第1 結論
本人訴訟とは,弁護士を訴訟代理人に選任せず,本人が自ら訴訟を追行することである。
民事訴訟は原則として本人でも利用でき,裁判所は手続の一般的な案内,定型書式の提供及び審理の進行を行う。
また,裁判長は,口頭弁論の期日又は期日外で,当事者に問いを発し,立証を促すことができる。
しかし,裁判所は一方当事者の法律相談を受け,請求や防御の方針を設計し,有利な証拠を集める代理人ではない。
何を請求し,どの事実を主張し,どの証拠で立証するかは,基本的に当事者が整理して提出する必要がある。
勝訴判決を得ても,相手方が任意に支払わなければ,財産調査と強制執行は原則として別の申立てになる。
本記事は,一般の民事訴訟を念頭に,裁判所が提供する支援と,当事者又は弁護士が担う作業の境界を整理するものである。
個別事件で選ぶべき請求,時効,管轄,証拠の十分性及び執行可能性は,事案ごとに確認する必要がある。
第2 裁判所が提供する手続案内
1 書式と一般的な手続の説明
裁判所ウェブサイトは,民事訴訟の説明,訴状・答弁書等の書式及び各地の裁判所の窓口案内を掲載している。
窓口では,提出先,必要部数,手数料,郵便料その他の一般的な手続を確認できる場合がある。
これらは,裁判を利用するための入口を示すものである。
定型書式があることは,その書式に何を書けば自分の請求が認められるか,どの法的構成を選ぶべきかまで裁判所が判断してくれることを意味しない。
2 法律相談との境界
裁判所の公式案内は,どのような申立てをすればよいか,その申立てが認められるかといった法律相談には応じられないとしている。
裁判所は中立な判断機関であるため,一方当事者の立場から勝つための助言をすることはできない。
制度や書式の説明と,個別事件の見通し・請求内容・反論方法についての助言は分けて考える必要がある。
後者が必要であれば,弁護士会,法テラス又は法律事務所の相談を利用することになる。
第3 当事者が整理する請求,事実及び証拠
1 何を求めるか
民事訴訟法246条は,裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないと定めている。
金銭の支払,物の引渡し,登記手続その他のうち何を求めるのか,その範囲をどこまでにするのかは,当事者が訴状等で示す必要がある。
裁判所が提出資料を見て,当事者に代わり最も有利な請求を新たに作る制度ではない。
請求の選択を誤ると,提出した資料に重要な事情が含まれていても,そのままでは求める判決に結び付かないことがある。
2 どの事実を主張するか
当事者は,請求又は反論を基礎付ける具体的な事実を,時系列と争点に沿って示す必要がある。
契約書,メール,入出金記録その他の資料を大量に提出するだけでは,どの事実をどの資料によって証明しようとするのかが明確にならないことがある。
民事訴訟法2条は,裁判所に公正かつ迅速な訴訟進行を求めるとともに,当事者にも信義に従い誠実に民事訴訟を追行する義務を課している。
本人訴訟でも,期限を守り,相手方の主張のどこを認め,どこを争うのかを具体化することが重要である。
3 どの証拠で立証するか
民事訴訟法180条1項は,証拠の申出は,証明すべき事実を特定してしなければならないと定めている。
当事者は,証拠ごとに,何を読み取ることができ,どの主張と結び付くのかを整理する必要がある。
相手方が認めた事実及び裁判所に顕著な事実は証明を要しないが,争いのある重要事実は証拠による裏付けが問題となる。
裁判所は,口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実についての主張を真実と認めるべきかを判断する。
第4 釈明権で補われることと補われないこと
1 裁判長による問いと立証の促し
民事訴訟法149条1項は,裁判長が訴訟関係を明瞭にするため,事実上及び法律上の事項について問いを発し,又は立証を促すことができると定めている。
主張の意味が分かりにくい場合や,争点を整理する必要がある場合に,裁判所から確認を受けることがある。
この権限は,審理を分かりやすくし,適正に進めるためのものである。
本人訴訟だから,裁判所が不足する主張や証拠をすべて発見し,どちらか一方に有利な訴訟活動を代行するという制度ではない。
2 法的観点を示す場面
当事者が気付いていない法的観点が判決の基礎になり得る場合に,裁判所がどこまで指摘し議論の機会を与えるべきかは,釈明権や不意打ち防止の問題となる。
この問題は,主張の提出を当事者に代わって行うこととは区別される。
詳しくは,民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)で扱っている。
第5 弁護士に依頼する意味と費用を抑える選択肢
1 弁護士が担う主な作業
弁護士は,依頼者から事情を聴き,法的な問題を整理し,請求又は防御の構成を選び,必要な事実と証拠を対応付け,書面を作成し,相手方の主張と証拠を検討する。
裁判所の公式案内も,弁護士は本人に代わって書類を作成し,裁判で主張・立証を行うなどの活動をすると説明している。
