第1 この記事で取り上げる懲戒制度
「士業」には,法令上統一された閉じた範囲があるわけではない。本記事では,従来の記事で扱っていた公認会計士,行政書士,公証人,司法書士,土地家屋調査士,税理士,社会保険労務士及び弁理士に海事代理士を加え,それぞれの法律が定める懲戒制度を比較する。建築士,不動産鑑定士及び宅地建物取引士等にも監督処分の制度があるが,本記事の比較対象には含めない。
弁護士以外の士業では,国又は都道府県の行政庁が法律に基づく懲戒処分を行う制度が多い。ただし,懲戒権者,個人と法人に対する処分,第三者からの情報提供,聴聞,除斥期間及び処分結果の公表方法は資格ごとに異なるため,「弁護士以外の士業は行政庁が懲戒する」という説明だけでは制度の違いを把握できない。
行政庁による法定の懲戒処分と,各専門職団体が会則等に基づいて行う会員処分,指導又は注意勧告も別の制度である。同じ行為について両方の制度が問題となる場合があるため,処分主体と根拠規定を区別する必要がある。
第2 九つの資格の比較
次の表は,令和8年7月30日現在の各法令について,懲戒権者,個人と法人の主な処分類型,第三者の申出に関する明文及び一般的な除斥期間を比較したものである。「明文を確認できず」は,同じ構造の一般規定を現行法で確認できなかったという意味であり,行政庁が個別の情報提供を受け付けないという意味ではない。
| 資格 | 行政上の懲戒権者 | 個人に対する主な処分 | 法人に対する主な処分 | 第三者の申出に関する明文 | 一般的な除斥期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 公認会計士 | 内閣総理大臣(原則として金融庁長官へ委任) | 戒告,2年以内の業務停止,登録抹消 | 戒告,業務管理体制改善命令,業務停止,解散命令,社員の関与禁止等 | 公認会計士法32条。監査法人には同法34条の21第4項で準用 | 明文を確認できず |
| 行政書士 | 都道府県知事 | 戒告,2年以内の業務停止,業務禁止 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 行政書士法14条の3 | 明文を確認できず |
| 公証人 | 法務大臣 | 譴責,10万円以下の過料,1年以下の停職,転属,免職 | 法人制度なし | 一般的な明文なし。嘱託人等の異議申出は公証人法78条 | 明文を確認できず |
| 司法書士 | 法務大臣 | 戒告,2年以内の業務停止,業務禁止 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 司法書士法49条 | 7年 |
| 土地家屋調査士 | 法務大臣 | 戒告,2年以内の業務停止,業務禁止 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 土地家屋調査士法44条 | 7年 |
| 税理士 | 財務大臣 | 戒告,2年以内の業務停止,業務禁止 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 税理士法47条。税理士法人には同法48条の20第2項で準用 | 10年 |
| 社会保険労務士 | 厚生労働大臣 | 戒告,1年以内の業務停止,失格処分 | 戒告,1年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 社会保険労務士法25条の3の2。法人には同法25条の24第2項で準用 | 明文を確認できず |
| 弁理士 | 経済産業大臣 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,業務禁止 | 戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散 | 弁理士法33条。弁理士法人には同法54条2項で準用 | 明文を確認できず |
| 海事代理士 | 地方運輸局長 | 戒告,1年以内の業務停止,登録抹消 | 独立した法人処分の類型なし | 「何人も」とする同種の明文を確認できず | 明文を確認できず |
この表は制度の入口を示すものであり,個別の処分要件,経過措置,聴聞及び量定を省略している。実際の申出又は処分の検討では,行為時の法令,対象者が個人か法人か,事務所所在地及び管轄行政庁の最新案内を確認する必要がある。
第3 資格ごとの懲戒制度
1 公認会計士及び監査法人
