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第1 足関節脱臼骨折の等級を決める四つの判断段階
1 本記事の対象
交通事故による足関節脱臼骨折は,骨折と脱臼が同時に生じ,関節面,靱帯及び周囲軟部組織にも損傷が及び得る傷病である。しかし,傷病名又は手術歴だけで後遺障害等級が決まるわけではない。本記事は,①受傷時の損傷範囲,②症状固定時に残った器質的原因,③適式な足関節可動域,④痛み,動揺性及び現実の労働制限という四つの段階に分けて,等級認定と主張立証の方法を扱う。資料の収集及び整理には生成AIを用いたが,法令,行政基準,裁判例及び医学文献は原典で照合した。
足関節の可動域の合算方法,測定軸,代償動作及び測定値の信用性を扱った裁判例は,足関節の可動域制限と後遺障害12級7号で詳しく整理している。本記事ではこれを反復せず,脱臼骨折に固有の画像所見,治療経過及び証拠収集の順序に重点を置く。
2 診断,事故との因果関係,残存機能及び等級を分ける
画像で骨折又は軟骨病変が見つかることは診断上の所見であり,その所見が当該事故で生じたかは事故起因性の問題である。さらに,その損傷が症状固定時の可動域制限又は疼痛を生じさせているかは残存機能の問題であり,その程度が自賠責の数値基準を満たすかは等級評価の問題である。この四つを一つの推論で処理すると,「重い骨折だから高い等級になる」「画像に異常がないから後遺障害はない」という誤った結論になりやすい。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の事故について等級又は賠償額を保証するものではない。個別事件では,症状固定時期,画像,測定方法,既往障害及び職業内容によって結論が変わる。
第2 自賠責及び労災の機能障害等級
1 第8級,第10級及び第12級
自動車損害賠償保障法施行令別表第二と厚生労働省の障害等級認定基準によると,足関節の機能障害は次のように区分される。表中の金額は自賠責保険の支払限度額であり,民事上の損害賠償総額ではない。
| 障害の程度 | 自賠責等級 | 労災等級 | 可動域等の基準 | 自賠責限度額 |
|---|---|---|---|---|
| 足関節の用廃 | 第8級7号 | 第8級7号 | 完全強直,これに近い状態又は完全弛緩性麻痺等 | 819万円 |
| 著しい機能障害 | 第10級11号 | 第10級10号 | 主要運動の合計が健側の2分の1以下 | 461万円 |
| 機能障害 | 第12級7号 | 第12級7号 | 主要運動の合計が健側の4分の3以下 | 224万円 |
「強直に近い状態」とは,健側の関節可動域の10%程度以下に制限されたものをいい,10%に相当する角度は5度単位で切り上げる。また,可動域が10度以下に制限されている場合も強直に近い状態として扱われる。人工関節又は人工骨頭へ置換した場合には,置換後の可動域による別の定めがある。
2 足関節は背屈と底屈の合計値で判定する
足関節の主要運動は背屈と底屈であり,患側の両運動の合計値を健側の合計値と比較する。例えば,患側が背屈10度・底屈30度,健側が背屈20度・底屈45度であれば,患側40度を健側65度と比較する。内がえし・外がえし等を足して基準を満たすように計算することはできない。
可動域は原則として他動値を用いる。神経麻痺等のため他動値では障害の実態を捉えられない場合,又は他動測定に耐えられない疼痛等があり医学的に他動値の採用が適切でない場合には自動値が問題となるが,単に自動値の方が小さいという理由では足りない。健側にも既往障害があるときは,健側との比較ではなく参考可動域角度との比較へ切り替える。
3 厚生労働省通達と令和4年学会測定法の軸の違い
平成16年厚生労働省通達の測定表は,基本軸を腓骨への垂直線,移動軸を第5中足骨とする。これに対し,令和4年4月改訂の日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会・日本足の外科学会の測定法は,基本軸を矢状面における腓骨長軸への垂直線,移動軸を足底面とする。いずれも膝関節屈曲位を基本とするが,移動軸の表示が一致していない。
