第1 販売を別々に続けても競争法の検討は必要である
競争するメーカー同士が,相互に製造を委託し,又は部品の製造を共同会社に移す場合,販売価格を各社で決めるという条項だけで独占禁止法上の問題がなくなるわけではない。
製造の分担によって独立した生産能力が失われること,費用の主要部分が共通になること,受注情報が相手方へ流れること及び第三者への部品供給が不利になることを,計画の実態に即して確認する必要がある。
会社分割を用いる場合は,競争法上の審査と法人税の適格判定を別々に行う。
共同製造の効率化を説明できても,それだけで両方の条件を満たすわけではない。
本記事は令和8年10月14日に確認した公正取引委員会の掲載資料と税法・通達を基に,弁護士,税理士及び企業担当者が同じ事業計画を確認するための手順を示す。
第2 契約によるOEMと企業結合の審査を分ける
相互OEMの契約では,製造数量,設備又は取引先等について競争者同士が相互に事業活動を拘束する内容になっていないかを確認する。
不当な取引制限は契約の名称を問わず,独占禁止法2条6項・3条の要件に沿って判断する。
全量の製造を相手方へ移して自社の製造を中止する計画と,能力を残したまま一部だけを委託する計画では,失われる競争の程度が異なる。
共同新設分割による製造会社の設立では,同法15条の2による企業結合審査のほか,設立後の競争者間の契約・情報交換も検討する。
事前届出の要否と競争制限の実体判断は別の問題であり,届出対象外という理由だけで適法とはいえない。
届出対象の場合は,実行禁止期間を含め,事業日程と手続を対応させる必要がある。
| 計画の部分 | 確認する事項 | 最初に集める資料 |
|---|---|---|
| 相互OEM | 全量依存,製造分担,独立した増産の余地 | 委託数量,設備別の稼働率,自製継続計画 |
| 部品の共同製造 | 部品供給と完成品販売の両方への影響 | 内製・外販別の数量,供給先,切替えに要する期間 |
| 情報管理 | 親会社間及び第三者の情報の流れ | データ項目,報告先,アクセス権限,兼務者 |
| 会社分割 | 競争法審査と税務適格性の整合 | 分割計画,資本関係図,資産負債・従業者の移転表 |
この表は実務上の確認方法であり,法令が一律に定めた提出書類の一覧ではない。
第3 市場・費用・余力は分母をそろえて確認する
商品の用途,性能,価格,需要者の選択及び供給者の転換可能性を確認し,商品と地域の範囲を決める。
完成品の販売市場と部品の供給市場は,名称や取引関係が近くても同じ市場とは限らない。
部品の自家消費と第三者への外販を区別し,完成品の販売シェアをそのまま部品外販市場のシェアとして使わない。
内製能力が外販へ転用できるかは,供給側の事情として別に検討する。
費用共通化の検討では,委託価格,原材料費,製造費及び完成品の販売価格を混同せず,何に対する割合かを明示する。
例えば部品費が製造費の半分という説明から,販売価格の半分も共通化すると計算してはならない。
共通化する範囲に加え,自製設備,独立した増産,仕入先の変更及び残る販売費用によって,値下げ競争を続けられるかを確認する。
公取委の令和3年度相談事例2は,窯業製品の一部について相互OEMを行う計画を扱う。
独立した販売,等量の製品交換,金銭のやり取りがないこと,製造費用が共通化しないこと,納入先・納入価格が相手方に分からないこと及び供給余力等を検討して,問題とならないと回答したものである。
一部委託という形式や,事例に現れる割合だけを取り出して,他の計画にも通用する適法基準とは扱わない。
第4 秘密保持条項を情報の流れと接続する
秘密保持条項で目的外利用を禁止しても,共同会社から親会社へ詳細な情報が常時届く運用であれば,販売の独立性を維持できるかは別に検討する必要がある。
販売価格,顧客名,将来の販売計画,製品別の供給数量及び第三者向けの部品価格を,製造に必要な情報と区別する。
親会社同士の情報交換だけでなく,共同会社が第三者から得た情報が,その第三者と競争する親会社へ伝わる経路も点検する。
運用案としては,受注・品質管理に必要な情報を担当部署に限定し,親会社の営業部門が他社の個別情報を閲覧できない権限設定を行うことが考えられる。
取締役会の資料,出向・兼務者,月次報告,監査資料及び例外的な照会への回答も対象に含める。
集計した情報であっても,少数の顧客や注文を特定できる場合には,集計という名称だけで安全とはいえない。
アクセス権限,閲覧記録,違反時の調査,権限停止及び定期的な点検を契約・社内規程と対応させる方法は,本記事の実務上の提案である。
公取委の指針が販売情報の遮断等を問題解消措置の例としていることから,特定の管理方式が全案件で義務になるとはいえない。
