○以下の記載は,ナンバリング等を除き,裁判所の情報公開によって取り寄せた,平成27年7月の司法修習生指導担当者協議会における司法研修所の配付資料としての「68期導入修習カリキュラムの概要」を丸写ししたものです。
第1 民事裁判
1 即日起案・解説
(1) 目的
実体法の基本的知識,訴訟物や要件事実についての基本的理解を確認するとともに,その継続的な学修の必要性を認識させる目的で実施した。
(2)事案の概要
事案は,鶏卵等の販売を業とする会社である原告が,取引先である訴外会社に不良卵を納入して損害が発生したため,これを踏まえ,訴外会社が,原告からの従前からの借入金や買掛金を相当減額して,原告に支払う旨の和解契約が締結されたが,訴外会社が,和解金の支払をせず,同社所有地に,訴外会社代表者の娘婿である被告の訴外会社に対する準消費貸借に基づく貸金債権を被担保債権とする抵当権を設定したことから,被告に対し,主位的に,①債権者代位権を行使して,所有権に基づき同抵当権設定登記の抹消登記手続を請求するとともに,予備的に,②詐害行為取消権に基づいて,同抵当権設定契約の取消し及び同抵当権設定登記の抹消登記手続を請求した(第1回弁論準備手続期日において予備的請求にかかる訴えを取下げ)というものである。修習生には,このような内容の38頁の記録を与えて,(3)の設問について3時間で即日起案をさせた。
(3) 起案事項等
設問は,①訴訟物(個数・複数の場合は併合態様),②請求原因,抗弁,再抗弁などを整理し小ブロックを摘示,③請求原因として摘示した主張の記載理由の説明, ④予備的請求にかかる訴えを取り下げた理由(原告代表者から訴外会社代表者に宛てられた手紙に,早期に抵当権設定を認識していたことを自認する記載があり,これが書証として提出されているため,時効(2年)の抗弁が確実に認められる。)の4問である。
また,起案終了後に,記録上の期日の次回期日までに当事者が提出した準備書面及び書証を内容とする追加の記録を配布した。
(4) 講評
起案の講評に加えて,契約書,登記簿謄本,領収書,決算報告書,総勘定元帳などの基本的な書証の見方を解説した上,中心的争点の判断に当たり着目すべき証拠や事実についても解説を行って,事実認定教育の導入とした。
2 民事事実認定の手法と解説
「対話で考える民事事実認定ー教材記録一」を使用し,また,これを題材として制作したDVD教材を視聴しながら,事実認定の手法を学ぶカリキュラムである。
事案は,割賦販売業者である原告が,被告が自動車販売会社から購入した自動車の代金について,被告と立替払契約を締結し,販売会社に対して立替金を支払ったと主張して,被告に対し,立替金の未払残金と遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告は,立替払契約の締結を否認し,契約書は長男が被告の実印を盗用して偽造したと主張して争っているというものである。
修習生には,修習開始前に,上記記録教材を配布し,事前課題として,事実認定のサマリー起案の提出を求めた。
その上で,講義では,訴訟物,要件事実,争いのある主要事実,積極・消極方向の間接事実について討議・講評をして,事実認定の基本的な手法や,その際の留意事項を説明した。講義は,上記DVD教材の視聴を挟みながら実施した。DVD教材には,当該事件の担当裁判官とその下で民裁実務修習を行っている修習生が登場し,修習生が裁判官の指導を受けながら当該事件についてサマリー起案を行い,判決言渡しに至る様子が描かれている。DVDを視聴した修習生は,本件記録教材の世界がDVDの中で再現されているのを見つつ,自分が取り組んだ事前課題と同じ課題に取り組む出演の修習生に入り込むことで,事実認定の手法を修得することができる作りとなっている。
3 裁判官の役割・職務・心構え,裁判修習のガイダンス(刑事裁判と共通)
①民裁・刑裁両教官において,裁判官の役割,職務,裁判所の組織等や分野別実務修習における留意点について,②民裁教官において,民裁実務修習で求められるものや留意点について,③刑裁教官において,刑裁実務修習で求められるものや留意点について,それぞれ説明し,修習生が,分野別実務修習をスムーズに開始し,効果的に修習することができることを目的としたものである。