公認会計士法29条は,公認会計士に対する処分として,戒告,2年以内の業務停止及び登録抹消を定める。同法30条は,監査証明における故意の虚偽又は脱漏と,相当の注意を怠ったことによる重大な虚偽又は脱漏とを区別している。内閣総理大臣の権限は,同法49条の4により,原則として金融庁長官へ委任されている。
監査法人に対する処分は解散命令に限られない。公認会計士法34条の21は,戒告,業務管理体制改善命令,2年以内の全部又は一部の業務停止,解散命令及び重大な責任を有する社員の業務又は意思決定への関与禁止を定めている。一定の場合には課徴金納付命令もあり,金融庁の現行処分基準は,令和6年3月27日が最終改定日である。
日本公認会計士協会の自主規制は,金融庁による行政処分とは別に行われる。同協会の会員権停止は,それだけで公認会計士法上の業務停止を意味するものではない。
2 行政書士及び行政書士法人
行政書士法14条は,都道府県知事が行政書士に対して戒告,2年以内の業務停止又は業務禁止を行うことができる旨を定める。同法14条の2は,行政書士法人に対する戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止又は解散を定めており,従たる事務所に関する違反については,その所在地を管轄する都道府県知事が一定の処分を行う場合もある。
行政書士法14条の3に基づく通知があった場合,都道府県知事は必要な調査を行う。一定の処分をしようとするときは聴聞が行われ,その聴聞期日における審理は公開されるほか,処分は同法14条の5に基づいて都道府県公報で公告される。都道府県知事による行政処分と単位行政書士会による会員処分は別であり,日本行政書士会連合会の公表ページも両者を分けて掲載している。
当サイトには,昭和50年度から平成26年度までの行政書士法14条及び14条の2に基づく処分状況及び平成27年度の処分状況を掲載している。これらは過去の集計資料であり,現在の処分状況は各都道府県及び行政書士会の最新公表資料で確認する必要がある。
3 公証人
公証人法79条は,公証人が職務上の義務に違反したとき又は品位を失墜すべき行為があったときに懲戒する旨を定める。同法80条に基づく処分は,譴責,10万円以下の過料,1年以下の停職,転属及び免職である。
譴責は法務大臣が行い,過料,停職,転属及び免職には,公証人法13条の2の政令で定める審議会等の議決を要する。現在は,検察官・公証人特別任用等審査会の公証人分科会が関係する。公証人は,国から俸給を受けないものの,法務省が実質的な公務員と説明する職であり,他の私的専門職とは性格が異なる。
公証人法には,何人でも一般的に懲戒事由を通知できるとする同種の規定はない。もっとも,同法78条は,嘱託人又は利害関係人が公証人の事務取扱いについて所属法務局又は地方法務局の長に異議を申し出ることができ,その処分に不服がある者は更に法務大臣に異議を申し出ることができる旨を定めている。この異議申出と懲戒処分は,対象及び法的効果の異なる制度である。
4 司法書士及び司法書士法人
司法書士法47条及び48条に基づく現在の懲戒権者は,法務局又は地方法務局の長ではなく,法務大臣である。司法書士に対する処分は戒告,2年以内の業務停止又は業務禁止であり,司法書士法人に対する処分は戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止又は解散である。
司法書士法49条は,第三者の通知,法務大臣による調査及び聴聞を定めている。聴聞期日における審理は,対象となる司法書士又は司法書士法人から請求があったときに公開される。法務省の処分基準等は,令和2年8月1日から懲戒権者が法務大臣へ変更されたことを踏まえて定められたものであり,日本司法書士会連合会の処分公表ページでは公表期間内の処分を確認できる。
5 土地家屋調査士及び土地家屋調査士法人
土地家屋調査士法42条及び43条に基づく現在の懲戒権者も法務大臣である。土地家屋調査士に対する処分は戒告,2年以内の業務停止又は業務禁止であり,土地家屋調査士法人に対する処分は戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止又は解散である。
土地家屋調査士法44条は,第三者の通知,法務大臣による調査及び聴聞を定めている。聴聞期日における審理は,対象となる土地家屋調査士又は土地家屋調査士法人から請求があったときに公開される。法務省の処分基準等は懲戒権者の変更を反映しており,日本土地家屋調査士会連合会の処分公表ページでは処分類型ごとに異なる掲載期間が示されている。
