第1 最高裁広報課の報道把握を予算資料から読む
1 通信社配信,新聞記事,有料DBという三つの手段
最高裁判所の広報課は,裁判所に関する報道をどのように把握し,報道機関からの照会に対応するための情報を集めているのか。
令和9年度概算要求書の説明資料には,通信社からのニュース配信,新聞クリッピングに伴う著作権料,有料データベースの利用について,それぞれ目的と積算が記載されている。
裁判所が国民に向けて情報を発信する側面に加え,報道や照会に対応するために情報を取り入れる側面を知ることができる資料である。
本記事は,令和9年度の説明資料の広報課部分を基に,関連項目を整理する。
以下の「印刷頁」は資料本文の頁番号であり,PDFビューアーの頁番号より2頁少ない。
例えば,印刷61頁はPDF63頁,印刷67頁はPDF69頁に当たる。
2 記載されている金額は概算要求の積算である
本記事の金額は令和9年度の概算要求段階のものである。
予算の成立額,実際の契約額,支払額,又は個々のサービスの利用実績を示すものではない。
また,比較対象とする「前年度予算額」も決算額ではない。
歳出要求の費目は裁判所公式サイトの令和9年度歳出概算要求書でも確認できるが,具体的な利用目的や積算の説明には,本記事で参照する説明資料の記載が役立つ。
第2 時事通信・共同通信のニュース配信
1 裁判所に関する報道を迅速に把握するための費用
説明資料の印刷61・62頁には,裁判所に関する報道等を迅速に把握するため,通信社からニュースの配信を受ける費用が記載されている。
積算上の内訳は,時事通信社と共同通信社の2社である。
| 配信元 | 月額単価 | 月数 | 所要額 |
|---|---|---|---|
| 時事通信社 | 737,000円 | 12月 | 8,844千円 |
| 共同通信社 | 1,149,500円 | 12月 | 13,794千円 |
| 合計 | ― | ― | 22,638千円 |
年間の要求額の合計は2263万8000円である。
月額単価に12月を掛けた額は,それぞれ884万4000円及び1379万4000円となる。
この2項目は,説明資料に記載された前年度予算額と同額である。
2 費用の記載から分かることの範囲
この積算は,最高裁広報課が通信社の配信を利用して裁判所関係の報道を把握する仕組みを説明するものである。
個々の記事をどの職員が閲覧したか,どの記事を上司に報告したか,特定の記事にどのように対応したかまでは記載されていない。
配信に要する費用から,特定の記者や報道内容に対する働きかけの有無を判断することはできない。
第3 新聞クリッピングと著作権料
1 最高裁判所分と下級裁判所分を分けた積算
印刷61・62頁には,新聞クリッピングに伴う著作権料の積算も掲載されている。
通信社のニュース配信とは別の項目であり,最高裁判所分と下級裁判所分が区別されている。
| 区分 | 令和9年度所要額 | 前年度予算額 |
|---|---|---|
| 最高裁判所分 | 449千円 | 308千円 |
| 下級裁判所分 | 5,361千円 | 5,505千円 |
| 合計 | 5,810千円 | 5,813千円 |
最高裁判所分は14万1000円増え,下級裁判所分は14万4000円減る積算である。
両者を合計すると,前年度予算額に比べて3000円少ない。
最高裁判所分だけを取り出して,裁判所全体の新聞クリッピング費用が増えたと説明するのは適切でない。
2 著作権料の計上と個別の利用行為の評価
説明資料から直接確認できるのは,新聞クリッピングに伴う著作権料を要求していることである。
個別の新聞記事の利用許諾条件,複製方法,配布範囲,契約相手,処理した記事数まで,この表だけで確定することはできない。
したがって,ここに予算項目があることをもって,あらゆる記事利用について許諾があると説明したり,特定の利用行為の適法性を断定したりすることはできない。
第4 報道機関からの照会と有料データベース
1 照会事項の背景を把握するための情報源
印刷66頁の説明では,報道機関からの照会に対応するに当たり,照会事項の背景に関係する個人や団体の情報を把握する必要がある場合があることが,有料データベースを利用する理由として挙げられている。
裁判所に関する情報の発信だけでなく,照会の背景を把握した上で対応するための情報源として位置付けられている点が特徴的である。
この説明は,照会対応で背景情報が必要となる場合についてのものである。
すべての照会者や取材者について,一律に身元調査を行っていると記載したものではない。
2 月額単価と所要額の違い
| 積算項目 | 令和9年度 | 前年度 |
|---|---|---|
| 月額単価 | 2,916円 | 3,700円 |
| 月数 | 12月 | 12月 |
| 所要額・前年度予算額 | 35千円 | 44千円 |
印刷67頁の積算は,月額単価2916円,12月,所要額35千円である。
単価に月数を掛けた金額は3万4992円であり,千円単位の所要額欄では35千円と記載されている。
「月額3万5000円」と読むと,年額と月額を取り違えることになる。
前年度予算額は44千円であり,令和9年度の所要額は9千円少ない。
ただし,この差だけで,検索件数,対象者数,又は照会対応件数が減ると判断することはできない。
説明資料の該当箇所には,データベースの商品名や提供事業者,検索履歴,調査対象者の一覧は示されていない。
第5 資料の読み方と,さらに具体的に確認できる文書
1 資料の記載と,そこからの推測を分ける
説明資料が示すのは,それぞれの事務に必要な費用の説明と積算である。
通信社配信の要求額があること,新聞クリッピングに伴う著作権料を計上していること,照会対応のために有料DBを利用する説明があることは,資料に直接記載されている。
一方,特定の報道への介入,特定の人物に対する調査,個々の著作物の利用条件は,これらの記載から直ちに導ける事実ではない。
より具体的な契約や運用を調べる場合は,対象年度と費目を特定した上で,契約書,仕様書,利用条件,支出関係の文書などを区別して確認する必要がある。
概算要求資料だけで,存在する文書の種類や保有状況,開示の可否まで確定することはできない。
2 前年度との比較と関連資料
令和8年度の説明資料にも同種の項目がある。
令和9年度資料を見つけたことと,その年度に制度や事業が新設されたことは別である。
本記事の前年度比較は,令和9年度資料の前年度予算額欄を基本とし,前年度の説明資料も参照したものである。
広報課の事務分掌については,最高裁判所事務総局広報課の事務分掌を参照されたい。
広報実務の考え方については,最高裁判所の広報ハンドブックとは―総論・一般広報の内容と令和2年3月版の改訂点(AI作成)で,令和2年3月版の内容を整理している。
説明資料そのものの入手先や構成は,最高裁判所の概算要求書(説明資料)-入手先,構成,読み方及びバックナンバー(AIリライト)を参照されたい。