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本人希望の転勤・勤務地変更と手当―会社命令型との区別,社宅・赴任旅費及び就業規則の改定(AI作成)

第1 本人希望の転勤を処理する判断順序

本人が勤務地の変更を希望した場合でも,申出だけで転勤が成立するわけではない。

労働契約,就業規則及び労働協約を確認した上で,会社が人員配置上の必要性,受入部署,職務内容及び労働条件を検討し,異動を決定する必要がある。

その際は,次の順序で整理すると,異動の可否と手当の有無を混同しにくい。

①現在の就業規則・赴任旅費規程・社宅規程が,本人希望の転勤を適用対象から外しているかを確認する。

②異動の主たる目的が会社の業務上の必要にあるのか,本人の生活上又はキャリア上の希望にあるのか,双方にあるのかを記録する。

③現行規程を適用する事案か,将来に向けて別制度を設けるべき事案かを分ける。

④異動の決定と,赴任旅費,社宅,支度金,単身赴任手当等の給付決定を別々に行う。

⑤労働条件の変更,税務,社会保険,給与控除及び差別的取扱いの問題を個別に確認する。

本記事は,本人の申出を契機として同一使用者内で勤務地を変更する場面を対象とする。

使用者が一方的に命じる転勤の有効性は,配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)で扱っている。

第2 会社命令型と本人希望型を区別する

1 異動の名称ではなく実質で分類する

「転勤希望制度」「自己都合転勤」「社内公募」等の名称だけで法的性質は決まらない。

申出の端緒,会社側の配置上の必要性,候補者の選定,異動を断った場合の取扱い及び費用負担を総合して分類する。

類型主な特徴記録すべき事項
会社命令型会社の業務上の必要に基づき,対象者と勤務地を会社が選ぶ必要性,人選理由,発令日,赴任日,負担軽減措置
本人希望型本人が生活上又はキャリア上の理由で申し出て,会社が受入れの可否を判断する申出理由,受入条件,撤回期限,労働条件への同意
社内公募型募集条件を示して応募を受け,選考後に会社が異動を決定する募集要項,選考基準,合否,異動条件
混合型本人の希望と会社の業務上の必要が併存する各目的の比重,会社が求めた条件,費用ごとの負担理由

会社が本人の希望を受け入れた後に正式な異動命令を出したというだけで,全ての費用が当然に会社命令型になるわけではない。

反対に,会社が欠員補充や育成のために積極的に異動を求めながら,申請書に本人が署名したことだけを理由に本人希望型とすることも適切ではない。

2 本人に希望勤務地への異動請求権が当然に生じるわけではない

一般に,労働契約又は社内制度に特別の定めがなければ,労働者が希望した勤務地へ異動させることを会社に当然に請求できるわけではない。

会社は,欠員,受入部署の業務,必要な技能,賃金・等級,通勤可能性及び他の従業員との公平を検討して,申出を承認しないことができる。

ただし,配偶者の転勤,子の養育,家族の介護,治療その他の事情を申告した労働者については,適用される法令,休業・短時間勤務等の制度及び社内規程を確認し,申出を検討した経過を残すことが望ましい。

第3 現行規程に区別がなければ個別除外は慎重に行う

1 就業規則の文言・目的・運用を確認する

赴任旅費規程や社宅規程が「会社の命による転勤」だけを対象と明記している場合は,その要件への該当性を検討する。

これに対し,規程が単に「転勤した社員」「転居を伴う人事異動」等を対象とし,本人希望型を除く文言を置いていない場合は,本人の希望が契機であったことだけを理由に全ての手当を外すことは慎重に考える必要がある。

規程の対象は,条文だけでなく,制定目的,関係条項,従来の説明及び運用を踏まえて解釈される。

会社が想定していなかった類型であっても,現行文言がその類型を含むなら,今回だけ適用外とするのではなく,現行規程を適用した上で将来の制度を改めることを検討する。

2 就業規則より不利な個別合意には労働契約法12条がある

労働契約法12条は,就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約の部分を無効とし,その部分は就業規則で定める基準によるとしている。