6 税理士及び税理士法人
税理士法44条は,税理士に対する懲戒処分として,戒告,2年以内の税理士業務の停止及び税理士業務の禁止を定める。同法45条は,故意に真正の事実に反して税務書類を作成した場合等と,相当の注意を怠って同様の行為をした場合とを区別し,同法46条はその他の税理士法違反等を処分対象としている。税理士法人については,同法48条の20により,戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止又は解散の処分がある。
税理士の懲戒処分及び税理士法人に対する処分には,国税審議会の議決が必要である。国税庁の現行の量定の考え方は,令和5年4月1日以後に行われた不正行為に適用される。国税庁の処分公表ページでは,年度別件数,個別の処分内容及び官報掲載情報を確認できる。
7 社会保険労務士及び社会保険労務士法人
社会保険労務士法25条は,社会保険労務士に対する戒告,1年以内の業務停止及び失格処分を定める。同法25条の3は,法令違反のほか,「社会保険労務士たるにふさわしくない重大な非行」を懲戒事由としている。これに対し,同法25条の24が社会保険労務士法人について定める処分は,戒告,1年以内の全部又は一部の業務停止及び解散であり,法人に「失格処分」はない。
厚生労働省の現行基準は,令和2年7月1日以後に行われた違反行為等に適用される。厚生労働省の処分公表ページでは,戒告,業務停止,失格処分又は法人の解散に応じて掲載期間が異なる。
名古屋地裁平成30年2月22日判決(平成28年(行ウ)第19号・裁判所HP掲載)は,社会保険労務士に対する3か月の業務停止処分について,停止期間経過後の取消しの訴えの利益等を扱った。同判決は,当時の内部量定基準が行政手続法12条1項により公にされた処分基準ではなかったことなどを理由に,取消しの訴えを不適法として却下し,国家賠償請求を棄却したものである。
8 弁理士及び弁理士法人
弁理士法32条は,弁理士に対する戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止及び業務禁止を定める。同法54条は,弁理士法人に対する戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止及び解散を定めている。現在の法人名称は「特許業務法人」ではなく「弁理士法人」である。
特許庁の現行運用基準は令和4年4月1日付けであり,個人及び弁理士法人の量定等を示している。経済産業大臣による懲戒処分と日本弁理士会による会則上の処分は別の制度であり,日本弁理士会の説明も両者を区別している。
9 海事代理士
海事代理士法25条は,海事代理士が同法又は同法に基づく処分に違反したときに,地方運輸局長が戒告,1年以内の業務停止又は登録抹消を行うことができる旨を定める。戒告又は業務停止についても聴聞が必要であり,各処分に係る聴聞期日の審理は公開される。
国土交通省の懲戒処分基準は,具体的な違反行為に応じた処分の目安を示している。海事代理士法には,公認会計士法等のように「何人も」懲戒事由を行政庁へ報告又は通知できる旨を定めた同種の明文を確認できないため,全ての士業について一律に「何人でも懲戒請求できる」と説明することはできない。
第4 第三者による報告又は通知
弁護士法58条1項は「懲戒することを求めることができる」と定めるが,他の士業法の文言は同一ではない。公認会計士法32条及び弁理士法33条は事実の「報告」,行政書士法14条の3,司法書士法49条,土地家屋調査士法44条,税理士法47条及び社会保険労務士法25条の3の2は事実の「通知」を定めている。
公認会計士法32条,税理士法47条,社会保険労務士法25条の3の2及び弁理士法33条は,直接には個人について定めている。監査法人,税理士法人,社会保険労務士法人及び弁理士法人については,それぞれの法人処分の条項が第三者の報告又は通知に関する規定を準用する。
これらの規定は,行政庁に事実を知らせて適当な措置を求める経路を設けたものである。通知等を行った者が,特定の処分を受けさせる権利又は処分結果について不服を申し立てる権利を当然に取得するものではないため,弁護士法上の懲戒請求と同じ手続であるかのように説明するのは正確でない。
