第1 沖縄復帰時の法曹資格を調べる際の区別
昭和47年5月15日の沖縄復帰に際しては,沖縄の法令による法曹資格を,本土の制度へ移行させるための特別な措置が設けられた。
その内容を理解するには,本土の司法修習を終えたものとみなされること,日弁連の弁護士名簿に登録されること及び沖縄弁護士名簿に登載されることを区別する必要がある。
資格付与の中心となったのは,沖縄の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資格等の付与に関する特別措置法(昭和45年法律第33号)・制定時本文(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/06319700428033.htm)である。
同法による選考等と,復帰後も限定された地域で業務を続ける沖縄弁護士制度は,法律上の仕組みが異なる。
本記事は,復帰時の制度とその後の改正を扱うものであり,現在の新たな資格取得希望者に開かれた一般的な申請経路を説明するものではない。
現行の通常の資格取得と登録については,「弁護士となる資格」及び「弁護士登録の請求」の各記事を参照されたい。
第2 選考,試験及び講習の関係
1 直接選考を受ける者と試験を経る者
昭和45年法律第33号2条1項は,沖縄の法令による弁護士となる資格を有する者のうち,所定の法曹職歴が通算3年以上となる者と,沖縄の司法試験に合格して所定の日までに本邦で司法修習生と同一の修習課程を終えた者について,選考を受ける経路を設けた。
対象者,職歴の算入及び基準日は,条文とその委任法令に即して確認する必要がある。
同条2項は,直接選考を受ける要件に当たらない弁護士資格者等について,裁判,検察及び弁護士事務の実務に関する基礎的素養を判定する試験を設けた。
同条3項により,この試験の合格者は選考を受けることができる。
したがって,試験の合格だけで直ちに本土の法曹資格を取得する仕組みではなかった。
2 選考合格による司法修習修了みなし
同法2条4項は,選考に合格した時に,裁判所法67条1項による司法修習生の修習を終えたものとみなすと定めた。
この法的効果と,通常の司法試験への合格,現実に受けた修習の経歴又は裁判官・検察官への任命とは,それぞれ別の問題である。
法曹の経歴を調べる場合も,選考合格による資格付与から,通常の司法試験の合格年や司法修習の期を逆算することはできない。
合格証書,選考の記録,実際の修習記録及び登録資料を,それぞれの事実を証明する資料として扱う必要がある。
3 講習の位置付けと実施期間
同法3条は,選考を受けようとする者のために,本邦の法令と裁判・検察・弁護士事務の実務に関する講習を行うと定めた。
当時の実施報告によれば,講習の受講は選考を受けるための前提条件ではなく,本人の自由意思によるものであった。
同法4条1項は,選考,試験及び講習を,沖縄が復帰するまでの間に限って行うと定めている。
現行法に当時の条文が残っていることから,現在もこの選考や試験を受けられると解釈してはならない。
第3 実施報告から分かること
1 試験と選考の合格者数
石川弘「沖縄の法曹資格者等に対する選考,試験および講習の実施概況」(法曹時報23巻5号)によれば,昭和45年9月12日・13日に那覇で行われた試験は,願書提出者108人,両日受験者92人,合格者18人であった(提供PDF実頁4頁~5頁)。
同報告の選考は,昭和46年2月20日~23日の面接を経て,受験者192人のうち183人が合格したとされる(提供PDF実頁8頁~9頁)。
両者は試験の段階と対象者の構成が異なる。
92人中18人という数字と192人中183人という数字を,同じ母集団に対する同種の試験の合格率として比較することは適切でない。
2 講習の内容と数字の読み方
同報告によれば,講習は昭和45年11月2日から翌年2月6日までのうち12週間にわたり行われ,受講者の班編成に応じて科目が実施された。
各人が12週間を通じて毎日受講したという意味ではない。
実務の手引きや便覧としても利用できるよう教材が作成され,受講者1人分の配布教材は約2500頁と説明されている(提供PDF実頁5頁~6頁)。
出願者数,受講者数,出席状況及び選考受験者数は,集計の対象と時点を確かめて読む必要がある。
講習の出席状況表と本文の人数には整合しない記載があるため,単一の受講実人数を確定値として用いることは避けるべきである。
3 実施報告と法令の役割
実施日程,人数,教材及び試問方針は,当時の実施報告によって具体的に分かる事項である。
これに対し,誰が選考を受けられるか,合格にどのような法的効果があるかという問題は,法律とその委任法令によって確認する必要がある。
昭和47年の石川弘「司法法制関係沖縄復帰施策の概要と解説」は,制度設計の考え方を知る資料であるが,著者は意見にわたる部分が個人の見解である旨を明示している(提供PDF実頁3頁)。
法務省に在職する著者の解説であることだけで,すべてを法務省の公式見解又は法令自体の内容として扱うべきではない。
第4 復帰時の弁護士登録と経過措置
1 本土の弁護士名簿への登録
本土の弁護士となる資格を取得したことと,日弁連の弁護士名簿への登録とは別である。
沖縄の復帰に伴う法務省関係法令の適用の特別措置等に関する政令(昭和47年政令第95号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000095)4条1項は,復帰時に沖縄法上の弁護士であり,本土の弁護士となる資格を有する者について,登録前でも施行日から起算して20日間に限り弁護士法3条の事務を行えると定めた。
この20日間の措置は,登録前の業務を例外的に認める経過措置であり,旧制度の資格がそのまま日弁連の登録へ自動的に置き換わることを意味しない。
現在の通常の登録請求に,この歴史上の猶予期間を適用することもできない。
