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誹謗中傷・名誉毀損の慰謝料相場はいくらか―法務省の令和8年調査報告書(203件)にみる媒体別の金額と増減の要素(AI作成)

第1 法務省の調査報告書(令和8年4月)の概要

1 調査の目的と対象

(1) なぜ法務省が慰謝料の額を調べたのか

法務省民事局は,令和8年4月,「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」(全75頁)を公表した。
報告書は,人格権侵害の分野で認容される慰謝料の額が低廉であるとの指摘があり,近時はインターネット上の誹謗・中傷事案について特にその指摘が多いことを,調査の動機として挙げている(報告書2頁)。
調査は令和6年度から令和7年度にかけて行われ,日本弁護士連合会民事司法改革総合推進本部所属の弁護士が協力した。
報告書が冒頭の脚注で引くのは,日本弁護士連合会の「慰謝料算定の適正化を求める立法提言」(令和4年9月16日)である(報告書2頁脚注1)。

(2) 対象とした裁判例

調査の対象は,名誉権又は名誉感情の侵害を認めて損害賠償請求を認容した判決である。
特定の民間の裁判例データベースから,令和4年・令和5年に言い渡された判決(以下「令和期」という。)と,10年程度前の平成24年・平成25年に言い渡された判決(以下「平成期」という。)を抽出している(報告書2頁)。
件数は令和期161件,平成期42件の合計203件であり,そのうち主にインターネット上の権利侵害(報告書の「別表Ⅰ」)が118件,主にインターネット以外の媒体による権利侵害(同「別表Ⅱ」)が85件である(報告書6頁表1)。
電子メールは配布文書に類するものとして,インターネット以外の側に分類されている(報告書3頁)。

2 数字を読むときの留意点

報告書は,対象が特定の民間データベースの登録裁判例に限られるため,我が国の同種事案全般の傾向を直接反映するものではないと明記している(報告書2頁)。
金額は第一審判決の認容額であり,控訴審で変更されたことをデータベースから覚知できていない可能性もある(報告書5頁)。
したがって,以下の数字は慰謝料の相場を確定するものではなく,裁判例の分布を示す一つの資料として読む必要がある。

第2 慰謝料の金額の分布

1 全体の平均値・中央値

対象203件で認容された慰謝料の額は,平均値64.5万円,中央値30.0万円,最大値600万円である(報告書20頁~21頁表5)。
主にインターネット上の権利侵害118件に限ると,平均値47.0万円,中央値30.0万円,最大値349万円である。
主にインターネット以外の媒体による85件は,平均値88.8万円,中央値40.0万円,最大値600万円である(報告書21頁表5)。

2 価格帯別の分布

価格帯別の分布は,次の表のとおりである(報告書9頁表3)。

認容された慰謝料の額主にネット上(118件)主にネット以外(85件)
10万円未満7件(5.9%)8件(9.4%)
10万円以上30万円未満48件(40.7%)17件(20.0%)
30万円以上50万円未満23件(19.5%)21件(24.7%)
50万円以上100万円未満21件(17.8%)9件(10.6%)
100万円以上150万円未満14件(11.9%)9件(10.6%)
150万円以上200万円未満1件(0.8%)3件(3.5%)
200万円以上250万円未満1件(0.8%)12件(14.1%)
250万円以上3件(2.5%)6件(7.1%)

主にネット上の権利侵害では,30万円未満が46.6%と約半数を占めるのに対し,ネット以外では同じ価格帯が29.4%にとどまる(報告書9頁)。
ネット上の権利侵害で50万円未満の事案は,表の上3行を合計すると66.1%(78件)になる。
この46.6%と66.1%は,平成期の6件を含む主にネット上の権利侵害(別表Ⅰ)118件についての数字であり,令和期だけの分布ではない。