①については,裁判官の役割,職務,心構え,裁判官に求められる能力,資質,任官後の職務・キャリアアップ,裁判所の組織について,各教官の経験を踏まえたー般的説明を行い,また,分野別実務修習における民刑共通の注意点(法廷・評議傍聴,起案の内容,数,記録の取扱い,情報セキュリティ等)を説明し,修習生に注意喚起を求めた。
②については,民裁修習の意義及び目的は,主張分析(争点整理)能力,事実認定能力及び紛争解決能力のかん養にあり,主張分析能力を養うためには,(a)訴状審査, (b)事件の問題点の検討,(c)釈明事項の検討,(d)主張分析の起案,(e)立証計画の検討が有効であること,事実認定能カを養うためには,事実認定起案や裁判官との積極的な質疑応答が有効であること等を説明した。
③については,刑裁修習の主たる意義は,争点整理能力と事実認定能力のかん養にあり,争点整理能カを向上させるためには,当事者の主張書面を検討すること,その上で公判前整理手続を傍聴し,裁判官と意見交換をすることなどが有効であること,事実認定能カを向上させるためには,裁判員裁判の審理を傍聴し,その結果に基づいて争点に関する事実認定起案を行うこと,及び裁判官との質疑応答が有効であることなどを説明した。
第2 民事弁護
1 講義
(1)講義1(民事保全・民事執行)
ア 実施の概要
本カリキュラムは,民事保全及び民事執行に関して,その意義や基礎的知識の確認及び修得をし,各手続のー連の流れや,代理人弁護士として行うべき具体的な対応等を理解させることを目的としたものである。
講義では,民事保全及び民事執行手続に関するDVD教材を視聴し,保全から執行完了までの民事手続全般を動態的に学修するとともに,典型的な保全及び執行に関する事例を題材とした設問を修習開始前に検討させ(事前課題),設問についての討論及び解説を通じて,民事保全及び民事執行に関する基礎的知識の修得を図った。
イ DVD教材の内容
視聴したDVD教材は,顧問先の不動産会社が賃貸しているビルの一室を賃借人以外の者が占有していることが判明したため,同社からの依頼を受け,賃貸借契約を解除して建物の占有者に対し明渡しを請求した事案を用いて,占有移転禁止の仮処分の申立てから,建物明渡請求の本案訴訟,判決に基づく強制執行までの各手続の流れを映像化したものである。
ウ 設問内容
修習生に事前課題として検討させた設問の内容は,①仮差押えの事案における事前調査方法,目的物の選択及び執行方法,保全異議及び債権執行の方法並びに強制執行停止に関する実務的対応等,②建物無断転貸のケースにつき建物の明渡しを求める場合の保全手段において選択すべき保全命令及びその執行方法等を問うものとし,それらの設問の解説講義を行うとともに,さらに参考問題として, ③土地の所有権移転登記の抹消登記手続を求める場合において選択すべき保全命令及びその執行方法並びに起訴命令の申立て等の債務者側の対抗手段等を間う課題も与えた。
(2) 講義2(弁護士の職責・倫理等)
本カリキュラムでは,依頼者の正当な利益を実現するための弁護士のあるべき活動の視点と心構えについて講義を行うとともに,弁護士倫理に関する具体的事例の検討及び討論を実施した。また,民事弁護の立場から,実務修習中の留意事項など, 実務修習に向けてのガイダンスを行った。
2 問題研究(即日起案等)
(1) 目的
本カリキュラムは,依頼者等から聴取した内容や取得した証拠からなる記録に基づいた事案の検討及びその検討を踏まえた訴状及び準備書面の起案を通じて,当事者法曹としての動的視点を疑似体験させ,これにより,事案の法的な分析,事実や証拠の把握,分析に関する能力のかん養を図るとともに,法律文書の作成に関するー般的な留意事項,訴訟手続における準備書面の果たす役割等についての理解を深め,説得的な法律文書を作成するために必要な技法と思考方法を修得させることを目的としたものである。
(2) 事案の概要
依頼者は,プールバーの経営を目的として,仲介業者の仲介により,売主から本件土地を1,100万円で購入するとともに,仲介業者に対して本件土地上の建物の建築を発注したところ,本件土地が市街化調整区域内にあり依頼者の意図していたプールバー施設の建築ができないことが判明した。このため依頼者が,売主に対して,支払済みの売買代金1,100万円の返還を求めた事案である。
(3) 実施内容
ア 問題研究1(事案分析)
事前課題(依頼者からの聴取内容及び証拠資料からなる紛争初期段階での記録に基づく事案検討と訴状起案)を題材に,依頼者からの事情聴取等に現れた事実関係に基づく法律構成の検討及びそれらの取捨選択,事実認定上の問題点及び立証の見通し等の検討についての解説を行った。
イ 問題研究2(即日起案)
アで用いた事案について,訴訟を提起したことを想定し,訴状,答弁書等を含む記録を追加して修習生に与え,答弁書に対する反論を内容とする原告第一準備書面の起案を求めた。
ウ 問題研究3(主張書面の書き方)
イの即日起案について講評するとともに,訴状,答弁書,準備書面及び証拠説明書の作成技法や説得的な法律文書の作成方法についての講義及び研究を行った。
3 演習
(1) 演習1(立証)
本カリキュラムは,弁護士業務における事実調査や証拠収集の重要性を確認し, 弁護士の行う立証活動における,主張と証拠の相互補完・循環構造,立証活動の全体構造,任意の立証活動の重要性等を理解させることを目的としたものである。演習では,立証活動に関する総論的講義を行うとともに,具体的な事案の検討を通じて,登記,戸籍,住民票の確認や取得,弁護士会照会といった証拠収集に関する基礎的知識を確認するとともに,当該事案における立証活動や証拠化の方法についての討論及び解説を行った。
検討の題材とした事案は,①契約書において使用目的が居住用と定められているマンションの賃貸借において,賃借人から依頼を受けた弁護士として,賃貸人が事務所使用を承諾していたという事実の立証に向けた証拠収集活動を行うというもの, ②火災により焼失した賃貸マンションの賃貸人から依頼を受けた弁護士として,火災原因を究明し,火災が賃借人の過失によるものであることを明らかにするための事実調査や証拠収集を行うというもの及び③②のケースで賃借人から依頼を受けた弁護士として,賃借人の被った損害の立証に向けた立証活動を行うというものである。
(2) 演習2(契約書の作成)
本カリキュラムは,依頼者の要望を理解・分析して,その要望を適切に実現しつつ,将来の紛争を予防する観点から,契約書による権利保護や紛争予防の重要性を理解させることを目的としたものである。
演習では,弁護士業務と契約案件との関わりや契約書作成に関する総論的講義を行うとともに,依頼者からの聴取結果及び契約書案に基づく具体的事案を題材として契約書案の分析や修正案を検討させ,これに対する講評や討論を行った。
題材とした事案は,キッチンボードの製造委託において,発注者が提示した契約書案について,受注者である依頼者からそのチェックと助言を求められたというものである。依頼者は小規模の部材メーカーである一方,相手方は全国展開をしている大手家具メーカーであり,依頼者の交渉上の立場は,相対的に弱い。また,契約書案も相手方から提示されたもので,その内容は相手方に一方的に有利なものとなっている。修習生には,このような状況下で依頼者から相談を受けた弁護士として,契約書案の問題点やその修正案を検討することを求めた。
第3 民事共通
1 民事第一審手続の概説(講義)
「第3版 民事訴訟第一審手続の解説 別冊記録」を用いて,民事訴訟事件の訴えの提起から判決に至るまでの手続について講義(質疑応答や解説等)を行うもので,民事裁判教官室と民事弁護教官室とが共同して実施した。
民事訴訟第ー審手続の流れについての理解を確認するだけでなく,民事訴訟における裁判所と当事者との協働関係の重要性を理解させるとともに,裁判所・当事者といった立場の違いからくる事件の見方・考え方や方針の相違があり得ることを実感させることをも目的としている。
上記別冊記録には「解説」が付属しているが,その内容を講義の中心とするのではなく,より実務的な観点から重要な事柄を多く取り上げるようにし,また,上記別冊記録における争点整理の実際や事実認定についても,民裁教官と民弁教官とが掛け合いをしながら講義を進めた。
そして,これらの講義を通じて,分野別実務修習における各種手続の傍聴の際に,現在いかなる手続が行われているのか,その目的は何か,どのような点に留意して傍聴すべきかを意識させることにより,修習生が,スムーズに,また,効果的に修習を行うことができるようにした。