弁護士費用は,裁判所を利用するための入場料ではなく,このような法律判断,事実整理,証拠評価及び訴訟追行に対する対価である。
費用を検討するときは,弁護士費用の見方―相談料,着手金,成功報酬,実費と見積りの確認(AI作成)も参照されたい。
2 相談又は一部の作業だけを依頼する方法
すべての手続を委任するか,本人だけで進めるかの二択とは限らない。
早い段階で法律相談を受ける,訴状や準備書面の点検だけを依頼する,証拠の整理方法を相談するなど,依頼範囲を限定できる場合がある。
もっとも,限定した依頼の範囲外は本人が担うことになる。
見積りと委任契約では,どの書面,期日,控訴,和解及び強制執行まで含むかを確認する必要がある。
第6 訴訟費用の負担を軽くする制度
1 訴訟上の救助
民事訴訟法82条は,訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対し,勝訴の見込みがないとはいえないとき,裁判所が申立てにより訴訟上の救助を付与できると定めている。
これは主として裁判費用の支払猶予等に関する制度であり,弁護士が当然に無償で選任される制度ではない。
2 法テラスの民事法律扶助
法テラスの民事法律扶助は,資力等の要件を満たす人を対象に,無料法律相談や弁護士・司法書士費用等の立替えを行う制度である。
利用条件,立替えの範囲,返済,猶予及び免除の取扱いは,法テラスの現在の案内で確認する必要がある。
訴訟上の救助と民事法律扶助は,根拠,対象となる費用及び申立先が異なる。
費用面で本人訴訟を考える場合は,利用できる制度を先に確認した方がよい。
第7 判決後の財産調査と強制執行
1 勝訴判決だけでは自動的に入金されない
金銭の支払を命ずる判決が確定するなどしても,相手方が任意に支払わなければ,預金,給与,不動産その他の財産に対する強制執行を検討することになる。
判決をした裁判所が当然に相手方の全財産を探索し,自動的に差し押さえて送金する制度ではない。
強制執行では,債権者が申立てを行い,対象財産を特定し,法令所定の書類と費用を準備するのが原則である。
判決を得るまでの費用と,回収のための財産調査・執行費用は分けて見積もる必要がある。
2 財産開示と第三者からの情報取得
民事執行法は,債務者に財産を開示させる手続と,金融機関,登記所,市町村,日本年金機構等の第三者から一定の財産情報を取得する手続を定めている。
利用できる情報,申立ての前提,管轄及び必要書類は,情報の種類によって異なる。
裁判所の公式案内は,第三者からの情報取得手続が財産を調査するための手続であり,判明した財産の差押えは原則として別途申し立てる必要があると説明している。
一部の預貯金債権については情報取得と債権差押えを一回の申立てで行う手続があるため,利用時点の案内を確認する必要がある。
第8 家庭裁判所調査官との違い
裁判所法61条の2は,家庭裁判所に家庭裁判所調査官を置き,家庭事件や少年事件の審判・調停に必要な調査等を担当させることを定めている。
家庭裁判所調査官は,心理学,社会学,社会福祉学,教育学等の専門的知識を活用し,家庭や少年に関する調査を行う。
この制度は,一般の民事訴訟で,調査官が当事者に代わって事実と証拠を網羅的に集める制度ではない。
事件の種類ごとに,裁判所職員の役割と当事者が提出すべき資料を区別する必要がある。
第9 本人訴訟を選ぶ前の確認事項
| 確認事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 求める結果 | どの相手に,何の支払・引渡し・確認等を求めるか |
| 期限 | 消滅時効,出訴期間,回答期限及び提出期限 |
| 事実 | 請求又は反論に必要な事実を時系列と争点で整理できるか |
| 証拠 | 各証拠がどの事実を示し,相手方の反論にどう対応するか |
| 相手方 | 氏名・商号,住所・本店,送達先及び当事者の特定 |
| 費用 | 手数料,郵便料,証拠収集費,弁護士費用及び執行費用 |
| 回収 | 勝訴後に任意支払がなければ,どの財産へ執行できるか |
| 支援 | 法律相談,限定依頼,訴訟上の救助又は法テラスを利用できるか |
争点が多い,請求額が大きい,時効や期間制限が近い,証拠が相手方に偏っている,専門的評価が必要である,又は敗訴時の影響が大きい事件では,早い段階で法律相談を受ける重要性が高い。
相談前に時系列,関係者,求める結果及び主要資料を整理すると,限られた相談時間を使いやすい。
第10 出典・関連資料
e-Gov法令検索「民事訴訟法」2条,82条,149条,179条,180条,246条及び247条。
e-Gov法令検索「民事執行法」196条,197条及び204条~206条。
e-Gov法令検索「裁判所法」61条の2並びにe-Gov法令検索「総合法律支援法」1条及び30条。
裁判所「裁判所の利用について」,「民事訴訟」,「民事訴訟・少額訴訟で使う書式」,「弁護士」及び「民事事件Q&A」。
東京地方裁判所「第三者からの情報取得手続」及び裁判所「家庭裁判所調査官」。
法テラス「民事法律扶助」及び「無料法律相談・弁護士等費用の立替え」。
資料確認日:令和8年10月15日。