厚生労働省の現行掲載ページには平成16年の測定表が残っているため,境界事案では「何度であったか」だけでなく,①どの測定法を用いたか,②他動か自動か,③膝関節の位置,④測定日及び測定者,⑤疼痛又は骨性の終末感を記録すべきである。患側が4分の3又は2分の1の境界から5度以内にある場合には,この違いが結論に影響し得る。
第3 脱臼骨折に固有の器質的原因
1 骨折型と整復前後の状態
足関節脱臼骨折では,内果・外果・後果のどこが骨折したか,一果・二果・三果骨折のいずれか,脛腓靱帯結合損傷又は距骨骨軟骨病変があるかを分けて確認する必要がある。脛骨天蓋の圧潰を主病変とするpilon骨折は,通常の回旋型果部骨折とは病態及び治療上の問題が異なる。
英国整形外科学会の足関節骨折基準は,変形を伴う足関節について速やかな整復及び固定を行い,整復前後の皮膚,循環及び知覚を記録すること,AP・側面・mortise viewの単純エックス線を撮影すること,複雑骨折又は後果骨折ではCTを検討すること,脛腓靱帯結合を整復・固定後に評価することを示している。後遺障害の立証でも,受傷直後と症状固定時の画像だけでなく,整復前後及び手術直後の画像を保存する必要がある。
2 可動域制限及び荷重時痛を生む病態
可動域制限又は荷重時痛を説明し得る病態には,①関節面の段差又は不適合,②変形癒合,③脛腓靱帯結合の不整復又は不安定性,④距骨骨軟骨病変,⑤関節包・腱・周囲軟部組織の瘢痕拘縮,⑥外傷後変形性足関節症,⑦距骨壊死,⑧神経又は血管損傷,⑨感染又は骨髄炎,⑩長期固定後の廃用性拘縮がある。単に「骨癒合良好」と記載されていても,関節面,軟骨,靱帯又は軟部組織が正常であるとは限らない。
不安定又は不適合な急性足関節骨折65例について,受傷後10日以内のMRIと手術時の関節鏡を比較した前向き研究では,関節鏡で軟骨病変を70.8%に認め,MRIは病変面積を63.3%で過小評価した。したがって,MRIに明確な病変がないことだけで軟骨損傷を否定できず,MRIに病変があることだけで事故起因性又は等級を確定することもできない。
3 動揺関節及び痛みとの関係
骨癒合後も不安定性が残り,硬性補装具を常に必要とする動揺関節は第8級,時々必要とするものは第10級,重激な労働等の際以外には必要としないものは第12級に準じて扱われる。動揺性を主張する場合は,徒手検査の記載だけでなく,症状部位,靱帯損傷又は脛腓靱帯結合損傷,荷重時所見,必要に応じたストレス撮影及び装具の実使用を対応させる。動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影では,撮影方法と数値の限界を扱っている。
足関節の疼痛は,自賠責では第12級13号又は第14級9号の神経症状として検討され得る。しかし,機能障害と同じ器質的原因から通常派生する疼痛は,機能障害と別に併合されないことがある。これに対し,別の神経損傷,踵骨部の疼痛,足指障害,骨の変形,短縮又は瘢痕がある場合には,障害の部位,原因及び系列を分けて併合又は上位等級への吸収を検討する。
第4 原典で確認できる認定例及び裁判例
1 三果骨折を伴う脱臼骨折を第12級7号とした労災決定事例
厚生労働省が公表する平成23年度の労災保険審査官決定事例には,右足関節脱臼骨折について,原処分の第14級を取り消して第12級7号とした例がある。主治医の他動値は右45度・左55度,監督署職員の測定値は右50度・左60度であり,いずれも4分の3以下ではなかった。これに対し,地方労災医員は右60度・左95度と測定し,三果骨折,後果の約2分の1の転位,関節面の階段状変形,軟骨損傷及び外傷性足関節炎を画像及び診察所見から評価した。