2 民事総合1・2
修習生を,3人ないし5人のグループに分けて,各グループを裁判官役,原告訴訟代理人役及び被告訴訟代理人役に割り振った上で,進行中の訴訟記録(第2回弁論準備手続期日の実施前の段階)に基づき,争点整理手続のロールプレイを行う演習である。
事案は,被告と土地売買契約を締結したと主張する原告が,被告に債務不履行があったとして上記売買契約を解除し,原状回復請求権に基づき,既払の内金900万円の返還を求めたのに対し,被告が,買主は原告ではなく,Aであるとして,原告との売買契約の締結を否認するとともに,仮に原告との間で売買契約が締結されたとしても,①買主の同一性について被告に錯誤があり,無効であること,②被告は,原告の代理人であるAと売買契約を合意解除し,内金600万円は返還を要しない旨合意したこと,③原告が主張する内金300万円は,Aが被告の妻に対して負っていた保証債務の履行として支払われたものであり,売買代金ではないことを主張しているというものである。
民事総合1では,第2回弁論準備手続期日の準備を行う段階という設定で,グループごとに,訴訟物,当事者の主張の整理(ブロック・ダイアグラム),当事者双方の主張上の問題点,釈明すべき事項又は釈明を求めるべき事項,撤回すべき主張又は撤回を求めるべき主張,予想される争点,最も中心的な争点についての立証活動又は立証を促すべき事項,今後の進行見通しを検討し,検討結果についてのメモを提出させた。
民事総合2では,上記グループのうち裁判官役,原告訴訟代理人役及び被告訴訟代理人役各1グループを組み合わせてユニツトを構成し,そのユニツトごとに,第2回弁論準備手続期日における争点整理手続のロールプレイを行った。
その上で,適切な主張整理の在り方,否認と抗弁の違い,法律上成立困難な主張や当事者が真に意図していない主張の見極め,要証事実(売買契約)の認定における重要な間接事実の抽出及びその立証方法など,争点整理全般について,民裁教官及び民弁教官による解説を実施した。
第4 刑事裁判
1 講義(事前課題解説等)
裁判員制度の導入を契機とした刑事裁判の動きを織り交ぜながら刑事訴訟手続,特に公判前整理手続と公判審理の目的や在り方について俯瞰的な解説を行うとともに, こうした俯瞰的な解説の内容と関連づけながら,手続関係の事前課題(中止未遂の成否が争点となる現住建造物等放火,殺人未遂の簡略な事例を題材として,証拠開示の在り方,証明予定事実記載書及び予定主張記載書面の記載内容,裁判所の求釈明の在り方等の公判前整理手続の進行上留意すべき事項や,法廷で心証が形成できる公判審理や証拠調べの在り方等を考えさせる設問)についてグループ討論・意見交換をし,解説を行った。
2 即日起案・事実認定関係の事前課題の解説
(1) 即日起案
ア 目的
事実認定教材に基づき,争点を犯人性とする事案について起案をさせ,その解説を行うことにより,事実認定の基本的な手法を確認,指導し,実務修習における事実認定の検討を円滑に行えるようにすることを目的とした。
イ 事案の概要
事務所荒らしの事案について,被害現場近くで職務質間を受けた被告人が,被害品を所持していたため,建造物侵入,窃盗被告事件の犯人として起訴された。弁護人は,被告人が所持していた物が被害品であることも争った上,知人から預かったにすぎないなどと主張している。
ウ 起案事項等
本件建造物侵入,窃盗犯人と被告人の同一性の有無について,結論を示した上で,その結論に至る判断過程を証拠に基づいて説明することを求めた。
エ 解説
事実認定に当たっては,間接事実と要証事実との論理的な関係について反対仮説の可能性を具体的に意識しながら論証すべきであること,供述証拠の信用性判断においては,その供述内容に応じた観点から信用性判断を行うべきことなどの,事実認定の基本的な手法について解説をした。
(2) 事実認定関係の事前課題
上記即日起案の解説を踏まえて,事前課題(刑事第一審公判手続の概要(参考記録)の事例に基づく設問)について,反対仮説の可能性として具体的にどのようなことが考えられるかを検討させ,上記基本的な手法の定着を図った。さらに,上記事前課題の事例を題材にして,量刑の考え方についても解説を行った。
第5 検察
1 導入講義
起訴・不起訴を決する終局処分時に必要となる犯人性及び犯罪の成否等に関する事実認定上の留意事項等を修得させるため,証拠構造が比較的単純で,かつ,犯人性を否認する窃盗事案を事前課題として配布し,これを題材に,「検察終局処分起案の考え方」を基本とした犯人性に関する間接事実の抽出・構成の仕方及びその評価の在り方,被疑者供述の信用性検討の在り方等を解説・講評した。
2 即日起案
(1) 目的
犯人性を否認する恐喝未遂事件を題材に,被疑者が犯人であるか否かを確定するに至る思考過程を中心に起案させ,その解説・講評を行って事実認定の基本的手法及びその評価の在り方等を指導,教示することにより,分野別検察実務修習での捜査・公判修習に資することを目的とした。
(2) 事案の概要
スーパーで購入した寿司を食べて腹痛になったとして,被疑者が同スーパー店長に損害賠償として50万円の支払を要求し,畏怖した同店長に50万円を支払う旨の誓約書を作成させたが,同店長が警察に届け出てこれを被疑者が察知したため未遂に終わった恐喝未遂事件である。被疑者は,犯人性を否認しているが,前記誓約書が被疑者方から押収されるなどしている。
(3) 起案事項等
前記誓約書等の物的・客観的証拠を中心として被疑者の犯人性を検討し,適切な事実認定ができるかを問うとともに,犯人性を否認する被疑者弁解につき,これら物的・客観的証拠を中心として適切に弾劾できるかを問うた。そして,解説・講評を行うことにより,各修習生の結論に至る思考過程を適宜確認,指導するとともに,各修習生に適宜発言させることにより,口頭での報告発表能力についても指導を行った。
3 捜査演習
法科大学院で習得した知識・技能を基に分野別検察実務修習(特に捜査修習)への円滑な移行を目的としてこの度の導入修習で初めて実施した。
被疑者が失火である旨弁解する現住建造物等放火事件を題材とし,同事件に即して作成した模擬取調べのDVDを適宜視聴させながら,被疑者取調べの在り方,被疑者供述を踏まえた裏付け捜査及び裏付け捜査を踏まえた更なる取調べの重要性を説明・解説し,さらに,修習生に取調ベ・裏付け捜査事項等を検討・討論させることにより,時々刻々変化する証拠関係に基づいて事案の真相を解明していくプロセスを学ばせるとともに,身柄事件の受理段階における基本的な手続の履践,その後の捜査の在り方,考え方,進め方等に関する演習を行った。
4 即日起案講評+検察官の心構え等
前記2の即日起案の解説・講評を通じて分野別検察実務修習における修得目標を確認するとともに,検察官の職責,心構え等を解説することにより実務修習上の留意点を確認した。
第6 刑事弁護
1 講義1
刑事訴訟に関する制度や条文等の知識を前提に,刑事弁護活動として見た場合におけるそのような制度等の具体的な現れ方について理解を深めることを目的として,DVD教材を題材にして,起訴前の弁護活動,保釈請求,公判における弁護活動及び証拠調べといった各場面における具体的な弁護活動の在り方について,修習生に討論をさせるとともに解説を行った。
2 即日起案・解説
(1) 目的
弁論要旨を起案させる事前課題がそれまでの証拠調べの結果等を振り返る形の「振り返りの弁護」であることとの対比で,検察官の応答や裁判官の判断等を見通しながら弁護活動を進めていく「見通す弁護」を体験させることを目的とした。
(2) 事案の概要
中国人留学生(被疑者)が,賃借し居住していたアパートの自室で,訪れた管理人から,未払光熱費として,実際に掛かっているよりも高額と思われる金額を請求されたため支払いを拒んだところ,管理人から,支払わないなら今すぐ出て行くよう言われた上,室内に置いてあったキャリーバッグを掴まれ,管理人と一緒にやって来ていた同人の夫から殴られるなどしたため,被疑者が110番通報したが,臨場した警察官に対して管理人らが,被疑者所有のナイフを示して被害申告するなどしたことから,被疑者が逮捕され,起訴されるに至った事案である。
(3) 起案事項等
公判前整理手続において,検察官から証明予定事実記載書及び検察官請求証拠を記載した証拠等関係カードを受け取り,検察官請求証拠の開示を受けた段階において,①類型証拠開示請求の検討,②検察官請求証拠に対する証拠意見の記載,③弁護人として予定主張記載書面において主張すると考える事項及び主張関連証拠開示請求の内容と主張との関連性,④弁護人として収集すべき証拠,及び⑤保釈請求書に記載すべき内容の記載をそれぞれ求めた。
