第1 給費制を廃止した平成16年の裁判所法改正の経緯
・ 大分地裁平成29年9月29日判決の「平成16年改正に至るまでの経緯」からの抜粋ですが,以下のとおりです。
1 審議会における検討
(1) 審議会は,司法制度改革審議会設置法に基づき,21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし,国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与,法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議すること(同法2条1項)を目的として,平成11年7月,内閣に設置された(同法1条,乙4,5)。
(2) 審議会においては,第50回,第57回において,給費制について言及された(甲A13,14)。
ア 第50回(平成13年3月2日)
事務局から各委員に「法科大学院構想に対する各界からの主な指摘」と題する表が配布され,同表の中には,経済界等からの指摘として「現行の司法修習は,修習期間の長さが適切か,修習内容が適切か,給費制は必要か等,様々な疑問があり,抜本的な見直しが必要である」との記載があり,それが読み上げられたが,その後の意見交換の中では,給費制について言及されることはなかった(甲A13)。
イ 第57回(平成13年4月24日)においては,3名の委員から,給費制の廃止,それに代わる補填の制度を考えるべきとの意見が出された(甲A14)。
(3) 審議会は,平成12年11月,審議会でのそれまでの審議結果を整理し,各課題について検討の基本的方向性についての考え方を取りまとめた中間報告を公表した。中間報告は,豊かな素養ある法曹が,公益的な活動も含めた社会的責務を果たしていくことを求めるもので,司法修習に関する箇所に,給費制についての記載はなかった。(乙6)
(4) 審議会は,平成13年6月12日,中間報告についての各界各層からの様々な意見を踏まえた上,更に議論を重ねるなどした結果として,司法制度改革審議会意見書(甲A12の1・2,乙7)を取りまとめた。同意見書では,給費制の在り方について,「修習生に対する給与の支給(給費制)については,将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ,その在り方を検討すべきである。」とされた(乙7)。内閣は,同月15日,同意見書について,最大限に尊重して司法制度改革の実現に取り組むこととし,3年以内を目途に関連法案の成立を目指す旨閣議決定をした。
2 司法制度改革推進本部(以下「推進本部」という。)及びその下に置かれた検討会における検討
(1) 推進本部は,司法制度改革推進法に基づき,司法制度改革を総合的かつ集中的に推進することを目的として,平成13年12月1日,内閣に設置された。(同法8条,乙8)。推進本部における司法修習や給費制,貸与制の検討は,推進本部の下に置かれた検討会において行われた。
(2) 内閣は,平成14年3月19日,司法制度改革推進計画(以下「推進計画」という。乙9)を閣議決定した。推進計画は,質の高い豊かな人間性や専門知識等を有する法曹の養成を理念とし,審議会の意見の趣旨に則って行われる司法制度の改革と基盤の整備に関し政府が講ずべき措置について,その全体像を示すとともに,推進本部の設置期限(平成16年11月30日)までの間に行うことを予定するものにつき,措置内容,実施時期,法案の立案等を担当する府省等を明らかにするものである。推進計画では,給費制の在り方について,「司法修習生の給費制の在り方につき検討を行う。」とされた(乙9)。
(3) 検討会は,委員11名により構成され(乙10),平成14年1月11日から平成16年9月1日までの約2年8か月間にわたり,全24回開催された。このうち給費制に関して行われた議論の概要は次のとおりである。
ア 第7回(平成14年5月10日,乙10)
事務局から「司法修習制度に関する論点」と題する資料が配付され,事務局の担当者は,給費制については,今後司法修習生の大幅な増加が見込まれる状況にあって,政府の財政事情等とも関連する問題であり,慎重な御検討を要請する旨述べた。これを受け,ある委員は,修習専念義務を課す以上はそれに対して経済的担保を与えるのが当然ではないかとの議論がある等の意見を述べた。
イ 第8回(同年6月4日,乙11)