したがって,就業規則上は対象となる手当について,「本人が希望した異動だから受け取らない」という同意書だけで当然に不支給へ変更できるとは限らない。

本人の真意を確認した署名があっても,就業規則の基準を下回る合意が有効になるかは別問題である。

現行規程の適用対象,給付の性質及び労働契約法12条との関係を先に確認する必要がある。

第4 将来に向けた本人希望型制度は別建てできる

1 申請制度と会社命令制度を別章又は別規程にする

本人希望型の勤務地変更制度を将来に向けて設けること自体は可能である。

会社命令型と本人希望型では,異動の目的,会社の必要性,拒否した場合の効果及び費用負担の根拠が異なるため,定義と手続を分けることが重要である。

本人希望型制度では,少なくとも次の事項を定める。

①対象者と申請できる理由。

②申請しても承認されるとは限らず,最終決定権が会社にあること。

③受入部署,職務,勤務地,等級,賃金その他の労働条件を事前に提示すること。

④本人が申請を撤回できる時期と,会社が承認を取り消せる場合。

⑤赴任旅費,社宅,支度金,単身赴任手当及び帰省費用のうち,適用するものと適用しないもの。

⑥会社の業務上の必要が併存する場合の再分類又は追加補助。

⑦申請,審査,承認,労働条件の合意及び発令を別の書面で記録すること。

2 就業規則の変更手続と既存社員への適用を分ける

新制度を将来の申請に適用することと,既に発生している給付を減らすことは同じではない。

既存の給付基準を不利益に変更する場合は,労働契約法9条・10条に照らし,変更の必要性,変更後の内容の相当性,労働組合等との交渉状況その他の事情を検討する。

最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決(第四銀行事件)は,就業規則による不利益変更の合理性を判断する事情を示した判例であり,新制度の対象,必要性,代償措置及び経過措置を検討する際の基本資料となる。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では,就業規則の作成・変更届,過半数労働組合又は過半数代表者の意見聴取及び労働者への周知も確認する。

第5 管理職だけを会社命令型の対象とする場合

1 「管理職」を客観的に定義する

転居を伴う会社命令型の異動を管理職に限定する制度を設ける場合は,役職名,職責,等級又は任用手続により対象を客観的に定義する。

会社内部の「管理職」という区分と,労働基準法41条2号の管理監督者は同じではない。

転勤規程の対象者を管理職としたことから,その者が当然に労働時間規制の適用除外となるわけではない。

2 管理職限定だけで全ての差が正当化されるわけではない

管理職に全国的な人員配置,複数拠点の管理又は経営人材育成を予定する合理的な必要がある場合は,会社命令型の対象を区分する理由になり得る。

しかし,役職名だけで赴任旅費,社宅又は移転実費の差を設けると,給付の目的との対応が弱いことがある。

実際に必要となる引越費用や赴任旅費については,距離,家族帯同,荷物量,地域の住宅事情等を基準にした方が説明しやすい。

役職に応じた責任や生活水準への配慮を定額の支度金等へ反映する場合も,実費補償と役職給的な給付を分けることが望ましい。

3 差別的取扱いとキャリア機会を点検する

勤務地変更,配置及び昇進の運用では,性別を理由とする差別を禁止する男女雇用機会均等法6条を確認する。

募集・採用,配置,昇進等で転居を伴う転勤への対応を要件とする場合は,男女雇用機会均等法7条及び同法施行規則2条が定める間接差別の類型にも注意する。

国籍を理由とする賃金・労働時間その他の労働条件の差別は労働基準法3条,労働組合への加入又は正当な組合活動を理由とする不利益取扱いは労働組合法7条の問題となる。

制度の文言が中立でも,特定の属性の従業員だけを一貫して承認又は不承認にしていないか,異動機会が昇進・育成と結び付いているかを運用記録で点検する。

第6 手当・旅費・社宅に差を設ける基準

1 給付の目的を分解する

給付に差を設けるときは,まず各給付の目的を分ける。

給付主な目的差を説明しやすい基準
引越費用・赴任旅費異動により通常必要となる実費の補填距離,交通手段,家族帯同,荷物量,実費上限
支度金転居に伴う定型的な初期費用の補助単身・家族帯同,転居の有無,会社要請の程度
借上社宅勤務地での住居確保地域相場,家族人数,家賃上限,本人負担率
単身赴任手当会社都合の別居による継続負担の補助別居原因,家族の居住状況,開始・終了条件
帰省費用別居に伴う移動負担の補助対象行程,回数,上限,会社命令型かどうか

本人希望型では,会社命令に応じるための負担軽減という目的が弱いため,支度金,単身赴任手当又は定期的な帰省費用を会社命令型より限定する制度は考えられる。

一方,会社が必要とする業務への配置でもあり,本人の希望もあったという混合型では,全てをゼロにするのではなく,実費は会社負担,生活補助は一部適用等,費用ごとに判断する方が制度目的と対応しやすい。

2 労働法上の支給義務と税務上の取扱いを分ける

規程上支給義務があるかという問題と,所得税上非課税となるかという問題は別である。

会社が「赴任旅費」と呼んで支給しても,通常必要な範囲を超える部分まで当然に非課税になるわけではない。

借上社宅も,会社の家賃負担率だけで課税関係が決まるのではなく,国税庁が示す賃貸料相当額と本人から徴収する額を確認する。

給付別の設計と税務上の留意点は,転勤に伴う処遇をどう設計するか―支度金,社宅,単身赴任と帰省費用(AI作成)で詳しく説明している。

第7 会社都合と本人都合が混在する場合

実務では,一つの異動を完全な会社都合又は完全な本人都合に分けられないことがある。

本人が希望を申し出た後に会社が欠員補充の最適者として積極的に選定した場合,会社が異動時期を早めた場合,異動先の職務を会社の都合で変更した場合等である。

この場合は,申請書の表題だけで結論を決めず,次の事情を記録する。

①本人の当初の希望内容と理由。

②会社に異動させる業務上の必要があったか。

③会社が本人へ異動を勧め,又は異動しない場合の不利益を示したか。

④勤務地,赴任時期,職務及び労働条件をどちらが主導して決めたか。

⑤異動を断った場合に従前の職務・勤務地を維持できたか。

⑥費用ごとに,誰の必要から発生した負担か。

混合型を処理する条項として,「本人の申出を契機とする場合でも,会社の業務上の必要性その他の事情を踏まえ,会社命令型の給付の全部又は一部を適用することがある」と定め,決裁理由を残す方法が考えられる。