(4) 解説
事前課題及び即日起案の講評を行うとともに,刑事弁護人の視点による弁護活動及び検察官主張の弾劾方法等の在り方について解説を行った。
3 講義2
捜査段階における弁護活動として模擬接見を実施するとともに,弁護人の役割・職務心構えや分野別実務修習に当たって注意すべき事項等を解説した。
第7 刑事共通
1 刑事基本問題研究
(1) 目的
具体的な事例を題材にした勾留・保釈に関する課題を検討・報告させるとともに,刑裁教官・検察教官・刑弁教官による解説を行うことを通じて,手続の進展も意識させながら勾留・保釈の要件の実質的理解を深めることを目的とした。
(2) 事案の概要
被疑者が,知人と訪れたスナックで,会計時に想定外に高額の請求をされたことから憤慨して店員と口論になり,店員が通報して臨場した警察官と被疑者が対時した際に,警察官の帽子が落ちたことに対し,頭突きをしたとして公務執行妨害で逮捕された事案である。
(3) 実施内容
修習生には,あらかじめ問題研究事例及び研究課題を配布し,各設間について研究することを求めた。
研究課題は,第1間において,被疑者と初回接見を行った当番弁護士として,検察官に対する勾留請求をしないよう求める意見書及び裁判官に対する勾留請求の却下を求める意見書に記載すべき事項の要点の記載を求め,第2間において,弁護士として捜査段階の弁護活動として行うべきことについて,初回接見における被疑者から更に聴取すべき事項及び説明事項や,第1問で検討した活動のほか検察官及び裁判官・裁判所に対して行うべきこと等について検討を求めた。
問題研究においては,修習生を各6名程度のグループに分けて研究課題第1間について討論をさせてその結果報告メモを提出させた上,各グループの結果を報告させて全体での討論を行うとともに,研究課題第2問についても全体討論を行い,その後,刑裁教官・検察教官・刑弁教官による講評を行った。
2 刑事共通演習基礎(公判前整理手続)
(1) 目的
充実した公判の審理を実現するためには,公判前整理手続において的確かつ迅速に争点整理を行うことが不可欠である。本演習では,請求証拠を中心として構成したコンパクトな争点整理教材を題材に,公判前整理手続の初期段階において問題となる証明予定事実,類型証拠開示,予定主張を取り上げて検討させ,これらの検討等の過程を通じて,検察官,弁護人,裁判所として,それぞれ公判前整理手続にどのように関与すべきかについて,その基本となるところを実践的に学び,分野別実務修習に備えることを目的とした。
(2) 事案の概要
被告人は,飲食店前で入店待ちをしていた際,防犯カメラを壊してしまったところを,内装工事業者である被害者に咎められ,殴打されたことに憤慨し,同店内からナイフを持ち出し,殺意をもって,同ナイフでその腹部を1回突き刺して失血死させたとして,殺人罪で起訴されている。被告人は,捜査段階から殺意を争っている。
(3) 実施内容
修習生には,演習の実施に先立ち,あらかじめ,検察官の立場から,殺意に関して主張・立証すべき間接事実は何か,当該間接事実を立証するために,記録中のどの証拠の取調べを請求すべきかについて検討させるとともに,弁護人の立場から,類型証拠としてどのような証拠の開示を請求すべきかについて検討させていた。
その上で,本演習は,各人が公判前整理手続についての基本的な知識を有していることを前提に,段階に応じて争点整理が進められていく過程を体得させるため,大まかに3つのパートに分けて実施した。具体的には,①まずは検察官の立場に立って,殺意に関する証明予定事実として挙げるべき事実及びこれを立証するために取調べを請求すべき証拠について検討させ,②続いて,弁護人の立場に立って,最重要証人である目撃者の供述調書に関する類型証拠の開示請求について検討させ, ③引き続き弁護人の立場に立って,殺意に関する予定主張として挙げるべき事実について検討させ,①ないし③のパートごとに,グループ討論及び全体討論を行うとともに,刑裁教官,検察教官及び刑弁教官による講評を行った。また,①及び③のパートにおける討論及び講評に際しては,併せて,的確かつ迅速な争点整理を行うための観点から配慮すべき事項等についての全体討論及び講評も行った。