ある委員は,給費制が望ましいことに違いはないが,予算面での制約,あるいは国民感情からして,エリートに手厚いと捉えられるおそれがあり,あるいは他の高等専門職育成プロセスとのバランスという点を考えると,給費制維持を堅持するだけでは,反対意見を抑えて給費制を維持することは困難ではないのではないかという気がする,ただし,司法修習生は,将来,法曹となり,支払能力を有するようになるはずであるから,貸与制の導入を考えてよいのではないかとの意見を述べた。また,他の委員は,支払能力の観点からは,少なくとも法曹としての将来の可能性を有する者で,法曹となって収入が得られる時点で返済をすることが可能であるから,貸与制を選択する方向で適切な経済的援助をするのがよいとの意見を述べた。
また,法務省担当者は,法科大学院の学費,奨学金制度,司法修習の期間,内容等法曹養成制度全体の在り方の中で給費制について検討してほしい旨の意見を述べ,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)担当者は,弁護士の公的役割という観点からできる限り給費制を存続してほしい旨の意見を述べ,最高裁判所(以下「最高裁」という。)担当者は,法曹志望者の経済的負担,司法修習の内容,期間等の要因を考えて検討してほしい旨の意見を述べた後に,司法修習生の給与,諸手当に要する費用が,司法修習生1000人,司法修習期間1年6か月である現状においては,1年当たり約65億円である旨説明した。
田中成明座長(以下「田中座長」という。)は,最後に,給費制をできるだけ維持すべきとの意見もあるが,やはり貸与制などの代替的な措置の可能性も視野に入れて見直しを検討することは避け難いので,そのような方向を踏まえて引き続き検討するなどと述べた。
ウ 第9回(同年6月28日,乙12)
日弁連担当者は,給費制の見直しの検討の要否は,法曹養成制度全体の費用負担の大きさと,その中でどうすれば期待される法曹を育てることができるのか,その全体の中に位置付けて考慮されるべきで,給費制のみを取り出してその要否を検討するのでは不十分であるとし,結論として給費制を維持すべきとの意見を述べた。
これに対し,ある委員は,個々の法曹志望者の視点から見ると,その意見はよく理解できるが,他方で,国民,社会の視点から見た場合に,果たして現在の議論だけで納得を得ることができるかどうかというところが重要であると思う,高収入の法律事務所を指向するという傾向がかなりの者に見られるという現実を前提とした場合には,給費制を全面的に現状のまま維持するということが果たして説得力を有するのか,疑問であるとの意見を述べた。
また,ある委員は,法曹養成とは,弁護士だけを養成するわけではないので,公の仕事をする者とか,
弁護士でも公益的な仕事をする者について,前倒しで公費を使うという説明も,その限りでは分かるところがあるが,その使い方が給費という形であることが論理必然かというと,そうではないようにも思う,との意見を述べた。
最後に,田中座長が,前の議論の時には,貸与制などの代替措置の可能性も含めて検討するということになっていたので,やはりその線で検討を続ける,是が非でも給費制の維持を前提に検討することは前の議論の整理とも違うと述べ,前回までの議論の整理に従い,事務局において関係機関と調整しながら進めていくことにしたいと述べた。
エ 第14回(同年12月20日,乙13)
事務局から,「平成15年度予算の編成等に関する建議」(甲A28)には,司法修習生手当について,早期に給費制を廃止し,貸与制への切り替えを行うべき旨の記載があること,「規制改革の推進に関する第2次答申~経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革」(甲A30)においては,給費制について,法科大学院を含めた法曹養成制度全体を視野に入れつつ,その廃止を含めて見直すべきとされていることが説明された。川端和治委員(以下「川端委員」という。)は,法科大学院制度を導入して,学生に生ずる経済的負担については制度全体を通じて考えることはやむを得ないが,直ちに,給費制のみについて見直しを行うのは合理性がない,法曹資格を得て,将来の所得によって十分返済可能な範囲で負担していくという制度はその限りで合理性があるが,ある程度の資力がないとその過程をくぐり抜けられない,あるいは背負った負債の返済のために進路が限られてしまい,非常に高額な給与を支払う法律事務所に行けそうもない者あるいは行きたくない者は法曹になることができないという制度になってしまうとの意見を述べた。