審査官は地方労災医員の鑑定を採用し,可動域制限を第12級7号,頑固な神経症状を労災第12級12号に該当するとした上で,神経症状は機能障害から通常派生するため,最終的に第12級7号と判断した。この事例は,複数の測定値がある場合には最小値を機械的に選ぶのではなく,骨折型,関節面,測定条件及び臨床所見を一体として信用性を判断すること,疼痛が常に別等級として併合されるわけではないことを示している。
2 画像上の関節面不整がなくても第12級7号を認めた裁判例
神戸地方裁判所尼崎支部平成14年1月30日判決(平成12年(ワ)第630号)は,右脛骨内果骨折後の足関節障害を扱った。自算会は関節面不整と可動域2分の1以下を根拠に第10級11号としたが,裁判所は症状固定時に近いエックス線上で関節面不整を認めず,第10級認定をそのまま採用しなかった。
もっとも,裁判所は,5回の可動域測定,抜釘前後の推移,関節内に及ぶ骨折による関節包損傷の可能性,継続する疼痛及びリハビリ経過を検討し,第10級の著しい機能障害には至らないものの,第12級7号相当の後遺障害を認めた。画像上の関節面不整がないことは重要な反対資料であるが,それだけで軟部組織損傷,疼痛及び可動域経過を排除できないという射程を持つ。
3 完全強直を第8級7号とした裁判例
甲府地方裁判所平成18年3月24日判決(平成17年(ワ)第270号)は,幼少時の交通事故による右足関節骨端線損傷後,関節面変形と自動・他動とも完全強直が残った事案である。損害保険料率算出機構は足関節の用廃を第8級7号,下肢瘢痕を第12級相当とし,併合第7級と判断していた。
裁判所は,用廃に対応する第8級の労働能力喪失率45%を下回らないとした一方,瘢痕は身体機能を直接損なうものではなく露出部位でもないことを考慮し,第7級56%と第8級45%の中間である50%を採用した。この判決は,併合等級が決まっても,逸失利益の喪失率は障害ごとの現実の職業影響を検討して定められることを示している。
第5 画像,診療録及び可動域を時系列でそろえる
1 低負担で先に確保する資料
被害者側が最初に行うべき作業は,新しい検査を依頼することではなく,既に作成された資料を集めて時系列化することである。①救急搬送記録及び初診カルテ,②整復前後の単純エックス線及びCT,③各画像のDICOM全シリーズと読影報告書,④手術記録及び術中画像,⑤退院時記録,⑥リハビリ記録,⑦後遺障害診断書を医療機関へ任意に請求し,骨折型,整復度,荷重開始時期及び可動域の推移を一枚の表にする。医療機関の保存期間又は運用により全部が交付されるとは限らないため,事故直後画像と手術記録は早期に確保する方がよい。
相手方保険会社又は自賠責調査事務所が保有する認定資料は,被害者側が当然に入手できるものではない。まず後遺障害認定理由,提出済み診断書及び自ら取得できる医療記録を照合し,どの測定値又は器質的原因が否定されたかを特定する。訴訟前の段階で取得できない資料を前提に主張を組み立てるべきではない。
2 反復測定と画像所見を対応させる
後遺障害診断書では,患側・健側の背屈及び底屈,他動・自動の別,測定日,測定姿位及び制限原因を確認する。診断書の一回値だけでなく,固定解除後から症状固定までの理学療法記録を並べ,一度正常域へ改善した後に急に悪化した場合,測定法の違い,抜釘,感染,関節炎又は新たな外傷等の理由があるかを調べる。
画像所見は,可動域制限の具体的原因と対応させる。関節面の段差を主張するなら,どの断面で何が見えるか,脛腓靱帯結合の不整復を主張するなら,荷重時又は比較画像を含めてどの所見が不安定性を示すか,軟部組織拘縮を主張するなら,固定期間,手術所見,終末感及びリハビリ経過が同じ病態を支持するかを確認する。
3 追加検査又は医学意見へ進む条件
既存資料を整理した後も,①単純エックス線では関節面又は後果の状態を評価できない,②症状部位と既存画像が対応しない,③複数の測定値が境界をまたぐ,④動揺性又は神経損傷が未評価である,という具体的な未解決点が残る場合に限り,主治医照会,CT・MRI・ストレス撮影又は専門医意見を検討する。追加検査は,何が判明すれば等級判断が変わるかを先に定めてから依頼すべきである。