第3 媒体別にみた慰謝料の額

1 媒体ごとの平均値・中央値

(1) マスメディアとソーシャルメディアの差

単一の媒体で権利侵害があった事案について,媒体ごとの認容額は次のとおりである(報告書20頁~21頁表5。複数の媒体にまたがる事案は除かれている。)。

媒体件数平均値中央値最大値
電子掲示板28件29.4万円25.0万円100万円
ブログ・文章投稿サイト6件40.0万円35.0万円100万円
SNS全体40件50.0万円30.0万円250万円
うちX(旧Twitter)34件54.4万円32.5万円250万円
うちFacebook3件23.3万円20.0万円30万円
ウェブメディア(ネットニュース)9件46.1万円30.0万円150万円
その他のウェブサイト9件61.1万円20.0万円300万円
雑誌10件159.0万円200万円300万円
新聞6件159.2万円65.0万円600万円
配布書面(ビラ・機関紙等)9件41.4万円30.0万円150万円
電子メール4件25.0万円20.0万円50万円
口頭での発言(記者会見・街宣等)14件57.4万円30.0万円200万円

報告書は,電子掲示板,ブログ,SNS等のソーシャルメディアによる慰謝料額は,雑誌,新聞等のマスメディアによるものと比べて平均値でおおむね3分の1程度であり,ネットニュースもソーシャルメディアに近い水準であるとまとめている(報告書22頁)。
相対的に特に高額の慰謝料が認容された例は,専らマスメディアを媒体とするものであった(報告書40頁)。

(2) 報告書が挙げる投稿の信用性という視点

報告書は,ソーシャルメディアの慰謝料額が低い理由を特定することは困難であるとしつつ,投稿の信用性に言及する裁判例があることを紹介している(報告書22頁)。
例えば,投稿の直前に新規に作られた素性の分からない匿名アカウントからの投稿について,閲覧者の多くが内容を真実と容易に信じるとは認め難いとした裁判例や,根拠のない匿名の誹謗中傷が並ぶ信憑性の低い掲示板という前提で閲覧されるとした裁判例である。
ツイートは時間の経過とともに人の目につきにくくなるという性質に着目した裁判例も挙げられている(報告書22頁)。

2 平成期と令和期の比較

(1) 件数と媒体の変化

対象裁判例は,平成期の42件から令和期の161件へと約4倍に増えた(報告書6頁表1)。
平成期はマスメディアによる権利侵害が多く,インターネット上の権利侵害は全体の2割程度であったのに対し,令和期はインターネット上の権利侵害が全体の7割程度を占め,SNSやブログが件数の上位に現れた(報告書8頁)。
令和期の延べ件数では,X(旧Twitter)が53件で最も多い(報告書7頁表2)。

(2) 認容額の比較とその限界

全体の中央値は,平成期の100万円に対して令和期は30万円であり,平均値も平成期125.2万円,令和期48.6万円である(報告書21頁表5)。
もっとも,報告書自身は,両時期で媒体の構成が大きく変わっているため約10年間の慰謝料額の動向を捉えることは困難であるとし,インターネット上の媒体については平成期の件数が6件と少なく適切な比較は困難であるとも述べている(報告書22頁)。
平成期は認容額の高いマスメディアの事案が多く,令和期は認容額の低いソーシャルメディアの事案が多いため,中央値の差には媒体の構成の違いが含まれている。
他方で,報告書は,マスメディアや書面,発言による権利侵害では,平成期よりも令和期で慰謝料の平均額が減少していたとも総括しており,件数が少ないことへの留意を付している(報告書40頁)。

第4 被侵害利益と当事者の属性

1 名誉権侵害と名誉感情侵害

(1) 二つの被侵害利益の違い

報告書は,判例上,名誉に関わる人格権侵害が,社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害する名誉権の侵害と,社会通念上許される限度を超える侮辱行為である名誉感情の侵害とに大別されると整理している(報告書23頁)。
最高裁平成22年4月13日判決(平成21年(受)第609号,民集64巻3号758頁)は,侮辱的な表現を含むが具体的事実を摘示して社会的評価を低下させるものではない書き込みについて,「これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない」と判示した。
名誉感情の侵害が不法行為となるのは,このように許容限度を超える場合に限られる(報告書23頁)。
慰謝料(財産以外の損害)の根拠は,民法709条及び710条である。