2 弁護士会の承継と秘密保持
同政令6条は,復帰時に存在した沖縄弁護士会を,弁護士法による弁護士会とする措置を定めた。
団体の法人としての承継と,個々の弁護士の資格・登録手続の扱いは,条文を分けて検討すべき問題である。
同政令5条1項は,沖縄法上の弁護士であった者について,施行前に職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定めている。
資格や所属制度が移行しても,過去の受任事件の秘密が自由に扱えるようになるものではない。
証言拒絶,押収拒絶,利益相反及び刑事罰の問題は,この一般的な秘密保持の規定だけで一括して結論を出さず,それぞれの法令を確認する必要がある。
第5 沖縄弁護士制度とその後の改正
1 一般の弁護士登録と沖縄弁護士の登載
昭和45年法律第33号7条は,復帰前日に沖縄法上の弁護士であり,本土の弁護士となる資格を有しない者について,沖縄で一定の法律事務を続けられる暫定措置を設けた。
その具体化が,沖縄弁護士に関する政令(昭和47年政令第169号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000169)である。
同政令1条・2条による制度では,日弁連に備えた沖縄弁護士名簿への登載を受け,沖縄弁護士の名称を用いて業務を行う。
通常の弁護士名簿への登録と,沖縄弁護士名簿への登載を,同じ名簿への同じ手続として扱うことはできない。
2 業務を行う地域
沖縄弁護士が業務を行う地域は,原則として沖縄県の区域内である。
同政令8条は,沖縄県内の裁判所に係属する事件の処理に必要な事務を県外で行う場合について,裁判所の許可による例外を定めている。
単に関係者や財産が県外にあるという事情だけで,一般の弁護士と同じ範囲の県外業務が当然にできるとする制度ではない。
3 5年,10年,当分の間という改正経過
制定時の同法7条は,業務を認める期間を復帰の日から起算して5年間に限っていた。
その後,昭和52年法律第32号(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/08019770504032.htm)により10年間へ延長された。
さらに,昭和57年法律第44号(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/09619820511044.htm)は,復帰の月以後引き続いて業務を行う限り,当分の間,業務を行える仕組みへ改めた。
したがって,昭和47年の解説にある5年間という説明を,その後の改正を確認せず現在の期間制限として引用することはできない。
現行の特別措置法(https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000033)を読む場合も,復帰時の対象者であることと,継続して業務を行うという条件を確認する必要がある。
この制度が現在の一般的な新規資格取得経路になったという意味ではない。
第6 外国人弁護士の特例
沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和46年法律第129号)・制定時本文(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/06819711231129.htm)65条は,沖縄の旧法による外国人弁護士のうち,昭和46年1月1日以降引き続き沖縄で業務に従事している者について,最高裁判所の承認を受け,外国法に関する事務を行えると定めた。
一般の沖縄弁護士の制度とも,本土の弁護士となる資格を付与する選考制度とも異なる措置である。
同条8項は,復帰後,最高裁判所の承認を受ける前でも,施行日から起算して2月間に限って業務を行えると定めた。
期間計算では,解説上の概数より条文の「二月」という単位を基準とすべきであり,当然に60日間へ置き換えることはできない。
同条には事務所の所在地を沖縄県内とする制限等もある。
この復帰時の特例を,現在の外国法事務弁護士の一般的な資格・登録制度と混同しないことが必要である。
第7 資格・登録に関する資料の確認順序
過去の法曹資格や業務権限が問題となる場合は,まず対象者がどの制度に属するかを確認し,次に資格の発生原因,名簿への登録又は登載,業務を認める地域と期間を分けて検討する。
所属団体の承継だけから個別申請の承継を推定したり,現在の資格表示だけから過去の試験・修習の経歴を推定したりすることは避けるべきである。
また,制定当時の条文はその時点の制度を,現行条文は改正後の制度を示す。
制度史を記述する際には制定法と改正法を対照し,当時の実施報告や解説は,日程・人数・運用説明又は著者の評価を裏付ける資料として位置付けると,根拠の範囲が明確になる。
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弁護士となる資格-司法修習・資格認定・欠格事由・弁護士登録(AIリライト)
弁護士登録の請求――手続,必要書類,費用及び登録拒絶(AIリライト)
第9 出典・参考資料
石川弘「沖縄の法曹資格者等に対する選考,試験および講習の実施概況」法曹時報23巻5号(昭和46年5月)1094頁~1110頁。
試験は提供PDF実頁4頁~5頁,講習は実頁5頁~7頁,選考は実頁7頁~9頁を参照した。
石川弘「司法法制関係沖縄復帰施策の概要と解説」法曹時報24巻6号(昭和47年6月)1011頁~1061頁。
法曹資格は提供PDF実頁3頁~4頁,登録は実頁11頁,沖縄弁護士は実頁15頁~24頁,外国人弁護士は実頁24頁~27頁を参照した。
法律の要件・効果及び改正経過は,本文中にリンクした衆議院の制定法・改正法とe-Gov法令検索の条文によった。
当時の実施報告による人数・運用説明と,法令による要件・法的効果は区別して記載している。