反対に,適式な反復他動値が一貫して健側の4分の3を明らかに上回り,痛み,動揺性,変形又は神経損傷の独立した原因所見もない場合,高額な私的鑑定を追加しても機能障害等級が変わる可能性は低い。新しい病態仮説又は未確認画像がないことを確認した段階を,追加調査の停止基準とする。
第6 相手方の反論と被害者側の再検証
1 想定される反論
相手方からは,①骨癒合及び関節適合性は良好である,②症状固定前に正常域まで改善している,③可動域が一回だけ又は自動値だけで測定された,④健側も制限され比較対象として不適切である,⑤事故前の骨折,変形性関節症又は加齢変化がある,⑥歩行,運転,スポーツ又は就労状況と申告する制限が一致しない,⑦疼痛は機能障害から通常派生して評価済みである,という反論が想定される。
被害者側は,反論を抽象的に否定するのではなく,整復前後画像,症状固定までの反復値,画像所見と症状部位の対応,事故前画像又は受診歴,装具の処方・使用状況及び具体的な職務動作を提出する。活動記録がある場合は,活動ができたか否かだけでなく,距離,速度,休憩,疼痛後の反応及び代償動作まで確認する必要がある。
2 労働能力喪失は等級と別に立証する
後遺障害等級は労働能力喪失率の重要な目安であるが,民事裁判所を拘束しない。立ち仕事,長距離歩行,階段,不整地,しゃがみ込み,重量物運搬又は運転ペダル操作が必要な仕事では,足関節障害の影響が現れやすい。他方,座位中心の仕事,配置転換又は補助具により影響を軽減できる場合には,標準的な喪失率からの修正が争われ得る。
被害者側では,事故前後の賃金資料だけでなく,職務記述,勤務表,配置転換,休憩増加,作業免除,補助者の必要性及び退職理由をそろえる。減収が生じていない場合でも,将来の昇進・職種選択又は就労継続への制約を具体化する必要があり,逆に事故後の就労継続だけで労働能力への影響が当然に否定されるものではない。
第7 外傷後変形性足関節症と将来の損害
1 長期予後研究の使い方
手術を受けた足関節骨折102例を平均17.9年追跡した研究では,進行した画像上の外傷後変形性関節症を37例(36.3%)に認め,骨折脱臼,内果骨折,Weber C型,受傷時30歳以上及び肥満等が危険因子となった。ただし,追跡できた対象が限定された観察研究であり,この割合を個別被害者の発症確率又は現在の等級へそのまま当てはめることはできない。
個別事件で将来の関節症,関節固定術又は人工関節置換術を主張するときは,現在の関節裂隙,関節面適合性,疼痛の進行,年齢,治療計画及び主治医の具体的見通しが必要である。一般的な将来リスクと,蓋然性のある将来治療費又は労働能力低下を区別しなければならない。
第8 出典・参考資料
1 法令・行政資料
自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条・別表第二
労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)別表第一
厚生労働省労働基準局長「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)
厚生労働省「平成23年度(平成24年1月~3月)労働者災害補償保険審査官決定事案・障害等級関係」決定書例2
2 裁判例
神戸地方裁判所尼崎支部平成14年1月30日判決・平成12年(ワ)第630号
甲府地方裁判所平成18年3月24日判決・平成17年(ワ)第270号
3 学会資料・医学文献
British Orthopaedic Association, BOAST 12: The Management of Ankle Fractures(2016年8月)
4 書籍
榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断―傾向を踏まえた交通事故事件処理―』(新日本法規,2026年)399頁~400頁,421頁,433頁~437頁。
加藤義治『医師と損保のためのわかりやすい交通事故外傷ガイドQ&A整形外科編』(保険毎日新聞社,2024年)117頁~121頁。