第1 結婚30年でも一律の金額は決まらない
1 相場より先に双方の資産を一覧にする
結婚30年で離婚する場合でも,財産分与として一律に1000万円又は2000万円を受け取れるという基準はない。
対象財産の額,取得・維持への寄与,婚姻期間,生活水準,双方の年齢・健康・収入等を考慮して,分与の要否,額及び方法を定める。
婚姻期間は考慮要素の一つであり,それだけから受取額は算出できない。
熟年離婚では,預貯金,自宅と住宅ローン,退職金,保険及び厚生年金記録を分けて把握することが重要である。
財産分与で取得する財産と,離婚後に毎月入る収入・支出は別に表を作ると,合意の実行可能性を検討しやすい。
本記事は,令和8年10月16日現在の民法,裁判所の案内,大阪家裁掲載の財産目録作成資料及び日本年金機構の案内に基づく。
離婚手続全体は,離婚の手続と決めることを参照されたい。
2 原則2分の1と生活保障
民法768条3項は,婚姻中の財産の取得・維持について,寄与の程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとする。
専業主婦・専業主夫であったことだけで,寄与がないことにはならない。
他方,一方の名義の財産をすべて半分にするのではなく,特有財産や対象債務も区別する必要がある。
財産分与には離婚後の生活保障等の要素が含まれることもあるが,生活が不安であることだけで一定額の上乗せが決まるものではない。
住居費,医療費,就労可能性,年金見込額及び取得財産を具体的に示して検討する。
第2 退職金は,受領済みと未支給を分ける
1 既に退職金を受け取っている場合
受領済みの退職金については,支給明細,入金口座,現在の残高,その後の使途を確認する。
同じ金銭を「退職金」と「預金」の両方で計上しないようにする。
不動産の購入やローン返済に使われた場合には,移転先の財産又は負債との関係も確認する。
勤務期間のすべてが婚姻後の同居期間に当たるとは限らない。
入社日,婚姻日,別居日,退職日を並べ,婚姻生活との対応部分を検討する。
2 まだ退職していない場合
未支給だから直ちに検討対象から外れるわけではない。
大阪家裁の「財産目録の作成方法」5頁は,退職金規程がある場合について,原則として基準日に自己都合退職したと仮定した額を調べ,勤続期間と婚姻後の同居期間の月数で按分する方法を説明している。
就業規則や退職金計算書を証拠として示すことも案内している。
これは同資料が示す目録作成上の方法であり,すべての事件で同じ評価・支払方法が採用されるという意味ではない。
定年までの期間,支給条件,勤務先の制度,既に退職しているか等によって,主張する評価と必要な資料が変わる。
勤務先に制度があることと,将来の予定額を現在確実に受け取れることは区別する。
3 按分方法の計算例
次は,大阪家裁の資料が説明する方法を用いると仮定した例である。
基準日,対象性,評価方法及び寄与割合に争いがないと仮定し,具体的な事件の相場を示すものではない。
| 項目 | 仮定する数値 |
|---|---|
| 基準日に自己都合退職したと仮定した額 | 1200万円 |
| 基準日までの勤続期間 | 480か月 |
| 婚姻後の同居期間のうち勤務と重なる期間 | 360か月 |
| 按分した対象額 | 900万円 |
| 寄与を2分の1とする計算上の配分額 | 450万円 |
対象額は,1200万円×360か月÷480か月=900万円となる。
450万円はこの財産についての計算上の配分額であり,相手から直ちに450万円の追加支払を受けられるという結論ではない。
他の財産の取得分と,いつ,どの資金で払うのかを含めて全体を調整する必要がある。
第3 自宅を取得しても生活資金が確保できるとは限らない
1 自宅の純価値と居住継続を分ける
自宅については,現在の査定額だけでなく,住宅ローン残高,取得時の頭金,登記持分及び売却・登記等の費用を確認する。
現物を取得して住み続けられることと,日々の生活費を用意できることは同じではない。
預貯金の少ない合意になる場合は,固定資産税,修繕費,保険料等も含めた収支を確認する。
ローンが残る場合には,夫婦間の合意だけで債務者・連帯保証人から外れられると考えない。
借換え,債務者変更,売却の可否は金融機関への確認が必要となる。
詳しくは,ペアローンと離婚及びオーバーローンと財産分与を参照されたい。
2 将来の退職金を支払原資にするとき
財産分与で退職金を評価する問題と,相手の将来の退職金から清算金を払ってもらう問題は異なる。
後者では,支払時期,金額,退職しなかった場合,予定より支給額が少なかった場合の扱いを曖昧にしないことが重要である。
支払の確実性は,現金一括払,他の資産の取得,担保等との比較も含めて検討する。
名目上の資産と支払能力の違いは,資産額と「実際に払える額」は違うで整理している。
第4 年金分割は,受給額をそのまま半分にする制度ではない
1 分けるのは婚姻期間の厚生年金記録
日本年金機構は,合意分割を,婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割する制度と説明している。
受給中又は将来受給する年金の総額を,そのまま半分ずつ送金する制度ではない。
合意分割と3号分割では要件や対象期間が異なるため,年金分割のための情報通知書等で確認する。
夫婦が財産分与の金額を合意しただけでは,年金事務所への分割請求まで完了しない。
年金分割についての合意又は裁判手続と,標準報酬の改定を求める手続を区別する。
2 請求期限と例外
令和8年4月1日以後に離婚等をした場合,年金分割の請求期限は原則としてその翌日から起算して5年である。
同日前の場合は原則2年である。
期限内に審判等を申し立てた場合や相手が死亡した場合等には別の期限が問題となるため,日本年金機構の案内と年金事務所で確認する。
第5 相談前にそろえる資料と合意時の確認
1 退職金・資産・生活費を別々に整理する
退職金については,退職金規程,勤務先作成の計算書,入社日,退職予定日,支給済みの明細・入金履歴を集める。
預貯金や不動産等は,基準日の資料と現在の評価資料を区別する。
生活設計には,年金見込額,給与等の継続収入,家賃又は住宅維持費,医療費及び毎月の不足額を整理する。
資料は,自分が権限をもって取得できる範囲で保存する。
情報が出ない場合は,必要な情報とその理由を具体化し,裁判所の手続や代理人を通じた取得方法を検討する。
2 財産分与の期限と税金も確認する
財産分与を家庭裁判所へ求められる期間は,令和8年4月1日以後の離婚では5年,同日前の離婚では2年である。
年金分割と別の手続であるため,それぞれの期限と担当を確認する。
退職金を待っている間に,必要な申立てをしないまま期限を過ぎないよう注意する。
不動産等を移転する場合の税金は,清算額の計算とは別に検討する。
詳しくは,離婚時の財産分与と税金を参照されたい。
第6 根拠資料
① 民法768条:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
② 大阪家裁掲載「財産目録の作成方法」PDF1頁~5頁(特に5頁の退職金):https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2022nendo/R4_11_8kazimousitatesyo/R5_2_20koushin/R5_2_20/R5_zaisanmokuroku_sakuseihouhou.pdf
③ 日本年金機構「離婚時の年金分割」(令和8年4月1日更新):https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-04.html
④ 裁判所「財産分与請求調停」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_04/index.html
本記事は生成AIを用い,法令と上記公的資料を照合して作成した。
大阪家裁の資料は目録作成の実務案内であり,退職金の支給を待つ条件付支払を常に認める判例又は全国一律の算式ではない。