(2) 認容額の差

被侵害利益別の認容額は次のとおりである(報告書24頁表6。名誉以外の権利侵害が包括して認定された事案を除く。)。

被侵害利益件数平均値中央値最大値
名誉権侵害のみ111件74.7万円30.0万円600万円
名誉権侵害と名誉感情侵害28件44.1万円26.5万円349万円
名誉感情侵害のみ16件21.6万円12.5万円70万円

名誉感情侵害のみの事案は,中央値が12.5万円にとどまる。
報告書は,名誉権侵害の主張を退けて名誉感情侵害だけを認め,名誉権侵害に至っていないことや侮辱部分が短文にとどまることを減額要素とした裁判例を紹介している(報告書24頁)。

2 被害者・加害者の属性

(1) 属性別の認容額

被害者が政治家の事案(16件)は平均値138.1万円,芸能人の事案(5件)は平均値124.0万円であり,一般市民の事案(107件)の平均値52.6万円を大きく上回る(報告書26頁)。
加害者が記者・報道機関の事案(33件)は平均値148.3万円であり,記者以外の個人が加害者の事案(146件)の平均値48.1万円の約3倍である(報告書26頁)。

(2) 媒体との重なり

もっとも,報告書は,加害者が記者・報道機関である主にネット以外の23件はいずれも新聞,雑誌,テレビ放送又は書籍の事案であり,主にネット上の事案では加害者が記者・報道機関でも他の属性と差がないことから,属性そのものよりもマスメディアという媒体の差が強く影響している可能性を指摘している(報告書28頁)。
政治家・芸能人の高額さも,マスメディアの事案が多いことと重なっており,どちらの要素が金額に影響したかを一義的に分析することは困難とされている(報告書40頁)。

第5 慰謝料を上下させる考慮要素

1 判決書に頻出する増額要素と減額要素

(1) 要素の一覧

報告書は,判決書に慰謝料額の考慮要素として一義的に記載されたものを集計している(報告書10頁表4)。

区分考慮要素該当件数
増額要素不特定多数の者が認識した(認識し得た)67件
増額要素表現内容の権利侵害性が強度・悪質62件
増額要素社会的評価の低下(の可能性)が大きい42件
増額要素精神的苦痛が大きい(小さくない)24件
増額要素生活や仕事への具体的な支障が発生した21件
増額要素侵害行為の回数が多い20件
減額要素内容に具体性がない18件
減額要素謝罪・事後的対応がある16件
減額要素不特定多数の者が認識していない(認識したか不明)14件
減額要素社会的評価の低下が大きくない14件
減額要素表現内容の権利侵害性が強度・悪質でない11件

(2) 三つの系統

報告書は,これらの要素を,①表現行為の態様(権利侵害の強度・悪質性,内容の具体性,回数),②表現行為による結果(社会的評価の低下,拡散,精神的苦痛,生活や仕事への支障),③事後的な事情(謝罪・事後的対応)の三つに整理している(報告書11頁)。
減額要素は判決書に明示されないことが少なくないため,低額事例の共通の特徴を判決書の記載だけから捉えることは難しいとされている(報告書18頁,40頁)。

2 金額との結び付きが比較的はっきりした要素

(1) 犯罪事実の摘示

ソーシャルメディアによる名誉権侵害で100万円以上が認容された14件では,犯罪又はその疑惑を摘示した投稿が6割超を占めるのに対し,10万円以下の10件では同様の摘示は3件にとどまる(報告書29頁)。
マスメディアによる名誉権侵害で250万円以上が認容された6件は,すべて犯罪又はその疑惑を摘示したものであった(報告書30頁)。

(2) 投稿の回数

主にネット上の権利侵害では,侵害行為の回数が多いほど認容額が高い傾向がみられる(報告書30頁表8)。
報告書は,投稿1件当たりの目安額を示して回数を乗じた裁判例があることも紹介している(報告書31頁)。

