令和4年司法試験の国際関係法(公法系)第2問について,模範解答と公式資料から独自に抽出した32項目を示す。
重み1~5は復習の目安であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は条約終了,国際法の国内適用及び政治犯不引渡しを扱う第2問である。
B国の終了理由は認め難い一方,A国は当時B国の重大な違反を終了原因として援用し得た。
引渡しの審査は条約の有効性を前提とし,本稿の答案ではYを政治犯として不引渡しとし,Zの引渡しを認める。
評価項目は32項目,重みの単純合計は124である。
重み5の10項目は番号2,5,12,14,15,19,24,27,28,29であり,終了原因の骨格,国内適用の区別及び政治犯罪の個別判断を中心とする。
全てが全答案への累積要求という意味ではなく,区分と適用条件を併せて読む必要がある。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目は一つの判定対象とし,答案にどの規範・事実評価・法的効果があれば充足するかを具体化した。
必須,高評価,負例,許容分岐は重みと別に示す。
番号21は慣習法の適用困難を判例で具体化する構成を採る場合の補強であり,事件名を全答案へ機械的に要求しない。
両公式資料はPDF実頁を示す。
出題の趣旨は39頁の第2問開始から41頁の同科目末尾,採点実感は41頁の科目総論及び42頁の第2問開始から44頁末尾を根拠とする。
「記載なし」はこの関連範囲を読んだ結果であり,資料を閲覧できなかったという意味ではない。
負例の番号11・30・32も公開表と重みの集計へ含める。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け |
| 2 | 一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項 |
本稿の重み4は,両資料が評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げたことを基準とする。
全てについて「高く評価した」との記載があると解したものではない。
重み3の明確性・司法機関の権限・当事国意思などは,採点実感の一般的な言及だけで4へ引き上げていない。
第3 本問の概要
AB両国は犯罪人引渡条約を締結し,政治犯を例外としつつ軽微な犯罪も引渡対象としてきた。
A国の民主化後,B国はXの引渡請求への手続開始を拒み,事情変更とA国の古い引渡禁止法律を挙げて条約終了を宣言した。
B国の民主化運動を主導したYとZはA国への脱出を図った。
Yは警察の追跡中に交通違反をし,Zは転落後に陸路の検問を避けるため,多数の民間人が搭乗する航空機を奪取した。
B国は態度を変えて条約有効性を認め,Xとの交換でYとZの引渡しを求め,請求対象以外の罪で処罰しないと公式に表明した。
A国は日本と同様の国際法受容の立場を採るが,逃亡犯罪人に関する実施法を欠き,古い法律には引渡禁止規定がある。
設問1は両国の当時の終了原因,設問2はYZの不引渡しの立論,設問3は裁判所の個別判断を求める。
犯罪人引渡しに関する国際条約は,本問のAB条約のみを考慮する。
第4 評価項目と重み
1 設問1―条約の終了原因
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】両国が条約法条約の当事国であることを終了原因の適用へ接続する。 | 4 | 実頁40:条約法条約の適用が問題となる | 実頁42:条約法条約の適用が問題となる |
| 2 | 【必須】62条1項の原則と,予見されない変更・同意の不可欠の基礎・残存義務範囲の根本的変容という累積条件を示す。 | 5 | 実頁40:事情の根本的変更は条約の終了の根拠として援用することができない | 実頁43:条約法条約第62条に言及した上で |
| 3 | 【必須】政治思想の共通性が締結同意の不可欠の基礎であったかを評価する。 | 4 | 実頁40:これらに照らして判断することになる | 実頁43:類似の政治思想を持ったある種の共同体 |
| 4 | 【必須】民主化が未履行の引渡義務の範囲を根本的に変えたかを評価する。 | 4 | 実頁40:2つの条件を示しており | 実頁43:事情の根本的な変化 |