第8 規程と書式の条項例

次の例は一般的な検討用であり,会社の現行規程,労働協約,給与制度及び実際の運用に合わせて調整する必要がある。

1 定義条項

> 「会社命令型転勤」とは,会社の業務上の必要に基づき,会社が従業員に命ずる転居を伴う勤務地の変更をいう。
>
> 「本人希望型勤務地変更」とは,従業員の申出を契機として,会社が受入部署,職務,勤務地その他の条件を審査し,承認する勤務地の変更をいう。

2 申請と決定

> 従業員は,所定の申請書に希望勤務地,申請理由,希望時期その他会社が求める事項を記載して申請することができる。
>
> 会社は,人員配置,受入部署の業務,従業員の能力,労働条件その他の事情を考慮して承認の可否を決定するものとし,申請により承認又は希望時期の異動が保障されるものではない。

3 労働条件の確認

> 会社は,承認前に,異動後の職務,勤務地,赴任日,賃金,等級,勤務時間その他変更となる労働条件を従業員に提示する。
>
> 労働条件の変更について合意を要する事項は,異動発令とは別に書面で確認する。

4 費用と手当

> 本人希望型勤務地変更には,会社命令型転勤に関する赴任旅費,支度金,借上社宅,単身赴任手当及び帰省費用の規定を適用しない。ただし,会社が業務上の必要性,異動条件及び発生費用を考慮して,その全部又は一部を適用する旨を書面で決定した場合はこの限りでない。

この除外条項は,将来の申請制度として整備する例である。

現行規程上すでに給付対象となる異動へ遡って適用できることを意味しない。

また,裁量条項を置く場合は,決裁者,考慮要素及び記録様式を定め,同様の事案で理由なく異なる扱いにならないようにする。

第9 運用に必要な書類

本人希望型制度では,少なくとも次の書類を分けて作ることが有用である。

①本人の希望勤務地,理由,希望時期及び撤回可能時期を記載する申請書。

②受入部署の必要性,職務,定員,予算及び選考理由を記載する審査票。

③異動後の職務,勤務地,賃金,等級及び勤務時間を示す労働条件確認書。

④適用する旅費・手当・社宅,対象期間,本人負担及び税区分を示す給付決定書。

⑤会社命令型,本人希望型又は混合型のいずれと判断したか,その理由を記載する決裁書。

申請書だけを保存し,会社の判断過程や労働条件の確認を残さないと,後から「本人が全ての不利益に同意した」と過大に解釈されるおそれがある。

第10 制度改定の確認事項

制度を改定するときは,次の事項を確認する。

①就業規則,赴任旅費規程,借上社宅規程,賃金規程及び給与控除の根拠に矛盾がないか。

②現行規程の対象者に発生済みの権利を,新制度で遡って減らしていないか。

③会社命令型,本人希望型及び混合型の定義が重ならず,空白も生じていないか。

④管理職の定義が客観的で,労働基準法上の管理監督者と混同されていないか。

⑤実費補償,生活補助及び役職に応じた給付を分けているか。

⑥性別,国籍,組合活動,育児・介護等を理由とする不適切な取扱いになっていないか。

⑦募集時の労働条件明示,雇用契約書及び異動制度の説明が一致しているか。

⑧就業規則の変更手続,周知,施行日及び経過措置を定めたか。

⑨人事の給付決定と経理・給与の税務処理を,同じ異動番号と規程版で照合できるか。

第11 出典・参考資料

1 法令

①e-Gov法令検索「労働契約法」7条,9条,10条及び12条

https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128

②e-Gov法令検索「労働基準法」3条,24条,41条,89条,90条及び106条

https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

③e-Gov法令検索「労働組合法」7条

https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000174

④e-Gov法令検索「男女雇用機会均等法」6条及び7条

https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113

⑤e-Gov法令検索「男女雇用機会均等法施行規則」2条

https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000002

⑥e-Gov法令検索「育児・介護休業法」26条

https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000076

2 裁判例

最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決(第四銀行事件,民集51巻2号705頁)

https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52502.pdf

3 行政資料

①厚生労働省・広島労働局「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」

https://jsite.mhlw.go.jp/hiroshima-roudoukyoku/library/20170510_tenkin_koyoukanri.pdf

同資料は転勤に関する雇用管理上の配慮や運用例を示す公的な実務資料であり,それ自体が個別企業の法的義務を定めるものではない。

②国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm

③国税庁「所得税基本通達9-3・9-4」

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm