第1 裁判所で保証すれば公正証書は不要か
事業用融資の返済について裁判上の和解をする際に,第三者を連帯保証人として加えることがある。
この場合,保証人が裁判所に出頭して意思を示せば,保証意思を確認する公正証書を省略できるとは限らない。
民法第465条の6の対象となる個人保証については,法定の例外に当たらない限り,保証契約に先立つ公正証書による意思確認が必要となる。
裁判上の和解を成立させる手続と,個人保証の効力に関する要件を分けて確認する。
本記事の資料確認日は令和8年10月24日である。
第2 対象となる保証と公正証書の時期
1 事業上の債務すべてが対象ではない
民法第465条の6第1項は,事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を対象とする。
また,主たる債務の範囲に,事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約も対象となる。
同条第3項により,法人が保証人となる契約には,この規定は適用されない。
事業用融資であるか,主たる債務に貸金等債務が含まれるか,保証人が個人かを順に確認する。
事業に関係する売買代金や賃料の保証であるというだけで,直ちに同条の公正証書が必要と決まるわけではない。
ただし,同条の対象外でも,個人根保証の極度額など,別の保証規制が適用されることはある。
2 保証契約より前1か月以内の作成が必要である
同条第1項は,契約締結に先立ち,その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で,保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ,保証契約は効力を生じないと定める。
和解で新たに保証契約を成立させるなら,その成立時点から逆算して準備する必要がある。
同条第2項は,保証人になろうとする者が,主たる債務の内容や履行意思などの法定事項を公証人へ口授し,公証人が筆記・確認する方式を定める。
法務省の「保証に関する見直し」も,保証人本人による意思確認と,保証契約締結前1か月以内という時期を説明している。
3 保証意思宣明公正証書と執行証書は異なる
保証意思宣明公正証書は,保証の意思を事前に確認するためのものである。
保証契約そのものの公正証書とは別のものであり,法務省資料は,保証意思宣明公正証書自体に執行認諾文言を付けることはできないと説明する。
したがって,保証意思宣明公正証書を作成したことと,保証人に対して直ちに強制執行できる債務名義を得たことを同一視しない。
反対に,和解調書などの債務名義を作る予定だからといって,保証契約の効力要件を省略することもできない。
第3 裁判上の和解でも必要とされた立法時の説明
1 裁判官の確認で代替できるとはされていない
平成28年12月6日の衆議院法務委員会では,裁判上の和解において新たな個人保証を加える場合にも公正証書が必要かが質問された。
小川秀樹法務省民事局長は,裁判上の和解によって保証契約を締結する場合も,原則として公正証書による意思確認を要する旨を説明している。
これは第192回国会衆議院法務委員会第13号における政府の立法時説明であり,特定事件の裁判所の判断ではない。
裁判官の面前での意思確認と,民法が要求する公証人の確認手続を区別する根拠となる。
2 既存保証の変更も内容ごとに検討する
同じ質疑では,既存の保証債務の変更も取り上げられた。
政府答弁は,遅延損害金の利率を上げるなど保証人の負担を重くする変更については,原則として改めて公正証書による意思確認を要すると説明する一方,単なる弁済期の猶予や利率の引下げのような負担を軽くする変更を区別している。
この説明からも,「新しい保証人を加えないから不要」と一括して判断することは適切でない。
従前の保証の成立時期,保証の対象,今回の変更内容を確認する必要がある。
和解金を「解決金」と名付けたことだけで規制の適用を判断せず,元の債務と和解による変更の実質を確認する。
第4 公正証書が不要となる法定の例外
1 法人の役員や支配株主等
民法第465条の9は,主たる債務者が法人の場合の理事,取締役,執行役又はこれらに準ずる者などを例外として定める。
また,総株主の議決権の過半数を有する者等についても定めがある。
単に株式を持っているというだけでは足りず,議決権の割合や支配関係を条文に照らして確認する必要がある。
役員の肩書があるかだけでなく,どの法人の役員なのかも確認する。
主たる債務者である会社の代表者の配偶者だからというだけで,当然に例外となるわけではない。
2 個人事業主の共同事業者や一定の配偶者
主たる債務者が個人である場合には,その者と共同して事業を行う者,又はその者が行う事業に現に従事している配偶者が例外となる。
家族であること,配偶者であること,又は書類上だけ事業に従事していることから,一律に例外を認める規定ではない。
法務省資料も,配偶者について,保証契約締結時に実際に事業へ従事していることが必要であり,形式的な従事や契約時だけの一時的な従事では足りないと説明する。
例外に当たる場合も,保証意思や他の効力要件の確認は必要である。
第5 和解期日までに準備する事項
①主たる債務の内容を確認する。
事業用の貸金等債務か,根保証の範囲にその債務が含まれるか,和解で何が変わるかを整理する。
②保証人と例外の根拠を確認する。
個人・法人の別,役員資格,議決権,個人事業への実際の関与を確認し,例外に当たるという説明の裏付けを用意する。
③必要な公正証書を先に準備する。
保証契約の成立予定日と公正証書の作成日を照合し,和解当日に初めて必要性へ気付くことを避ける。
④効力と執行を分けて点検する。
保証意思宣明公正証書の確認に加え,誰がどの債務を保証し,どのように和解へ参加し,保証人に対する給付義務をどう記録するかを確認する。
和解全体の確認点は,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方を参照されたい。
既に有効に成立した保証について,会社の債務免除後も存続するかという問題は,保証を新設・変更する際の方式とは別である。
この点は,会社の債務免除で個人保証も消えるかで扱っている。
第6 根拠資料
一次資料は,民法第465条の6・第465条の9,法務省「保証に関する見直し」のPDF4~7頁及び平成28年12月6日衆議院法務委員会会議録の國重徹委員と小川秀樹政府参考人の質疑である。
法務省資料の制度導入時の説明と,条文上の要件を分けて参照した。
論点の発見には,園部厚『〔三訂版〕和解手続・条項 論点整理ノート』(新日本法規,令和6年)29頁を参考にした。
本記事の裁判上の和解に関する説明は,上記の国会会議録まで遡って確認したものである。