| 5 | 【必須】60条1項により二国間条約の違反の他方当事国に終了・運用停止の援用権が生じると説明する。 | 5 | 実頁40:終了・運用停止の援用を認めており | 実頁43:A国側から条約の終了を宣言する場合 |
| 6 | 【必須】60条3項の重大な違反の第1類型である,条約法条約が認めない条約の放棄を示す。 | 4 | 実頁40:2つのものを限定的に | 実頁43:2つの条件に言及し |
| 7 | 【必須】重大な違反の第2類型である,条約の趣旨・目的の実現に不可欠な規定の違反を示す。 | 4 | 実頁40:同条第3項で | 実頁43:重大な条約違反 |
| 8 | 【必須】A国の古い引渡禁止法の存在だけで重大な条約違反とせず,実際の引渡慣行を評価する。 | 4 | 実頁40:相手国への犯罪人引渡しが慣行となっていた | 実頁43:古くからある特定の法律中 |
| 9 | 【必須】10日以内の手続開始をしなかったB国の行為を,条約の本質的義務との関係で評価する。 | 4 | 実頁40:B国による条約の手続上の違反 | 実頁43:自国内の手続を開始しなかったこと |
| 10 | 【必須】要請の反復無視と全面不履行意思の表明を60条3項の放棄へ接続する。 | 4 | 実頁40:条約を履行する意思が全くないことの表明 | 実頁43:度重なるA国による要請を無視し続けたこと |
| 11 | 【負例】B国の宣言にA国が同意したと仮定し,54条⒝の合意終了に置き換えない。 | 2 | 記載なし | 実頁43:一方的に宣言できるかを問うものであった |
2 設問2―国際法の国内適用と不引渡しの主張
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 【必須】一般的受容方式により条約が変型立法なしに国内的効力を有すると説明する。 | 5 | 実頁40:一般的受容方式 | 実頁43:一般的受容方式を採っている |
| 13 | 【必須】慣習国際法も国内法秩序に受容されると説明する。 | 4 | 実頁40:慣習国際法についても同様 | 実頁43:国際法の存在形態は大きくいえば条約と慣習法 |
| 14 | 【必須】憲法と法律を区別して国際法の位階を示し,A国の引渡禁止法律との抵触を処理する。 | 5 | 実頁40:国際法が法律よりも上位 | 実頁43:国内法」には憲法も法律も含まれる |
| 15 | 【必須】国内的効力・位階・国内裁判所による適用要件を別の問いとして検討する。 | 5 | 実頁40:国内法秩序における国際法の位階関係 | 実頁43:妥当、位階秩序とは別に |
| 16 | 【必須】国際法規範の明確性を裁判所による直接適用の要件として,政治犯例外に当てはめる。 | 3 | 実頁40:当該国際法規範が明確であること | 実頁43:裁判所が国際法を適用する際の要件 |
| 17 | 【必須】対象事項が司法機関の権限内にあるかを独立に検討する。 | 3 | 実頁40:対象事項が司法機関の権限内にあること | 実頁43:裁判所が国際法を適用する際の要件 |
| 18 | 【必須】直接適用する当事国の意思を,条約文言・慣行等から検討する。 | 3 | 実頁40:直接に適用する当事国の意思 | 実頁43:裁判所が国際法を適用する際の要件 |
| 19 | 【必須】条約上の政治犯例外と慣習国際法上の政治犯不引渡し原則を分けてY・Zの根拠とする。 | 5 | 実頁40:条約及び慣習国際法上の政治犯不引渡し原則 | 実頁43:依拠する「国際法」の違いを意識 |
| 20 | 【高評価】不文の慣習法の内容を精確に確定する難しさを直接適用可能性に結び付ける。 | 3 | 実頁40:慣習国際法は不文の法 | 記載なし |
| 21 | 【許容分岐】慣習法の直接適用の困難を具体化する場合,シベリア抑留補償請求事件の役割を説明する。(判例による具体化を採る場合) | 3 | 実頁40:シベリア抑留補償請求事件 | 記載なし |
| 22 | 【必須】直接適用が困難でも,政治犯不引渡し原則に適合する国内法・条約解釈を求める余地を示す。 | 3 | 実頁40:国内的効力の効果の全てではなく | 記載なし |
3 設問3―双方可罰性と政治犯罪の個別判断