実際に情報提供を行う場合は,対象となる資格,個人又は法人の別,事務所所在地,具体的な行為及び裏付け資料を整理し,管轄行政庁の最新案内を確認する必要がある。専門職団体の苦情窓口を利用する場合も,行政庁による懲戒の申出なのか,会則上の指導又は会員処分を求めるものなのかを区別した方がよい。
第5 除斥期間及び制度改正
司法書士法50条の2及び土地家屋調査士法45条の2は,懲戒事由があった時から7年を経過した場合,処分手続を開始できない旨を定める。税理士法47条の3の期間は10年であり,いずれも処分の効力が7年又は10年で消滅するという規定ではない。
税理士については,登録を離れれば過去の行為が常に処理されなくなるわけでもない。税理士法48条は,税理士であった期間内の行為について,財務大臣が「懲戒処分を受けるべきであったこと」を決定し,受けるべきであった処分の種類及び必要に応じて業務停止期間を明らかにする制度を定めている。
司法書士及び土地家屋調査士の懲戒権者は,令和2年8月1日施行の改正により,法務局又は地方法務局の長から法務大臣へ変更された。この改正の概要は,令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の説明資料を掲載した当サイトの記事でも確認できる。
特許庁が平成18年前後の審議会に提出した「行政庁による士業の懲戒比較表」は,当時の制度を横断的に確認できる資料である。ただし,現在の司法書士及び土地家屋調査士の懲戒権者,近年設けられた除斥期間並びに法人名称等とは一致しないため,現行制度の根拠として用いることはできない。
第6 処分情報を調べる場合の注意点
処分結果は,法令に基づく官報又は公報への掲載に加え,行政庁又は専門職団体のウェブサイトでも公表されている。もっとも,公表主体,掲載対象及びウェブ上の掲載期間は資格ごとに異なり,例えば社会保険労務士及び土地家屋調査士の公表ページは処分類型に応じた掲載期間を示している。
そのため,現在のウェブ検索で氏名又は法人名が見つからないことだけから,過去に処分がなかったと断定することはできない。処分時期が古い場合は,官報若しくは都道府県公報,行政庁の過去の公表資料又は専門職団体の保存資料まで調査範囲を広げる必要がある。
また,行政庁の処分情報と専門職団体の会員処分等を混同すると,処分主体,法的効果又は公表期間を誤る。処分歴を確認するときは,①行政上の懲戒,②専門職団体の会則上の措置,③刑事・民事又は他の監督法令による手続を分け,資料に記載された根拠条文及び処分主体を確認するのが適切である。
第7 出典・参考資料
1 法令
① 公認会計士法
② 行政書士法
③ 公証人法
④ 司法書士法
⑤ 土地家屋調査士法
⑥ 税理士法
⑦ 社会保険労務士法
⑧ 弁理士法
⑨ 海事代理士法
⑩ 弁護士法
2 行政庁・専門職団体・裁判例
① 金融庁「公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方」平成20年6月23日,最終改定令和6年3月27日。
② 日本公認会計士協会「自主規制の仕組み」。
③ 日本行政書士会連合会「懲戒処分・会員処分」。
④ 法務省「公証制度について」及び「検察官・公証人特別任用等審査会―公証人分科会」。
⑤ 法務省「司法書士等に対する懲戒処分の考え方について」及び日本司法書士会連合会「懲戒処分の公表」。
⑥ 法務省「土地家屋調査士等に対する懲戒処分の考え方について」及び日本土地家屋調査士会連合会「懲戒処分の公表」。
⑦ 国税庁「税理士等に対する懲戒処分等」及び「税理士法違反行為」。
⑧ 厚生労働省「社会保険労務士の懲戒処分等」及び「懲戒処分の基準等」。
⑨ 特許庁「弁理士及び弁理士法人に対する経済産業大臣による懲戒処分に関する運用基準」令和4年4月1日。
⑩ 日本弁理士会「処分制度」。
⑪ 国土交通省「海事代理士に対する懲戒処分基準」平成24年7月。
⑫ 名古屋地裁平成30年2月22日判決(平成28年(行ウ)第19号・裁判所HP掲載)。
3 文献
① 浪花健三『税理士における職業専門性―独立性と自律の確保へ向けて』法律文化社,2025年,110頁,119頁~120頁及び248頁。
② 『税経通信』2025年2月号,税務経理協会,75頁~95頁。
③ 『税経通信』2021年9月号,税務経理協会,18頁~20頁,33頁~35頁,40頁及び50頁。
④ 伊藤泰人『社労士のための助成金申請リスクヘッジマニュアル―不支給・不正受給を防ぐ!』日本法令,2024年,24頁~26頁。
⑤ 三宅英貴『Q&A開示検査と会計不祥事対応の実務』金融財政事情研究会,2018年,113頁。