第5 第三者への供給条件と問題解消措置を検討する
部品の共同会社が完成品市場の競争者にも部品を売る場合,供給停止だけでなく,値上げ,数量制限,納期・品質条件の悪化等によって競争者を不利にできるかを確認する。
この能力の判断では,外販シェアのほか,他の供給者の余力,仕様認証,契約条件及び購入先の切替え・内製化に必要な時間を調べる。
他社の余力があるという説明だけで,必要量を必要な時期に切り替えられるとは断定できない。
供給条件を悪化させる誘因は,部品販売を失う不利益と,完成品の販売が親会社へ移る利益を当事会社グループ全体で比較する。
稼働率向上のため第三者向け販売を続けたい事情は,供給継続の誘因として評価する。
利益率や販売移転の程度が不明なときは,数字を補わず,結論が変わる条件と必要な資料を明示する。
企業結合指針は,事業譲渡等の構造的措置を原則としつつ,個別事情に応じた行動に関する措置も示している。
供給条件の確保,差別的取扱いの禁止,販売情報の遮断等を検討する場合は,対象数量・価格の決め方・期間・履行確認を具体化し,競争上の問題を実際に解消できるかを評価する。
必要量の供給能力を維持するだけでは,価格や納期の悪化まで防げない。
契約上の約束だけでは不足する場合は,独立した供給者への設備・事業の移転や計画の縮小も検討する。
第6 共同新設分割の税務は別の要件表で確認する
会社法上の共同新設分割という形式だけで,法人税法上の適格分割になるわけではない。
まず分割前後の資本関係,対価及び分割型・分社型の区別を確認し,完全支配関係,支配関係又は共同事業等のどの類型で判定するかを決める。
法人税法2条12号の11ハは,共同事業のための分割の具体的な要件を政令に委ねている。
複数の分割法人が行う共同事業型の新設分割では,法人税法施行令4条の3第8項に沿い,事業の関連性,事業規模又は役員に関する要件,主要な資産負債の移転,従業者・事業の継続及び株式の継続保有等を資料で確認する。
分割の類型や後続の再編によって要件の適用・例外が異なるため,見出しだけの一覧をそのまま判定結果にしない。
法人税基本通達1-4-8は,主要な資産負債について,事業上の重要性のほか,種類,規模,事業再編計画の内容等を総合的に勘案するとしている。
内国法人が適格分社型分割で資産負債を移転した場合は,法人税法62条の3第1項により,分割直前の帳簿価額による譲渡として所得を計算する。
これは帳簿価額を用いる税務処理であり,移転した資産の含み益が将来も永久に課税されないという意味ではない。
欠損金,消費税,地方税及び株主側の課税は,この説明だけで処理を決めず,別途確認する。
競争法上の問題解消のために一部設備を第三者へ移し,人員や事業の移転範囲を変える場合は,変更後の計画で税務要件を再点検する。
弁護士と税理士は,同じ版の資本関係図,移転資産負債表,従業者配置表及び実行日程を参照し,競争法の条件を満たす案と税務の前提が食い違わないようにする。
第7 実行の判断を資料と条件に結び付ける
着手時に,現状と計画後の製造・販売・外販の関係図を作り,市場,数量,費用,供給余力及び情報の流れを記入する。
次に,競争が弱まる経路と,効率化・競争者・買手等による牽制を対応させ,必要な計画変更と情報・供給条件を定める。
会社分割を用いる場合は,同じ変更案について税務の要件表を更新する。
稼働開始前には,契約を締結したことに加え,権限設定,報告様式,供給条件及び担当者の理解が予定どおりかを確認する。
判断に不可欠な切替可能量や費用構造が不明な場合は,その資料がそろうまで適法・適格という結論を留保する。
販売情報を分けるだけで解消できない費用共通化や供給依存が残るときは,計画自体の範囲を見直す必要がある。
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第9 出典
独占禁止法の公正取引委員会掲載原文:2条6項,3条,10条8項及び15条の2。
企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針:令和元年12月17日改定版,第2,第5の2・3及び第7(PDF実頁13,40~45,50~52頁の関連箇所)。
令和3年度独占禁止法相談事例2・窯業製品メーカーの相互OEM:相談の要旨及び独占禁止法上の考え方。
法人税法:2条12号の11及び62条の3第1項。
法人税法施行令:4条の3第8項。
国税庁・法人税基本通達第1章第4節:1-4-8。
公取委の相談事例は記載された計画への行政上の回答であり,裁判例や全案件共通の適法基準ではない。
本記事の確認表,情報管理及び契約運用の方法は,上記資料を踏まえた実務上の提案である。