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 【必須】双方可罰性の内容を示し,両国に同様の犯罪とほぼ同等の刑がある事実へ適用する。 | 4 | 実頁40:双方可罰性の原則 | 実頁43:双方可罰性原則等の諸原則 |
| 24 | 【必須】相対的政治犯罪につき政治的性質が普通犯的性質をはるかに凌ぐかを個別に判断する規範を示す。 | 5 | 実頁41:政治的性質が普通犯的性質をはるかに凌 | 実頁43:相対的政治犯 |
| 25 | 【必須】行為が真正の政治目的によるものかを判断要素とする。 | 3 | 実頁41:真に政治目的によるものであったか | 記載なし |
| 26 | 【必須】行為が政治目的の達成に直接的で有用な関連性を持つかを判断要素とする。 | 3 | 実頁41:直接的で有用な関連性 | 記載なし |
| 27 | 【必須】行為の内容・性質・結果の重大性と政治目的の均衡を判断要素とする。 | 5 | 実頁41:行為の内容、性質、結果の重大性 | 実頁44:行為態様の差 |
| 28 | 【必須】Yの追跡中の交通違反について,政治目的との直接関連と交通安全侵害を比較評価する。 | 5 | 実頁41:YとZの行為を評価することになる | 実頁44:事案に即したより丁寧な当てはめ |
| 29 | 【必須】Zの他の逃走手段の困難さと,多数の無関係な民間人への航空機奪取の重大な危険を比較評価する。 | 5 | 実頁41:YとZの行為態様には明確な | 実頁44:事案に即したより丁寧な当てはめ |
| 30 | 【負例】政治活動という共通背景だけでYとZを一括して同一結論にしない。 | 2 | 実頁41:行為態様には明確な差異 | 実頁43:ひとまとめにして解答していた答案 |
| 31 | 【高評価】張振海事件の決定基準を日本の同種決定例として配置する(事件名暗記だけでなく役割を示す)。 | 4 | 実頁41:東京高決平成2年4月20日 | 実頁43:東京高決平成2年4月20日 |
| 32 | 【負例】存在しないA国の実施法を補わず,日本の逃亡犯罪人引渡法をA国へ直接適用しない。 | 2 | 記載なし | 実頁43:この国内法解釈に依存しない形 |
4 重みの分布
重み1=0項目,2=3項目,3=8項目,4=11項目,5=10項目。
総項目数N=32,重み合計W=124である。
件数の割当てによって段階を埋めたものではなく,表の実際の行を集計した。
重み5は,番号2の事情変更の要件,5の重大違反の援用主体,12の条約受容,14の位階,15の効力・位階・適用の区別,19の条約と慣習法の不引渡し根拠,24の相対的政治犯罪の基準,27の均衡,28のY,29のZである。
このうち番号28・29は結論を暗記する項目ではなく,異なる行為態様を判断基準へ結び付けて評価する項目である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
基準時は選択科目実施日の令和4年5月11日である。
答案は見出しと末尾「以上」を含み,改行を除いて2276字であり,1問2500字の目安に収めた。
設問2はYとZの主張,設問3は裁判所の評価を示す。
以下の結論は一つの構成例であり,法務省が唯一の結論として指定したとの意味ではない。
2 答案
1 設問1
(1)両国は条約法条約の当事国であり,その終了原因を検討する。62条1項は事情の根本的変更による終了を原則として認めず,予見されなかった変更であって,従前の事情が条約に拘束される同意の不可欠の基礎を構成し,変更が未履行の義務の範囲を根本的に変える場合に限って援用を認める。条約の安定性から例外は厳格に解する。
B国は両国の政治思想の共通性を挙げる。しかし,犯罪人の引渡しによる司法協力は政治体制の異なる国の間でも可能であり,同思想が同意の不可欠の基礎だったとは当然にいえない。仮にそれを認めても,A国の民主化は犯罪人引渡義務の範囲を根本的に変えるものではない。よって終了原因とはならない。
(2)60条1項は,二国間条約の一方の当事国の重大な違反を,他方の当事国が終了又は運用停止の原因として援用できるとする。同条3項は,条約法条約が認めない条約の放棄,又は条約の趣旨・目的の実現に不可欠な規定の違反を重大な違反とする。
