去の会話及びメモリの利用を避けたい場合には,広告設定とメモリ設定を確認し,必要に応じてTemporary Chatを利用する。
2 広告主に渡る情報
OpenAIは,広告主に会話,会話履歴,メモリ,氏名,メールアドレス,正確な位置情報,IPアドレス又はセンシティブ情報を提供しないとしている。広告主に提供されるのは,現時点では広告の総表示回数又はクリック数等の集計された非識別情報である。
ただし,広告から広告主に直接メッセージを送る機能を利用した場合,利用者が直接送信したメッセージは広告主に見える。また,広告をクリックして広告主のサイトに移動した後は,当該サイト及び同サイトが利用するCookie,タグその他の計測技術の取扱いが別途問題となる。
第4 外部サイト上の広告とコンバージョン計測
1 OpenAIが外部サイトで自社を宣伝する場合
OpenAIは,自社サービスを他社のサイト又はアプリで広告するため,選定した広告パートナーにCookie ID,IPアドレス又はハッシュ化したメールアドレス若しくは電話番号等の識別子を共有する場合があるとしている。また,Freeプランに登録したこと又は特定のOpenAI製品ページを閲覧したこと等の基本的な商業・閲覧情報を共有する場合がある。
会話又はアップロードした文書,画像,動画その他の内容は,この目的で広告パートナーに共有しないとしている。対象となる利用者は,設定のData ControlsにあるMarketing Privacy等からオプトアウトできると案内されている。
2 広告主サイトにおけるコンバージョン計測
OpenAIのConversion Termsでは,広告主又は第三者のサイトで発生する訪問,アプリのインストール,購入その他の行動又は取引に関する情報をConversion Dataとして扱う。広告主は,必要な通知,利用者の同意その他の適法な根拠を確保し,禁止データを送信しない責任を負う。
したがって,法律事務所が広告主となる場合には,広告管理画面の設定だけでなく,事務所サイトのCookie,タグ,問い合わせフォーム及び外部送信先を確認し,広告クリック後に送信される情報を具体的に把握する必要がある。外部送信の確認方法は,mintsのGoogle Tag Manager(GTM)と外部送信情報―利用目的の不開示と実測確認(AI作成)も参照されたい。
第5 弁護士業務で特に注意すべきこと
1 守秘義務の出発点
弁護士法23条は,弁護士が職務上知り得た秘密を保持する権利及び義務を定める。依頼者情報を生成AIに入力できるかは,単に「学習に使われるか」だけでなく,契約主体,保存,アクセス権限,サブプロセッサ,国外移転,ログ及び事故対応を含む情報管理全体で判断すべきである。弁護士の守秘義務も参照されたい。
2 広告設定は守秘対策の代替にならない
広告のパーソナライズを無効にしても,現在の会話の文脈に基づく広告は表示され得る。また,広告がない有料プランを使っても,入力内容の適否,保存及び組織内権限等の論点は残る。
そのため,事件名,実名,連絡先,未公表の主張,証拠の内容又は相談者を推知できる事実を安易に入力しないことを基本とし,業務利用では組織向け契約及び管理設定を確認する。個別案件の入力が必要な場合は,必要性,匿名化の可否及び依頼者への説明・同意を検討する。
第6 法律事務所の確認チェックリスト
① 利用中のChatGPTのプラン及び広告表示の有無を確認する。
② SettingsのAd Controls,Past chats and memory及びData Controlsを確認する。
③ 依頼者を識別し得る情報を入力しない運用基準を定める。
④ 広告又は外部リンクをクリックした後は,遷移先のサイトのCookie及びプライバシー表示を別途確認する。
⑤ 事務所が広告主となる場合は,広告タグから送信される項目,送信先及び法的根拠を実測する。
⑥ 規約に「学習に使わない」とあっても,派生データ,保持及び安全管理の条項を別に確認する。「学習に使わない」と書いてあっても―AIサービス規約の派生データ条項と弁護士の守秘義務(AI作成)も参照されたい。
⑦ OpenAIの広告制度は変更が続くため,実際に利用する時点の公式案内を再確認する。
第7 出典・参考資料
① OpenAI「Ads in ChatGPT」
② OpenAI「How We Promote OpenAI on Third-Party Properties」
③ OpenAI「Conversion Terms」
④ 弁護士法