侵害行為の回数(主にネット上)件数平均値中央値
1回46件30.7万円20.0万円
2回~9回31件52.5万円30.0万円
10回~49回9件78.3万円70.0万円
50回以上2件199.5万円199.5万円

(3) フォロワー数による拡散の程度

報告書は,X(旧Twitter)などのSNSではフォロワー数,リポスト数,表示回数等が拡散の程度の客観的な指標となり得るとし,フォロワー数に言及した裁判例14件の認容額を一覧にしている(報告書31頁~32頁)。
SNSによる権利侵害では,加害者のフォロワー数やリポスト数を拡散の程度の指標として判示する裁判例が一定数あり,数万単位のフォロワー数があると拡散の度合いが大きいとして増額方向に考慮する裁判例が多くみられた(報告書40頁)。

3 謝罪・削除と名誉回復処分

精神的苦痛の程度,生活や仕事への支障,謝罪・事後的対応の有無は客観的な評価が難しいものの,謝罪や削除等の措置を講じなかったことを増額要素とし,その反対の事情を減額要素とした事例がみられる(報告書41頁)。
民法723条は,名誉毀損について,裁判所が被害者の請求により,損害賠償に代えて又は損害賠償とともに,名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができると定めている。
削除や謝罪の有無は,慰謝料の額だけでなく,名誉回復の手段の選択とも関係する。

第6 発信者情報開示費用と制度の見直し

1 発信者情報開示の費用

匿名の投稿者を特定するための発信者情報開示手続の費用について,報告書は,実額を一部だけ認容した事案が全部認容した事案を上回り,慰謝料の認容額が低い事案ほど全部認容の割合が低いと総括している(報告書41頁)。
慰謝料の認容額が30万円未満の事案では全部認容率が2/17(11.8%)にとどまり,50万円以上では6/8(75.0%)であった(報告書39頁)。
開示費用の認容状況の詳細は,発信者情報開示にかかった費用は相手に請求できるか―全額・一部認容の裁判例と立証資料で扱っている。

2 法務省の「不法行為法制の在り方に関する研究会」

(1) 研究会の設置

法務省は,「不法行為法制の在り方に関する研究会」を設け,令和8年9月30日に第1回会合を開いた。
法務省の研究会のページは,開催の趣旨として,インターネット上の名誉毀損(誹謗中傷)等の人格権侵害の深刻化を背景に損害賠償額に関する規律の見直しの必要性が指摘されていることを挙げている。
研究会の設置は,テレ東BIZが次の報道映像で伝えている(令和8年9月29日公開)。

(2) 外国法の調査研究

法務省は,利益吐き出し型損害賠償制度に関する外国法の調査研究報告書(令和6年度実施)と,インターネット上の権利侵害における外国の司法判断の実情に関する調査研究報告書(令和7年度実施)も,同じページで公表している。
加害者が得た利益の請求という論点は,加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で扱っている。

3 関連記事

名誉毀損が違法となる要件は名誉毀損・プライバシー侵害が民事上違法となる要件-判断順序と主要判例,SNS上の被害への対応の流れはSNSやネットで名誉毀損やプライバシー侵害があったときの法的対応,被害者側の事情による減額は名誉毀損に過失相殺はあるのか-交通事故との違いと慰謝料算定で扱っている。

第7 出典

①法令
民法709条,710条,723条(e-Gov法令検索)

②裁判例
最高裁平成22年4月13日判決(平成21年(受)第609号,民集64巻3号758頁)裁判所HP

③所管行政機関の調査報告書・公表資料
法務省民事局「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」(令和8年4月)PDF(本文で示した頁は報告書に印刷された頁であり,PDFの頁番号は印刷頁に1を足したものである。)
法務省「不法行為に基づく損害賠償請求に関する国内外の制度等に関する調査・研究について」法務省HP
法務省「不法行為法制の在り方に関する研究会」法務省HP

④報道映像
テレ東BIZ「SNS誹謗中傷 慰謝料引き上げへ法務省が「不法行為」規定見直す研究会設置 民法初の大幅見直し」(YouTube,令和8年9月29日公開)YouTube