A国の古い法律に引渡禁止条項があっても,国内法の存在だけで条約の放棄や不履行とはいえない。条約に基づく引渡しが慣行であったことからも,重大な違反は認め難い。B国はこれを援用できない。
(3)他方,B国は10日以内の手続開始義務に反して長期間手続を始めず,度重なる要請を無視し,半年後に履行の意思が全くないと表明した。単なる遅延にとどまらず,条約が認めない条約の放棄に当たり,引渡協力という趣旨・目的に不可欠な規定の違反でもある。A国は60条1項・3項により終了原因を援用できた。
これは一方的な援用の問題であり,B国の終了宣言をA国が受け入れたという54条⒝の合意終了に置き換えるべきではない。なお,終了原因の存在と終了手続は別であり,65条・67条による理由付き書面通知等を要する。
2 設問2
(1)Y・Zは,条約及び慣習国際法上の政治犯不引渡し原則を援用する。その前提として,A国は日本と同様の一般的受容方式を採るため,条約はA国について発効すれば変型立法を要せず国内的効力を有し,慣習国際法も国内法秩序に受容されると論ずる。
日本国憲法98条2項の国際法遵守の要請等から,条約及び慣習国際法は法律より優位すると解される。憲法の最高法規性は別であり,ここで抵触するのは憲法ではなく古い法律である。したがって,国内法の引渡禁止を主張するだけでは条約上の義務を排除できず,国際法上の不引渡し原則を根拠とすべきである。
(2)もっとも,国内的効力,効力順位及び直接適用可能性は別問題である。直接適用には,規範の明確性,対象事項が司法機関の権限内にあること,直接適用する当事国の意思を検討する必要がある。
両名は,国家間の引渡義務だけでなく,政治犯を引渡対象から除く規定が個人の保護を目的とすること,引渡しの可否は現に裁判所で審査されること,従来の引渡実行と条約維持の選択が国内的実施の意思を示すことから,政治犯例外を裁判規範として援用できると主張する。政治犯の詳細な定義がなくても,先例に基づく司法的具体化が可能である。
慣習国際法については,不文であるため規範内容の精確な確定と直接適用に困難がある。シベリア抑留補償請求事件の示す問題にも留意すべきである。しかし,直接適用できないとしても国内的効力が全て失われるわけではなく,政治犯不引渡し原則に適合するよう条約の政治犯例外及び国内法を解釈することを求められる。
(3)両名は民主化運動を主導したため拘束されかけ,政治的弾圧から逃れるために行為した。Yは追跡からの即時の脱出,Zは陸路に厳しい検問が敷かれた後の脱出であることを挙げ,それぞれの行為は政治目的と結び付いた相対的政治犯罪であり,引渡対象から除かれると主張する。
3 設問3
(1)請求対象はYの交通違反とZの航空機不法奪取であり,A国でも同様の犯罪が定められ,刑の重さもほぼ同等である。双方可罰性は満たされる。軽微な犯罪も対象とする条約なので,Yの最高刑が4年であることだけで引渡しを否定できない。
(2)両行為は普通犯罪の性質を有するため,相対的政治犯罪に当たるかが問題となる。張振海事件の東京高裁決定に倣い,真正の政治目的,その達成への直接的・有用な関連,行為の内容・性質・結果の重大性と目的との均衡を考慮し,政治的性質が普通犯罪的性質をはるかに凌ぎ,全体として保護に値するかを個別に判断する。
Yは民主化運動の指導者として拘束を免れるため,警察に追われながら国境を越えた。交通違反は逃走と直接に結び付き,政治的弾圧からの脱出に有用である。猛スピードでの反対車線走行や標識衝突には交通の安全を害する危険がある。しかし,追跡中の逃走に付随する侵害として,航空機全体を支配するZの行為より限られる。政治目的との均衡を失わず,政治的性質が優越すると評価して,Yの引渡しを認めない。
(3)Zには政治的な動機があり,陸路での脱出が困難だったことも有利に考慮する。しかし,多数の無関係な民間人が搭乗する航空機を奪取し,操縦士を脅して進路を変えさせる行為は,乗客・乗員及び航空機全体に重大な危険を及ぼす。個人の脱出目的とこの侵害との均衡を失い,政治的性質が普通犯罪的性質をはるかに凌ぐとはいえない。よって,Zの引渡しは認められる。
B国が政治活動を理由に追及する可能性についても,請求対象以外の罪で罰しないとの公式表明を考慮する。その保証を疑う具体的理由が示されていない以上,別の政治犯罪による処罰目的を理由としてZを不引渡しとするには足りない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1が番号1~11,答案2が番号12~22,答案3が番号23~32に対応する。
負例は当該誤りを避けているかを確認するための項目であり,禁止文言を答案へ逐一書くことを要求するものではない。
番号21の先例は直接適用の難しさを示す補強であって,政治犯の該当性を直接判定する判例ではない。
(2) 条約終了の原因と手続を分ける
B国の旧法指摘と,現実に不履行を表明したB国の行為とは性質が異なる。
60条3項の二類型と援用できる他方当事国を示し,期限超過・要請無視・全面不履行意思を具体的に評価することが中心となる。
65条・67条は手続の補足であり,終了原因を問う主論に比べて短く扱う。
(3) 国内的効力があることだけで裁判上の援用を終えない
設問2では条約だけでなく慣習国際法も分けて論じる。
国内法という語で憲法と法律をまとめず,また一般的受容から全ての国際法規範の直接適用を当然に導かない。
直接適用が難しくても,規範に適合する解釈という間接の効果を検討できる。
実施法がないとの指摘だけで,YとZが不引渡し原則を援用する経路を閉じてしまわないことが重要である。
(4) 政治的動機と行為の重大性を比較する
Yの運転にも具体的な危険があるため,「交通違反だから軽い」と処理しない。
追跡からの即時の脱出との直接関連を評価した上で,交通安全への侵害との均衡を論じる。
Zは検問と他の逃走手段の困難という有利な事情を有するが,無関係な多数の民間人と航空機全体を危険に置いた点が重い。
政治活動家であることだけで両者を同じ結論へまとめる答案は避ける。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
Yを不引渡しとする評価には,反対車線走行などの危険性をどの程度重く見るかという判断の余地がある。
その危険を重く見て別結論を採る場合も,目的との関連と均衡を同じ基準で具体的に説明する必要がある。
最高刑の数字だけでは政治犯罪の判定はできない。
請求対象以外の処罰をしないとの公式保証については,裁判所原文と問題文に基づく補強として扱った。
この論点は公式資料から抽出した32項目の独立した加点項目にはしていない。
不記載の拷問や他の条約への加入を補って,設問の前提を変えることはしていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和4年度・主要7科目の模範解答と評価項目の一覧
主要7科目の一覧であり,選択科目の一覧とは区別する。
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイド
②国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和4年司法試験論文式試験問題(選択科目):PDF実頁43~44。
②令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨:実頁39の第2問開始から41の同科目末尾。
③令和4年司法試験の採点実感・選択科目:実頁41の総論と42末尾の第2問開始から44末尾。
④令和4年司法試験の実施日程。
2 法令
①条約法に関するウィーン条約・国連英文原文:26・27・31・32・45・60~67条の関連部分。
②日本国憲法・衆議院:7条・98条。
3 裁判例
①逃亡犯罪人引渡審査請求事件の決定原文・裁判所:実頁5~6,14~16の政治犯罪基準・個別評価・公式保証の部分。
公式の出題趣旨及び採点実感は,張振海事件・東京高決平成2年4月20日(刑集44巻3号321頁)を示している。
4 確認状態
公式資料の本問関連部分,国連の条約原文及び上記裁判所原文の関連部分を確認した。
条約・慣習法の直接適用の各要件とシベリア抑留補償請求事件(最判平成9年3月13日,民集51巻3号1233頁)の位置付けは,公式出題趣旨の記載と独自の当てはめを分けている。
同事件の最高裁判決原文まで独立に照合したものではなく,未確認の具体的判旨を引用していない。
令和4年の問題に対する答案例であり,現在の個別事件の法状態や引渡可否を保証するものではない。